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「ん?」


 燃やされている死体の山を、延焼しないように見守っていたが、動物の鳴き声のようなものが耳に届いた。

 ヘビたちもなにかに気付いたのか、東側を気にしている。


「……魔物を引き寄せちゃったか?」


 上空を見ると、火元よりは薄れているが何とも毒々しい色の煙が漂っているし、コレが原因かな?

 周囲の様子を上空から見てみようと、高度を上げていく。


 ここでの戦闘に入る前は、カエルもどきを除けば周囲には何もいなかったが、森の近くで何十分も戦闘しながら留まっていたし、何かが近寄って来ていてもおかしくはないよな。


「えーと…………アレかな?」


 街道の西に広がる北の森には、何の気配も感じない。

 これは今まで通りだ。


 だが、その反対側の一の森。

 そこの森との境目近くに、数体の魔物が集まっているのが見えた。


 見た感じ魔境の魔物基準では大して強くないし、恐らく小型の妖魔種か魔獣ってところだろうな。


「あの程度の魔物なら、今のオレでも倒すのは簡単だけど……処理にまた時間がかかっちゃうしな。ただの様子見かもしれないし、アソコに出てくるまで仕掛けるのは待とうか」


 カエルもどきとの戦闘の際に薙ぎ払った茂みを判断の目印に、とりあえず待ってみることにした。

 茂みに隠れるカエルもどきを炙り出すためだったんだが、思わぬところに使い道が出てしまったな。


 これが雨季じゃなければ街道を利用する者も多いだろうし、安全のために倒しておくんだが、今は人の往来は無いもんな。

 あの程度の数なら放置でも問題無いだろう。


「さっさと燃え尽きないかな……」


 しかし、放置で問題は無いんだが、倒せる位置に倒せる強さの魔物がいると、何とも落ち着かない。


「やっぱり倒しちゃ……うん?」


 そわそわしながら魔物たちを見張っていると、森の境でこちらの様子を窺っていた群れのさらに奥から、二つの群れが接近しているのがわかった。


 どうするもんかとしばらく観察を続けていたが、群れはそのまま合流してしまい、こちらに向かってきている。


「ぉぉぉ……結構本格的な群れになって来たな」


 森から姿を現したのはコボルトで、数は全部で14体。


 ゴブリンと違って、ある程度規模が大きい群れを作るコボルトだが、それでもこれは中々大きい群れになるんじゃないか?


 未だ燃えている死体の山や宙に浮いている俺を指して、群れは「ギャアギャア」と騒ぎながらこちらに向かって来ている。

 まだ目印を越えてはいないが、この様子ならどうせ突っ込んで来るんだろう。


「街道まで引っ張っても、散らばられたりしたら面倒だし……背後に回ろうかね」


 死体を食べようとでも考えているのか、今のところあの群れの第一目標は俺よりもカエルもどきの死体のようだ。

 死体が燃え尽きる前なら、まだ俺の優先度は低いだろうし、手の届かない上空なら素通り出来るだろう。


 ついでに。


「よっと……。開けた場所だし効果がどこまであるかはわからないけど、少しでも動きを鈍らせられたら儲けもんだ。どうせ人は来ないだろうしね」


 移動しながら【紫の羽】を発動した。


 ◇


 上空を通過して背後に回り込んだ俺を、群れの何体かは気にしていたが、燃え上がっている死体の山を前にすると、俺のことなんかどうでもいいと言わんばかりに、相変わらずうるさく騒ぎながらそちらに集っていた。


「ヘビに羽に尻尾に……我ながら目立つ姿のつもりなんだけど、そんなにカエルもどきの方がいいんかね? まぁ……一ヵ所に集まってくれると手間が省けるかな。まだまだ火は消えないだろうしね」


 ってことで、上手く毒の範囲に収められるようないい位置を求めて、ウロウロと魔物の群れの周囲を移動している。


「それにしても、あの煙……それとも死体かな? なんか出してるのかもしれないね。……おっと、そろそろ頃合いかな?」


 つい今まで騒いでいたコボルトの群れだったが、そのうちの何体か……特に騒いでいた個体が地面に膝をついていた。

 さらに、徐々に叫び声も小さくなっているし、どうやら毒が回って来たみたいだな。


 それじゃー……さっさと片付けてしまうか。

 まだ火は消えていないし、適当にまとめて追加で燃やしてしまおう!


