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「副長? どうした?」
「何かありましたか? セラ隊長」
上から下りてきた俺を見て、何事かと訊ねる調査隊のメンバーたち。
どうでもいいことではあるが、面白いことにこのメンツだと、2番隊の兵たちの方が俺に対して口の利き方がラフなんだよな。
一方冒険者連中は、丁寧……と言うか、まだまだ硬い。
呼び方一つとってもこれだ。
今回は俺以外に隊長とか副長とか呼ばれる者がいないから、とりあえずこのままでも別に問題無いんだが、今後はちゃんとそこら辺も決めておいた方がいいかもな……。
まぁ、いいや。
何があったのかと、隊員たちは俺の言葉を待っているし、さっさと話そう。
「今日魔物の気配がないでしょう? 上から見てたんだけど、全部川の向こう側に移ってるんだよね。上からだと何もわからなかったけど……下から見て何か気付いた?」
集まっていた隊員たちは、互いに顔を見合わせては小声でアレコレと話していたが、やがて一人が前に出てきた。
「今日は魔物と出くわさない……とは思っていた。だが、痕跡自体は新しいものがあったな。この辺を縄張りにしていた魔物たちもいたし、そいつらがわざわざ縄張りを放棄してまで、ここを離れるような何かってのは……少なくとも俺たちは見つけていない」
「ふぬ……了解。オレはもう一つの方にも聞きに行って来るよ」
もう一つの班は、ここから数百メートル離れた場所にいることは上から見えていた。
そこまで離れているわけじゃないし、向こうもこちらと同じような状況だろう。
「わかった。俺たちはどうする? このまま続けるか?」
「うん。別に強力な魔物の気配があるってわけじゃないしね」
少なくとも、上から見える限りじゃ強力な魔物の姿は無かった。
人数に余裕がある今の状況で、彼等が苦戦するようなことはまず無いだろう。
だが……と、俺が続けようとすると。
「カエルもどきだろう? アレは地中に潜られたらアンタの目でも上からじゃ見つけられないみたいだしな。足元には気を付けるさ」
この辺の魔物が縄張りを放棄するような危機。
とりあえず、ポンと思いつくのはカエルもどきだが……。
「言うまでもなかったね。まぁ……どっちにも魔法を使える人はいるし、1体や2体なら倒すのは難しくないだろうけど、アレはとにかく面倒だからね。もし出くわすようなことがあったらすぐに教えてよ」
カエルもどきに関しては彼等も多少は知っているし、昨日のことも話している。
もしかしたら出くわすかもって可能性さえ伝えておけば大丈夫だろう。
それはこちらだけじゃなくて、もう一つの方も一緒だ。
「じゃあ、こっちはよろしく!」
俺はそう言い残して、その場を一気に飛び立った。
◇
さて、俺はすぐにもう一つの班のもとに到着すると、向こうで話したことを彼等にも伝えた。
「……距離は離れすぎないようにと気を付けてはいましたが、いっそ合流しましょうか?」
こちらも向こう同様に、特に異変を見つける事は出来ずにいたが、痕跡はあるのに魔物と出くわさないことを不思議には感じていたらしい。
話を聞き終えると、すぐにそう提案してきた。
新しいメンバーも加わって人数が増えたことだし、班は二つのままでも大丈夫かと思ったが……中々上手くはいかないのかもしれないな。
とは言え、20人近くで纏まって動くのは流石に効率が悪すぎる。
「そうだね……合流はしなくてもいいけど、いつでも互いに救援に入れるように、もう少し距離を縮めてもいいかもね」
ここら辺が妥当じゃないかな?
