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彼曰く、最初に彼等の前に現れたのはゴブリンの群れ一つだったそうだ。
だが、襲ってくる様子はなく、彼等は無視してその場を離れて行ったんだが、その途中で前方に別の群れが現れて、一度足を止めてしまったらしい。
そうこうしているうちに、ゴブリンとコボルトの別の群れも現れて……対処を迷っている間に接近を許してしまい、ああなったんだとか。
「リアーナに来てからは、主にダンジョンでの戦闘がメインで外の仕事はほとんど受けておらずにいました。それでも問題無いと思っていたのですが……少しリアーナの環境を甘く見ていたかもしれません……」
「なるほどねぇ……」
魔境ほどじゃないが、この辺の魔物も国の西部に比べたら大分面倒だって言うしな。
話を聞いた感じ、油断していたわけじゃないだろうが、ちょっとこっちでの狩りの経験の足りなさが出てしまったか。
でも。
「まぁ……戦闘自体は余裕みたいだったし、これから気を付けたらいいんじゃない?」
俺は彼に「気にするな」と声をかけた。
彼等からしたら騎士団からの依頼だし、さらにリアーナでの地位を確立したいって思いもある。
先程のような失態は避けたかったんだろう。
ただ、方針が決まってからの動きは、連携も含めて悪くなかった。
俺からしたら別に失態って程のことでもないし、ここまでの道中でしっかり能力は見せてもらっている。
この程度のことで、挽回しようと変に意識されても困るしな。
ちゃんとフォローをしておこう。
そのフォローの甲斐あってか、彼は「ありがとうございます」と言い、多少は表情が明るくなっていた。
しかし……このまだ比較的森の浅い位置で、来るかもわからない人間相手に待ち伏せを仕掛けるか……。
あんまりこっち側の魔物らしくないな。
かと言って、魔境側の魔物ほど強くもなかったし……と、気になる点について考え込んでいたんだが。
「セラ副長! 魔物の死体を集め終えました」
俺は死体を一ヵ所に集めさせていた冒険者たちの声に顔を上げた。
「お? はーい。ご苦労様」
魔物の動きは気にはなるが、とりあえず片付いたことだし、この件は一先ずここまででいいだろう。
「魔道具を使われますか?」
「いや、アレは何だかんだ時間がかかるしね。恩恵品で始末するよ。音に馬が驚くかもしれないから、君たちは先に出発しててよ。すぐに追いつくから」
「わかりました。それでは失礼します」
そう言うと、彼等はすぐに馬に乗って森の奥に走っていった。
そして、肉眼でも【妖精の瞳】やヘビの目でも見えなくなったところで、俺は【ダンレムの糸】を発動する。
「なんか……この頻度で矢を使うのって初めてな気がするな。それも、主に死体処理として……」
大分もったいない気もするが、それでもこれなら一発だしな。
威力が強すぎて、普段使いが難しいこの恩恵品の有効活用だ!
「さて……と、こっちの方は地面は荒れていなかったよね……?」
俺は先程の戦闘の際に見て回った地面の様子を思い出しながら、森の西側に向けて矢を構える。
そして、角度を気を付けて慎重に狙いを付けて……。
「はっ!」
死体の山目掛けて矢を放った。
◇
死体の処理を終えた俺はすぐにその場を発って、先行していた冒険者たちと合流した。
街道の崩落からの回り道に加えて森の中での戦闘で、想定外の足止めを食らってしまったが、合流後は何の問題も起きずに、北の拠点に辿り着くことが出来た。
「先に行って話をつけてくるから」
それだけ言うと、俺は一行から離れて拠点の門へと向かった。
領都や大きな街と違って、兵には全く一緒の装備が支給されているわけではないようだ。
昨日とは違う格好の兵が門前に立っていた。
「お疲れ様ー」
「これは、セラ隊長。お疲れ様です……あちらは?」
身を乗り出すようにして、街道の先に薄っすら見える冒険者たちに視線を送っている。
「新しくオレの隊に加わる仲間だよ。ちょっと昨日までのままだと、調査の手が足りなさそうだからね」
「ああ……確かに……」
彼は俺の言葉に、納得するように何度も頷いている。
「オレは先に中に話しに行くから、彼等が来たら中に通して下さい」
