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 勝手に進展していく話の輪に入れないでいると、そのまま話は終わってしまった。


 そして、リーゼルは急ぐ必要が無いと言っていたんだが、オーギュストとリックはすぐに席を立ち部屋を出て行った。

 大方、騎士団本部に戻って会議でもするんだろう。


 冒険者ギルドからも、カーンとか幹部陣を呼び出したりするかもしれないな。


 冒険者ギルドか。

 今回の調査隊のメンバー選びや招集も含めて、彼等に急な仕事を発生させてしまったのは少々申し訳なく思ってくる。


 まぁ、それはそれとして。


「はぁ……」


「どうした?」


 屋敷の廊下を移動しながら溜め息を吐いていると、隣を歩くアレクが声をかけてきた。


 その彼をじろりと睨みつけながら口を開く。


「何かさ、誰の所為とは言わないけど、オレのやることが増えちゃったなって思ってね」


「俺の所為か?」


 意外そうな顔をしているが、どう考えてもコイツの所為だと思う。


 さらに、目に力を入れてアレクを睨むと、小さく笑って肩を竦めた。


「悪かったよ……。だが、どう考えてもお前の案を実現するには、お前が隊を率いないと無理だろう?」


「……そうかな?」


「考えてみろよ。この辺りがまだゼルキス領の頃から俺はここで活動をしていたんだ。それにも拘らず、お前から聞かされるまで知らなかったことが今回だけでもいくつもあったんだぞ? 俺がそうなら、ウチの兵も冒険者も同じようなもんだろうな」


「……む」


「いくつもの班に分けて派遣したとして、リアーナの兵や冒険者ならどうとでも出来るだろうが、班ごとに各拠点に散らばってしまったら、何か起きた時にまともに連携をとることは難しいだろう」


「それは確かに」


 普通に魔物を狩るだけならそれで十分なんだろうけれど、俺が頼みたいのは、領都の北側を雨季の間広範囲に渡ってカバーしてもらうことだ。

 そして、どこかで事が起きた際に、各拠点からいつでも救援に出られるような体制を築くこと。


 それには随時情報をアップデートしていくことが必要だ。


 領都から離れているとはいえ、魔境ってわけじゃないし、馬を半日も走らせたらどこぞの街か村に辿り着くだろうし、そこを会合場所にしたらそれも可能なんだろうが……そもそもそれが出来ないから新しい隊をって話なんだよな。


 俺の言葉に、アレクは「だろう?」と頷いて、窓の外を見ながら話し始めた。


「この雨の中、単独での高速移動が可能な者なんて限られるだろう? ……と言うよりも、お前くらいだ。大半の者に身分でも役職でも上に立てるし、お前なら適任だ」


「むぅ……」


「まあ、そう難しく考えるなよ。今のやり方で上手く回っているんならそのままでいいだろうし、まだ時間だってあるんだ。メンバーが決まれば、オーギュストたちが上手く指導してくれるだろう」


「まぁ……それもそうだね」


 そう答えると、ちょうど階段が見えてきた。


「そういうことだ。……っと、部屋に行くんじゃないのか?」


 セリアーナの部屋に向かうのならこのまま真っ直ぐ廊下を進むんだが、俺が手摺を越えようとしたところで、アレクに呼び止められた。


「うん。下の研究所にね。いつもはそっちに寄ってから屋敷に戻ってくるんだけど、今日は話があったから、こっちを先にしたんだ」


「研究所……? ああ、カエルもどきの巣の側の土や水を採ってきたとか言ってたな」


「そうそう。アレクもついて来る?」


「そうだな。俺も簡単に報告は聞いているが……折角だ」


「ほいほい」


 アレクの返事に頷くと、俺は一度廊下に戻ってから階段に向かって進み始めた。


 ◇


 研究所には研究員はもちろんだが、最近はセリアーナの部屋によく居るフィオーラも一緒に作業を行っていたが、どうやら今はそこまで忙しいわけではないらしい。

 今日俺が採取してきた試料を研究員に渡すと、今日までにわかっていることをフィオーラから直々に教わることにした。


 どうやら、北の森で採取した試料には、今のところ薬品だったり魔道具だったりの外的要因は見つかっていないらしい。

 まだ全てを見たわけじゃないが、やはり森そのものは例年通りってとこなのかな?


