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窪みの前まで来た俺は、一先ず川から離れて陸地側に移動した。
そして、川の窪みに流れ込んでいる物を調べようとしたんだが……。
「コレは……なんだろう?」
これを発見した時に思った通り、コレは流木の類じゃないんだが……それならコレは何なんだろう?
木材ではあるが、こんな森の中を流れる川に何でそんな物が……ってなるよな。
上流は碌に人が足を踏み入れるような場所じゃないし……一体どこの誰が流したんだ?
「ただ見ているだけじゃなんにもなんないか。ちょっと拾ってみようかね」
俺は尻尾を最大サイズにすると、そのまま川の中に落とした。
「……おっとっと、結構流れがあるみたいだね。それとも渦みたいになってるのかな?」
窪みになっている箇所に水が流れ込んでいるから、てっきり水流はないと思ったんだが、コレが中々どうして。
落とした尻尾ごと引っ張られてしまい、慌てて【浮き玉】をコントロールした。
「よしよし……安定したね。それにしても、この水の勢いでも流されていないってことは……水面に出ている分よりもずっと大きいのかな? 重さが結構ありそうだよね? 気を付けないとな……」
俺は気合いを入れると、改めて水中に落とした尻尾を動かし始めた。
この木材のどれかを尻尾で拾い上げようと思っているんだが、失敗して沈めてしまったら台無しだ。
俺が今目を付けている物以外にも、流れ着いている木材はあるが、それでも無駄に沈められるほど数は多くない。
しっかり決めないとな!
と、気合いを入れたはいいが……。
「……結構難しいな。あんまり水面に近づき過ぎても、水中にいるのが襲ってくるかもしれないしね」
水の流れや、大した強さじゃないが水中にいる生物に気を取られて、中々尻尾で上手く巻き取れないでいる。
「お?」
しばらく水中で尻尾を動かしていたが、お目当ての木材ではないが、何かが尻尾に引っかかる感触があった。
それを逃すまいと尻尾を巻きつかせると、一気に引き上げた。
引っ張り上げてそのまま陸地に落下したが、頭上を越える際に見たソレは、丸い板に1メートルほどの長さの棒切れのような物が突き刺さっているような形状だった。
間違いなく人工物だな。
さて、一体コレは何なのか……と、調べるために近づいた。
「コレは……車輪かな? それと、この棒は車軸だね?」
サイズ的に馬車の車輪かな?
よく街で見る馬車の車輪とサイズは同じくらいだし、突き刺さっているように見えた棒切れは車軸と思えばおかしくない。
んで、一緒に固まっている木材は、馬車の車体の一部か。
「ってことは、上の方で馬車が川に落っこちちゃったのかな? それはそれで事故だと思うけど……」
とりあえず、あまり時間はかけたくないけど、この一個じゃ何もわからないしもう少しここを探ってみようかね。
俺は水中の様子がよくわかるようにと、照明の魔法を撃ち込んで、再び尻尾を水中に落とした。
◇
何度か試したことで、尻尾で水中から物を拾い上げるコツを掴めたのか、初めに比べたら随分手際よく拾い上げられるようになっている。
「ほっ!」
さらに新しい板のような木材を拾い上げて、岸に放り投げた。
水中を覗けば、まだいくつか沈んでいるが……とりあえずこれくらいで十分だろう。
「よいしょっと」
俺は地面に転がっている板の一つを「猿の腕」を使って拾い上げた。
そして、顔の前に持って来ると、縦や横にクルクルと回転させる。
「何時こうなったのかは見てもわからないけれど……もっと大きい板材が割れた物みたいだね。落っこちて川底か岩にでもぶつかったのか……それとも魔物か何かに割られたのかな?」
俺が今持っている板は、コレだけでも俺の上半身くらいのサイズがあるが、板の上の方がバキっと割れた跡があるし、元はもっとデカかったんだろう。
馬車の床にでも使われていたのかもな。
他にも底と蓋が抜けた樽みたいなのもあるが、これは積み荷かな?
