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領主の屋敷にあるリーゼルの執務室。
そこにはリーゼルを始め、オーギュスト、アレク、リックと、騎士団の幹部陣であるいつものメンバーに加えて、今夜は冒険者ギルドの支部長であるカーンが集まって、険しい表情で話をしている。
その内容は、セラが持ち帰ってきた情報とそれへの対応についてだ。
領地の北部で行方が知れなくなった冒険者については、騎士団と冒険者ギルドには現時点で他の拠点との情報伝達手段が無いため、雨季が明けるのを待つしかない。
だが。
「セラ副長は動かせませんか?」
と、カーンが訊ねれば。
「無理だな。明日は彼女は屋敷で休息をとる予定だ。明後日以降も現地で隊を指揮してもらう必要がある。冒険者の安否を気にする気持ちも理解出来なくはないが、もう生きていないのはわかっているだろう? そんなことのために、彼女を動かすことは出来ない。カーン、この件は雨季が明けてからだ」
オーギュストがそう返す。
「……はっ」
「うむ。それでは、次だが……」
オーギュストはそう言ってリーゼルに視線を送ると、それを受けたリーゼルはゆっくり頷き、皆の顔を見て口を開いた。
「一日休みを置いて、明後日調査隊は川の周囲の調査に着手するんだね?」
「ええ。報告によりますと、領都近くとは違い、北の拠点周辺は森に魔物がいましたが、魔物が件の川の西岸に移動していたとのことです。東側でカエルもどきと遭遇して討伐しましたが、それも川から這い出て来たものらしく、東側には魔物の気配は無いようです。森の移動で消耗することはないでしょう」
「それは何よりだ。それで……君とアレクの二人もそれに参加したいと言うことだね?」
リーゼルの言葉に、オーギュストとアレクが頷く。
「断言は出来ませんが、川に何かがいるのは間違いないでしょう。セラ副長もそう考えているようで、今日は普段よりも森の状況を詳しく見ていました。明日を休息日にしたのは偶然でしょうが、万全の状態で挑めます。ですが……」
オーギュストはそこで言葉を止めると、アレクが後を継いだ。
「もし、先日の北の森で戦ったレベルの魔物が潜んでいるようなら、調査隊のメンバーでは討伐するのは難しいでしょう。セラの恩恵品なら通じるかもしれませんが、そのためにはアイツを守る盾が必要になります。ウチの兵も冒険者も、必要と感じたならそう動くでしょうが……役割を果たせるかどうかと言うと、無理でしょう」
アレクの言葉に、オーギュストとリックが頷く。
「派遣した冒険者連中も魔境での狩りが可能なほどで、腕は悪くありませんし、数人ですが魔法を使える者もいますが、恩恵品持ちはいません。一定以上のレベルを超えた強力な魔物が相手の場合だと……。もちろん、依頼を受けた以上は全力を尽くすでしょうが、結果は見えています」
「一番いいのはジグハルトを送ることですが、彼は東の拠点にいます。それを動かすわけにはいかないでしょう。隊の指揮。戦闘。セラ副長のサポート……それらを考慮すると、私とアレクシオ隊長が向かうのが最も効率がいいはずです」
念を押すかのようなオーギュストの言葉に、リーゼルは「やれやれ」といった様子で苦笑した。
「あまり君たちも領都から動かしたくはないんだが、いざとなれば君たちが出向くと言っていたし……仕方がないね」
「ありがとうございます。我々は明日早朝に出発します。随伴の兵は必要ありません。我々が不在の間の騎士団は、リック隊長に任せます。構わないな?」
「はっ。お任せください」
「うん。それじゃあ……二人は明日の準備があるだろう? これでお開きにしようか」
皆はリーゼルの言葉に揃って頷くと、席を立ちあがった。
◇
「セラ」
「む? はいはい」
夕食後、セリアーナの部屋でゴロゴロしていると、セリアーナがドアを指さしながら俺の名を呼んだ。
「誰だろう?」
リーゼルがアレクたちを部屋に呼んでいたし、そこで何かが決まったのかな?
