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「さて……死体は2頭分だけだし……コレの処理は後回しでいいよね?」
初めは5頭全部仕留めるつもりだったし、流石にそれだけの数を放置していくわけにはいかないから、【ダンレムの糸】を使って片付けようと考えていた。
一発撃てば次まで10分間空けないといけないが、ここで燃焼玉は使えないし、まぁ……仮に【ダンレムの糸】を使わなければいけないような事態が来るにしても、10分くらいなら時間を稼ぐのは難しいことではない。
贅沢な使い方ではあるが、それでもいいか……と思っていたが、温存出来るのならその方がいいしな。
「目印代わりに、何本か木を倒しておけばいいよね」
後回しにするとは言え、そのまま放置するわけじゃないし、無事ことが片付いたら当然処理はする。
そのためにも、見失わないようにしないと……ってことで、俺は死体の周囲の木に向かって蹴りを放った。
◇
一先ず、死体の場所の目印に三本の木を倒して、側に転がしてきた俺は、一旦状況を把握しようと上空に飛び上がった。
落雷が怖いから木より上にはいかないようにしていたんだが、広範囲を見たいしほんの一瞬だ。
大丈夫だよな?
「えーと……」
そう呟きながら、まずは俺がいる西側を見渡した。
先程逃げた3頭のシカが何か影響を及ぼしていないか……と心配したんだが、幸いそれはただの杞憂だった。
俺が先程見ていた時の魔物の配置から多少は変わっているが、それでも混乱が起きている様子はない。
まぁ……大して強くない魔物が、たった数頭森を走り回ったからといって、それで森が混乱するようなことはないか。
「とりあえずこっち側は問題無しか。それじゃー、反対は……」
その場で反転すると、川の東側の様子を探った。
今のところ東側に狼煙が上がっていない。
加えて激しい戦闘が起きている気配もない。
向こう側に魔物はいないだろうし……戦闘が起きていないのは当然か。
しかし。
「魔物がいないからかな? 思ったよりも北側に進んでいるね。それならオレもペースを合わせた方がいいのかな?」
上から眺めると、俺よりも100メートルほど北に、ジグハルトの他に二人の気配が見えている。
俺は真っ直ぐ西に向かっていたが、彼等はあの場からすぐ北に向かったんだろう。
俺も怠けているわけじゃないんだが、ちょっとのんびりし過ぎたかもしれない。
ある程度進行速度は合わせておいた方がいいよな?
「……気を付けるのは川にいる魔物だし、見るのはもうちょっと手前までで良さそうだね。それならペースも上げられるしね」
このシカの群れは、こっちに向かってきていたから迎え撃つために俺も突っ込んで行ったけど、そこまで行く必要は無いか。
もちろん、川から上がってきて西側に移動している可能性もあるし、全く無視していいわけじゃないが……それなら川べりに何かの痕跡が残っているだろうしな。
「よっし……それじゃー、出発しよーかね!」
方針も決まったし、改めて調査を再開だ!
気合いを入れ直すと、恩恵品はそのままに俺は高度を下げて行った。
◇
調査を再開してからしばし。
魔物と戦闘するようなこともなく、対岸の調査のペースと合わせながら、順調に痕跡を調べていた。
こちら側に魔物が多数移動していることもあって、魔物の痕跡はあちらこちらに見られるんだが……それは割とどこでも見られるようなものばかりだ。
むしろ、こんなのがそこら辺にあるってことは、こっち側に異変は起きていないって証明でもある。
「……ちょこちょこ上から見たりもしてるんだけど、何も変わりはないしねぇ。カエルもどきの例もあるから決めつけるわけにはいかないけど、こっちにはいないのかな?」
仮にこっち側にいるとしても、もっと上流か。
「一度向こう側と合流してみようかな?」
まだ向こうも遭遇はしていないんだろうけれど、何か痕跡くらいは見つけたりはしてるかもしれないし、それも有りかもしれない。
どうせ行き来はすぐ出来るしな!
