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昨晩はグッスリ睡眠をとって、今朝は朝食もゆっくりとって……その甲斐あってコンディションはばっちりだ。
そして、着替えを済ませて昨晩用意した荷物もリュックに入れた。
外は相変わらずの大雨だが、これで準備も完了だ。
「よし……こんなもんかな? どう?」
窓の手前に浮いている俺は、一度振り向いて部屋の中にいるセリアーナを見ると、同じくこちらを見ていた彼女と目が合った。
最近の恰好に比べると今日は荷物が多めだし、腕を振り回すのに邪魔になっていないかの確認を頼むと、セリアーナは「まあ、いいでしょう」と言っているような表情をしている。
どうやら、これで問題無しのようだな!
「無理はしないように程々にしなさい」
「はーい。それじゃー、行って来るよ!」
そう言うと、俺は窓から一気に飛び立った。
◇
屋敷から飛び立った俺は、すぐに北に向かって移動を開始したんだが、その際に街の様子も少し確認した。
アレクにオーギュスト。
ジグハルトが抜けて、その穴埋めに一の森の開拓拠点に向かった冒険者たち。
街からそれだけの戦力がいなくなっているし、街の防衛体制も何か変更しているかもしれない。
一の森の魔物は大人しくしていても、これから俺たちが北の森で行う戦闘次第では、先日のように領都にも影響があるかもしれないからな。
相変わらず街の通りに人の姿は見えないが、屋内にいても恩恵品やヘビたちの目で大体は把握出来るし、今の街の様子も見ておいて、それを向こうの連中にも伝えておいた方がいいだろう。
ってことで、【妖精の瞳】とヘビの目を発動して、北門の上空から領都とその周辺を軽く眺めることにした。
「さてさて……? あぁ、なるほどー……?」
じっと北から順に街の様子を探っていると、中央広場と北街の境辺りに一人見覚えのある気配が見えた。
普段は屋敷か騎士団本部に、最近だと冒険者ギルドにもいるテレサだが、彼女が今日は商業ギルドの方に移っているようだ。
今度はテレサが、商業ギルドのお抱えの冒険者を持って行った分の穴埋めをしているのかな?
ただ、セリアーナ側の人間であるテレサがあそこにいるってのは、商人たちにとってはプレッシャーなんじゃないかな……?
まぁ……やましいことが無ければなんともないわけだし、きっと大丈夫だろう。
……多分。
「んで……っと」
気を取り直して、他の箇所に目を向けることにした。
街の各地に配置されている兵には大きな変化は無いが、気持ち北と東の施設に偏っている気はするかな?
一の森はもちろんだが、それだけ北の森の件も警戒しているってことか。
領都の兵もそろそろ余裕がないし、それを伝えて、森の魔物がこっちに流れないように気を付けるように伝えておこう。
「しっかり今日で片付けないとね……。とりあえず街の様子見はこんなもんでいいか。そろそろ出発しよう」
俺は「よし……」と気合いを入れると、北に向かって【浮き玉】を発進させた。
◇
「おっと……見えてきたね」
普段よりも速度を上げて飛んでいたし、1時間もかからずに北の拠点が見えてきた。
もうすでに調査隊は森に向けて出発しているようで、拠点内に残っている目立った戦力は、拠点内の調査を任されている1番隊の兵だけだ。
とは言え、領都からココに来るまで変わった様子はなかったし、とりあえずこっちのことは彼等に任せておいていいだろう。
念のため拠点周囲を一回りしてから、俺は拠点の西に広がる森に向かって飛んで行く。
森の上空にやって来た俺は、すぐに高度を下げて森の中へ下りていった
下りてすぐに辺りを探るが、魔物の気配は無いし……静かなもんだ。
「今のところ……戦闘の気配は無いかな? 上に出たらもっとわかると思うけど、それは合流してからの方がいいか」
戦闘が起きていないってことは、まだ皆こちら側にいるってことだ。
急げばすぐに追いつけるな。
「よし!」
俺は不意打ちに備えて各恩恵品を発動すると、合流するために西へ移動を開始した。
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森の中を西に向かって飛ぶことしばし。
先日戦ったようなカエルもどきはもちろん、他の魔物とも出くわさず、ストレートに川のすぐ手前まで辿り着いた。
こちら側にはいなかったが、反対岸にはチラホラと魔物の気配が見えるし、アレクたちが森に入って来ても森の状況に変化はないみたいだな。
「……そう言えば川まで来たけど、アレクたちがいないな」
拠点の少し手前から森に入ったし、調査隊のメンバーがいるのはもう少し上流の方かな?
