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伝令役の先行していた班が拠点を発ってから数十分程が経ち、食事も済んだところで、俺もここでの仕事に取り掛かることにした。
「セラ様、こちらが拠点の地図と簡単な資料になります。事情は伺っておりますが……その、外から見るだけでよろしいのですか? 自由に中に入ってもらって構わないのですが……。それに、雨も強いですよ?」
どうもここの責任者のおっさんたちは俺に関しての情報が限定的みたいで、【浮き玉】で空を飛ぶだけと思われているな。
【風の衣】や【妖精の瞳】に関しての情報は持っていないようだ。
別に領都の住民にも公言しているわけじゃないんだが、それとなく知られている節があるし、そこら辺は騎士団だったり領主の屋敷側との繋がりの差かな?
「大丈夫大丈夫。オレはこれでも結構色々出来るからね。雨でも平気だよ」
恩恵品や加護について、今後も関わるかわからない相手に詳しく教える必要は無いが、少なくともここにいる間は顔を合わせることもあるだろうしな。
地図を受け取ると、一先ず俺は雨でも平気なことと、建物の中に入らなくても問題無いと言うことだけ伝えることにした。
「なるほど……噂には聞いておりましたが……」
どんな噂が流れているのかはわからないが、割とすんなりと俺の言葉は彼等に受け入れられた。
「そうそう。適当に上から見て回るけど、明日以降も宙を移動するから、ここの人たちにオレを見ても驚かないでって伝えといてよ」
「はっ。お任せください」
俺は承諾するおっさんたちに「うん」と応じると、2番隊の兵と冒険者たちの前に向かう。
彼等の分担は森の調査だ。
馬車の中では、今日のうちに軽くでも森を見に行くとか言っていたが、皆装備を外したままだ。
風呂に入って来たからってのもあるかも知れないが、それにしては今一つ緊張感に欠けている気がする。
「皆はどうするの?」
そう訊ねると、咎められているとでも思ったのか、気まずそうにそれぞれ顔を見合わせている。
そして、誰が返事をするかで何やら視線で押し付け合っている。
俺は「はぁ……」と一つ溜め息を吐くと、腰に手を当てて口を開く。
「……別に怒ってないよ。誰でもいいから答えて」
「お……おう、悪い。ついテレサ様のノリでな……」
テレサはいつもこんな感じなのか……と少々困惑していると、兵の一人が今度はいつもの感じで答え始めた。
「副長が向こうの旦那たちと話した内容を俺たちも聞いたんだが、現場の様子が、雨の影響で大分変わっているかもしれないんだ。魔物を追って今日明日だけ……ってわけじゃないだろう? 一旦俺たちも森の情報を集めてみないかってなったんだ。どう思う?」
「ふぬ……いいんじゃないかな? あのカエルもどきも何かよくわかんない生き物みたいだしね。水辺に近づかなければ大丈夫みたいだけど……それくらいしかわかってないし、もう少し森の様子とかも知っておいた方がいいよね」
普段の森であればこのメンツなら何の心配もいらないが、今は時期が時期だし、慎重になるのはむしろ歓迎したいくらいだ。
「だろう? まあ……そんなところだ」
「了解。皆も拠点内に留まるんだね」
【妖精の瞳】もヘビの目も、人がいるのはわかるんだが、セリアーナの加護のように識別までは出来ないし、彼等が拠点内に残ることを知らなかったら、上空から見ていて驚いたかもしれないな。
出る前に分かってよかったよかった。
「それじゃー、オレはそろそろ外に出るから、ソッチもしっかりね」
彼等の「おう!」という声を背に、俺は1階に向かった。
◇
この拠点は、領地の北部に点在する開拓と交易の中継拠点の一つだ。
各拠点は明確な名前はなくて、誰々がいる拠点とかそんな風に呼ばれている。
定住する住民は50人程度だが、冒険者や商人に、領内を巡回する兵士なんかも滞在するし、平時ならその何倍も人がいるそうだ。
どこもそんな感じらしい。
「いずれどこかに統合されるそうだけど……今はこのままか。もっと人を集めた方が色々便利そうなんだけど、あんまり増やし過ぎても管理出来なくなるからかな?」
拠点上空にやって来た俺は、渡された地図と資料を手に、地上を見下ろしながら感想を口にした。
