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「今の何個だ? 4個? 5個?」
躱すことに必死で飛んでくる石の数を数えられなかったが、大体それくらいだったと思う。
初め向こうの方で倒した個体もそうだが、物を投げるタイプのオーガが群れを組んでいるみたいだな。
「森の中だと余り速度は出せないし……かと言って上空に上がっても狙われるかもしれない。振り切って逃げるのは難しいね……おっと!?」
戦うか退くかを考えている間にも、オーガたちは森の向こうからさらに石をぶん投げてくる。
向こうの状況がわからないが、それでもまだまだ弾切れになりそうな気配はないし、退くって選択は採れないね。
「まぁ……正面から一対一をやるよりも、複数の真ん中に飛び込んで暴れる方がオレにとっては楽だよな。よし……いくぞっ!!」
飛んでくる石を躱しながら考えを纏めると、俺は気合いを入れ直して、オーガたちの元に突っ込んで行った。
◇
「1、2、3……5体か! 強さは同じくらい。いけるっ!!」
接近するにつれて群れの全体が見えてきた。
向こうで倒したのと全部同じくらいの強さだ。
アイツだけ森の奥に向かって進んでいたし、一番強いから別行動をしていた……なんて可能性をちょっと考えていたが、そんなことはなかったな!
流石魔境。
どいつもこいつもしっかり強い。
油断なんてしないぞ!
投石を躱しながらぐんぐん加速していき、まずは先頭の1体と接触……と言うところで!
「ほっ!」
振りかぶった腕を掻い潜るように脇をすり抜けた。
ソイツは俺に馬鹿にされたとでも思ったのか……何やら叫び声を上げているが、それを無視して後ろに集まり始めていた、残りの4体の真ん中目がけて。
「ふらっしゅっ!!」
目潰しの魔法を放った。
ただでさえ薄暗い森の中だ。
目潰しの効果は絶大で、少々距離が離れているにも拘わらず、3体の視界を潰すことに成功した。
まともに動けるのは前後の1体ずつ。
「それならっ!」
【琥珀の剣】を発動すると、柄に尻尾を巻きつかせた。
そして、後ろから俺に襲い掛かろうとしている1体目掛けて、背を向けたまま振り抜く。
どこにかはわからないが命中はしたようで、【琥珀の剣】が砕けて効果を発動したのを感じた。
頭部のようなダメージが入る位置ではないのか、鈍い呻き声しか聞こえてこないが、それでも一先ずコレでコイツの足止めは完了だ。
ってことで、気を取り直して無傷の正面の1体目掛けて、左足を突き出した体勢で突撃する。
オーガは手に持っていた石を捨てると、俺を迎撃しようと叫びながら両腕を振り上げた。
確かに丸太のような太さの腕だ。
たとえ一本でも、当たれば【風の衣】も【琥珀の盾】も破れる威力はあるだろう。
それが二本!
掠っただけでも大事故だ。
だが。
「甘い!」
両腕を振りかぶり、ガラ空きとなった顔面目掛けて再度魔法を放つ。
今度はコイツにも目潰しがしっかりと決まり、顔を押さえながら蹲ってしまった。
「……ぉぉぅ。まぁ、いいや」
余程うまいこと決まったようで、想像以上の効果に驚きつつも、蹲る背中に回り込むと。
「よいしょ」
【影の剣】で首を刎ね飛ばした。
これで残りは4体。
やっぱり一対一よりも、一対多の方が混乱を煽れるし得意なのかもしれないな。
ともあれ、目潰しが効いている間に一気に片付けよう。
◇
「うーむむむ……どうしたもんか」
残りの4体も不意打ちと絡め手の組み合わせであっさり片付けると、今度はその死体を前に頭を悩ませていた。
「さっきからもう叫び声は聞こえないし、あの主はコイツ等だってのは間違いないよね? 一先ず群れを潰したはいいけど……オーガの死体五つか。これはちょっと放置しちゃまずいよね」
さらに向こうにもう1体分あるんだ。
どうにかして始末しないといけないが……森の中だし燃焼玉はまず却下だよな。
そうなると……。
「仕方がない。何とか地面に穴を空けないように気を付けるか」
一先ず死体を一ヵ所に集めようと、俺は尻尾を伸ばしながらオーガの死体へと向かって行った。
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「せーーーのっ!!」
死体を積んで作った山目がけて、俺は【ダンレムの糸】の矢を放った。
矢を放つ方角は、万が一にも街道や人に被害が出ないように森の奥である東側。
そして、一応大丈夫だとは思いたいが、地面を削り過ぎないように角度も気を付けている。
矢の威力に押されて多少軌道が暴れてしまったが、それでもしっかりと死体を消滅させたし……完璧だ!
