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 二人が持って来た箱から取り出した中身をテーブルに並べていくが、箱の数や大きさに比べると大分少なく感じる。

 その代わり緩衝材がびっしりだな。


 先程フィオーラが言っていたように、運搬用の専用容器を用意出来なかったからだろう。

 それだけ急いで仕上げたってことなんだろうけれど……。


「各種ポーションと……投擲用の魔道具かしら? 特に変わった物ではないわね。貴女が特別に用意した物だし、性能がいいのはわかるけれど、セラに持たせるためにわざわざ持って来たの?」


 セリアーナはそう言うと、俺を見る。


 先行した隊と増援の隊と、どちらも量は多くないが物資はちゃんと持っていたし、調査で使うようなこともなかったから、アレクたち三人がたとえ手ぶらでいったとしても、在庫はしっかり足りているはずだ。


 何が起きるかわからないし、念のため俺が別に持って行くってのは別に構わないんだが、それは俺の普段の役割の一つでもある。


 わざわざこの二人が……となるとな。


 俺もセリアーナの顔を見ながら首を傾げていると、フィオーラが苦笑しながら口を開いた。


「それもあるけれど、私に用意して欲しい物があると、ジグが伝言を持って来たの」


「ジグさんが?」


「ええ。ソレを」


 フィオーラは、テーブルの上に並べられた道具の中から、ピンポン玉ほどのサイズの投擲用の道具を指した。


「燃焼玉とは違うね……なんだっけ? 見覚えがあるような無いような……狼煙?」


「形に手を加えているからわからなくても仕方がないわね。狼煙用魔道具を少し改良したのよ」


「ほぅ……?」


「ソレを特別に用意したの?」


 俺とセリアーナはその魔道具を手に取るが、別に普通の投擲用の魔道具にしか見えないし、どこを改良したんだろうか?

 セリアーナと二人でフィオーラを見ると、「フッ」と笑みを浮かべているし、どうやら自信作らしいな。


「セラ、貴女が戦ったカエルもどきだけれど、死体を焼いたら魔物を引き寄せる効果がある煙を出したでしょう? 貴女が持って帰って来た灰から、それほど強力ではないけれど、近い効果を作り出せたの」


「コレを使って魔物を呼び寄せるの?」


 森で魔物を引き寄せる効果がある道具を使うのは大分危険だとは思うが、ジグハルトがいるしな。

 魔物を集めたところで、纏めてドカンと吹っ飛ばすんだろうか?


 だが、フィオーラは俺を見て苦笑している。


「毒性は抜いているし流石にそこまで強力ではないわ。ただ、その場に魔物を止める効果は期待出来るわ。ジグに頼まれたのはそれね。北の森でどのような編成を組むのかはわからないけれど、隊員たちに持たせてちょうだい。そして、もし目当ての魔物を発見したら逃がさないようにコレを使うの」


「狼煙の効果もあるのなら、上からセラが見つけることが出来るわね」


 フィオーラの言葉に、セリアーナが「なるほど」と頷いた。


「恐らく、オーギュスト団長とアレクシオ隊長とジグハルト殿。この三者で別れて捜索をすることになるでしょう。そして、姫は上空から全体のサポートですね。ですが、もし姫が先に発見した際にも、コレを使えばその場に止めて他の隊員を呼ぶ時間を稼げます」


 さらに、横からテレサも補足してくる。


「そっか……オレが先に発見する場合もあるね。何が相手かはわからないけど、ちょっとデカい魔物が相手だとオレ一人じゃ抑えられないからね……」


「使用法を記した紙も用意しているから、通常の狼煙も一緒にしていくつかの袋に分けておきましょう。ポーション類は奥に仕舞ってもいいけれど、貴女が必要だと思うのを持って行けばいいわ。どの道向こうでは手持ちの分しか使えないでしょう?」


「うん。一応まだ在庫もあるしね。とりあえず何本かずつ貰ってくよ。ありがとうね」


 俺はフィオーラに礼を言うと、袋に詰める作業を手伝うことにした。


 ◇


 作業を終えた俺たちはお茶を飲んで一息ついていたが、もういい時間だとテレサたちは席を立ち。


「それでは……姫は明日も早いですし、我々はこれで失礼します」


「何かあればジグたちに押し付けてしまえばどうとでもなるから、無理をしたら駄目よ」


 そう言って、すぐに部屋を出て行った。


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 俺とセリアーナは、お茶の片づけをしながら先程部屋を出て行った二人のことを話していた。