俺は首を傾げながら【浮き玉】に乗ると、ドアに向かって飛んで行った。
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「……む?」
俺はパチッと目を覚まして、ベッドの上に体を起こした。
ぐっすり眠っただけあって、実にスッキリとした目覚めだ。
ここ最近、起きてすぐに出発っていうスケジュールだったから、目が覚めるまで寝るってことをしていなかったもんな。
やはり、人間休みは大事だ。
「ふむ」
寝室には俺一人。
セリアーナはもう起きて向こうに行っているんだろう。
流石にまだ昼にはなっていないだろうが、今は何時だろうな?
「よいしょ」
俺はベッドから降りて【浮き玉】に乗ると、隣室に行くためにドアに向かった。
◇
「おはよー」
「あら? 起きたの?」
寝室から出てきた俺を見て、ソファーに座ったセリアーナが驚いたような顔をしている。
セリアーナも加護を発動しているだろうし、俺が寝室でゴソゴソ動いていたことに気付いていてもおかしくないんだが、珍しいな?
その表情と部屋にセリアーナしかいないことに、どうかしたのかな……と部屋の中に視線を巡らせていると、壁の時計が目に入った。
「…………あれ? まだこんな時間?」
時刻はまだ朝の10時を回ったばかりだ。
部屋にセリアーナだけなのはちょっとおかしいと思ったが、この時間ならエレナもテレサもフィオーラも、まだ部屋にいなくてもおかしくないか。
それにしても、まだ10時か。
そりゃー、セリアーナも驚いたような顔をするよな。
「お前のことだから昼まで起きてこないと思っていたけれど、早かったわね。休めたの?」
「ぐっすり眠れたよ。オレも気分的には昼近くまで寝たつもりだったんだけど、目が覚めちゃったよ。皆は今日は部屋に来ないの?」
「テレサとフィオーラは一度部屋に来たわ。いつも通り、仕事が片付いたらまた部屋に来るそうよ。エレナは自宅ね。アレクが今朝から家を空けているでしょう?」
「あぁ……そうだね」
昨晩部屋で休んでいた時にリーゼルからの使いがやって来たんだが、アレクとオーギュストを、今朝早くに北の拠点に出発させることが決まったそうだ。
明日は調査隊は川の調査に取り掛かるし、そうなると川を縄張りにしている魔物はもちろん、何故か向こう岸に移動していた魔物たちにも接近することになる。
上から見ていた限り、数は多いものの種族はバラバラだし、楽勝とまではいかなくても、そこまで苦戦するようなことはないとは思う。
ただ、それはあくまで俺たちが把握出来ている情報内の範囲でだ。
想定外の存在がいたら、ちょっとどうなるかはわからない。
調査隊のメンバーは腕はいいけれど、皆結構普通というかまともというか……そんな感じだからな。
もし、強力な魔物が現れようものなら、被害なしで……ってのは難しいかもしれない。
そう考えたら、アレクたちが参加してくれるのは実に助かる。
以前そんな感じのことを聞いてはいたが、報告して即日決めるだなんて、リーゼルたちは俺が思っているよりも北の森の件を重要視しているのかもな。
セリアーナの前で浮きながら「ふむふむ」と頷いていると。
「まあ、気になるようなら、テレサが部屋に来た時に聞いてみなさい。それよりも、朝食の用意をさせるからお前は顔を洗って来なさい」
セリアーナが、浴室を指してそう言ってきた。
俺は彼女に返事をして、浴室に向かった。
◇
軽めの朝食を済ませた俺は、セリアーナの膝を枕にゴロゴロしながら本を読んでいる。
もちろん、セリアーナも一緒だ。
「……ねぇ、セリア様さ」
「なに?」
セリアーナは本を閉じることなく聞き返してきた。
「セリア様は今日は予定は無いの?」
アレクが領都を急に空けることになったからってのもあるが、エレナは来客の予定が入っている。
ここ最近は俺は昼間は屋敷にいないし、帰って来たら疲れているから、セリアーナのスケジュールを把握出来ていないんだが、この時期は領都内の奥様方と面会をしていたはずだ。
俺が休みにしたから、こっちの予定も変えさせちゃったのかな?
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