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真っ直ぐ突っ込んでくる俺に対して、カエルもどきは舌を伸ばして迎撃に出た。
だが、それは予想通り。
「ふっ!」
その舌が【風の衣】に触れるより先に斜めに回避すると、そのままガラ空きの側面に蹴りをぶち込んだ。
中々大きいサイズの個体だけに、今の蹴りだけでは精々よろめかせる程度だが……今日だけでももう何体も戦っているし、いい加減コイツらの相手は慣れてきた。
この程度の隙でも十分過ぎるくらいだ。
「はっ!!」
俺は余裕で空いた首目がけて【影の剣】を振り下ろす。
これで後は切断した頭部を蹴とばして……と、左足を振りかぶったが。
「おわっ!?」
左側から伸びてきた尻尾に、慌てて後ろに下がった。
「……浅かったかな?」
【緋蜂の針】と【影の剣】のどちらも、どんな攻撃の仕方をしても威力自体はそう大差はない。
今日相手したカエルもどきと同じように仕掛けたつもりだったが、体のサイズが違う分浅く入ってしまって、決め手にはならなかったかな?
一度距離をとってカエルもどきの全身を見た。
今の一撃で首は半ば以上切れているのに、元気に尻尾を振り回している。
先の群れを相手した時に足を斬り落としたりもしたが、そっちの方が動きが鈍いくらいだ。
どう考えても、生き物ならこっちの方が致命傷なのにな。
「相変わらずしぶとい。他の魔物なら十分致命傷なのにね……っ!」
こちらに伸びてくる尻尾や舌を躱しながら回り込むと、俺は思い切りカエルもどきの頭部を蹴り飛ばした。
無傷の状態だったらダメージはあっても耐えるだろうが、半ば以上まで首を斬られている状態では、流石に耐えることは出来なかったようで、簡単に頭部はふっ飛んで行く。
普通の生き物ならこれで十分なんだが、これでもまだコイツは動いたりもする。
「綺麗な倒し方じゃないけど……まぁ、いいよね」
俺は頭部が無くなったカエルもどきの体に近づくと、手足を尻尾をスパスパと斬り落としていった。
ここまでやればもう大丈夫だろう。
「……よし。後続はいないね」
周囲を見回して他の魔物がいないことを確認した俺は、今度こそアレクたちに合流しようと、彼らの下に飛んで行った。
◇
穴の底に飛び込む前に一旦縁で【浮き玉】を止めて、中の様子を窺っていると、何やら戦闘音に紛れて怒鳴り声のようなものも聞こえてきた。
「アレク、矢は!?」
「もうすぐです!! ただ、位置が悪い。どうにかしてヤツを東側に寄せたいのですが……オーギュストも手こずっていますね!」
「ああ! ヤツもわかっているのかどうなのかわからないが、北と西の水脈に繋がる穴の直線上から動こうとしない! 迂闊に仕掛けられないな!」
二人はオーギュストが剣でワニもどきを弾く、硬い金属音に負けないように大声で叫びあっていた。
二人の会話から察するに、今はオーギュストが一人で戦っているようだ。
んで、二人は迂闊に手を出すと穴の壁を崩してしまいかねないから、オーギュストが上手く東側に追いやるのを待っているって感じかな?
この広さなら生き埋めになるようなことはないだろうけれど、下手に北と西の壁を崩して、裏を流れる水脈に逃げられたら困るもんな。
森の中とはいえ折角の外なのに、こういう閉所で戦うことになると、ジグハルトの強みがどうにも発揮出来ないな。
「困った困った……。それじゃー……オレも参戦するか!」
ワニもどきがどんな風に動くのかはわからないが、オーギュストが一人で戦っている辺り、下手に近づくと尻尾を振り回したり魔法を使ったり暴れでもするんだろう。
でも、上からだとどうかな!
様子見はもう十分だし……行くぞっ!!
