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「結局副長が倒しちまったな。それで……どうする?」
「輪切りになっているし、それ以外にも多少の損傷はありますが、運べなくはないですね」
「そうだね……」
無事カエルもどきを始末した俺たちは、死体の前に集まってその処遇について相談をしていた。
これがシカとかオオカミだとかの死体なら、たった2頭分だし放置していてもいいんだが、コイツはな。
近くに拠点があるのに、アンデッドにでもなられたら面倒なことこの上ない。
だから、捨てていくってのは無しだ。
「……コイツは毒があるしね。綺麗に倒せたし勿体ないけど、拠点に持って帰るのは止めておこうか」
領都のようにしっかりした設備があって、専門家も多数いるってなら話は別だが、あの拠点だとちょっと処理出来そうにないし、ここで処分しておいた方がいいだろう。
だが、そうなると問題も出てくる。
「ってことは、ここで処分か。まあ……仕方ないな。だが、それならどうやって処分する? ……焼くか?」
隊員の一人がそう言うが、彼も自分で言ってわかっているんだろう。
声にためらいが見える。
「ぬーん……」
もちろんそれは俺も同じだ。
燃やすにしても、毒の煙がこの森の中でどう作用するかなんだよな。
迂闊に燃やして辺りに毒の煙が撒かれてしまったら、俺は平気だが他の者は危ないかもしれないし、近くには見当たらないが、森の生き物もどうなるか。
「セラ隊長、我々の魔法で煙を吹き飛ばしましょうか? 燃え尽きるまでどれだけかかるかはわかりませんが、交代で行えば魔力ももつはずです」
二つの班に分けていた調査隊だが、結局合流していた。
今は両方の冒険者が揃っているし、魔法を使える者も複数いる。
その案も悪くはないんだが……。
「他に魔物がいるかもしれないし、ここに留まっていたら戦闘になるかもしれないでしょ? それは止めた方がいいね」
俺の言葉に、皆は「確かに」と黙ってしまった。
魔物との戦闘は元々想定していたし、それに対しての対処も考えてはいたんだが、ここでカエルもどきが出てくるってのはな……。
もしかしたらいるかも……とは宿舎でも話していたんだが、正直なところ本当に現れてびっくりした。
ともあれ、俺は先程戦っていた方の班に顔を向けた。
「カエルもどきとの戦闘はどうだった? 結構余裕みたいだったけど」
「ああ。事前に話は聞いていたからな。まあ……聞いていたよりは弱く感じたが、戦う分には問題無いな」
戦闘自体は問題無いってことだな。
「それじゃー、こっちの始末はオレが引き受けるから、皆は北側を調べてよ。終わったら合流するから」
「それは構わないが……もし戦闘が起きた場合はどうするんだ? 火の始末は……ああ、矢を使うのか」
「そうそう。ちゃんと南側に撃つから大丈夫だよ」
「了解だ。これだけ人数がいりゃ、調査も一気に進められるだろう」
今の会話は皆も聞こえていたようで、すぐに「行くぞ!」と北に向かって行った。
その背中が見えなくなったところで俺はポーチから燃焼玉を取り出すと、カエルもどきの死体にそれぞれポイポイと投げつけた。
すぐに火が点き燃え上がると、煙が立ち始めた。
「とりあえず周りに燃え移りそうな気配はないし……オレは上から周囲の警戒だな」
俺は小さく頷くと、【浮き玉】を上昇させた。
◇
「皆は……いるね。魔物もいないし調査は順調なのかな?」
俺は森の上から北側に移動した皆の様子を探っていたが、どうやらやはりこちら側に魔物はいないようで、調査に邪魔が入るようなことはなく、順調に範囲を広げていっていた。
北側と同じく俺の周囲も、先程のカエルもどきは何だったんだってくらい魔物はいない。
「火が消えたらオレはこっち側を中心に、カエルもどきがいないか探ってみようかな?」
痕跡探しとかの調査は出来ないが、カエルもどきが潜んでいた穴を探すことくらいはオレにも出来るだろう。
「おっと? そろそろ消えそうだね」
下に視線を向けると、両方ともそろそろ燃え尽きそうになっている。
魔物が寄って来ることもなかったし、警戒し過ぎだったかもな。
俺は「ふぅ」と小さく息を吐くと、地上に降りることにした。
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カエルもどきの死体が燃え尽きたことを確認した俺は、折角だからとその灰を採取しておいた。
