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 カエルもどきの群れは、水溜まりを泳ぎながら俺の側に近寄って来たかと思ったら、今度はグルグル俺の周囲を囲むように泳いでいる。


 全部で4体。

 サイズも強さも昨日倒したのと大差は無いし、俺が今いる高さまでは届かないだろう。


「それにしても、今はこんなにはっきり見えるのに、なんで飛び掛かられるまで気づけなかったんだろう?」


 あれは完璧な不意打ちだった。


 もちろん、【琥珀の盾】と【風の衣】がある以上、直撃したところで俺にダメージがあったかはわからないが、決して油断していたわけでもないのにああも見事に決められて、正直なところショックを受けている。


「皆は気付けていたみたいだけど、どこから来たのかわかる?」


 会話は出来ないが、多分俺の言わんとすることは通じているんだろう。


 ヘビたちは揃って頭を同じ方へ伸ばした。


 初めは頭蓋骨が浮かび上がってきた草の方向で、その次は水中から伸びている木の下……根本だ。

 そして、終わりにこの水溜まりの端の合計3か所だ。


「それが何……うん? アレは水が吹き上がってるのかな?」


 その3か所を順々に観察していると、なにやら水面が盛り上がっているように見える。


 水が流れ込んで来たり風や雨粒で、水面は小さく波打ち続けているから気づけなかったが、よく見るとボコボコと……。


「穴かっ!? それが繋がっているから、水の流れが違うのかな? でも……あぁ、そういうことか」


 穴が繋がっているが、それが何だろうと思ったが……【妖精の瞳】もヘビの目も、地面の下とかは見えないんだよな。

 カエルもどきたちがあの穴の中を移動していたかはわからないが、潜んでいたのは間違いないだろう。


 この水溜まりが縄張りみたいなものか。


「……ここに他の生物がいないのって、もしかしてコイツ等のせいか?」


 アカメたちは薄っすらと何かがいると気付いていたけれど、他の魔物とかはそこまで鋭くないし、水を飲みに来たところを一斉に襲われた……とか?


 コイツ等の水辺の不意打ちに対処出来る魔物なんて、もっと奥ならともかくこの辺にはいないだろうし、十分にあり得るな。


「…………おっとっと、近付けないか」


【浮き玉】の高度を下げた途端、一斉に真下に寄って来たのを見て、慌ててまた高度を戻した。


「ふぅ……随分と獰猛なことで。どうしようかな? 始末しておいた方がいいのかな……?」


 思った以上に攻撃的だし、コイツ等を放置するのはちょっと危ない気がする。

 この時期この位置に足を伸ばすような者はそうそういないだろうけれど、まだまだ雨は続くし、この水溜まりが大きくなっていって、コイツ等の縄張りが森の外まで広がっていったらと思うと……。


「んー…………」


 高度を上げたことで真下からは離れたが、相変わらず俺の周りを泳いでいるカエルもどきたち。


 どうやら狙いは俺に定めているようだし、下手に振り切って、水溜まりが広がる前に外に引っ張り出すような真似は避けるべきだ。


「よし! ここでやっちゃおう!!」


 俺はそう声に出して、気合いを入れた。


 ◇


 さて、いざ倒そうと決めたはいいが、どうやって倒すのか。


 1体……それも陸上戦でそれなりに手こずったのに、今度は水中にいる4体だ。

 宙に浮いている俺の姿を濁った水の中からでもわかるのか、適当に動いても追って来ているし……どうしたもんか。


「とりあえず、周りに悪い影響は無さそうだし、羽も追加しようかな?」


 水中にいる相手に効果があるかはわからないが、周りに他の生物はいないから巻き込む心配もないし、使うだけ使ってみるか。


 俺は【紫の羽】を発動すると、カエルもどきを引き連れながら、水溜まり全体に毒が広がるようにゆっくり移動を始めた。


 時折振り返りながら、ウロウロすること10分ほど。


「……ついて来るよなぁ。ジャンプアタックもオレには届かないのは、コイツ等ならわかるはずなのに」


 何も考えずにただついて来ているってだけなら他の手も考えるんだが、毒液とかみたいに何か隠し持っている手段があった場合を考えると、迂闊に接近戦を挑むのも危ないからな。