「……おや? おまけもついたね」
【ダンレムの糸】を解除して一息ついていると、右手が何かを掴んでいることに気付いた。
「……聖貨か。オレの実力だと魔物の強さは関係ないはずだけど、最近ペースがいいね。試料と一緒に【隠れ家】に仕舞っとこうかな」
これから領都に帰るんならこのままでもいいんだが、まだまだ今日はこれからだ。
大丈夫とは思うが、万が一があったら折角採取したのが無駄になってしまうもんな。
俺は周囲の様子を確認すると、地面に触れて【隠れ家】を発動させた。
◇
森からまずは一直線に街道に出た俺は、すぐに北に向かって【浮き玉】を飛ばしていたんだが、10分も経たずに異変を発見してしまった。
「……あれは、道が陥没してるのかな?」
俺は急いでその場に向かってみると、街道はもちろんその両脇の地面もボコッと地面が沈んで、広範囲に穴が空いているのがわかった。
深さは精々2メートルってところだし、越えること自体は不可能ではないが、馬車だと街道を大きく外れないと無理だろうな。
ここで足止めを食らっていないってことは、きっと皆は街道を外れて回り道をしたんだろう。
……馬車じゃなくて本当に良かったな。
「……っと、それよりも、皆はどこに行ったのかな?」
突如街道に現れた惨状に驚いて呆然としてしまっていたが、ハタと我に返った。
「森に入って1時間も経っていないだろうし、そこまで離されてはいないはずだけど……とりあえず下の様子を見てみるかね……」
俺は陥没している場所へと下りることにした。
上空から見る限りじゃ、変わった物は見当たらないが、近くに行ってみたら何か見つかるかもしれないしな。
「特に変わった物は見当たらないね。……自然に起きたものだよね?」
戦闘が起きた様子もなければ、魔物の気配も感じられないし、自然に起きたものだろう。
それならそれで何で急に街道が陥没したのかって疑問も出て来るが……。
俺は慎重に近づいて行くが、穴の真上にまで行ったところで何が起きたのか大体のことがわかり、「あぁ」と声が漏れた。
「水が流れているのか」
陥没箇所の一部に、さらに地下に繋がる穴を見つけたが、そこから微かに水が流れる音がする。
勢いは大したことはないが、何やら音が反響しているし、結構な広さの地下水路なんだろう。
「さっき森で見つけた水路と繋がってたりするのかな? 位置的にも十分あり得そうだよね。……もしかして、コレって散々水場に矢を撃ち込んできたし、それが原因なんてことは……」
怖い可能性が頭をよぎり、固まってしまった。
「…………いや、偶然だよね。きっと。うん。よし……それよりも、皆はどこに行ったのかだよね。適当に上から探してもいいけど……」
頭を切り替えようと、俺は陥没場所から離れて、穴の周囲に何か残されていないかを調べることにした。
足跡は……そもそも街道から外れられたらわからないか。
他には……。
「おや? コレか?」
穴のすぐ側の街道脇に、不自然に草が刈られている箇所があった。
さらにどこから取って来たのか、木の枝も西側を示す矢印のように置かれている。
「上からだと見つけられなかったけど、森にでも入ったのかな? まぁ、とりあえず向こうにいるみたいだし、そっちに行ってみようかな?」
仮に見つけることが出来なかったとしても、結局目的地は一緒なんだしどこかで出会うだろう。
彼等がこの街道の崩落に巻き込まれたわけじゃないってことが、しっかりわかっただけでも十分な収穫だ。
念のため現場を2周ほどして、何か見落としていないかの確認をしてから、俺は西に向かって飛び立った。
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