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「……おぉぅ。戦闘が起きていない割になんかバタバタしていると思ったけど……こんなことしてたんだね」
川の西側を見ていた俺は、一度情報の共有をするために東側に戻ってきていた。
その際に、倒されたばかりの木を何本も見つけた。
まだ新しいものだからアレクたちが倒したってのはわかったんだが、先程の俺のように、何かの目印代わりにするには広範囲に渡っているし、一体なんのためにと思っていた。
だが。
「セラか。どうしたんだ?」
俺の声に気付いたアレクが、引っこ抜いた木の根元から離れてこちらにやって来た。
「うん。ちょっと向こうの状況も伝えておこうと思ってさ……。それよりも、これは痕跡探しのためにやってるのかな?」
「ああ。何かがあるのは確かだと思うんだが……それがまだ見つからなくてな。痕跡探しのついでに、おびき寄せる意味も兼ねて辺りの木をひっくり返している」
「……こっちも成果は無いんだ。足並みを揃えて向こう側を見ていたんだけど、ちょっとオレだけ先行して北側を見てきた方がいいかな?」
俺がこちら側と同じペースにしていたのは、向こうで何かを発見した時に、こちら側が救援にやって来やすいようにって意味もあったんだが、ちょっとあのままでは向こう側で何かを見つけるのは難しそうなんだよな。
そして、こちら側も気配は感じつつも、具体的な物は見つけられないでいる。
まだ余裕はあるけれど、このままだと時間をただ使ってしまうだけになりかねないし、ここはひとつ俺が先行して上流を見てくるって手も有りだろう。
「……向こうは何もなさそうか?」
俺の提案に答える前に、アレクは向こうの様子を訊ねてきた。
まだ決めかねているって感じかな?
「そんな感じだね。魔物は結構いるんだけど様子に変わりはないし、少なくとも川の近くに何かがいるって感じはしないね。何かが這い上がってきた痕跡もないし、多分あの辺にはオレたちが探しているようなのはいないと思うよ」
「……仕方がない。オーギュストとジグさんにはこちらから伝えておくから行ってくれ。ただ、何か見つけても距離が離れていると救援まで時間がかかるし、狼煙に気付きにくいかもしれない。無理はするなよ」
「大丈夫大丈夫。矢もあるし、いざとなればオレ一人ならどうとでもなるからね」
俺は「あとはよろしく」と言うと、上流に向かうためにその場を飛びたった。
◇
川沿いに上流を目指して飛んでいたが、ついでに今までよく知らなかったこの川の様子もじっくりと見ていた。
川幅は決して広くないが、デカい岩がゴロゴロ転がっているし、水量は雨とか関係なしに元々多そうだ。
まぁ……よっぽどの小船ならともかく、ここに船を通すってことは難しそうだし、領地北部との水運は無理だな。
今後も街道がメインになるだろう。
だからと言って、問題を無視していいわけないしな。
しっかりと片を付けないと……。
急ぎつつも異常を見落としたりしないように周囲に注意を払っていると、視界の端に何かが映った。
「うん? アレは……馬かな? それも2頭も。なんでこんなところに……」
まだ距離があるが、いるのは位置的に川の東側……か。
野生の馬も魔獣のウマもこんなところにいるなんて聞いたことはないけれど、どこかから逃げてきたのかな……?
場所的に、街道を利用していた商人なり冒険者なりが、拠点に到着する前に魔物に襲われて命を落として……とかだろうか。
んで、ここまで逃げ延びてきたと。
もう少し近付けば鞍とか何か身元がわかる物を、まだ身に着けている……。
「いや! 待ったっ!?」
【浮き玉】を向かわせようとしたところで、俺はようやく異変に気付いた。
【妖精の瞳】もヘビたちの目も発動しているのに、どちらも全く反応していない。
余りにも自然にいたからついついうっかりしていたが……生物なら獣だろうが魔物だろうが赤と緑の光が見えるはずだ。
それがどちらも無いってことは……アイツらアンデッドか!
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