 もう少し、コイツ等を観察しながら移動を続けるか。


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 さらにウロウロすること20分ほど。


 俺は【浮き玉】を停止させると、一つ溜め息を吐いた。


「ダメか。水中に効果は無いのか、それともコイツ等が毒に耐性があるのか、もしくは【紫の羽】が効かないくらいの強さなのか……。見た感じそこまでの強さはないと思うし、前の二つのどっちかかな? 別に両方でもいいけど、とりあえず毒の効果は無し……っと」


 羽を引っ込めて、相変わらず周りを泳いでいるカエルもどきたちに目を向ける。


「ワニみたいに体の上部を水の上に出してくれていたら、【緋蜂の針】と【影の剣】を使って仕留めて見せるんだけど、しっかり潜ってるんだよね。流石にアレには届かないし……」


 水溜まりの深さは、多分1メートルあるかないかくらいだろう。

 もう少し浅ければ蹴りで水ごと弾き飛ばせそうなんだけど、この深さだと無理そうな気がする。


【風の衣】がこの水を押しのけられるのならいけそうな気もするが、そんなこと試したことないしな。

 水中で待ち構えている状況で、ぶっつけ本番なんて無理は出来ない。


 そうなると残る手はやっぱり……。


「ふむ……」


 俺は試しに【蛇の尾】を発動して、水面に向かって垂らしてみた。


 長さは最大だが、少し根元に余裕を持たしているため、尻尾の先端はわずかに水面に触れない程度の位置で止まっている。

 丁度いい位置だ。


 俺は、1体のカエルもどきの鼻先で尻尾の先端を揺らしてみた。


 宙に浮いている俺をずっと追って来ているくらいだし、コレに食いついてもおかしくはないんだが。


「……釣れないか」


 4体揃いも揃って全く反応を示さない。


「ってことは、コイツ等は加護には反応するけど、恩恵品には見向きもしないみたいだね。何で判断しているのかはわからないけど……それなら!」


 照明の魔法にも反応しなかったし、魔力を無視するってわけじゃ無いだろうけれど……まぁ、尻尾は餌にはならないしな。


 ともあれ、尻尾を解除すると俺はゆっくりと水溜まりの端に向かって移動を開始した。


 この分なら、毒を撒きながらウロウロしていた時に考えていた倒し方が上手く使えそうだ!


 ◇


「よし……ちゃんとついて来てるね。あぁ……でも、やっぱり水からは出てこないか」


 何度か振り返りながら、カエルもどきを引き連れて水溜まりの外に向かっていたんだが、俺はとっくに外に出ているのに、端の手前で止まっている。


 しばらく観察していたが、頭だけ覗かせて俺を見ていても、地面に出てくる様子はない。

 水中が自分たちにとって有利な場所だってのはわかっているんだろう。


 俺はカエルもどきたちから前を向いて目を離さずに、徐々に下がって行く。


 折角ここまで引っ張って来たのに、距離が空きすぎて奥に引っ込まれたら台無しだ。

 そんなことにならないように、カエルもどきの反応に気を付けながらゆっくり慎重にだ。


「このまま外に這い出てくれたら普通に倒せたんだけどね。よし……ちょうどいい木もあるし、この辺でいいかな?」


 大体水溜まりの端から10メートル強ってところだろうか?

 後退を止めると、俺の右側に生えている木に手を当てながら、俺は高度を下ろしていく。


 俺からもカエルもどきたちからも互いに姿がわかる距離だし、これくらいでいいだろう。


「それじゃーさっさとやっちゃうか。よいしょっと!」


 俺は【ダンレムの糸】を発動すると、地面に降ろした。

 続けて、少し右に傾けて木で支えるように立てかける。


「うん……今のところ何の動きも無いね」


 もしこの段階で逃げられるようなら、初手でいきなりカエルもどきを倒すためのプランが崩れてしまうが、どうやらそんなことは無かったようだ。


 それじゃー、二手目だ。


「ほっ!」


 弓に両手をかけたまま、俺は【緋蜂の針】と【蛇の尾】を発動する。


 尻尾はともかく、弓の時と違って【緋蜂の針】を発動した左足からバチバチと魔力がほとばしっているが、これまで通りカエルもどきたちの様子に変わりはない。


「OKOK……それなら、このまま三手目だ!」

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