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1452
フィオーラと共に部屋に戻ると、既に風呂の用意が出来ていた。
ここ最近だと騎士団本部などに報告はしても、屋敷に戻って来たら真っ直ぐここに向かっていたんだが、今日はちょっと色々と寄り道をしていた。
その分時間があったんだろうな。
ってことで、俺は報告を後回しにして、ありがたく風呂を頂いていた。
俺が風呂に入っている間に、フィオーラが簡単に話してくれているだろうし、風呂から出たら、改めて俺から詳しく説明したらいいよな。
「ふぃー……」
俺は深く息を吐きながら、ゆっくりと湯につかった。
◇
「話はなんか進んだ?」
風呂から上がった俺は、例によってフィオーラに髪を乾かして貰いながら、俺が風呂に入っている間のことについて訊ねた。
まぁ、ここでフィオーラが話すことと言えば、例の期間限定の部隊についてのことだろうが……。
「お前が隊を率いることになりそうだとはね。結局引き受けるの?」
「うーん……アレクにも言われたけど、確かにオレがやるのが一番っぽいんだよね。雨季の間だけだし……どうせ数年もしたらどうにかなるでしょう?」
大きな街や村から中途半端な距離にある開拓拠点が、冒険者が離れている間の防衛力に不安があるからってことで提案したんだが、数年もしたら周辺の開拓も進むだろうし、またあの辺りの防衛力に変化が出るだろう。
今日の件で、リーゼルやオーギュストも色々考えるだろうしな。
俺が務めるのはその間の穴埋めだ。
「そう言うものかしら?」
セリアーナが横に座るエレナたちに視線を向けると、普段はすぐに答える彼女たちは、珍しく返答に困っていた。
「私は基本的に街から出ませんからね。執務室の情報から多少の予想は言えますが……テレサはどうですか?」
「私も貴女と大差は無いですよ。騎士団や冒険者ギルドに入ってくる情報なら目を通していますが、そこに入ってこないのなら知る術がありません。ただ、現在の開拓の進行具合を考えると、姫が仰るように数年も経てば北の森の状況も変わると思います」
「ええ。一の森を始めとした魔境側の状況はわかりませんが、北の森の開拓は順調なはずです。それを維持するためにも、雨季の間の防衛力を高める政策は悪くないでしょう」
二人の言葉に、セリアーナは「そう」と呟いた。
「セラ、お前は何か必要な物は思いついて?」
「うん? うーん……そうだね。必要な物か……」
セリアーナの問いかけに、先程の二人同様に、俺もどう返そうか困ってしまった。
まだ案が出ただけって段階であって、何も具体的にはなっていないんだが……どうしたもんか。
「あ、そうだ」
厳密には物ではないが、とりあえず必要な物が頭に思い浮かんだ。
「兵士は1番隊と2番隊の中から選ぶのか、新しく募集するかはわからないけど……オレの言うことを聞く人が欲しいんだよね。今回の人たちは兵も冒険者もどっちも言うこと聞いてくれるけど、それはオレのことをよく知ってる人たちだからだしね。そろそろ領内に残ってて騎士団に入れそうな人は底をついちゃってるでしょう?」
俺はセリアーナからテレサに顔を向けて「どう?」と訊ねると、彼女は「ええ」と頷く。
「リアーナの冒険者ギルドの働きで、冒険者の待遇なども周知されていますし、他所から来た腕に覚えがある者なら、まずは冒険者を目指すでしょう」
「ウチは冒険者が暮らしやすいだろうしね」
腕は必要だけれど、狩場には困らないし、狩りのバックアップ体制は整っているし、冒険者の活動はしやすい環境だ。
目指せるのなら、まずはここを目指すって者は多いだろう。
「騎士団に入れそうな人物ね……確かに、ここ最近新しく入ってくる者たちはいないわね。女性兵はまだいるけれど……そうじゃないんでしょう?」
「うん……別に女の人だからってわけじゃないけど、多分実力的に無理だろうね」
「そうよね……まあ、いいわ。お母様もいるし、お父様宛てに手紙を書いておきましょう。ゼルキスや他の東部の領主たちにも話を届けてもらうわ」
思いついたことを適当に言っただけだったが、どうやらセリアーナは実家を交えて前向きに考えるつもりらしい。
いやはや言ってみるもんだ。
1453
ペチペチと小さな音が寝室に響いている。
