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北の拠点から街道沿いにさらに北に飛んで行くことしばし。
流石にこれだけ領都から離れて来ると、街道沿いに飛んでいても、森の中に多くの魔物や獣の姿を確認出来る。
数は多くないが、街道の側によく姿を見せるラインナップだろう。
魔境側は……わからんね。
この辺りは魔境から離れるように街道を敷いているようで、どんどん距離が離れていっているしな。
まぁ……魔境ってのは、人里から離れるってよりは、東に潜っていかないと強力な魔物はいないし、この辺だったらそんなに一の森とかとも変わらないだろう。
「おっと……森ばっかり見ていたらもうこんな所まで来ちゃったか」
前方の警戒はヘビたちに任せて、俺は左右の森ばかり気を配っていると、前方の街道脇に木の壁のような物が見えてきた。
随分と頑丈に造られているが……この位置だとアレはただの開拓拠点かな?
一度【浮き玉】を空中で停止させると、頭の中で領都から北の地図を思い浮かべる。
領都の北には街や村もいくつかあるんだが、それはもう少し魔境から西に離れている場所だ。
ちょっとここは魔境に近すぎるし、アレは領都の北部に点在する開拓拠点の一つだな。
塀から飛び出て、監視用の櫓が覗いているし、敷地だけじゃなくて中身もしっかりしているみたいだ。
立ち寄ったことはないし、ここまで来るつもりはなかったんだが……周りを見るのに夢中になり過ぎたか。
「どうしたもんかね? 向こうはオレのことを知っているかどうかわからないけど……」
折角ここまで来たことだし、挨拶ついでにこの辺の状況を教えてもらうってのも手ではあるんだが……アポ無しでいきなり俺が現れても、困らせてしまうかもしれない。
「適当に周りだけ見てから……あら?」
一通りこの辺を見たら、拠点には立ち寄らずに帰還しようと思ったんだが、拠点の外に兵が何人も出て来ている。
まだ距離はあるが、どうやら俺に気付いたようだな。
「これじゃー無視するわけにはいかないか。仕方がない」
流石に攻撃されることはないよな……と、少々不安になりながらも【浮き玉】の高度を下げると、俺は兵たちがいる方に向かってゆっくり近づいて行った。
◇
さて、地上にまで下りた俺は拠点から出てきた兵たちの元に向かったんだが、危惧していたようなことは起きず、むしろ逆に丁重に中に招き入れられた。
そして、拠点内の一際大きい建物に通された。
北の拠点で調査隊が宿舎代わりに使っている建物よりももうちょっと大きいが、同じような役割の建物だろう。
んで、そこでここの責任者とその補佐のおっさんたちと面会することになった。
随分と急なことだとは思ったが、挨拶の後に話を聞いてその理由がわかった。
「あ、領都の北の森で起きた戦闘のことは聞いていたんだね」
「ええ、ええ。騎士団の伝令が翌々日に訪れました」
例の北の森での一件は、北の拠点だけじゃなくて周辺の拠点や街にも報告が行っていたそうだ。
まぁ、領都のすぐ側で起きた大きい戦闘だったし、俺たちが北の森と呼んでいる森にも影響があっただろう。
それを考えたら、情報を伝えるのは当然のことかもしれない。
だが、それは戦闘を終えてすぐの情報で、最新の詳しい情報ではなかったそうだ。
「差し当たっての解決はしたそうですが、それでもやはり不安は残ります。せめて今が雨季でさえなければ、我々で調査を行ったのですが……」
「いやいや、危ないから無理はしないでよ」
俺は申し訳なさそうな表情で話すおっさんたちに、慌ててそう答えた。
半端な報告だけだったため、却って不安を煽ってしまったようだ。
そんな時に俺が現れたから、これ幸いと呼び寄せたらしい。
確かに、言われてみればもっともだ。
もっと領都から近かったのならいざって時はすぐに救援が送られるが、ここくらい離れているとそうはいかないし、自分たちで対処しないといけないもんな。
「そうだね……」
どうしようかと少々迷いはしたが、そんな大したことではないし、とりあえず今の段階ではっきりとわかっていることだけでも伝えておこう。
そう決めると、俺は彼等に説明を始めた。
