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「地面に魔力……?」
「そうなると、また来るか?」
「そうでしょうね。次は何が来るか……」
ワニもどきの足元に魔力が広がっているのが見えたってことを伝えると、二人は何やら思い当たる節でもあるらしい。
何度か言葉を交わしたかと思うと、アレクだけワニもどきの方に慎重に歩いて行った。
「……どうしたの?」
しばらくアレクを眺めていたが、何事かとジグハルトに訊ねた。
アレクと違って、ジグハルトの方は変わらず今いる場所からオーギュストとワニもどきの戦いを眺めている。
まぁ……ジグハルトの場合は、いつでもどこからでも魔法を撃てるからあんまり関係はないのかもしれないが、随分余裕そうだ。
「アイツがまた周囲の魔物を呼び寄せようとしているな。お前が迎撃に出た時も、魔力を使っていただろう?」
「魔力……あぁ……あの足元に水を大量に生み出していたやつだね。そういえば今はあんまり出してないね。アレって魔物を呼び寄せるのをオレたちから隠すためだったの!?」
それは大分賢いんじゃないか……と驚いていると、ジグハルトは「さあな」と肩を竦めた。
「自分の足元に大量に水を出すと乾いた皮膚がまた濡れるだろう? 今のままの方が戦闘は有利に進められると考えたのかもしれないな。どっちにせよ、頭が回るってことは確かだろうがな」
「今の立ち回りとかもそうだもんねぇ……」
オーギュストは頭部の前に立ち続けるって条件はあるものの、それでも彼が東側に追いやろうとし続けているが、上手く躱され続けているし、何となくこちらの狙いがわかっているようだ。
今は群れを作っているわけじゃないようだけど、魔力を使って魔物を動かしたりだとか、デカい群れを率いることが出来る能力がしっかりあるな。
もしここで逃がしてしまったら、後々面倒なことになりそうだし、やはりここでしっかり倒しておかないと。
「よし……それじゃー、オレは上に出て向かってくる魔物を倒しとくよ」
ワニもどきが相手だと俺の出番は無さそうだし、さっきの北の群れと同じように、こっちに到着する前に上で片付けておいた方がいいだろう。
俺は再度穴の上に飛び立とうとしたんだが、視線を上に向けたところで「待て」とジグハルトに止められた。
「む?」
「今回はお前は、上からどの方角でどのタイミングで降下してくるかを伝えてくれたらそれでいい。倒す必要は無い」
「むむ??」
さっきオレが倒した群れは二十体ほどいたし、この穴の中で戦闘になったら混戦になることは必至だし、強さは大したことはなくても戦いづらくなってしまうだろう。
俺はジグハルトに「いいの?」と訊ねると、彼は「ああ」と返してきた。
「上から下りてくるタイミングで、アレクが間にアレを挟んで矢を放つ」
ジグハルトはそう言うと、ワニもどきを指した。
「アレを挟んで……魔物を緩衝材にするのかな?」
「ああ。お前が戻ってくる前は、タイミングを合わせて俺が横から壁を出そうと話していたんだが、魔物が寄ってくるのならそいつらを壁にした方が都合がいい」
「なるほど……了解!」
ただの土壁よりも、魔力を持っている魔物の方が矢の威力を削れるもんな。
んで、ジグハルトは矢の威力が死んでいなかった場合の保険かな?
ともかく、俺はジグハルトの指示に頷くと、穴の上へと飛んで行った。
他の隊員たちと別れて大分時間は経ったし、そろそろ彼らも拠点に到着している頃だろう。
この森の中にいる人間は俺たちくらいだろうし、どれくらい魔物が集まってくるかだよな。
アンデッドは流石にもう打ち止めだと思いたいが、その場合だと川の向こう岸からも戻ってきかねないし……油断は出来ないな。
俺は森の上空に出ると、気合いを入れて周囲の様子を探りだした。
「遠くに見えるけど……まだ集まってはきていないね。魔力がジワジワ染み出るように広がっているのは、地面に溜まってる水を利用しているからかな?」
流石にすぐにはやって来ないか。
集中を切らして見逃したりしないように気を付けないとな!