俺が中々ベッドから起き上がらないから、セリアーナが俺を起こすために頬を叩いている音だ。
ペチペチと弱く叩いているが、中々起きないからかだんだんそのペースが上がってきている。
「さっさと起きなさい。目は覚めているのでしょう?」
……そろそろ起きるか。
「よいしょっ!」
気合いを入れて体を起こすと、やれやれといった様子で両腕を腰に当てているセリアーナと目が合った。
「おはよー」
「ええ、おはよう。具合でも悪いの?」
目を覚ましさえしたら割とすぐに起きる俺が、今日は中々起きなかったことが気になるのかセリアーナは隣に腰を下ろしてきた。
だが。
「や、元気だよ。ただ、何か疲れてる気がしてさー」
別に具合が悪いなんてことはないんだが、どうにも体が怠いような重いような。
その理由は何となくわかっているんだけどな。
俺は普段から【祈り】を使い続けているから、何時もベストコンディションだったが、今はその【祈り】を使わないようにしている。
そして、珍しく俺はこのところ朝から外で仕事を行っていた。
基本的に【浮き玉】に乗っているし、そこまで疲労するようなことをしているわけじゃないんだが、慣れない仕事に加えて、戦闘も行っているからな。
どうしても精神的にも疲れが溜まってくる……ような気がする。
「……別に無理をする必要は無いわよ? 調査隊ならお前抜きでも問題無く動けるでしょう?」
「まぁ……そんな気もするんだけどね。明日は休みにしようかな?」
セリアーナの言葉にそう返すと、俺は「ほっ!」と気合いを入れて、ベッドの上に立ち上がった。
俺が急に姿を見せなかったとしても、彼等なら別に問題無く調査を進めるだろうが、昨日新メンバーを追加したばかりだ。
一応今日は顔を出しておいた方がいいだろう。
今日の向こうの状況次第ではあるが、明日休みにすると決めたんだ。
その分、今日は早めに出発して、しっかり働いて来ましょうかね!
俺は気合いを入れると、ベッドから降りて【浮き玉】に乗っかった。
◇
さて、目覚めは少々もたついてしまったが、一度起きてやることを決めさえしたらもたつくようなことはなく、むしろ一人で移動する分、昨日よりも早く北の拠点に辿り着いた。
もちろん、その道中に北の森と一の森。
そして、昨日発見した街道の崩落具合などもしっかり確認しながらだ。
流石に昨日の今日で何か大きな変化が出るようなことはなく、チラホラ魔物の姿は見られたが、異変と言えるような事態は起きていなかった。
アレはただの事故……そう見ていいだろう。
さてさて、何事もなく北の拠点に到着した俺は、真っ直ぐ宿舎に向かった。
いつもより早い時間に到着したんだが、既に皆は準備を調えていていつでも出発できる状態だった。
「……随分早いな。何かあったのか?」
と、彼等は普段より早い到着の俺に驚いていたが、「何でもないよ」と答えると、すぐに打ち合わせに取りかかった。
「何か皆やる気だね。どうかした?」
「あ? 大したことねぇよ。昨日は休みになったし、消耗していないからな」
俺が皆に訊ねると、2番隊の兵がそう答えた。
昨日は調査をストップさせたからか、どうやら体力が有り余っているらしい。
「おぉ……それは悪いことしたね」
「気にするな。その分今日は広範囲を見て回る予定だ。アンタの到着が普段通りだったら、先に森を見に行ってたぜ」
「置いて行かれなくて良かったよ……」
たとえ置いて行かれたとしても、探そうと思えば俺ならすぐに見つけられるだろうが、情報の共有とかが出来ないしな。
早めに領都を発って良かったよ……。
◇
さてさて。
打ち合わせを終えた俺たちは、すぐに森に調査に出た。
森の中の調査は隊員たちに任せて、俺は毎度のごとく上空から広範囲を見渡している。
「ふーむむ……?」
これまでの何度かの調査の甲斐もあって、拠点から大分西に来ていた。
そろそろ森を流れる川の近くまで迫っているし、そこを縄張りにしている魔物との遭遇も増えるんじゃ……と思っているんだが。
「魔物が西に下がってるのかな?」
こちら側にもう少しいたはずの魔物たちが、川の向こう側に移動しているみたいなんだよな。
森の様子に変化は無いと思うんだが……何かあったのかな?
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