「せーーーのっ!?!?」
勢いよく穴の中に飛び込み、ワニもどきの背面に蹴りをぶち込もうとしたんだが、俺は慌てて軌道を変更した。
「セラ殿、下がれ!」
「お……ぉぅ! 後、よろしく!!」
オーギュストの指示に素直に応えると、俺は何やらホッとしたような表情を浮かべている二人の下に飛んで行った。
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「よう。よく踏みとどまったな」
「お前なら凌げただろうが……もしあのまま突っ込むようだったら、俺がお前を魔法で弾き飛ばしてたぜ」
アレクとジグハルトの二人は、やってきた俺に向かって苦笑しながら物騒なことを言い放った。
「ふん……まぁ、ちょっと油断したのは確かだね。アレ何?」
先程俺は上手くワニもどきの頭上をとって、不意打ちを仕掛けようとしたんだが、ワニもどきの背中は逆立った鱗のようなものが生えていて、蹴りを叩きこむのを躊躇ってしまった。
その直後にオーギュストの指示があったから、攻撃を仕掛けずにこっちまでやって来たんだが、二人の反応を見るに、アレで正解だったか。
「背中だけじゃなくて、側面にもあの鱗が生えていてな。横から剣を叩きつけてみたんだが、砕けた破片が鏃みたいな形になって、周囲に飛び散るんだ。お前の風と盾なら防げるとは思うが……直接仕掛けるのは正面からだけにした方がいいだろう」
「……【琥珀の盾】みたいな鱗してるのか。それにしても、思ったよりも硬そうな見た目をしてるよね。最初上から見ていた時は、もっとヌメヌメしてたように見えたんだけど……そんなことなかったかな?」
魔物の群れを片付けに行く前は、まだ両生類っぽい皮膚だったと思うんだが、戦闘の影響だろうか?
とりあえず、俺が離れた後どんなことがあったのかを訊ねようと思い、二人の顔を見たんだが……。
「ひょっとして、周りって相当暑いの?」
もちろん、今も雨は降り続けているから、彼らは顔どころか体全体が濡れているわけなんだが、雨とは別の汗のようなものも見えるんだよな。
今は止まっているが、先程までジグハルトの魔法の音が鳴り響いていたし、結構な数の魔法を撃ち込んでいたはずだ。
その熱であのワニもどきの皮膚が乾燥したってところかな?
俺の視線に二人は頷くと、ジグハルトが口を開いた。
「大分炎の魔法を使ったからな。この穴の底じゃ……熱気も溜まるだろう。お前が魔物の群れを片付けに向かってしばらく経った頃、こっちにも魔物が現れたんだ。アイツが呼び寄せたんだろうな。流石にこの穴の上の様子までは俺たちも把握出来なくて、接近を許してしまった」
「あらら……オレが動いたのは慌て過ぎだったかな……」
北から接近する群れを見つけてすぐに出発したんだが、もう少しこっちで様子見してからの方がよかったかもしれないな。
「いや、別にそれは問題じゃなかったさ。こっちに現れたのはカエルもどきの群れだったんだ。アレは死体になっても毒を持っているんだろう? だから死体を残したくなかったし、ジグさんの魔法で誘導と足止めをした後に、俺が矢で仕留めた」
アレクは弓を軽く振ってこちらに見せた。
やっぱりあの音は【ダンレムの糸】だったか。
まさかカエルもどきが複数出ていたとは思わなかったが、まぁ……無事に倒せていたんなら何よりだ。
「……で、念のため炎と風の魔法で穴の中の空気を上空に巻き上げたんだ。気付けないほどの不調でも、アレを相手に後れをとったりはしたくないからな……。だが、アイツはその熱を利用して、自分の体の水分を全部飛ばすとあの形態になったってわけだ」
「なるほど……」
水分を纏って熱に強い形態と、水分を弾き飛ばして接近戦に備える形態を持っているんだな。
「団長の戦い方を見てると、正面からだと鱗の破片が飛び散ったりはしないのかな?」
「他の部位に比べると、頭周りは鱗の密集具合が薄いんだ。それでも、周りに飛び散るからな。結局どこを叩くにしても、一人でやるしかないだろう」
「それは面倒だねぇ……」
「長引くようなら交代するのも手だが、今のところはオーギュストが一人で相手出来ているし、とりあえずはこのまま様子見だな」
三人手持ち無沙汰ではあるものの、どうすることも出来ないし……と、呑気に話しながらオーギュストの奮闘ぶりを見守っていたが、ワニもどきの足元からジワジワと地面に魔力が広がっているように見えた。
身を乗り出して向こうの様子を窺っていると、急に黙り込んだ俺を不思議に思ったのか、「どうした?」と二人が声をかけてきた。
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