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「あら? 剣を持って行くつもりなの?」
【隠れ家】から出てきた俺を見たセリアーナは、両手や尻尾で持っている剣を見て、俺が調査に剣を持って行くつもりだとわかったようだ。
「おや?」っといった表情で訊ねてきた。
「そうそう。一応オレも剣くらいは佩いておいた方がいいかなと思ってね? あんまり大きいのは邪魔になるんで、小振りなのを何本か持って来たから、後で服に合いそうなのを選んでよ」
俺は洋服棚の前に置かれているテーブルの一つに、【隠れ家】から持ち出して来た剣を並べた。
所謂ショートソードと大振りのナイフだが、どれも飾りが施されていて、実用品というよりは見栄え重視の儀礼用の武器だ。
コレを何でアレクたちが用意していたのかは不思議だが、たとえ身に着けたとしても俺が剣を抜くことはないだろうし、こんなので十分だろう。
「それで、服は選び終わったの?」
「ええ。とりあえず、数日分だけれど選んでみたわ。後はお前が一度戻って来てからね」
俺の質問にセリアーナはそう答えた。
チラッと剣が並べられているテーブルとは別の机に目を向けると、青を中心に何枚か赤のワンピースが重ねられている。
アレがセリアーナたちが選んだ服なのかな?
「姫、恩恵品は何を持って行かれますか?」
テーブルの上の服を見ていると、セリアーナの後ろからテレサが口を開いた。
「【緋蜂の針】と【猿の腕】と【蛇の尾】は持って行くつもりだよ。でも、【足環】は外していくね。性能だけならアレはオレと相性が結構いいんだけど……」
「見た目はあんまり相性がよくないんだよな」と、口には出さずに頷いていると、同じことを考えていたらしいセリアーナが口を開いた。
「それが妥当でしょうね。あの足枷の見た目はどうしても目立ちすぎるもの……。でも、【緋蜂の針】も持って行くのかしら?」
「うん。左足に着けるつもり。さっき奥で試してみたけど、左足でもちゃんと発動出来たしね。慣れない方だし無理はするつもりは無いけど、ある方が便利だしオレも安心出来るんだ」
「先日の魔物との戦闘でも戦いにくそうにされていましたね。よろしければ、明日地下訓練所で慣らしにお付き合いしましょうか?」
「む……そうだね……うん。お願いするよ」
左足でも【緋蜂の針】はちゃんと発動できたが、それはあくまで「発動するぞ!」とハッキリ意識して気合いを入れた上でだった。
俺が普段使っているような、ほぼほぼ無意識のうちにパッと発動するようなことは出来るかどうか……。
まぁ、右足で出来ているんだし、何度か試してコツを掴めばすぐに出来るようになるだろうが、出発までにものにしておきたい。
それに、左右逆になるから【影の剣】とのコンビネーションも、普段とは変わってしまうかもしれないし、それの確認もしておきたいな。
地下訓練所なら俺はいつでも利用できるが、的の設置は魔法を使うし俺だけだと無理だから、手伝ってもらえるんなら助かる。
「それでは……」
と、俺とテレサが明日の予定について話をしている一方で、セリアーナたちはまた服についての議論を交わしていた。
「【緋蜂の針】を使う可能性を考えるなら……もう一度選び直した方がいいかしら?」
「そうね。丈が長いものを選んでいたし、もう少し動きやすい服がいいわね」
「【風の衣】と【琥珀の盾】に加えて、あのジャケットを上に着る以上、防御面に関しては問題はありませんが……帯剣するとなれば、また違いますね」
結論が出たのか、三人はテーブルの上に広げられていた服を畳むと、棚に戻していった。
「……選び終わったんじゃないのかな?」
どうやらまた一から服を選び直しそうな雰囲気を感じて、「選び直すつもりなのか」とテレサに訊ねた。
「先程選んだ服は、どれも裾が閉じたデザインだったんです」
苦笑しながらテレサが答える。
「あぁ……オレが【緋蜂の針】を使わないって考えてたんだね」
普段は足を振り回しているから、その妨げにならないようなのを着ているが、セリアーナたちが選んでいたのはタイトなデザインの服だったんだろう。
何もなければそれでいいんだが、【緋蜂の針】を戦闘で使う可能性を考えると、それは避けておいた方がいいだろう。
……俺の急な思い付きで二度手間かけさせちゃったかな?
