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「北から小型の妖魔種が集まって来てる! オレが相手するけど、抜けられたらお願い!!」
下に向かってそう叫ぶと、微かに「わかった!」と聞こえてきた。
チラッと下に視線を向けると、三人とワニもどきは互いに距離がある。
直接ぶつかり合うのはまだ先になるだろう。
さっさと片付けて、また戻って来よう。
「さて……どう戦うかだよね。数は全部で二十体もいないくらいだけど、一つの群れってことはないだろうしね。ワニもどきの魔力で引き寄せられたって程度なら、半端に仕掛けたら、違う群れは分散して動いちゃうかもしれないし……」
上空から、こちらに向かってくる魔物の群れの位置を見ると、森の北からではあるが、やや東寄りから向かってきている。
西側は川で分断されているし、森は東に広がっているからその動きは自然ではあるが……。
「正面から迎え撃つんじゃなくて、西側の端から一気に片付けていく方がいいかな?」
東側から攻めて行って、川岸に追いやるってのも悪くはないが、背後を取られるかもしれないしな。
ワニもどきが、魔力を使って魔物に合図を出しているんだろうが、どこまでその範囲が広げられるかわからないし、無難にいこう。
◇
こちらに接近してくる魔物の群れを始末するために、森に下りた俺はすぐに西回りで移動を開始した。
「見つけた!」
上空からではなく、障害物が多い森の中を移動しているのに、お目当ての群れをすぐに見つけることが出来た。
肉眼だと厳しいんだが、【妖精の瞳】とヘビの目が使える生き物が相手だと捜索は簡単だな。
やはり俺の天敵はアンデッドか……。
「さて……と。そんなことよりもまずはゴブリンが四体だね。他の群れも移動速度は大したことないし、命令を受けてっていうよりは、魔力に釣られて何となく……って感じだね。予想通り、そこまで強力な力は無いみたいだけど……」
ワニもどきが、あそこから広範囲に渡って命令出来るような力があったとしたら、厄介なことこの上ないんだけれど、幸いそんなことはなかった。
ただ、その分コイツらはちょっとしたことが切っ掛けで、バラバラに動いたりしかねない。
いくら小型の妖魔種とはいえ、側をうろつかれるのは鬱陶しいだろうし……逃がさずここで決めておかないとな。
「行くぞっ!」
気合いの声を上げると、距離はあるが速度をドンドン上げていきながら、ゴブリンの群れ目がけて真っ直ぐ突っ込んで行った。
「……気付いたっ!?」
群れを肉眼で捉えるとほぼ同時に、俺の接近に気付いたゴブリンたちが騒ぎ出した。
枝や茂みを避けずに文字通り一直線に突っ込んでいるから、音も立てているし、そりゃ気付くか。
「でも、もうこの距離なら!」
前に突き出した【緋蜂の針】で、手前の一体を蹴り飛ばすと、すれ違う別の個体に【影の剣】で斬りつける。
さらに、その際にはアカメたちもしっかりと攻撃をしていて……。
「一瞬だね。まぁ……今のは位置が良かったってのもあるかもしれないけど、この辺りのゴブリンならこんなもんか」
拠点より手前の森で戦ったゴブリンの群れは、もう少し面倒だったんだが……コイツらは大したことない普通のゴブリンだ。
久しぶりに【祈り】を発動した状態での戦闘ってこともあって、なにやら普段よりもずっと体のキレがいい気もするし、これなら逃すことなく全部倒すことは出来そうかな?
「ほっ! ……っと、これで終わりだね」
最後の一体に止めを刺すと、次の群れがいるであろう位置に向かって、また真っ直ぐ森の中を飛んで行く。
「確かこの辺を移動していたはずだけど…………くっ!?」
俺は上空から見た魔物の位置を思い浮かべながら、周囲をキョロキョロとしていたが、あの大穴がある南側から、ここまで響く大きな音が二度連続して起きたことに、思わず【浮き玉】を止めて南側に体を向けた。
「今の一発は魔法だけど……もう一発はアレクの矢かな?」
着弾音が、単発の魔法と【ダンレムの糸】じゃまるで違うしな。
聞き間違いじゃないはずだ。
……ってことは、連射の利かないアレを使うような事態が起きたってことか。
こっちも急ごう!