「とりあえず……っと」
俺はポーチから通常の狼煙を取り出すと、足元に投げつけた。
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モクモクと立ち上る狼煙を見て、「ふむ」と頷いた。
ただの狼煙に過ぎないし、これなら森に影響は出ない。
色がついているわけじゃない上に、この雨空の下だとちょっとわかりにくいかもしれないが、もう一つの方の狼煙が使用される可能性については、三人や率いる隊の隊員たちも頭にあるだろう。
狼煙が上がっていることに気付けば、俺が呼びに行かなくてもこちらに来るはずだ。
本命の魔物を発見したわけじゃないが、コレを見てもらって、ついでにアンデッドに出くわしたことも伝えて、この後の行動の指針にしてもらいたい。
正直なところ、川を遡っていけば何かが見つかるんじゃないかなー……と、考えていたのは甘かった気がしてきている。
一度集まっておいた方がいいだろう。
「それじゃー……皆が来るまでの間、オレはこの辺をもう少しうろついてみようかな」
皆がいる南側は問題無いとして、北側や東側はまだ調べ切れていないし、とりあえず魔物が寄ってこないかどうかだけでも見ておかないとな。
俺はヘビたち三体とも服の下から出すと、周囲の警戒を任せながら森の上空に上がっていった。
◇
三部隊に分かれた調査隊は、川からやや東岸の内側に入った箇所を中心に、魔物の痕跡や異常を探していた。
だが、中々コレといった発見は出来ずにただ時間が過ぎていた。
そんな中、一番北側を任されているオーギュストの隊の隊員の一人が、木の間から見える光景に、慌てて周りの隊員たちを呼び止めた。
「……っ!? おい、あれを!」
「どうした? ……っ狼煙か!?」
初めに異常に気付いた隊員が指さす先を見て、彼が何を発見したのかを理解した。
「北方向だとセラ副長だな。俺は団長に伝えてくる。他への報告は任せた!」
最初に気付いた兵は、そう言うとその場を周りの兵たちに任せて、オーギュストがいる場所に走った。
オーギュストがいる場所は、仮にこの隊のどこで戦闘が起きたとしても、すぐに駆け付けられる隊の中心で、雨避けに木の下に入っている。
そのため、オーギュストと護衛の兵二人の誰も、先程の狼煙には気付いていないようだ。
「団長! 北のセラ副長から狼煙が上がりました!」
その報告に、護衛の一人がすぐに反応する。
「来たかっ! セラ副長は?」
「いえ、まだ狼煙だけです。他の者たちも集めさせていますが……すぐに向かいますか?」
集まる視線にオーギュストは首を横に振った。
「いや、まずは他の隊との合流を待つ。そちらにも伝令を出せ」
その言葉に、護衛の二人も「我々も」と言ってその場を離れていく。
「セラ殿が遭遇したのか? その割には随分と静かなままだが……」
一人残ったオーギュストは、しばし目を閉じて周囲の様子を探っていたが、異変は何も見つけられなかったようで、先程の兵が向かってきた方へと歩いて行った。
◇
三隊が合流すると、すぐに狼煙が上がった場所に向かって出発した。
位置的に川の側であることはわかっていたが、危険を避けるために森の中を進んでいた。
人数に任せて、警戒よりも速さを優先していたんだが……先頭が徐々に速度を落としていったかと思うと、ついには完全に足を止めてしまった。
そして、隊員たちは鼻と口を手で覆い、青い顔をしてぼやいている。
「……おい、この先か?」
「ひどいな。まだ解体所の方がマシじゃないか?」
「群れを一つや二つ潰したところで、ここまで酷くはないぜ……。隊長さんよ……どうするんだ? ここを抜けるだけならまだしも、ど真ん中で戦うようなことになったら、鼻が原因でしくじりかねないぞ?」
2番隊の兵の言葉に、彼等と同様に口元を手で覆っているアレクは頷くと、「一度下がるぞ!」と指示を出した。
周りの隊員たちは口々に「助かった」や「ありがたい」と言いながら、やって来た時よりも速く下がって行く。
その様子に、アレクたち三人は蒼い顔をしながらも笑っている。
「仕方がない。コレは流石にどうにもならん。別の道を探すか?」
「いや、戦闘の気配は無いし、セラを俺たちの下に呼んだ方が早いだろう」
ジグハルトはそう言うと、走りながら魔法を上空に向けて放った。
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