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人の足らしきものを見つけた班と別れた俺は、もう一つの班と合流していた。
まずは、俺が南側の調査で得た情報を。
続いて、もう一つの班の情報を伝えてから、俺たちはこちら側を見て回ることにした。
俺が合流した時点では、まだこちら側は何も見つかっていなかったんだが……。
「こっちは何もないみたいだねー……」
30分も探していないし、ただ単に調べ足りないだけなのかもしれないが、特に目立った何かを見つけることは出来なかった。
イノシシか何かの魔物が掘り返したような跡が地面にあったり、これまた何かの魔物が角か爪でも研いだような跡が木の幹にあるのを見つけたりはしたんだが、これ自体は割と普通に森で見かける光景だし、異変ってわけじゃない。
もちろん、全く成果無しってわけではないんだが……。
「一応見つけはしたんですが……アレは止めておいた方がいいですよね?」
「そうだね。オレも向こうでカエルもどきの跡を辿っていた時に断念したんだよね」
側にいる隊員たちと話しながら、地面に出来た太い溝を見る。
その溝のすぐ側に枝が折れた木が生えているし、木を伝って移動していたデカい生物が、ここから地上に降りてきたようだ。
んで、そのまま川が流れている西に向かって、地上を移動したんだろう。
「コレって多分ヘビだよね?」
「隊長たちが森で戦った種と同じかはわかりませんが、恐らくは」
「ふぬ……。森の中にヘビが1匹2匹いるからって別にどうってことはないんだろうけど……。まぁ、いいか。とりあえず見つけたものって言ったらこれくらいだよね?」
「ええ。目立つ物といえばこれくらいですね」
そう言うと、彼は他の隊員を呼び寄せた。
「この周辺をこれ以上調べても目ぼしい物は見つけられないでしょうし、そろそろ合流しようと思います。よろしいですか?」
「そうだね。いくらこっちに魔物がいないからって、一ヵ所に居続けるのも危ないしね。行こう」
川の手前まで調べたし調査を切り上げるには丁度いいだろう。
さて……こっちはともかく、向こうはあれからまた何か新しい物を見つけたかな?
人の足の次は……何だろうな?
俺はそんなことを考えながら、皆と移動を開始した。
◇
森で別班と合流した後は、俺たちは拠点の宿舎へと戻ってきた。
普段だと森の調査を終えた隊員たちは風呂や食事をとって休憩に入り、俺はここで拠点を出るんだが、今日はまだ宿舎の二階に残っていた。
「セラ副長、お待たせして申し訳ありません」
二階に姿を見せるなりそう口にしたのは1番隊の兵たちで、調査から戻ってきた俺たちが一つ調べ物を依頼したんだ。
ちなみに、依頼した調べ物は森で見つけた足の主についてだ。
結局あのブーツと骨以外は何も見つからなかったが、少なくともあんな森の真ん中で足一本は失っているわけで、たとえ治療が出来る備えがあったとしても、ただでは済まないだろう。
そもそも俺のように空を飛べるわけじゃないんだし、あそこに行くまでにどこかに立ち寄っているはずだ。
ってことで、最寄りの拠点であるここで、大怪我を負ったり行方不明になった冒険者がいないかの聞き取りをしてもらった。
探偵みたいなことを急に頼んで申し訳ないとは思うが、まぁ……似たような仕事をしてもらっているしな!
「はいはい。ご苦労様。何かわかったかな?」
「はっ」
俺が報告を促すと、彼等はすぐに話し始めた。
◇
「……誰もいないの?」
「はっ。雨季の間は我々を除けば拠点に出入りした者はおりませんし、あのブーツの傷み具合を考えたら、精々数週間でしょう? その間に森に入った者で行方が分からない者や大怪我をした者はいません。街道を利用する者の行方まではわかりませんが……そちらは門で記録をしていますし、他の拠点や街等で調べたらわかるかもしれません」
「そこまではしなくていいよ。でも、ココを経由しないで森へねぇ……」
「怪しいといえば怪しいですね。ですが……」
彼は困ったような表情で口を閉ざした。
「ここで今これ以上調べるのは難しいよね」
この拠点に立ち寄っていないってことは、多分森で死んでいるのかな?
