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 セラと別れてすぐに、自分たちだけで北の拠点に向かっていた冒険者たちだったが、出発して間もなく崩れた街道に足を止められてしまった。


 全員騎乗していることから、街道を外れて移動しても問題は無いだろうと、すぐに西側に抜けて走り始めた。

 東側は魔境がすぐ側にあるし、東西どちらの森にも近付くつもりはないが、西を選んだのはより危険を避けるためだ。


 だが、彼等が想定していたよりも広範囲に亀裂が走っていたため、それを避けようとどんどんと西へ西へと進んで行き、結局森の中まで入ることになってしまった。


 浅瀬ということもあるのか、魔物の気配は感じられないが、少数とはいえ纏まった人数で動いていると目立つことに違いはない。


 そこで、一行は森の様子と地面の状態を探るために、森の探索が得意な一人を偵察に送り出した。


 ◇


「中々戻ってこないが……戦闘の気配は無いよな?」


「ああ……ついこの間の森での戦闘でこの辺の魔物は一掃したんだろう? 事前にそれは聞いていたが、魔物はまだ戻って来ていないようだな」


「亀裂自体は大分手前で収まっていたが……森の中も崩れでもしていたのかもな」


「手前で途切れていたしどうだろうな? そもそもアレは何だと思う? セラ副長は街道に異常があったなんて言ってなかったよな?」


「街道の東側で魔物と遭遇したとかは言っていたが、街道に異常があったとは言っていないな。まあ……そもそも空を飛んでいる人間が、地面の様子まで気に掛けるかはわからないな……」


「そうだよな……。とは言え、流石にアレは上から見てもわかるだろうしな。昨晩から今朝にかけて起きたんじゃないか?」


 冒険者たちは雨を避けるように木陰に集まりながら会話をしていると、森の向こうから先行偵察を行っていた者が、「おーい!!」と声を出しながら足早に戻ってきた。


 偵察に出る際に馬から降りて徒歩だったためか、随分と息が切れている。


「……はぁはぁ。見て来たぞ! とりあえず街道のように地面が崩れたりはしていない。だが、何本か倒れている木を見つけた。あの崩落と関係があるのかはわからないが、もう少し奥に入った方がいい。人の手は入っていないが、馬での移動に支障は無かった」


「そうか……地面に大分広く亀裂が入っていたからな……。崩れてはいないからといって油断は出来ないか。……行けるか?」


 その言葉に偵察に出ていた男は、「ああ」と答えて預けていた馬を受け取ると、すぐに跨った。


「そういえば、セラ副長はまだ来ていないのか?」


「ああ。森の外を見ていたが通り過ぎた様子はない。まだ一の森にいるんだろう」


「お前が偵察に出ている間に目印は用意して来たし、それで十分だろう」


「それに、森で合流が出来なくてもどの道行先は一緒だ。むしろ単独行動の方が楽なんじゃないか?」


「違いない……よし、行くぞ!」


 全員が馬に乗り終えるのを待っていた男は、そう言うと先頭に出て森の奥に向かって馬を走らせた。


 ◇


「ふーぬぬ……? すぐに見つかると思ったけど、いないね?」


 メンバーが残した目印に従って、街道西に広がる北の森に入った俺は、浅瀬をゆっくり移動しながらメンバーの姿を探していたんだが、これがなかなか見つからない。


 あの街道の崩落は、地割れ……と言うほどではないが、亀裂が広範囲に渡って走っていたし、それを避けるためにどんどん大回りしていっていたんだろうが……もっと奥まで移動したのかな?


「さっき倒れている木もあったし、念のため奥に入ったかも……どうかした?」


 少しずつ奥に入りながら進んでいると、アカメたちがふと首を伸ばしていた。


「魔物かな? ちょっと行ってみようか」


 そう呟くと、俺はアカメたちが向いている方に進路を向けた。


 もし彼等が戦闘を行っているようなら、助っ人がてら合流出来るし、もしただ単に魔物がいるってだけなら、それは放置して、その場で上空に移動してしまえばいいな。


 等と考えていたんだが。


「……うん? あぁ、コレは合流出来そうだね」


 前方からかすかに聞こえてくる男の指示の声。

 どうやら戦闘中らしいな。


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 戦闘音が聞こえてくる方に突っ込んで行くと、予想通り冒険者たちが魔物の群れを相手に戦闘を繰り広げていた。


 魔物の群れは、ゴブリンとコボルトの混成部隊が複数。


 ちょっと珍しいが、大きい獲物を追う時にぶつからなければ協力することもあるし、別におかしなことではないかな?


