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オーギュストの号令で調査隊のメンバーが集まると、ジグハルトによる改良版狼煙の説明が行われた。
全員が持つわけではないが、情報は共有しておくんだと。
使い方自体は簡単だし、一応の注意点をいくつか挙げる程度で説明が終わり、調査開始……となるのかなと眺めていたが、俺からは何かあるかと言ってきたので、俺が森に入ってからココに来るまで見てきた情報を伝えることにした。
「……川べりの見通しが悪いか。引きずり込まれるのに気を付けないとな」
「コイツでもギリギリまで気付けない魔物が潜んでいるんだ。俺たちでも無理だろう。対処は……どうする? オーギュスト」
「どうしようもないだろう。副長が言ったように、水辺から距離をとるしかない」
川に潜んでいる魔物と戦闘するかもしれないっていうのに、川には近づかない方がいいっていう、我ながらちょっと無理があることを言ったが、どうやらちゃんとこの情報を前提に行動をしてくれるようだ。
アレクたち三人は、揃ってアレコレと話し合っている。
隊員を率いることになるんだし、三人とも真剣だ。
俺がそこに口を挟むのもなんだし……ってことで、他の隊員たちと話をしに行くことにした。
◇
さて、俺が隊員たちと森の様子やカエルもどきについて質問に答えたりしていたが、向こうでの話を終えた三人がこちらにやって来ると、アレクはこちらに、他の二人は隊員たちの下に向かって行った。
「すまん、待たせたな」
「いや、こっちも色々話が出来たからね。それよりも、そっちはもういいの?」
「ああ。その前に、セラ。お前は俺たちの指揮下に入るってことでいいんだよな?」
「うん。上から森の様子を探る役と、皆の伝令役を引き受ける予定だけど……」
俺の言葉にアレクは「そうか……」と頷くと、再び口を開いた。
「三人で話していたんだが、お前には向こう岸を見てもらいたいんだ」
「向こう岸? 川の?」
「そうだ。当初の予定では、オーギュストの隊が適当に川幅の狭いところに、そこら辺の木を使った橋をかけて、向こう岸を捜索することになっていたんだが……」
アレクはそこで一旦話を区切って、苦い表情で川の方を睨みつけている。
「思っていたよりも面倒そうだったかな?」
「……ああ。向こう岸に魔物の気配はあるし、恐らくこちら側にいるとは思うんだが、未だに見つけられないからな」
「なるほどねー……」
早い段階で痕跡を見つけることが出来たら、両側から追い込んで行って、適当なところでドカンと仕留めるってのが理想だったみたいだな。
剣と魔法のどっちもこなせるオーギュストの方に戦力を集めているし、何がどっち側に出ても対処出来るように……と考えていたんだろうが、この状況で簡単には行き来出来ない両岸に隊を分けるのは危険だ。
とりあえず、宙に浮いている上に何かと恩恵品に守られていて、安全は確保出来る俺を送ってしまうのが調査隊のことを考えたら正解だろう。
「わかったよ。オレなら狼煙を上げてくれたらすぐに気づけるしね。ただ、もし向こう側でオレが見つけた場合はどうするの? 一応あの狼煙はオレの分もあるし、その場に足止めをするくらいは出来るだろうけれど……一々木を切って橋をかけて……ってのは時間がかかりすぎるんじゃないかな?」
と、俺はポーチから狼煙を取り出しながら言った。
コレがどれくらいの効果時間なのかわからないが、流石に長時間も効果があるとは思えないし、俺も一人で足止めを出来る自信はない。
「それに関しては問題無い。ジグさんが魔法で両岸を崩して道を作る」
「……随分思い切ったね」
下手したら川を堰き止めかねないし、オーギュストがいるのにこういう大胆な方法を採用するとは思わなかったな。
「すぐにまた吹き飛ばして貰うし、下流への影響は無いさ。それよりも、魔物が向こう岸にいた時に逃がす方が問題だからな……」
こっち側と違って、向こう岸には距離はあるがちゃんとした街や村がある。
強力な魔物がそんな場所をうろつかれるのは避けたいところだ。
俺は「そうだね」と頷いた。
