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「……追いついた! おーーいっ!!」
前を走る調査隊一行を見つけた俺は、彼らに呼び掛けながら飛んで行く。
馬車の中も周りの兵たちも、見たところ誰も怪我をしているような者はいない。
途中の魔物の状態から、どんな感じの戦闘が行われていたかは予想出来るが、とりあえずみんな無事なようで何よりだ。
御者台の前に着けると、彼は俺に向かって声をかけてきた。
「セラ副長! お怪我は無いようですね」
声はまだまだ元気だが、顔は流石に疲れが出て来ている。
いくら雨具を着ているとはいえ、この雨の中ずっと馬車を走らせ続けているわけだしな。
そりゃ疲れるわ。
【祈り】を使ってやれないことを申し訳なく思いつつ、俺は彼に返事をした。
「うん。そっちもね。ちょっと中に入るから、このまま進んでて!」
彼等を先行させてから何があったのか。
ここまでの道中で大体把握出来ているが、それでも直接聞いておきたいしな。
「はっ!」
御者の声を背に、俺は馬車のドアに手をかけた。
◇
「お疲れ様。……なんか見た目は凄いことになってるけど、どんな感じよ?」
話を聞くために馬車の中に入ったが……中に乗っているのは2番隊と冒険者なんだが、どちらも見た目がボロボロだ。
少なくとも彼等が苦戦するような相手じゃなかったんだが……何があったんだろう?
「よお……副長。アンタは元気そうだな」
中に入ってきた俺を見て、絞り出すように答える兵。
どうやら本当に疲れているようだが……本当にどうしたんだ?
「うん……追加の魔物の群れもあったけど、コボルトだったしね。苦戦するようなことはなかったよ。んで、そっちは本当に何があったの? 街道に放置されてた魔物の死体は見つけたけど、どれも簡単に倒せてたでしょう?」
「戦闘自体は問題はなかったんだが……なあ?」
と、向かいの座席に座る冒険者たちに視線を向ける。
「……まあな。東側……魔境から出てきた魔物とはいえ、所詮はゴブリンだ。敵じゃねぇ」
「そりゃそうだよね」
障害物があって見通しが悪い場所での不意打ちとかならともかく、開けた場所での戦闘だ。
それも、数ではこちらが圧倒的に有利。
俺がその言葉に頷くと、彼は肩を竦めながら話を続ける。
「俺たちよりも先行していた伝令がいただろう? そいつらを見て、まだまだ後続が来るとでも読んでいたんだろうな。俺たちを襲ってきた際も一斉に飛び出してきたりはせずに、一匹が足止めで、残りが茂みに隠れて待ち伏せてやがった」
「あらら……ゴブリン程度とはいえ、流石って感じだね」
「全くだ……。外の連中は小回りが利かないし、馬車を守らせて、俺たちが対処していたんだが……足場の悪い街道の外に倒しに行くのは面倒でな……」
「数なら俺たちの方が上だが、数匹のゴブリン相手に大勢で行っても仕方がないしな。結局出るのは一班ずつで、手間を取らされた」
そう言って、彼等は揃って大きく溜め息を吐いた。
「なるほどねぇ……まぁ、ココからはオレが索敵に回るから、もう少し頑張ってよ」
別に出てきた魔物は俺が倒してもいいんだが、一応こういう時のための彼等だ。
さっきのカエルもどきのような面倒な魔物ならともかく、何でもかんでも俺が倒しちゃうのもアレだもんな。
俺の言葉に彼等は口々に「任せておけ」と言った。
これなら問題なさそうだな……と、外に出ようとしたが、兵の一人に「副長」と呼び止められた。
「どうかした?」
「俺たちが始末した魔物の死体はどうした? そのままか?」
「あぁ……アレ? 燃やすほどじゃないから、森の方に捨てて来たよ」
「ああ、ソレならいい。手間を取らせて悪かったな」
そう言う彼に俺は「いいよ」と答えて、馬車から外に出た。
◇
何度かゴブリンと出くわしたが、魔物が動き出す前に俺が発見することで、兵たちが厄介だと言っていた手には乗らずに、魔物を楽に倒すことが出来た。
俺が死体を捨てに行くのが時間がかかったくらいだ。
さて、そんな道中ではあったが、徐々に街道は一の森から遠ざかってきた。
相変わらず東に魔境は広がっているんだが、そろそろ目的地まで残り半ばを切ったところだろう。
魔物との遭遇もすでに無くなっているし、とりあえずみんな一息つけそうだな。