「なんか慌ただしかったね」


 今日出発が決定したジグハルトの要請にこたえて、すぐに改良した魔道具を準備をしてきたフィオーラ。

 そして、それを前提とした隊の運用や、俺がやるべき動き方を考えてくれたテレサ。


 部屋にやって来るのが夜になったことも含めて、彼女たちも大変だったろう。


 食器を拭きながらそう呟くと、その食器を受け取ったセリアーナが「そうね」と頷いた。


「まあ……アレクとオーギュストに加えてジグハルトまで出るわけだし、リアーナにとって一大事なのは確かよね。フィオーラ個人でというよりは、魔導研究所の所長としての行動よね」


「……それは確かに」


 テレサは俺の副官としてかな?


「例年だと、この時期はあの二人はここまで忙しくないのに、今年は大変ね。それはお前もかしら?」


「オレは……そこまでじゃないかな? 右足が使えないし、慣れない役割とか色々面倒ではあるけどね」


「明日は……少し忙しいかもしれないわね」


「そうだねー……でも、アレクたちもいるしね。さっきフィオさんも言ってたけど、面倒なことは三人に任せるよ」


 今回の件で何が一番大変かって言うと、他の隊員の行動に合わせないといけない点なんだ。


 今回はそれなりに上手くやれているとは思っているけれど、やっぱり俺は一人で自由に動き回る方が向いてそうなんだよな。


 ただ、それを隊を率いる身でやるとして、その場合俺の動きに合わせられる者がどれだけいるかが問題なんだ。


 俺が上空を飛ぶことで狩場が荒れても、アレクたちならどうとでも対処出来るだろうけれど、それ以外はどうにもな……。


 まぁ……明日はその任せられる三人が一緒だし、どうとでもなるだろう。

 明日でしっかりケリを付けられるように頑張らないとな。


 そう気合いを入れていると、食器を棚に戻し終えたセリアーナがこちらに視線を一度向けたかと思うと、さらに奥に向かった。


「これで終わりね。部屋の片づけは明日使用人たちに任せるとして……必要な物はもういいの?」


「む?」


 俺も振り向いてそちらを見ると、部屋の壁側にフィオーラたちが持って来た箱が積まれている。


 ポーション各種に狼煙や燃焼玉等が色々入っていたが、差し当たって明日必要になりそうな物は確保しているし、このままで十分だろう。


 俺は「必要ない」と言おうと思ったが、向きを戻す際に壁にかけている【赤の剣】が目に入った。


「……魔道具は必要無いけど、【赤の剣】はどうしよう? 団長とかジグさんは必要無いけど、アレクはあった方がいい気がするけど……?」


【赤の盾】があるから守りに関して問題無いが、攻撃に関してはアレクは他の二人に比べたらちょっと劣ってしまう。

 役割と言ったらそうなんだが、それぞれ隊を分けることになるし、アレクも攻撃手段があった方がいいんじゃないかな?


「……いえ、どうせ合流することになるんでしょう? それなら役割を分けておいた方がいいわ。だからテレサも何も言わなかったんでしょう。もちろん、お前が持って行くのは自由だけれど……どうする?」


 街の戦力をごっそり持って行っちゃってるし、まず無いとは思うけれど、万が一何かあった時のことを考えたら、こっちに残しておいた方がいいだろう。


「ふむ……それもそうだね。それじゃー、屋敷に置いたままでいいか」


「それがいいわね。さあ、もう片付けは終わったし、お前は明日に備えて寝てしまいなさい」


 セリアーナは俺の言葉に頷くと、寝室を指してそう言った。


 時計を見てみると、もう10時を回っている。


 まだそんな時間じゃないと思っていたんだが……テレサたちとの話もあったしな。

 思っていたよりも時間を使っていたんだろう。


「そうだね……それじゃーお先に寝させて貰うね。おやすみ」


 今日は休暇のつもりだったが、何だかんだで頭を使ったしな。

 ぐっすり眠れるだろう。


 俺はセリアーナに返事をすると、寝室に向かうことにした。

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