そして、尻尾を発動すると灰の山を薙ぎ払う。
それを二度三度と繰り返すと、山は崩れて雨水は流れていった。
とりあえず、これで始末は完了だな。
ここを離れよう……と、【浮き玉】を浮かび上がらせようとしたが、ふとカエルもどきの死体が転がっていた場所の土が目に入った。
「そういや、燃やす前に血も採ってもらっておけばよかったな……」
俺一人の時だと近付くのは危険だが、折角アレだけの兵や冒険者がいたんだし、彼等に任せることも出来たよな。
ちょっと考えが足りなかったか。
反省だ。
「また出てこられても困るけど、次出てきたらお願いしようかな」
そう呟きながら地面から離れると、皆がいるのと反対側に【浮き玉】の進路を向けた。
◇
カエルもどきとの戦闘があった場所を中心に、俺は南側を調査していた。
単に南側と言っても、俺一人で見るには大分範囲は広いんだが、ちゃんと調査の目当てはつけている。
カエルもどきがどこからやって来たのかはわからないが、俺のように宙に浮いてってことはないし、地面を這って移動してきたはずだ。
ってことで、その跡は既に見つけていて、【妖精の瞳】やヘビの目頼りってだけではなくて、俺自身の目も使いながら追っていた。
だが、順調に跡を辿ってはいたんだが、流石に時間が経ち過ぎたのか土の上の跡は雨で流れてしまっている。
「……この辺でもう地面に残ってる跡は消えちゃってるか。まぁ、茂みの潰れ具合とかでまだまだ辿ることは出来るけど、これ以上はどうしようかね。西側に続いているけど……」
流石に北を見ている隊員たちと距離が離れすぎてしまうし、何より川に近づき過ぎている。
少なくともここから見える限りでは魔物はいないし、もうちょっと近づけなくもないが、ここまでかな?
俺は「よし」と一つ頷くと、一気に森の上まで上昇した。
「こっち側には何もいなくて、川の向こう岸にはチラホラと……さっき見た時と様子は変わってないね。カエルもどきは川にいたのかな……?」
川から這い出て来て、んで、たまたま俺たちの気配に気付いて襲って来た……そんなところかな?
「ちょっと偶然が過ぎる気もするけど、向こうの魔物は数も強さも、どっちもそこそこあるしね。アレがまだ若い個体で、それから逃げるためにこっち側に来たとか、いろいろ理由は考えられるか。あんまり考えすぎても仕方がないし、もう少し森を見たら合流しようかね」
しばらく上空をフラフラしていたが、俺はそう決めると、再び森の中に下りていった。
◇
森の南側を一通り見て回った俺は、これ以上見るものはないと調査を切り上げて、北を見ている隊員たちと合流することにした。
森の中を真っ直ぐ北に飛んで行くと、すぐに隊員を見つけることが出来たんだが、何やら5人ほどで集まっているようだ。
他の者たちはまだ森の中に散らばっているのにな。
とりあえず声をかけてみようと、近付くことにした。
「おーい! どうしたの? 何か見つけた?」
「おっと……副長か。丁度良かった」
一人が「コレを」と槍に何かを引っかけて見せてきた。
「……ブーツ? 落ちてたの?」
「ああ。そこの木の陰に片足分な」
「……ブーツって落とすようなもんじゃないよね?」
グローブくらいなら、細かい作業をする際に外して、そこで魔物との戦闘があってその拍子に落としたり……なんてこともあり得るが、少なくとも外で、さらにこんな森の中でブーツを脱ぐようなことはないだろう。
「魔物に襲われたのかな?」
「かもな。アレを見てくれよ」
彼はそう言うと、親指で後ろを指した。
何かなと近付いて見てみると、何やら白い棒みたいな物が……。
「ん? …………うわっ!?」
それが何かわかった俺は、思わず悲鳴を上げてしまった。
「骨だ。このブーツの持ち主のだろうな。中に入っていたぜ」
「野晒しだった割にそこまで傷んでいない。比較的新しい物でしょうね」
「俺たちはもう少しこの辺りを調べてみるつもりだ。副長は他のヤツらに伝えて貰っていいか?」
「あ……うん。わかったよ。気を付けてね」
慣れているからなのか、一部とはいえ人の死体を発見したのに随分落ち着いている。
ここは彼等に任せて、言われた通り俺は他の連中のところに向かおう。
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