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「……ふぅ」
西から順に倒していった、ワニもどきに呼び寄せられた魔物の群れの最後は、コボルトの一団だった。
数は十体と、この一行の半数近くで、コボルトの群れと考えても大規模なものだったが、まぁ……数は多くても所詮はただのコボルト。
逃げようとする個体の追撃には少々手を焼いたが、精々その程度だ。
戦闘そのものは、全く危なげなく片付けることが出来た。
上空からこの一行の存在を察知して、20分もかかっていないんじゃないかな?
我ながら上手く戦えたと思う。
死体の処理に関しては……後で考えよう!
「魔法の音は……まだ聞こえてくるね。軽い威力の魔法を連発してるみたいだけど、牽制用かな? まぁ……さっきデカいのを二発ぶっ放したから穴の壁が脆くなっているのかもしれないし、加減をしてるだけかもしれないけど……」
とりあえず、さっさと合流だな。
周囲に生き残った魔物がいないかどうかを確認すると、俺は合流するために移動を開始した。
◇
「ん?」
つい先程、魔物の群れを倒し終えて、三人がワニもどきと戦っている大穴に向かっているんだが、その途中で何本かの倒木が目に入った。
俺が魔物の群れに仕掛けた際は、西回りで移動したからこの辺は通っていないし、森の中を捜索していた時も、この辺りには近づいていなかった。
だから、もともとこんな風になっていたのかもしれないし、穴の天井が崩落した影響でってことも考えられるが、倒れている木は周囲にたくさん生えている中の数本だし、何となくその可能性は低い気がする。
「折れているわけじゃないし……水溜まりがあって見えにくいけど、根元からひっくり返されたのかな?」
木の根元からひっくり返される事態となると……何かが這い出て来たとかそんなところかな?
「この辺りには魔物は見当たらないし……これは辿り着かれちゃったかな?」
俺は周囲を見ながら小声で呟きながら【浮き玉】をさらに加速させると、すぐに大穴の縁まで辿り着いた。
そして、穴の中全体が見えるようにその場で高度を上げていく。
「ふぬ……大分南側まで移動してるね。こっちの方が水は多いしワニもどきにも有利だと思うんだけど……」
俺が魔物の撃退に出る前は、三人は穴の中央辺りに陣取っていたんだが、今は南側の壁を背にしている。
その代わりに、ワニもどきが先程三人がいた場所辺りに移動してきている。
別に三人が追い詰められたりしているようには見えないんだが……魔法の連射や、一発だけとはいえ【ダンレムの糸】での破壊跡もあちらこちらにあるし、足場が悪くなったから戦う場を変えたのかな?
ワニもどきにダメージがあるようには見えないが、それでも水が多い北側からこちら側まで引っ張り出せているし、少なくとも押されているってことはないよな?
「でも、状況がわからないな……」
今は戦闘が止まっているし、合流するには丁度いいタイミングなのかもしれないが……もう少し様子見した方がいいのかな?
そんなことを考えながら、高度を徐々に下ろしていっていると、穴を挟んだ向こう側で、何かが穴に近づいて来ているのが見えた。
降下を止めると、俺はそこでじっと目を凝らした。
「んー……? 魔物……カエルもどきっ!?」
その正体がわかった俺は、穴の上を一気に突っ切っていく。
正確なサイズまではわからないが、強さは俺が倒したカエルもどきたちと遜色無いだろう。
いくらあの三人でも壁際近くにいるし、アイツが上から降って来て後ろを取られたら危険だ。
「向こう側にカエルもどき! オレがやるからっ!!」
この声が聞こえたかどうかはわからないが、俺が接近していたのには気付いていたみたいだし、戦闘態勢のまま高速で通過したんだ。
上に何かあるってことは伝わっただろう。
ってことで、下のことはひとまず彼らに任せておくとして。
「カエルもどきは一体か。それなら……」
カエルもどきも俺に気付いているようで、いつでも攻撃出来るように口を軽く開いている。
だが、俺はそれを無視して、そのままさらに速度を上げて突っ込んで行った。
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