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 メンバー選別の様子だったり、メンバーの印象だったりをアレコレ話していたが、あんまり話すようなこともないしってことで、すぐに次の話題に移った。


「それで……セラ。貴女たちの出発はいつになるのかしら? こちらの用意はもう完了して、いつ出発でも大丈夫よ?」


 フィオーラには、持って行く分や補充分の魔道具類の用意を頼んでいたんだが、昨日頼んだばかりなのに、もう完了しているようだ。

 仕事が早い!


「出発は明後日の朝を考えてるらしいよ。オレだけなら飛んで行くだけだし、いつでも大丈夫だけど、他の皆は色々手配の必要があるみたいだしね」


 フィオーラの質問に、先程の騎士団本部で聞いた話を思い出しながら答えた。


 騎士団側が予定している出発時刻は、明後日の朝だ。

 今言ったように、俺だけなら【隠れ家】もあるし、適当に荷物を詰め込んでから、すぐに飛んでいくことが可能だ。


 だが、俺以外のメンバーは陸路で移動するし速度も違う。


 初日の目的地までの到着時間を考慮すると、どうしても出発は早めの時間になるし、明日出発では準備が間に合わない……ってことで、明日は準備期間にすることになっている。


「そう……まあ、連れて行くメンバーが今日決まったんだし、準備は必要よね」


「そうですね。今回の調査は必要なことではありますし、あまり時間をかけられませんが、それでも、隊員に無理を強いてまで急ぐことではありませんからね」


「そうだね」


 ただでさえ大雨が降っている中、森を探索するなんて無茶なことをするんだ。

 明後日出発ってのは、妥当なところだろう。


「よし……それじゃー、オレもちょっと準備してくるよ」


「手伝うわ。奥へ行くの?」


 セリアーナがソファーから立ち上がり、俺の準備の手伝いを申し出てきた。

 暇潰しなのかはわからないが、折角手伝ってくれるんだしお言葉に甘えよう。


 俺は自室のドアを指して答えた。


「いや、そっちのオレの部屋」


 後で【隠れ家】にも入るかもしれないが、まずはコッチで用を済ませよう。

 俺は【浮き玉】を浮かすと、自室に向けて動かした。


 ◇


「そのジャケットは着ていた方がいいわね」


「そうですね。【風の衣】があるとはいえ、守りも防寒も備えるに越したことはありません」


 セリアーナだけじゃなくて、部屋にいた皆も結局こちらに移動してきていた。

 何だかんだで、皆暇潰しを探していたんだろうな。

 セリアーナたちは俺の部屋の中で、揃ってアレコレお喋りしながら棚の中を見ている。


 普段はセリアーナの部屋に集まっているが、俺が外出用の準備が必要な際にはよくある光景だ。


 その光景を、窓際のソファーに座って眺めていると、フィオーラが皆から離れてこちらにやって来た。


「セラ、貴女はまだ右足が完治していないのよね?」


「うん。大人しくしてたら平気だけど、動かすとまだ痛むね」


 そう答えると、フィオーラは「そう」と呟いてまた戻っていった。


 基本的に、俺は気温も天候も無視出来るから、その素材の性質から、魔物避けの効果があるオオカミの魔王種の毛皮で仕立てたジャケットのように、何かしら特殊効果があるような物を好んで揃えているんだが……先程からセリアーナたちが広げている服は、どう見てもそんな特殊な効果があるような物ではないただの服だ。


 ジャケットの下に着る用の服を選んでいるわけだし、そもそも服にそんな特殊な効果を求める方が間違っているのかもしれないが……それよりも。


「ねー……なんかまたオレが知らない服とか増えてない?」


 俺はセリアーナたちを見て首を傾げた。


 俺自身は服を買うことは滅多に無いが、セリアーナたちがいつの間にか買っていることはよくあることだし、俺の知らない服が増えていること自体は別におかしいことではない。


 だが、アレはどのタイミングで用意した服なんだろう?

 王都に行っている間に贈られた物があったが、その中に含まれていたのかな?