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「ちょっと待って頂戴」


 俺たちに話をしている最中だが、研究員が何かの資料を持って来たのを見て、フィオーラは一度席を立った。


「なんかあったのかな?」


「お前が持ち帰った物を調べさせていたよな? こんなに早くわかるもんなのか?」


「どうなんだろうね?」


 アレクと二人でフィオーラたちを眺めていると、話を終えた彼女が資料を手に戻ってきた。

 そして、そのまま席に着く。


「話の途中にごめんなさいね」


「うん……いいけど、何かあったの?」


「大したことじゃないわ。貴女が持って来た試料の簡単な検査結果が出たから持って来てくれたのよ」


 そう言うと、こちらに資料を渡した。


「これは、北の森か。お前が見て回った箇所か?」


 アレクが言うように、資料には北の森の縮小図が張り付けられていて、所々印が入っていた。


 さらに、その印から線が延びていて別項目と繋がっている。


「えーと……そうみたいだね。これは……何かの成分かな?」


 とりあえず魔素の反応がどうだとか書かれているのは理解出来た。

 他の項目は何かわからないが、まぁ……比較しているみたいだな。


 顔を上げてフィオーラを見ると、「その通り」と頷いている。


「貴女が持って来た魔境側の土と水を、北の森の成分と比較したのよ。土は影響は出ていないけれど、水は北の森から流れ込んでいるわね。日頃から水が流れているのかはわからないけれど、少なくとも地下で繋がってはいるはずよ」


「あらぁ……そこまで大きい穴じゃなかったけど、それは厄介かもねぇ」


 あの通路のサイズを思い浮かべながらそう呟いた。


 北の森の魔物が魔境側に進出するってことはちょっと考えられないけれど、逆はあるだろう。


 もちろん、水が流れていなかったとしても、強力で強大な魔物は通ることは出来ないだろうが、小型の妖魔種や魔獣くらいなら可能なはずだ。


 ……むむむ。


「そういえば、妙に小賢しい魔物が北の森にいたとか言っていたな」


 隣の席で、俺が考え込んでいることに気付いたアレクが話を振ってきた。


 執務室で、軽くだけど話したもんな。

 そのことを覚えていたんだろう。


「うん。直接倒したのは大した強さじゃなかったし、多分北の森に元からいる魔物だろうけれど……」


「群れで移動したりはしないだろう。一の森に生息する小型の妖魔種の中の、さらに群れを追われた個体が、地下を通って移動したとかそんなところだろう」


「数は大したことないってことかな?」


「ああ。だが、群れを追われる程度の強さでも、魔境から出たらまた話は変わってくる。何時頃からかはわからないが、いくつかの群れを束ねていたんじゃないか?」


「そうね……位置を考えたら、雨季前の魔物の襲撃に組み込まれていてもおかしくないけれど、別のボスがいたのなら、上手く逃れることも出来たかもしれないわね。あれからもう何日も経っているけれど、今まで動いていなかったのは、危険が無いか様子見をしていたんじゃないかしら?」


 フィオーラはそこで言葉を区切ると「フッ」と笑った。


「様子見で奥から這い出てきたら、思わぬ危険に遭遇したものね」


「むぅ」


 どちらかと言うと待ち伏せを食らったし、危険な目に遭ったのは俺たちなんだけどな……と憮然としていたが、、フィオーラに同調するようにアレクも「確かに」と笑っていた。


 ◇


 研究所で一通りフィオーラから話を聞いた俺たちは、そこで一旦解散することにした。


 俺は今度こそセリアーナの部屋に戻るが、アレクはオーギュストたち同様に、騎士団本部に向かうそうだ。

 急がなくていいって言っていたのに、アレクも大概仕事熱心だよな……。


 さて、仕事熱心な連中のことはいいとして、別れたアレクの代わりに今度はフィオーラが一緒だ。


 んで。


「……貴女が隊を率いることになるの?」


「隊ってわけじゃないけど、まぁ、なんかそういうことになりそう」


「そう……単独行動を好む貴女がねぇ……」


 部屋に着くまでの間の話題として、執務室での話を出してみたんだが、彼女の意見はこうらしい。


 適性で見るアレクたちと、性分で見るフィオーラ。

 ちょっと違うのが面白いな。


 そんなことを考えながら、俺は適当にお喋りを続けていた。

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