この川は、森の上空にいた時に木の隙間から見えてはいたけれど、こうやって直接自分の目で見るのはこれが初めてだ。
「曲がりくねってるわけじゃないし、思ったよりも真っ直ぐだけど……川べりまで木の枝が延びてるんだね。水中から上がってくるようなのが相手だと、ちょっと戦いづらそうだね。あんまり皆が川べりに近付くのは止めさせた方がいいか。……でも、オレがそっちを引き受けるのもな」
川の周辺を眺めながら、どう動いたらいいかを考えてみたが……これはちょっと難しいな。
普通に視界が悪いとかそれくらいなら大したことないし、別に川の上に移動することも問題無いんだが、今はカエルもどきがいるからな。
【妖精の瞳】やヘビたちの索敵でも捉えられない可能性がある上に、【風の衣】も破りかねない。
俺が呑気に水上に出てしまうのは危険すぎる。
「とりあえず、合流してそのことを伝えるか」
俺は少し川から距離をとると、上流に向かって進んで行った。
◇
川沿いに上流に移動していると、200メートルほど先の少し開けた場所で、調査隊を見つけることが出来た。
先程の場所から意外と近かったが、雨を避けるために木陰に入っていたから見つけられなかったみたいだ。
今は彼等はその場で、オーギュストの指示の下、黙々と装備の点検等を行っている。
それを終えてから、上流に向かいながらこの辺りの捜索をするんだろうな。
20人近い男たちが、木の陰でしゃがみ込みながら黙々と作業をしている光景は、知っている相手じゃなかったらちょっとしたホラーだ。
ともあれ……。
「セラか。早かったな」
声をかけるために近付いた俺に気付いたアレクが、点検する手を止めて顔を上げた。
「おはよー。みんな一緒みたいだね」
アレクに返事をしながら辺りを見るが、ジグハルトを始め、2番隊の兵も冒険者も勢揃いだ。
大まかに三つのグループに分かれているあたり、アレクとジグハルトとオーギュストがそれぞれを率いるんだろう。
予想通りだな。
俺は背負ってきたリュックを下ろすと、中から袋を取り出した。
「はい、コレ」
「これは……?」
アレクは不思議そうな顔をして受け取っているが、点検を切り上げてこちらにやって来たジグハルトは「ああ」と頷いている。
「領都を発つ前にフィオに頼んでいた物だな。上手いこと出来たか」
「試してはいないみたいだけどね。一応ジグさんの要望通りの物は出来たっぽいよ。……皆には説明してないの?」
てっきり昨日のうちに使い方とかを説明していたと思ったんだが……完成するかわからなかったからかな?
首を傾げていると、ジグハルトは苦笑しながら肩を竦めてアレクから袋を一つ受け取った。
そして、袋の口を開けて中身を確かめている。
「ジグさん、使い方が記された紙が入ってるよ」
「おお……助かるぜ。オーギュスト、来てくれ!」
ジグハルトはその言葉に上機嫌で返事をすると、少し離れた場所にいるオーギュストを呼び寄せた。
「おはよう、セラ副長。ジグハルト、それは……魔道具だな? 何かあるのか?」
ジグハルトは、「どうした」と訊ねるオーギュストに、「ああ」と短く応えながらも使用法を記された紙を取り出して読んでいたが、読み終えたのか顔を上げると。
「……よし。オーギュスト、皆を集めてくれ!」
と、指示を出した。
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