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「オレたちが案内された宿泊所の他にも、デカい建物が多いね……。地上からだとよくわからなかったけど、広さもしっかりあるし。王都圏の小さな村と比べたら、こっちの方が広いよね」
定住している住民の数に比べて、敷地も建物の数も規模もずっと大きい。
だからこそ、冒険者も商人はもちろん、突発的にやって来た俺たちも受け入れることが出来ているんだろう。
「でも、その分拠点内に住民の目が届かない場所も出て来てるのかもね」
俺は先程ここの責任者のおっさんたちから、拠点内の地図を預かっていた。
その地図はあくまで簡単に描かれた物で、この拠点の敷地と主要な建造物が描かれているだけで、この拠点の最新の情報が描かれているわけじゃない。
だから、その地図に記されていない建物も当然いくつもある。
上から眺めているとわかるが、所々通りと導線が繋がっておらず、死角になるような場所が存在している。
領都と同じように建物を少しずつ増築していったんだろうが、しっかり計画を建てていった領都と違って、空いた土地に適当に建てていったんだろうな。
無計画と言ってしまったらそうなんだが、いずれ放棄するかもしれないし、その辺は一緒にしたら駄目か。
それと、拠点を守る木の塀がグルっと囲むように立てられているが、それが丸太で作った杭だってのも理由かもな。
領都はもちろん、他の街も塀の上から警備の兵が周囲を見張っているが、これでは上を人が歩く事は出来ないから、どうしても死角は多く出来てしまう。
「とは言え……それでよからぬことを考えている連中が、その死角を利用するようになったら困るよな。ちょっと伝えておこうかな」
建物を取り壊すことは無理だろうけれど、たまにそこに見回りが行くってことが知られるだけでも大分変わってくるだろうしな。
「とりあえず拠点内の大体の配置はわかったね。それじゃー……次は」
俺は気合いを入れると、地上の様子に目を凝らしてみた。
◇
先程までは拠点の塀沿いに飛んでいたが、俺はそこから拠点の中央に戻ってきた。
アクセスがいいからか、ここの主要施設だったり住民の居住施設や、俺たちが案内された宿泊所も建っている。
んで、そこから拠点全体を見渡しているんだが……。
「あー……やっぱり中に人がいない建物も多いね」
わかってはいたが、住民の住居は固まっていて、中央から離れるにつれて空き家になっている建物も多い。
雨が降っているから、住民の大半が外を出歩かずに家の中にいるから、空き家が目立つこと目立つこと。
「まぁ……わかってはいたことか。それにしても、結構腕が立つ人が多いね。アレが普段からココの守りとかもやってる冒険者たちかな?」
気を取り直して、拠点内に留まっている者たちの様子を探ることにしたが、場所を考えたら当然なのかもしれないが、中々腕が立つ者が多い。
ここにいる大半が、現役の冒険者だったり、元・冒険者とかなんだろう。
ただ、問題というほどではないが、一つ気になることもある。
「皆魔力の量が少ないね……。魔法を使えそうなのは何人かいるけれど、ほとんどが魔道具を起動出来るかどうかってくらいかな?」
この拠点内だけで生活するんならそれでも問題は無いんだろうが、あのカエルもどきの例もある。
魔法を使える者がいた方がいいのは間違いない。
「でも……そういう腕が立つ人は、大抵は領都とか大きい街を拠点に活動しているだろうし、こんな所には来ないか。普段なら入れ替わりはするけど、護衛を務められるレベルの冒険者がいるし、今までも大丈夫だったんだろうけれど……」
森の水辺でしか見かけなかったカエルもどきが街道にまで現れたし、アレがいつこの辺に姿を見せるかもわかんないもんな。
一応ここに残る1番隊の兵たちなら多少の魔法を扱えるし、魔法がないと厳しい魔物と戦うことになっても何とかなるとは思うが、ここ以外の拠点はどうだろうな?
俺はメモをする手を止めて、「うーむ……」と1分ほど首を捻っていたが、唸るのを止めて前を向いた。
「とりあえず見るものは見たし、宿に戻ろうかね。他所のことはここで考えても仕方がないし、領都に戻って報告しといたらいいか」
俺は「うむ」と頷くと、宿に向かって高度を下げていった。
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