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 いくら魔境に生息するとは言え、所詮はただのコボルト。

 それも戦う場所はだだっ広い平地だ。


 たとえ数が多くても、今の俺でも余裕で倒せる相手なのに、さらに今回は羽の毒でしっかりと弱らせてもいた。

【緋蜂の針】で適当に突っ込んで行って、吹き飛ばした魔物を【影の剣】でスパスパ切り裂く。


 二度三度往復するだけで、簡単に全滅させることが出来た。


 幸いコボルトの群れを倒した場所は、カエルもどきたちを焼いていた場所のすぐ側だったし、ちょっと引っ張っていって、二つほど燃焼玉を追加してしまえば処理は完了だ。


 んで、今は燃え尽きるのを待ちつつ、先程同様に接近する魔物がいないか、上空から周囲の監視をしている。


「今のところ魔物がやって来る気配は無いね。さっきは割とすぐに近寄って来てたんだけど……もうあの変な色の煙は出てないし、カエルもどきは燃え尽きたのかな?」


 チラッと煙に目を向けるが、カエルもどきの死体を燃やしたばかりの時のような毒々しい色の煙はもう出ていない。

 やっぱりあの煙が呼び寄せていたっぽいな。


「結構派手に戦ったけど街道に被害は出ていないし、燃やし終えたらもうすぐに出発でも大丈夫そうだな」


 街道を外れた場所は、蹴りの余波でちょっと抉ったりしてしまったが、街道そのものは土を巻き散らした程度だ。

 雨季が明けた後も、特に整備の必要は無いだろうし、今回の戦闘での被害はゼロだな!


 それに……。


「今回の戦闘で聖貨を2枚もゲット出来たもんな。カエルもどきはちょっと手間取ったけど、他のコボルトは簡単に処理出来たし、随分美味しい臨時収入だったね」


 俺は笑みを浮かべながら左手を見る。


 カエルもどきを倒した時は聖貨は得られなかったし、「まぁ……そんなこともあるか」と諦めていたんだが、コボルトさんでまさかの2枚ゲットだ。


 先日の魔物の群れとの戦闘でも得られなかったし、最近狩りをあまりしてい無いとはいえ、ついてないなー……と思っていたんだが、何でゲット出来るかわからないもんだな。


 ……まさか、カエルもどきがあの状態でも生きていて、燃やしたことでやっと死んだ……なんてことは無いよな?

 流石に考え過ぎか。


「そろそろ消えそうだね。骨とか灰は残っちゃうけど……コレの処理はもうどうしようもないか。放っておいても大丈夫だよね。それじゃー……火が消えたら、一旦【隠れ家】に戻って聖貨を仕舞ってから、今度こそ出発だな」


 再度周囲の索敵をして魔物がいないことを確認すると、俺は地上に降りていった。


 ◇


 魔物の処理を終えた俺は、先に出発した隊員たちに追いつくためにすぐに出発した。


 街道は一本道だし、馬車の轍や馬の蹄の跡が残っているから追うのは簡単だ。

 ついでに人目も気にする必要が無いし、遠慮なく速度を上げることが出来る。


 第二陣の登場で、思ったよりも時間がかかってしまったが……戦闘と始末の時間を合わせても大した時間はかかっていない。

 ちょっとした誤差程度だ。


 そう考えて、俺は急ぎつつも焦らずに、街道の上空を飛んでいたんだが……街道に転がる物を見つけると、俺は地上まで高度を下げた。


「またか」


 転がっていたのは2体のゴブリンの死体で、1体は頭を砕かれて、もう1体は胴体を貫かれている。

 どちらも新しいし、特に争った形跡もない。

 カエルもどきと戦った場所からここまでの間にもうすでに何度か目にした光景だ。


 間隔は1㎞以上空いているし、何よりどれもゴブリンだった。

 ゴブリンは基本的に少数の群れしか作らないし、同じ群れってことはないだろう。


 ……たまたまかな?


「まぁ、いいや。考えても仕方がないし、これも向こうに捨てておこうかね」


 俺はまずは片方の足に尻尾を巻き付けると、街道から外れて森の端に辿り着くと、奥に向かって放り投げた。

 ちなみに、ここまでに見かけた死体も同様に処理している。


 もう少し数が多ければちゃんと焼却処分するんだが、たった2体だしわざわざ燃やさなくても、自然に任せて大丈夫だ。

 だからこそ隊員たちもここに魔物を捨てておいたんだろう。


「しっ……かし、冬と違って雨季はあんまり魔物に関係ないのかな? 雨季にこっちに来ることはなかったし、ちょっと軽く見てたかな」


 これなら先に行かせなかった方がよかったかな?

 合流を急ぐか。

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