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「セラ副長! 下りて来ていただけますか!?」
順調に街道を進んでいると、馬車の周囲を走る兵が声をかけてきた。
「どうかした?」
「はっ。もう間もなく我々が滞在することになる拠点が見えて来ます。住民が混乱しないように、先触れとして一人向かわせようと思います。よろしいですか?」
今日俺たちがここにやって来るってことは、先行した伝令が既に伝えているだろうけれど、これからお世話になるんだし配慮は大切だ。
警戒されるかはわからないが、土砂降りの中空に浮いているのが一緒にいたら怪しまれはするだろう。
もう1時間以上魔物と出くわしていないし、俺が索敵をしなくても大丈夫なはずだ。
「うん、お願いするよ。……オレは、中に入ってた方がいいかな?」
そう提案すると、彼は苦笑しながら答えてきた。
「そうですね……念のためですが、よろしいでしょうか?」
「うん。それじゃー、後は任せるよ」
俺は御者に中に入ると伝えると、ドアを開いて中に乗り込んだ。
◇
馬車の中に入ってしばし。
窓から見える光景はあまり変化は無いが、ふと馬車の速度が緩んだことがわかった。
「む」
俺が窓の外に目を向けると、兵たちが口を開いた。
「もう到着するみたいだな」
「俺はここは何度か立ち寄ったことはある。北部でも比較的新しい場所だが、まあ……居心地は悪くないはずだぜ?」
「ゼルキス領の頃からの住民たちだろう? それなら問題無いだろう」
「そうだな。いきなり攻撃されたりはごめんだからな」
2番隊の兵も冒険者も、笑いながら仲良く物騒な内容の話をしている。
多少の歳の差はあるが、ウチの兵たちも元は冒険者だ。
俺はほとんど車内にいなかったが、彼等も上手いことやれているみたいだな。
外を見ながら彼等の話を聞いていると、一人が俺に話を振ってきた。
「副長、アンタは今日は領都に戻るんだよな? 俺たちは宿で軽く休憩をした後、一度森に入ってみるが……どうする?」
「元気だね……。オレは今日は向こうの拠点の様子を見て回るつもりだよ。一応挨拶くらいはするけどね。んで、その後は念のため拠点の周囲の様子を見たりはするけど、森に入るのは明日以降かな?」
俺にとって、拠点内外の様子を確認するのが最優先で、森の調査は今日そこまで急いでやることではない。
「そうか。どうする?」
俺の言葉に、何やら皆は顔を見合わせている。
「なんか都合が悪かった?」
「いや、どうせならアンタと合わせた方がいいんじゃないかって話していたんだ。隊長はアンタだろう? 俺たちはわかっているが、向こうの連中がどう思うかわからないしな」
「……そうだね。まぁ……その辺のことは、オレのことは気にしないでそっちで好きに決めてよ。魔物を探したりはオレも出来るけど、調査とかはよくわからないしね」
「そうか……っと、止まったな」
今までゆるゆる進んでいた馬車は完全に停車して、ついでに車内の会話も終了した。
「ふむ」
俺は車内からではあるが、【妖精の瞳】とヘビの目で周囲の様子を窺うことにした。
さっきの彼等の「いきなり攻撃」云々の話は冗談ではあるんだろうが、剣とかに手を伸ばしているし、何やら車内の空気がピンとしている。
念のため警戒も必要だろう。
さて、前方に何人も人が集まっているのがわかるが……。
「あ……大丈夫そうだね」
先触れとして向かわせていた一人と、さらに俺たちより先行して出発していた伝令の兵が、一緒にこちらに向かってきているのがわかった。
「そうか……まあ、そうだよな」
一人がそう言うと、空気が緩んで皆も同じようなことを口にして笑い出した。
◇
馬車の中での一瞬緊迫した空気は嘘のように、俺たちは拠点内に入ると、そのまま宿に通された。
拠点の中央辺りに建っていて、見た感じここでは一番大きな建物のようだ。
宿というよりは、宿泊施設がある集会所ってところかな。
1階にはデカい風呂もあるようで、雨の中移動して来たし、兵たちは食事の前に一先ずそちらへ行っていた。
んで、俺はその間は部屋で待っているんだが。
「セラ副長、下にこちらの責任者が集まっておりますが……どうされますか?」
俺が到着した時にも一緒だった伝令の兵が、下から俺を呼びに来た。
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