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「…………うん? 流石にいなさすぎないか?」
馬のアンデッド2頭を片付けた場所から、川の上流を目指して北上していったんだが、その途中でふと、魔物と出くわしていないことに気付いた。
元々拠点周りの魔物は対岸側に移動していたんだが、流石にもう大分離れているし、そろそろこの辺に魔物が戻って来ていてもおかしくない位置だ。
にもかかわらず、先程の馬を除いたら何にも遭遇しなかった。
コレが偶然なのか、それとも何か理由があるのか……。
「ちょこちょこ上に上がって見ているけど、この辺に何もいないんだよな……。まぁ、アンデッドだったらいるかどうかわからないから、見落としているだけって可能性もあるけど……」
俺は腕を組みながら「むむむ……」としばらく唸っていたが、考え込んでも仕方がないし、さっさと移動を再開することにした。
そして、森の中を移動をしながらキョロキョロと辺りの警戒は続けていたが、俺は目についた木に【浮き玉】を向かわせる。
この辺りに生えている他の木と同じくらいの太さの幹で、枝ぶりなんかも大差のない、まぁ……普通の木だな。
だが、地面から2メートルほどの位置に、爪で刻んだ様な痕が何筋も付けられていた。
中々深くしっかりと刻まれているし、大型の肉食の魔獣……恐らくクマかなんかだろう。
この辺にいるのは知らなかったが、領都の南側にもいるくらいだし、これくらい広い森にならいてもおかしくはないか。
だから、これ自体は別におかしなものではない。
「……古いってほどじゃないけど、新しくもないね。ほっ……」
爪痕を見ながら、俺は【影の剣】で、その爪痕をさらに斬りつける。
その痕を見て「ふむ」と頷いた。
「まだ中までは水が入っていないし、この痕を付けたのは雨季に入ってすぐってところかな?」
専門知識があるわけじゃないし、所詮は俺の勘に過ぎないが……多分合っているはずだ。
ともあれ……そうなると、領都のすぐ北で起きた戦闘には、この爪痕の主は参加していなかったってことだ。
あの魔物たちの指揮の範囲の外にいたか、あるいは無視出来るほどの力があったのかはわからないが、大型の魔獣だとしたら、それなり以上の力はあるだろう。
そんなのここ数日、一度も見ていないよな?
…………ちょっと危険かな?
「たんに倒すだけならどうとでもなるけど、調査だもんな」
俺は森の奥に視線を送りながら、そう呟いた。
「とりあえず、ちょっと地上から距離をとって移動した方がいいよね」
雨で流れてしまったのか、あの木の周囲に足跡なんかは残っていなかったが、樹上を移動するようなタイプの魔獣じゃなさそうだしな。
高度をちゃんととっていたら、不意打ちを避けることは出来るだろう。
念のため、各種恩恵品を発動して戦闘態勢をとってから、高度を上げて移動を開始した。
◇
北に向かって飛んでいるが、その最中に川の西側にも視線をやってみると、あちら側には魔物の気配がいくつも見えた。
あの辺りで群れを作っているんだろう。
強さも数も大したことないが、逆に言えば、その程度の魔物ですら、向こう岸で普通に活動出来ているってことだ。
それに引き換え……。
「わざわざ地面から離れて移動していたのに、結局何にもいなかったな。後ろの皆も何も起きていないようだし……」
ここまでの俺の調査は空振りだ。
魔物の痕跡は、アレ以降もちょこちょこ目にしたが、どれも新しい物ではなく、以前付けられたものだろう。
相変わらず後方からは何の合図も出ていない。
ってことで、ここはこのまま前進だ!
「……おや?」
森の上に出たり戻ったりを繰り返しながら北上していたが、少し先にポッカリと開いた場所が見えた。
川が流れている辺りだし、池か湖かかな?