彼等もそう考えたのか、揃って頷いている。
「わかりました。それでは……っ!?」
「むっ!?」
会話が突如響いた爆発音に中断された。
「爆発音……魔法ですね」
「出くわしたかな? オレは先に行くよ!」
俺はそう言い放つと、返事を待たずに来た道を速度を上げて一気に引き返した。
2発目の爆発音は聞こえてこないし、今のは俺を呼ぶためだと思いたいけど……。
そんなことを考えながら飛んでいると、すぐに先程別れたばかりの隊員たちの姿が目に入った。
そして。
「上からだと何もわからなかったけど……やっぱこっちにもいるのか!」
隊員たちの正面にいる2体のカエルもどきもだ。
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「副長! アンタは上から裏に回れ!」
森の中を突っ切って飛んできた俺を見た一人が、サッと腕を上に振り上げて指示を飛ばしてきた。
「りょーかい!」
俺は返事をすると、上昇して移動しながら下の戦況を窺うことにした。
「まずは……強さはと」
2体のカエルもどきを観察してみる。
「……ちょっと弱いか? それにサイズも小さい気がするね」
大きく差があるって程じゃないが、強さは俺が一の森や街道で倒してきた個体に比べると、ちょっと弱い気がする。
特に魔力がだ。
体力はともかく魔力はほとんど感じられないし……サイズの小ささといい、もしかしたらまだ若い個体なのかもしれないな。
まぁ……コイツが厄介なのは、毒っぽい何かを吐いたり色々してくるところだし、身体能力や魔力だけを見て決めつけられることじゃないか?
「飛び跳ねたり、舌を伸ばしたり、毒を吐いたり……色々してくるから気を付けてね!」
裏に回り込んだ俺は、カエルもどきを挟んで向かい側にいる皆に向かって指示を出した。
カエルもどきに集中しているのか返事はないが、聞こえてはいるだろう。
取り囲むように距離を詰めているが、何時でも対処出来るようにゆっくりとだし、互いの距離にも気をつかっている。
人数を考えたら圧倒的に有利なのに、油断していないのはいいことだ。
とは言え……だ。
カエルもどきから視線を外して、今度は周囲の様子に目を向ける。
コイツ等がどこから現れたのかはわからないが、まだ地上がどこも荒れていないし、あの爆発音は俺たちへの合図のためだったんだろう。
ってことは、まだ直接戦っているわけじゃない。
「ここで時間をかけるのも、他の魔物とかが来たら面倒だし、コイツ等が何かしてくる前にさっさと決めちゃうか」
2体のカエルもどきのうち、離れた方の真上にスススッと移動すると、俺は【緋蜂の針】を発動した。
「それじゃあ……っと、いけそうだね」
下の連中も俺の意図に気付いたらしい。
数人が前に詰めていき、後方の冒険者の一人が魔法を撃つ態勢に入った。
その動きにつられるように、カエルもどきたちも動き出している。
お陰で、上空の俺はフリーだ!
ノソノソと合流するために移動を始めたカエルもどきの動きをよく見て。
「…………ほっ!!」
俺はカエルもどきの頭部目がけてに急降下を仕掛けた。
その俺の攻撃に合わせるように、もう1体に魔法が飛んで行く。
「飛んだぞ! 気を付けろっ!!」
魔法はカエルもどきに飛び跳ねて躱されはしたが、その分こちらと距離は開いた。
牽制には十分な一発だ!
そして、俺の蹴りは頭部にしっかりと決まっている。
「いくら弱くてもこれじゃ無理か!」
この一撃で倒すことは出来ないが!
「ほっ!」
頭部への一撃で動きが止まったカエルもどきが、再び動き出す前に【影の剣】で斬りつけた。
もちろんその一撃で終わりということはなく、さらに攻撃を続けていく。
首を切り離した程度じゃ死なないコイツも、二度三度と斬りつけて胴体を輪切りにしていけば、たとえまだ死んでいなくてもどうすることも出来ない。
「ふぅ……さてと」
輪切りになったカエルもどきを見下ろしていたが、すぐにもう1頭の戦闘に視線を向けた。
「おぅ。順調じゃないか」
魔法は牽制の一発を除けば使われていないが、そんなのお構いなしに、槍でブスブスとダメージを与えていったようで、体中から血を流している。
雨が降っているにも拘らず、カエルもどきの周りの地面が赤く染まるほどだ。
まだまだ余力は残っているみたいだが、動きはしっかりと鈍くなっていた。
もう間もなく向こうの班も到着するだろうし、まず逃がすようなことはないだろうけれど……。
「オレが仕留める! 皆は離れて!」
残ったカエルもどきの真上に移動してそう叫ぶと、皆が距離をとるのを待ってから、先程の1頭と同じように急降下して、隙だらけの頭部に蹴りをお見舞いした。
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