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先程までと違って、俺が【隠れ家】から出てきたからなのか、セリアーナたちは直接俺を着替えさせて服を選んでいる。
だが。
「……剣がどうしてもシルエットを崩すわね」
「ええ。私たちもスカートで帯剣する際は、そうすることを前提にデザインされた服を着ますから、どうしても違和感が出てしまいますね」
もう着替えを始めて何着目かになるが、セリアーナたちはいまいち服を選びかねている様子だ。
【緋蜂の針】を発動することを考えると、どうしても足を動かしやすいデザインの服になるし、かといってそういうヒラヒラの服だと、スカート部分が剣で半端に押さえられることになって、少々不格好になってしまう。
このタイプの服は、戦場に立つことは考慮していないんだろう。
……まぁ、それは当たり前か。
普段の俺だったらそこまでこだわる必要は無いんだが、いかんせん今回は隊長って肩書があるしな。
なにより、セリアーナたちも文句を言いながらも楽しんでいるから、俺もマネキン役くらいは我慢しよう。
それにしても……。
「オレって結構服は持っていると思ってたけど、意外と同じようなデザインがほとんどだったんだね」
先程セリアーナたちが引っ込めた服もそうだが、今新しく用意されている服も、確かに細部は違うんだが、大まかなデザインは似通っている。
例えばテレサは、帯剣する時はスカート姿の場合もあるが、今俺が着ているような裾が広がるタイプじゃなくて、もっとタイトなスカートが多い。
元々広がっていないから、剣で押さえつけられても違和感が無いデザインなんだよな。
「ここに移ったばかりの頃だと、贈られた服のデザインはもっと多様だったけれど……今はもう大分固まっているわね。それだけ普段のお前の姿が住民の間に浸透している表れじゃないかしら?」
セリアーナがそう言えば、エレナも笑いながら話を続ける。
「そうですね。一日中【浮き玉】に乗って座ったままでいる……。そんな生活を送っているとは中々想像出来なかったでしょうからね。それを思えば、多少贈り物が偏っていようと、喜ぶべきなのでしょうか?」
「そうね……コレも違うわね。セラ、脱いで頂戴」
「はーい。……スカートじゃなくてパンツとかは駄目なの?」
普段は俺と似たようなデザインの服を来ているセリアーナとエレナは、地下訓練所だったりダンジョンに出向く際には、スカートじゃなくてパンツスタイルになっている。
あれなら、剣を提げてもデザインが崩れたりとかを気にする必要は無いだろう。
俺も何着か持っているし、ソレじゃ駄目なんだろうか?
何だかんだで服選びを楽しんでいるセリアーナたちだが、俺の手持ちの服を頭に浮かべるが、どれも今着ていた服と似たようなデザインだし、とりあえずの解決策として、俺はパンツスタイルを提案してみたが、セリアーナはすぐに首を横に振った。
「他に女性兵がいるのならそれでもよかったけれど、今回の隊はお前だけでしょう? 加えて、お前は隊長として住民に接するわけだし、変わった真似は止めておいた方がいいわね。ただでさえお前はソレでしょう?」
そう言って、【浮き玉】を指した。
「ふぬ……」
まぁ……あんまり奇抜過ぎても、距離を置かれてしまうか。
ただでさえ俺はこんな状態だしな。
自分の通常スタイルを考えると、多少は抑えめの服装の方がいいのかもな。
となると。
「あ! じゃー、剣を背負うってのはどうかな?」
背中に背負えばスカートのシルエットは気にしなくてもいいだろう。
上はジャケットを着ているから、今更気にするようなことでもないしな。
この辺だと、剣を背負う者はあまりいないが、それでも特別変わって見られるようなことはないはずだ。
その提案に、セリアーナたちも「確かに」と言った様子で頷いている。
「確かにそれならスカートの崩れを気にする必要は無さそうね」
「ええ。しいて問題を挙げるなら、セラが剣を抜けるか……だけれど、そもそも剣はお飾りだものね」
セリアーナたちはひとしきり話し合うと、またしても服を持って棚へと向かって行った。
別の服を持って来るんだろう。
思い付きで言った剣を背負うっていう案はどうやらこのまま受け入れられそうだな。
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