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「さてさて……魔物が来るとしたら北と西のどっちかからだよね?」
俺はそう呟くと、北西方向を睨んだ。
もちろん俺たちは今森の真ん中にいるわけだし、東と南も森が広がっているわけだが、東は拠点からこっちに移動する間に片付けているだろうし、南はまだ魔物は戻って来ていない。
さっき倒したカエルもどきは南側に現れたが……アレはイレギュラーみたいなもんだしな。
どうせ川から上がって来たとかそんなんだろう。
この周辺で魔物が残っているのは北と西だもんな。
「でも、北はさっき倒してきたばかりだし……来るなら西からだね!」
俺は穴の上空から森の様子を眺めながら、そう予測をたてた。
森を見ながらもチラチラと下の様子も窺うが、穴の中の三人も同じ考えらしい。
先程まではワニもどきを東側に追いやるために、立ち位置は西寄りに偏っていたんだが、今は南に下がり始めている。
「西側には壁の裏側に水脈があるみたいだし、下手に壊すとどうなっちゃうかわかんないよね? ワニもどきは東側には行こうとしないし、どうなるかな?」
魔物はまだ姿を見せていないが……場合によっては下に向かう前に、上で俺が片付けちゃう方がいいのかもな。
ワニもどきは普通に倒しちゃえばいいしな!
「まぁ……そうなったら下から指示が来るし、今はまだここで……っと? 来たかな?」
視界の端に小さな光がいくつか見えた。
「これは……距離があるだけで、結構デカいね!」
数はまだわからないが、俺が確認出来た個体は距離があるのに輪郭がはっきりとわかるくらいだ。
アンデッドの臭いを嫌がって、川の向こう岸に避難していた魔物たちだな。
川を渡れるくらいだし……大型かあるいは身軽な種類の魔獣か?
とりあえず小型の妖魔種ってことは無いだろう。
一先ず報告だ!
「みんなーっ!! 西から魔獣っぽいのが近づいて来てるよー!! ……お? 聞こえたみたいだね」
下に向かって大声でそう伝えると、ジグハルトがこちらに向かって腕を振った。
そして、すぐにワニもどきを回り込むように北側に向かって動き始める。
少々予定と違ってしまうし、三人がどうするのかはわからないが、とりあえず俺はこのまま魔物の監視を続行だ。
◇
下から聞こえてくる魔法の音を他所に、俺は穴の周囲の森の警戒を続けていた。
今のところ魔物の群れがいるのは西側だけで、他からやってくる様子はないし、そこまで細かく操ることは出来ないんだろうな。
包囲されて一気になだれ込まれたら面倒だったけれど、この分なら少しずつ下りて来そうだし、下で上手く位置をコントロール出来るかな?
「さてさて……一番数が多いのは……オオカミか。まぁ、普通のオオカミの魔獣っぽいけど、気になるのは中型の魔獣も一緒だってことだね。アレは多分、シカの魔獣だよね……? 空腹じゃないならわざわざ襲ったりはしないだろうけれど、それでも肉食と草食の魔獣が一緒に行動か」
俺は続けて下にいるワニもどきに視線を落とす。
相変わらず乾いた皮膚が逆立っていて、俺が仕掛けることは難しそうな状態だ。
……っというよりも。
「もう完全に皮膚が乾いちゃってるね。穴の中の水の量もずっと減っているし、音は軽かったけど使ってた炎の魔法は結構威力があったのかもね」
派手な爆発音はしなかったが、先程よりも高い頻度で魔法が放たれていたし、戦う位置や三人の立ち位置も少しずつ変わっている。
ワニもどきを追いやる方角を、東から南に変えるつもりなのかもしれないな。
「それなら、オレは北側から魔物が来ることに気を付けておけば良さそうだね。とりあえず……魔物の種類を伝えておこうかね」
ワニもどきの西側から北寄りに移動していたアレクの元に下りていく。
「どうした、セラっ!」
「西から来てる魔物は、オオカミの群れとシカの群れだったよ。もう川を渡り終えてるから、もうすぐここまで辿り着くはず!!」
「わかった! ジグさん、オーギュスト! 聞こえたかっ!?」
アレクの声に二人は「おう!」と返って来た。
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