「……生き物の気配はここからじゃわからないか。何かあるかもしれないし、行ってみようかね」
普通だともっと生き物の気配があってもおかしくないはずなのに、この状況。
一の森で、カエルもどきが縄張りにしていた水溜まりと同じような雰囲気を感じるな。
いつでも狼煙を使えるように腰のポーチの中を確かめると、【緋蜂の針】を発動して、そちらに向かってゆっくりと近づいて行った。
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「ここは……池かな? あっちの川から流れ込んで来てるみたいだね」
先程見つけた場所にやって来た俺は、速度を落としてその上空をウロウロと漂いながら下の様子を窺っていたが、一通り見て回ったところで、その場を離れて南側へ戻っていった。
湖というほどの大きさはないし池でいいだろう。
俺は今、その池の南端ギリギリの場所に浮いている。
この池は、サイズだけなら一の森で俺が発見した水溜まりと同じくらいだが、上から見た感じこちらの方がずっと深い。
水溜まりの時と違って、こちらはほとんど濁っていないのに、底がギリギリ見えるかどうかくらいだ。
一番深いところで、2メートル……3メートルあるかな?
これなら大型の水棲生物がいてもおかしくはない。
おかしくはないんだが……。
俺は「むむむ……」と唸りながら、川と繋がった箇所を睨んだ。
長さは10メートルほど、そして幅が1メートルもない水路から、勢いよく池に水が流れ込み続けている。
「あそこから川の水が流れ込んで来ているみたいだし、ココの水源はアレなんだろうけれど……ちょっと小さすぎるよね?」
川と池の規模に比べたら随分と小規模だ。
まぁ……だからこそ、流れ込む水の勢いは強くても池全体への影響は少ないから、池の中が濁ったりしていないんだろうな。
お陰で池の中の様子が肉眼でもよくわかる。
「でも……アレだとあんまり大型の魔物が通って来るのは無理だろうね。そうなると…………どういうことだ?」
俺は池と川と水路と……それぞれ交互に見ながら首を傾げた。
「ちょっと、一個ずつ整理していこうかね」
まずは川。
この雨の影響で増水している。
下流からずっと見続けているが、ここまで特に大きな異変は感じられない。
次は水路。
川から池に水が流れ込んでいるが、大きな生物が移動してくるには規模が小さすぎるな。
んで、最後にこの池だ。
俺は真下を見ると、池の端ギリギリにいたはずなのに、少しではあるが、池の水が侵食している。
川から水が流れ込み続けているからだな。
雨が止んだら縮んで行くんだろうが、雨が降り続ける限りは少しずつ広がっていくんだろう。
まぁ、それは今はどうでもいいことだ。
それよりも池の様子だな。
比較的水は澄んでいて、中の様子は肉眼でも見えるが……生き物らしい姿は確認出来ない。
【妖精の瞳】でもヘビの目でもそれは同じだ。
だが、俺の勘ではあるが何かがいる気はする。
恐らくカエルもどきみたいなのがどこかに潜んでいるんだろうな。
あの水溜まり同様に、食い荒らされちゃったか。
「怪しいことは怪しいけど……この池は外れなのかもしれないね」
この規模の池で生き物の気配がないのは異変と言えるが、その異変の原因はある程度予測出来る。
それならこの池は今は後回しでいい。
「ってことは、やっぱり川の方か」
◇
池から離れた俺は、そのまま上流に向かって川の真上を飛びながら移動していた。
ここに至るまで未だに決定的な何かを見つけられないでいるし、いい加減何かを見つけたいんだが……と、若干苛ついていることを自覚しながら飛んでいる。
「何も無いねぇ……」
飛びながらついつい愚痴が零れてしまうが、それでも見落としたりしないようにと、キョロキョロと辺りを見渡しているが、異変といえるようなものは何も無い。
先程の池と違って川には何かの魔物や生物がいるが、それはむしろ普通のことだし、異変じゃーないよな。
「川べりや、そこからもう少し離れた場所にも目立つような痕跡はないし……こうなったら、さっきの池をもう一度調べて……それとも……むっ?」
池に戻るか一旦皆と合流するかと考えながら辺りを見ていると、曲がりくねった川の窪みに引っかかる木材のような物が目に付いた。
「アレは……少なくとも人の手が加わった物だね」
よく見てみると、板状の物や角材のような物もある。
上流の倒木が流されてきたってわけじゃなさそうだ。
引き返すかどうするかは、アレを見てからにしようかね。
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