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「それじゃー、オレはこっちを見るから、そっちは戦闘になったらちゃんと狼煙を使ってね」
俺は、話が終わるとすぐに飛び立とうと思ったんだが、一旦思い直してアレクに向けてそう伝えた。
アレクはもちろん、他の二人も無理をするタイプじゃないし心配ないとは思うが、まぁ……念のためだ。
自分たちだけでやれると思って、うっかり他の隊員が……なんてことは避けたいしな。
「ああ。お前ももし出くわすことがあったら使ってくれ」
アレクの言葉に俺は「うん」と答えると、今度こそ浮き上がり西に向かって飛んで行く。
川を渡って森の上空に出ると、一度その場で振り返り皆の様子を確認する。
「……よし。それぞれちゃんと分かれて見えているね」
向こう岸には、北からジグハルト、オーギュスト、アレクがそれぞれ率いている隊と共に、川から離れていっていた。
森の中に入られると、木が邪魔で隊員たちをハッキリ識別するのが難しかったんだが、流石にこの三人レベルならそんな心配はいらなかったか。
これなら、たまに森の上に出て東側を確認する程度でも十分状況を把握出来るはずだ。
俺は「ほっ……」と安堵の息を吐くと、【浮き玉】を西に進めた。
◇
「……魔物はいるか。どうしよう」
川の西側の調査を開始して早々に、こちら側に移動してきていた5頭のシカの群れとぶつかってしまった。
宙に浮いている俺に、地上の魔物たちは手を出せはしないんだが……。
「こっちを見ているよね。手を出せないとはいえ、コレはついて来る感じか」
俺はまだまだそこら辺を移動し続けるつもりだし、コイツ等を引き連れて移動するわけにはいかないだろう。
死体の処理は面倒だが……やるか!
「ほっ!」
俺は恩恵品を発動すると、高度を保ったままシカの群れに接近していく。
「ちょっと今は死体の処理をする時間はないし……倒すことだけを考えるか」
普段なら持ち帰るために綺麗に倒すんだが、今は倒す速度が最優先だ。
「それじゃー……ふらっしゅ!」
俺は目潰しを先頭の1頭目がけて放つと、効果を確認する前に一緒に突っ込んで行った。
全体は無理でも、これで半分は無力化出来るはず。
自分の魔法に巻き込まれないように、突っ込む際に目を瞑っているしちょっと怖いが……【琥珀の盾】と【風の衣】があるしどうにかなるだろう!
「っ!? ……うぉわっ!?」
魔法がさく裂したのを瞼越しに感じた俺は、すぐに目を開いた。
思っていたのと違う光景がそこにあり、ついつい声を上げてしまう。
先頭のシカのすぐ後ろに下りたつもりだったんだが、実際に下りていたのは群れのど真ん中で、最後尾にいたシカと目が合ってしまった。
いきなりプランが崩れてしまったが、これはもうこのままいくしかない!
「せー……のっ!!」
勢いに任せて、俺は左足で一番近くにいる1頭の腹部に蹴りを放った。
さらに、大きく揺らいだそのシカに向かって【影の剣】の追撃を首に。
これで1頭目。
首を失ったシカが地面に倒れる前に、ちょうど先頭の陰に隠れていて目潰しから逃れていた最後尾の1頭に、左足を突き出した突撃を仕掛ける。
「たあっ!! ……おっと、当たりどころが良すぎたね」
その一撃はシカの首の真ん中に直撃して、首はそこからボキっと折れてしまった。
ドサッと崩れ落ちたシカは、まだ息はあるが……地面に倒れこんで起きれないでいる。
このまま何も出来ないだろうし、可哀そうではあるが、コイツは一先ず放置でいいだろう。
「それよりも……! って、1頭逃げちゃったか?」
残りの3頭をさっさと仕留めようと反転したが、今の短い時間で1頭が逃げてしまっていた。
さらに、もう2頭も逃げようと考えているのか、少しずつ後ずさりしている。
「……なるほど。そういうのもアリだね」
シカの様子を見た俺はそう呟くと、尻尾をデカいサイズで発動した。
半端に距離を保ちながらつけてこられたりしたら面倒だが、この様子ならもう俺に絡んでくることはないだろう。
追っ払ってしまえば、俺は手間が省けるし、コイツ等も生き残れる。
win-winだな!
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