ココを利用していないってだけでも十分怪しいし、それがわかっただけでも十分だ。
俺はそう言って、彼らをねぎらった。
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「ふーむむむ……こっちの拠点でも情報は無かったか。もっとも……何となくそんな気はしてたけどね」
北の拠点で今日の仕事を終えた俺は、領都に戻る前に、念のためもう一つ先の拠点に飛んだ。
先日顔を合わせたばかりの責任者たちに事情を話して、こちらでの冒険者の情報を訊ねたんだが、北の拠点と同様に行方不明になった冒険者はいなかった。
門から出た者を照らし合わせていけば割り出せるだろうが……大体のことは予測出来るし、そこまではやらなくていいだろう。
こちらまで来たのに情報を手に入れる事は出来なかったが、領都で雨季の間の臨時編成の隊について、内々ではあるが話が進んでいるってことを伝えたら随分と喜んでいたし、全くの無駄足ってわけじゃないし、まぁ……いいだろう。
「それにしても……北の拠点の周りだけじゃなくて、結構広範囲に渡って魔物がいなくなってるね。上から見ても異変って言えるようなものは見つからないけど……」
森の上空を飛んで下手に魔物を刺激したくなかったから、基本的にこれまでの移動は街道沿いに限定していたんだが、これなら大丈夫だろう。
俺は街道から外れて、北の森に進路を向けた。
◇
北の森上空に移動してからしばし。
相変わらず地上には何の生物の気配が無かったんだが。
「……お? アレは……ウサギか何かかな? ここは、領都と北の拠点の中間くらいかな? この辺には生物も普通にいるみたいだね」
大分南にやって来たところで、チラホラと小動物らしき気配が見えてきた。
魔物がいないのは、多分まだこちらに戻って来ていないからだろう。
「川の向こうには普通にいるんだけどね……。やっぱりちゃんと調べておいた方がいいね」
川の周囲にはただでさえ魔物が縄張りを張っていたのに、理由はわからないが、こちら側にいた魔物のほとんどが向こう側に移動してしまっている。
迂闊に近づくのは危険だが、とりあえず調べてみないことには何もわからないしな。
皆には明日は休みにするって伝えているし、俺はもちろん彼等もしっかり休むだろう。
明後日にはベストなコンディションで、調査に挑めるはずだ。
「魔物こそいないけれど、ここら辺からはもう普段通りって感じだね。街道に戻るか」
魔物は戻って来ていないようだし、このままでもいい気もするが、念のためだ。
俺は森の上空から再び街道へと進路をとった。
◇
上空からの森の視察や街道の視察を、帰路のついでに行っていたが、今日は何も起きていなかった。
街道は相変わらず崩れたままだが、広がったりはしていないし、通行人がいるわけでもない。
雨が上がったらすぐに兵を送る必要はあるものの、今のところ問題といえるようなことは起きていない。
街道に魔物が出てきたりもしていないし、概ね領都の外は平穏と言っていいだろう。
ってことで、俺は平穏ではなかった北の森の情報を、まずは冒険者ギルドに持って行くことにした。
「お疲れ様ー」
ガラ空きの冒険者ギルドの中に入ると、俺は真っ直ぐ窓口の裏に入り、仕事中の職員たちに向かって声をかけた。
「ああ、お疲れ様です。セラ副長。いつもの報告ですか?」
「そうそう。支部長は?」
「カーン支部長は奥にいます。案内しますよ」
「いや、必要ないよ。そのまま続けてて」
俺は立ち上がってこちらにやって来ようとする職員を手で制すると、カーンの部屋に繋がる奥の通路に向かって進んで行った。
◇
さて、カーンの部屋にやって来た俺は、まずは今日の報告を彼に行った。
北の拠点周辺の魔物が、川の向こうに移動していたこと。
どうやら川から這い上がって来たらしいカエルもどきが、北の森をうろついていたこと。
そして。
「冒険者らしき人間の足?」
あのブーツと骨の件だ。
「そうそう。まぁ、正確にはブーツと骨なんだけどね。一応そばの拠点と一つ先の拠点で聞き込みはしたけど、行方不明や大怪我をした冒険者はいなかったね」
「……まだ比較的新しいか。なるほどな」
カーンはそう言うと、険しい表情で黙り込んでしまった。
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