 5人とも腕は悪くないし、普通に戦うのならこの程度の群れは問題無いんだろうが……森の中で馬に乗っているって状況が足を引っ張っているようだ。


 突っ切るか倒すかで迷ってもいるのかな?

 取り囲まれてしまっている。


 彼等がどうするつもりなのかはわからないが、とりあえず一旦彼等と魔物の群れを分断させた方がいいだろう。


「離れてっ!!」


 俺は短く叫ぶと、左足を突き出して群れの中に突っ込んだ。


「セラ副長っ!?」


 何体か纏めて蹴り飛ばしながら現れた俺に驚く彼等。


「コイツ等どうするの!? 倒す? 引き離す?」


「倒します。地面を確認しながらなので、引き離す事は出来ません!」


 なるほど、そう言う事情か。


「了解! オレは適当に動くから、そっちは勝手にやっといて!」


 初めて組む相手に対して大分乱暴な指示ではあるが、まぁ……彼等ならどうにか出来るだろう。


 俺は彼等のことは気にせず、目の前の魔物の群れに集中することにした。


 ◇


 魔物の群れの外側にいる1体のゴブリンに狙いを付けると、一旦上空に離脱した。


 どうやら冒険者たちの背後に回り込もうとしていたらしく、彼等の方ばかり見ていて俺のことは頭から抜けているようで、背後はガラ空きだ。


「ほっ!」


 ガラ空きの背中に叩き込んだ蹴りで、上半身が砕け飛ぶゴブリン。


 他の個体もそうだったが、コイツ等は蹴り一発で派手に散っていく。

 この弱さは、魔境の魔物じゃないな。


 こっち側は魔境じゃないし、当たり前ではあるんだが……こっちの森のこの辺には、昨日はまだ魔物は見当たらなかった。

 もしかしたら、奥の方から移動して来たり、避難していた魔物が戻って来ているんだろうか?


 チラッと視線を冒険者たちの方に向けると、先程とは打って変わって順調に魔物を仕留めていっている。


 あの手こずりぶりは方針が定まっていなかったからなのか、それとも不意を突かれでもしたのか……はたまた、別の理由なのか。

 気にはなるが……とりあえず今は片付けることを優先だ!


「ソッチは大丈夫!?」


 次の魔物に突撃を仕掛ける前に、念のため彼等の様子を訊ねた。


「問題ありません!」


「こちらもです」


 近くで戦う二人がそう言うと。


「同じく! こちらは逃がさないように外から仕掛けます!」


 他の三人は、魔物の群れを突っ切って集団の外側に向かって行っていた。


 外側から魔物の群れにプレッシャーをかけるつもりだろうな。

 真ん中を突っ切って行ったのもあって、魔物の群れは混乱しているようで、何体もが孤立したりとバラバラになっている。


 お陰で俺が仕留めやすい状況だ。


 俺が倒していくペースはさらに上がっていき、その後は10分もかからずに魔物の群れを全滅させた。


 ◇


 戦闘を終えた俺は、四人に魔物の死体を一か所に集めさせて、残った一人から別行動をとっていた間の話を聞いていた。


「んで? オレが来た時は大分混乱していたみたいだったけど、何があったの? 無視して逃げなかったのは、馬を走らせるのを避けたかったからだってのはわかるけど……」


 彼等が魔物に囲まれながらも馬を走らせなかったのは、街道の崩落やその周辺の地面に入った亀裂なんかも見ていたわけだし、現場からここまで離れても、念のため足元に気を付けていたからだってのはわかる。


 だが、それでもあの程度の魔物を相手にあのザマってのはちょっと腑に落ちない。


 何があったんだろう……と男の顔を見ていると、彼は申し訳なさそうな表情を浮かべながら口を開いた。


「申し訳ありません。油断したわけではないのですが、誘い込まれてしまいました」


「……ほぅ?」


 誘い込まれるって、どういうことだろう?


 俺は小声で呟くと、首を傾げた。

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