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宿泊所に戻ると、1番隊と2番隊の両方のメンバーは既に外に出て各々任務を始めていて、彼等の気配は拠点のあちらこちらに散らばっていた。
宿に残っているのは4人の冒険者たちだけで、彼等は宿の二階のホールに集まって装備の点検や手入れを行っている。
その中の一番手前にいる一人が、階段から上がってきた俺に気付くと、手入れをする手を止めてこちらを向いた。
「よう、姫さん。戻ってきたってことは……もうアンタの仕事は終わったのか?」
「まともに階段から姿を見せると何か変な感じだな。窓から出入りはしないのかい?」
笑いながら口々に声をかけてくる。
そして、奥に座っている軽装の一人が席を立った。
「一応窓は開けておいたんですが……何か不都合でもありましたか?」
しまいには何かあったのかと警戒させてしまった。
すぐに笑ったし、冗談ではあるんだろうが、彼等とは領都でもそんなに顔を合わせているわけじゃないのに、それでも俺の普段の様子は知っているらしい。
俺が階段から上がって来たことに、笑いながらも驚いているようだ。
「ここは初めてだからね。あんまり変わった真似をし過ぎても驚かれるでしょう? お客さんとして振る舞うよ」
俺は「ふん」と鼻を鳴らすと、気を取り直して話を続ける。
「それよりもさ、今上からココの様子を見て来たんだけど、魔法を使える人がほとんどいないんだよね。ウチは……1番隊の人たちが使えるけど、何かあった時にちょっと心配だね」
その言葉に、手前の席の彼は肩を竦めながら答えた。
「ああ……腕は悪いわけじゃないんだろうが、この辺に居つくような連中だと、魔法を使えるかどうかは怪しいだろうな」
そして。
「もっとも、俺も使えないけどな」
「使えないんだ……魔力はあるみたいだけど……」
俺はついつい突っ込んでしまった。
パッと見た感じ、十分な魔力はあると思うんだが、どうやら彼は使えないようだ。
まぁ……魔力があるからってのと、魔法が使えるってのはまた違うもんな。
俺も散々訓練を積んでも、未だに照明と水を少し出す程度の魔法しか使えないし、特殊なセンスや訓練が必要で、基本的に自己流で鍛えたらどうにかなるってもんじゃない。
ある程度の腕の冒険者なら、そんなことに時間を使うよりも、そのまま鍛えた方がずっといいはずだ。
彼もそのことがわかっているからか、言葉に暗い感じはない。
「俺はな。だが、コイツは使えるぜ」
その彼は、笑いながら立っている軽装の一人を指した。
「副長のお仲間と比べたら大したことはありませんが、馬車から見た限り、あの程度の魔物なら私でも追い払う程度のことは出来るでしょう。森の調査も、夜の間のココの守備も大丈夫ですよ」
「ほぅ……」
流石はベテラン冒険者ってところかな?
とりあえず、ウチの兵たちに加えて彼等もいるんだ。
少なくともこの拠点周りに関しては、俺がいない間も何の心配もいらないだろう。
だが。
「何か気がかりでも?」
「うーん……ココや皆が大丈夫なのはわかったけど、この辺にある他の拠点とかはどうなのかなって思ってさ。今回の件はこの辺の人にとっても、異変みたいだしね」
「ああ……確かに。拠点の守りはどこもココと大差ないだろうしな。……とは言え、そこら辺のことは流石に俺たちじゃどうしようもないな」
「それもそっか……。うん、ありがとう。邪魔しちゃったね」
「いや、気にしないでくれ。アンタはどうするんだ?」
「上から見て気になったこととかメモを取って来たから、それをココの人に渡したら領都に発つよ」
そう言うと、彼等に「じゃあ」と手を振って、下の階に向かった。
◇
拠点での用事を済ませた俺は、領都に戻るために、街道沿いに南に向かって飛んでいる。
一直線に飛んで行くのが一番早いんだが、どうしても森の上空を通過することになるし、そうなると魔物が襲ってくる可能性もあるからな。
回り道になるが、こっちの方が確実だ。
「街道に戦闘跡は無し。行きに倒した分で浅いところの魔物は打ち止めだったのかな? これじゃー、先に出発した連中に追いつくのは難しいか」
一つぼやくと、俺は低高度のまま【浮き玉】の速度を上げていった。
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順調に領都への道を進んで行き、そろそろ行きでカエルもどきと戦った場所の側にやって来た。
拠点を発ってから引き続き、ここまで魔物の姿は無いし戦闘跡も無い。
平和なもんだ……と呑気に飛んでいたが、前方に何やら人だかりが見えた。
「ん?」
戦闘の気配は無いが、何かあったんだろうか?