「これは王都で贈られた物よ。私たちとは別便だったし、お前が見覚えが無くても仕方がないわね」


「なるほど……それは見たことが無くても仕方ない……のかな?」


 自室に把握出来ていない物が増えているのはどうかと思うが……実質管理しているセリアーナたちが把握出来ているんなら別にいいか。


 ふむふむ……と頷いて、服を選び続けるセリアーナたちを眺めていた。


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 明後日からのお仕事用の服選びは、あのままセリアーナたちに任せておいて、俺は装備の確認も兼ねて一人【隠れ家】にやって来た。


 リビングのモニターを点けると、【隠れ家】の外の様子が見えるが、先程と変わらずセリアーナたちが服を広げる姿があった。


 下にどんな服を着ても、最終的に上にジャケットを着ることになるんだが、まぁ……俺もずっと外の調査をするとは限らない。

 調査隊の隊長として、街の代官や顔役と挨拶をする機会があるかも知れないし、一応戦闘用以外の恰好も見せれるようにしておいた方がいいだろう。


「服は任せるとして……こっちはどうしようかな」


 リビングのモニターから目を離して、棚に置いている恩恵品や装備品に目を向けた。


「何があるかわからないし……【緋蜂の針】を着けておいた方がいいかな?」


 普段俺は【緋蜂の針】を右足に、【足環】を左足に着けているが、今は右足を怪我していて激しい運動を避けている。


【緋蜂の針】を身に着けている方がいざという時に安心出来るのはわかっていたし、装備する足の左右を変えてもよかったんだが、そんなことはせずにどちらも外していた。


 絶対右足じゃないと使えない……とかそんなことはないんだが、コンディションが万全じゃない状態で、不慣れな逆足に着けることもないしな。

 だから、先日の魔物の襲撃の際も、俺は【緋蜂の針】抜きで戦っていた。


 だが。


「今度はオレが隊長だしな……。下手に力を温存して、それで被害が出るのはちと困るし……」


 大量の魔物を相手にした場合、【風の衣】と合わせた突撃はとにかく攻撃面でも防御面でも、ついでに牽制でも……何かと使い勝手が良い。

 いつでもバックアップに回れるようにしておきたい。


 少々迷いはしたが、棚の上に保管されている【緋蜂の針】を手に取った。


「……ほっ」


 そして、左足に着けて発動してみる。

 バチバチと音を立てながら左足に【緋蜂の針】が、ロングブーツの姿で発動した。


「ふぬ……違和感は無いね」


 流石に室内で足を振り回すわけにもいかないが、右足で発動していた時と何ら違いは無いように思う。


 どの道俺の【緋蜂の針】の使い方は、大抵足を突き出した状態で突撃しているだけで、左右の感覚の違いなんてあまり関係は無い。


「よいしょ……うん。このまま左足で使っていても大丈夫だね」


 プラプラ左足を振ってみるが違和感も何もないし、急ごしらえではあるが、左足で使っても大丈夫だろう。

 このスタイルは採用だ。


「【緋蜂の針】は持って行くとして……他の恩恵品はどうしようかね? 俺の姿に馴染みのない街に行くわけだし、迂闊な姿を晒すと調査の足を引っ張りかねないよね?」


【妖精の瞳】は論外として、手持ちの恩恵品はどれも発動をしなければそこまで異様な姿にならないんだが、それでもアレコレジャラジャラ身に着けた姿ってのをどう思うかだよな。

 ただでさえ変な玉に乗って浮いている小娘が隊長を務めているんだし、お偉いさんはともかく住民に怪しまれたら駄目だ。


 となると。


「外を移動している間は【妖精の瞳】は発動しておくとして、街に入ったら引っ込めるでしょ? んで、他の恩恵品はジャケットの下に隠して……【足環】は無しだね」


 アレはインパクトがちょっとあり過ぎるからな。

 意外と使い道が多いし、使い勝手も良いから気に入っているんだが、今回は外しておこう。


「それと……一応剣くらいは持っておいた方がいいかな?」


 実際に使うことはないだろうが、仮にも隊長の俺が剣の一本も佩いていないようじゃ、軽く見られるかもしれない。


 俺は物置にしている部屋に移動することにした。


 ◇


 こちらの部屋には、主にアレクやジグハルトの交換用の予備武具を保管しているが、それ以外にも色々目に付いた剣やナイフも一緒に保管していたりもする。


 アレクたちが扱うような剣は、ただ腰に下げておくだけとはいえ俺には大きすぎて、体を動かす邪魔になるが、中には俺に丁度いいサイズの物もある。


 適当にその中からよさげな物をいくつか選んでおくか。


 んで、服と合わせよう!

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