彼の「お任せください」という言葉を背に、拠点の中に入っていった。
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拠点に入った俺は、調査隊に新たなメンバーが加わることを伝えに、一足先に拠点中央の宿舎に向かった。
「よう、副長。今日は遅かったな? アンタを待たないで出発しようかと思ったぜ」
宿舎2階のホールに上がっていくと、ホールで待機していた隊員たちが声をかけてきた。
例によって森の調査用の準備が調っているし、どうやら俺の到着を待っていたらしい。
……折角準備をしてくれていたのに、「今日は探索はいいよ」って言うのは少々胸が痛むが……仕方ない。
「おはようー。今日はちょっと話があるんだよ」
俺は彼等に挨拶を済ませると、新しいメンバーを連れてきたことの説明を始めた。
◇
新しいメンバーに関しては、彼等もここ数日で人手が足りていないことを実感していたこともあり、特に文句が出るようなこともなく、すんなり納得してくれた。
追加のメンバーが同じリアーナで活動していたこともあって、顔見知りだったってのも大きいだろう。
むしろ歓迎していたくらいだ。
まぁ……隊員全員が冒険者と成果を競い合うような状況だったらわからないが、騎士団の団員と戦士団のメンバーっていう、先行組の編成を考えたら、そもそも揉めるようなことはないだろう。
もしかしたらこの編成って、後々メンバーを追加することも考慮していたのかな?
ともあれ、隊員たちは宿舎にやって来た追加メンバーたちとの挨拶を済ませると、彼等の休憩がてらに森の状況を話し合っていた。
んで、ひとしきりこの拠点周りの話が終わったところで、今度は俺たちの話もすることにした。
俺の一の森での戦闘自体は大したことじゃないし、すぐに終わったんだが、そこで見つけた水路。
さらに、崩落した街道とその地下にあるかもしれない水路については大分詳しく聞かれたりした。
「もしかしたら、一の森と北の森が地下で繋がっているかもしれない」
何となく俺もそんな気はしていたんだが、どうやら彼等もそう考えたらしい。
「オレが昨日領都に戻る時は、街道には何の異常も無かったし、昨晩から今朝にかけてだと思うんだよね。何かこっちでおかしなこととか無かった?」
とりあえず、こっちに何か影響は出ていないかを訊ねるが、彼等は首を横に振っている。
「少なくとも、俺たちが拠点に戻って以降は何も起きていない。もちろん夜間もだ」
「ああ。朝のうちに、ここの兵たちと情報交換を行っているが、夜の警備をしていたアイツらも、何の異常も報告していなかった。街道の崩落は自然なものなんじゃないか?」
異常は何も無しか。
「そっか……」
「何か気になることでもあるのか?」
「んー……? あるような無いような。まだちょっとわかんないけどね。ただ、北の森で見つけた水路にカエルもどきが何体かいたし、水路を通じて移動しているんじゃないかなと思ってさ」
「アレがこっち側にも来ているってことか?」
「もしかしたらね? ただ、水路も一緒に崩れてたのなら、塞がれたことになるけど……」
結構しっかりと崩れていたし、アレならカエルもどきくらいの大きさの魔物が通れるかどうか……。
「確証が無いのならいないとは断言出来ないな……。森に出る際もだが、拠点の守りも気を付けるように伝えておいた方がいいな」
「うん。それと、言うまでもないけど皆も森に入る際は気を付けてね。アレはオレでも不意を突かれるくらいだから」
「そうだな……人数も増えたし……また編成を考え直すか」
そしてまた彼等は顔を突き合わせての話し合いを始めた。
とりあえず俺が伝えるべきことは伝えたし、どんな編成で動くかは直接行動する彼等に任せよう。
俺は同席しながらも、会話に加わらずに見守っていた。
◇
さて、今日はもう調査には出ないということで、俺は食事を済ませると、拠点を発つことにした。
ただし、向かう先は領都ではなくて拠点のさらに先だ。
飛んでいるとはいえ、そこまで高度を取っていないから遠くまでは見通せないが、それでも、街道の崩落のような大きな異常が起きていたらわかるからな。
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