俺は念のため速度を落として、さらによく見渡せるように高度を上げていった。
周囲の森の木よりも高い位置まで来たところで上昇を止めると、俺は街道の先に視線を向けた。
「……って、あら? アレ、先に出発していた連中じゃないか?」
俺よりも先に出発していたし、途中で魔物が襲ってきたりもしていないから、ペースが落ちることなく進んで行って、これは追いつくことはないだろうな……と思っていたんだが、彼等は何をしているのか、二人が馬から降りて地面にしゃがみこんでいる。
一応一人は馬に乗って周囲を警戒しているようだし、不意打ちを受けるって心配は無さそうだが、どこに魔物が潜んでいるかわからないこの場所で、不用心なことには違いない。
「何をして……あ、こっちに気付いた」
上空の俺に気付いたようで、槍を振っている。
呼びかけるんじゃなくて、手ぶりで合図をしているのは、魔物を呼び寄せたりしないようにってことかな?
それなら、俺も合わせるか。
声は出さずに、手を振りながら彼等のもとに下りていった。
◇
「追いついちゃったね。こんなところで馬を降りて何をしてるの? あぁ……別に続けたままでいいよ」
俺は一先ず騎乗している兵の前に降りたんだが、しゃがみこんでいた二人が作業を止めて立ち上がろうとしていた。
いまいち何をしているのかはわからないが、遊んでいるわけじゃ無いだろうし、邪魔をしちゃいかんってことで、そのまま続けるように伝えた。
二人はすぐに作業に戻るが、俺がカエルもどきたちを焼いた場所に穴を掘ると、その土を素材取集用の皮袋に詰めている。
掘られた穴は深くはないが、その割に何袋分も集めているが……。
「土と……それに灰を取ってるのかな?」
「ええ。幸い雨に流されきる前に間に合いましたから。土と灰、それと燃え残った骨も持ち帰ろうと思います。これだけでも、研究所に回したら何かがわかるかもしれませんから」
「なるほどぉ……」
ただ単に燃やして放置しただけだし、出来がいいか悪いかは別としても、魔物の骨や灰も素材にしたりするからな。
それを使って何かを作るとかは無理でも、魔力の性質とかその辺がわかったりするかもしれない。
んで、そこからまた何か別のことがわかるかもしれないし、今後の領地開拓の何かの役に立つかもしれない。
騎士団の人間は色々考えているんだな。
一方俺はと言うと。
「素材に使えるかどうかしか考えてなかったなぁ……」
それも、【隠れ家】に入れたら汚れそうだからってことで、全部燃やしちゃったしな……。
「我々は馬に積めば運べますが、セラ副長だと持ち運ぶのは難しいでしょう」
俺が気にしていると思ったのか、軽い調子でそう言ってきたが、俺の場合は【隠れ家】って便利な代物があるんだよな。
「それもそうだね」と返しはしたが、ちと考えが足りなかった。
反省だ。
まぁ……過ぎたことを気にしていても仕方がない。
今後は選択肢の一つに加えるように、気を付けよう!
さて、反省はしたことだし……。
「まだ時間はかかるのかな? オレも一緒にいようか? 荷物運びは出来ないけど、周囲の魔物の警戒と戦闘は出来るよ?」
少なくとも周りに魔物の気配は無いが、この場に止まり続けるのはどうだろう。
まだ日が暮れる時間ではないが、ただでさえ雨雲で薄暗いんだし、魔物がどう動くかわからない。
馬に乗りさえしたらどうとでもなるが、その前に襲われたらちょっと面倒なことになりかねないし、俺も一緒に残った方がいいような気もする。
もちろん、彼らなりのやり方ってのがあるのかもしれないし、どうするかは彼等に任せるが、とりあえず訊ねることにした。
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