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さて、北の森の一件が関係しているような問題は、この拠点周辺では起きていないことを彼等に伝えると、責任者の皆は揃って真剣な表情で聞いていた。
上から見た限りだが、少なくとも魔物が妙な行動をしているようなこともないし、森から出てきたりもしていない。
街道や拠点周辺の地面が崩れるようなことも起きていないしな。
んで。
「それで、この数日で何か異変とかは起きてます?」
俺がそう訊ねると、皆首を横に振る。
「いえ……朝と日暮れ前に拠点周辺の見回りを出していますが、魔物が近づいて来ることもなければ、周囲に異変もありません。もっとも、あくまで拠点の周辺だけで、森には近づいたりはしていないのですが……」
森に踏み入るのを避けているのと同様で、見回りも拠点の周囲から離れない方針らしい。
見て回ったのは拠点のすぐ側だけらしいが、現時点では何も無い……と。
「うん……今何も起きていないのなら、多分大丈夫」
街道の崩落にせよ魔物にせよ、気を抜くことは出来ないが一種の災害みたいなもんだしな。
起きるなら同じタイミングのはずだ。
今何も無いのならここは大丈夫ってことだろうが……。
「ココって、どこかに救援を求める時とかはどうしてるんです? 狼煙?」
「それもありますが、近隣各所に救援を求める伝令を送ります。幸い今までそこまでの事態は起きていませんが……」
おっさんは話しながらだんだんトーンが下がっていく。
「距離があるしねぇ……とりあえず、今回の雨季の間はオレも来れる時は来て報告を聞くから、小さいことでもいいから、何か見つけたら教えてよ」
「ありがとうございます。兵たちに伝えておきます」
俺の言葉に、おっさんたちはホッとしたような表情を浮かべた。
領都からも他の街からも中途半端に距離がある。
どこに救援を出すにしても、往復に救援の準備の時間を考えると1日近くかかってしまうし、不安だったんだろう。
普段はこの辺にだって定期的に兵の巡回があるだろうし、街道を利用する商人の護衛の冒険者や、ここを拠点にしている冒険者たちもいるから戦力は一応足りているが、この時期はそのどれもがいなくなっている。
北の拠点もそうだが、この辺はどこも同じ問題を抱えているんだろうな。
勝手に俺の予定を追加してしまったが……まぁ、これくらいいいよな?
おっさんたちと話を続けながら、そんなことを考えていた。
◇
「ぬーん……」
さてさて。
拠点での話を終えた俺は、上空から一回りして拠点周囲の様子を探っていた。
魔境にも西に広がる森にも何かしら生物の気配が見えるが、こちらの拠点は北の拠点に比べると、そのどちらからも距離を取っているし、差し当たって危険が迫っているって感じはしない。
平常通りだろう。
「ぬぬぬぬぬ」
そして、街道にも森にも崩落や亀裂が生じている様子はない。
異変無しだ。
今日は移動と拠点での話で大分時間を食ってしまった。
一の森の調査と戦闘も行ったことだし、ちょっと北の森の上空を飛んでみたりもしたかったが、このまま寄り道せずに真っ直ぐ帰還だな。
「うーむ……」
俺は腕を組んで唸りながら、領都に向かう【浮き玉】の速度を上げていった。
◇
領都に到着した俺は、いつも通り冒険者ギルドと騎士団本部での報告を済ませると、セリアーナの部屋に直帰するのではなく、リーゼルの執務室へと向かった。
「お疲れ様でーす!」
警備の兵に開けられたドアを、中に向かって声をかけながら入っていくと、皆がこちらを見ている。
セリアーナの部屋じゃなくてこちらに来たのが意外だったのかもしれないな。
リーゼルはもちろんだが、アレクやオーギュストたちもいるし都合がいい。
「今日も森の調査ご苦労だね、セラ君。こちらに来たってことは、何か報告でもあるのかな?」
「報告って程じゃないんだけどね」
そこで一旦言葉を止めると、アレクたちの顔を見た。
オーギュストとリックは平気そうなんだが、やはりアレクは書類仕事は苦手なのかもしれないな。
いつもより若干疲れたような表情をしている。
それを見て、「うむ」と頷くと、俺は再び口を開いた。
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