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さて、部屋に入ってすぐに、少々俺たちが話し込んでいたことで進行を遅らせてしまっていたが、お喋りを切り上げて部屋の奥まで移動した。
「待たせたな。1番隊隊長のリックだ。今回諸君らを集めたのは、先日の魔物との戦闘に関連する情報を集めるための、リアーナ領北部の調査を行う調査隊を結成するためだ。その隊の隊長は、こちらの2番隊のセラ副長だ」
リックは、彼から一歩下がった位置に浮いている俺を手で示した。
紹介されたことだし、俺は「こんにちはー」と軽く挨拶をするが、ここに集まっている連中は、当然どういった意図で集められたかは理解しているだろうから、特に動じた様子は見られない。
ついでに、2番隊の兵はもちろんだが、冒険者たちも1番隊の兵たちも、俺のことを侮るような様子もない。
実はこれが一番面倒な点だったりもするんだよな。
流石に俺と行動することに慣れている2番隊の兵なら大丈夫だが、それ以外の者だと、俺は一人で好き勝手に動いていると思われがちで、個人での戦闘だったり伝令役だったりはともかく、一緒に隊として行動出来るかってのが不安らしい。
だが、事前に説明でもしているのか、話は実にスムーズに進んでいった。
◇
今日選ぶことになる調査隊は、既にどういった編成にするかは決まっている。
1番隊から一班を、2番隊から二班を連れていくことになっている。
2番隊の方が数が多いのは、冒険者パーティーのサポート付きとは言え、やはり外を見て回る方が大変だからって判断だろう。
騎士団は一班3人編成だから、俺と冒険者パーティーと合わせて、合計14人で向かうことになるわけだ。
あんまり多過ぎても統制が取れなくなるし、かといって少な過ぎても調査が遅れるし……と考えたら、妥当なところかな?
んで、どうやって選ぶかと言うと、どうも彼等は個人で参加しているのではなくて、普段の任務で組んでいる班でやって来ているらしい。
だから、俺はこの中から三つの班を選べばいいだけだ。
しかし。
兵たちは班ごとに整列しているんだが、これを見ただけでどうしろって言うんだろう?
一応、リックが班の経歴とかを訊ねているが……。
「むぅ……」
「どうした?」
俺が漏らした呻き声を聞いたアレクが、横を向いた。
俺はアレクに高さを合わせると、コソコソと話しかける。
「いやね、リック君が皆に色々質問してるけどさ、全員同じような感じじゃない?」
「そうだな。そもそも騎士団は任務が偏り過ぎないように、満遍なく振り分けるようになっている。1番隊と2番隊とじゃ任務の性質が違うから、必ずしもそうと決まっているわけじゃないが、今回は比較的若い連中が集まっているし、同じような経歴の連中ばかりになるよな」
「……ぬぅ」
アレクの言葉に再度唸り声を漏らす。
ある程度選別されてきた中から、適当に良さそうなのを選ぶだけ……と気楽に考えていたんだが、これはちょっと想定外だった。
だが……言われてみればもっともな話でもある。
リアーナのように新しい領地の騎士団で、その中のさらに若い連中となれば同じような内容ばかりになるか。
「だが、それでも必要な能力は持っている者たちだからな。極端な話になるが、ウチも1番隊もどこを選んでもそう大差は無いはずだ。それこそ、お前の勘で選んでもなんとなるんじゃないか? 各班の細かい調整は、アイツらが間に入ってくれるはずだしな」
アレクはチラッと部屋の壁際に立っている冒険者たちに目を向けた。
4人とも壁にもたれて、くつろいだ様子でリックたちを眺めていた。
彼等は俺たちが視線を向けている事に気付いたのか、俺を見ると「フッ」と笑っている。
その彼等を見て、アレクも「な?」と笑った。
「なるほど……それじゃ、細かいことは任せちゃおうかな……ほっ」
【妖精の瞳】とヘビの目を発動して、並んでいる兵たちを見渡した。
隊員間の面倒ごとは任せても大丈夫そうだし、候補に選ばれるくらいなら、兵たちの人間性とかも問題無いだろう。
それなら、もう適当に腕が立つ者が多くなるように選んでいけばいいんじゃないかな?
「強そうなのはー……と」
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「ご苦労だった。セラ副長と同行する者はこのまま残ってくれ。後の者は下がって構わない」
リックの言葉に、兵たちは「はっ」と一言返すと揃って部屋を出て行った。
部屋に残っているのは、俺たち3人の他には、冒険者たちが4人と俺が選んだ1番隊と2番隊の兵たち9人だ。
俺がこの9人を選んだ理由は、あんまり大したことではない。
比較的身体能力が上位の者が固まっていたとはいえ、ほとんど大差は無かった。
あくまで【妖精の瞳】を通した身体能力面だけしか見れていないから、戦闘だったり調査に関しての総合的な実力はわからないので、いざ実際にどれだけ仕事が出来るのかは、ここでは未知数だ。
とはいえ、彼等の能力が基準をクリアしているからこそ、今回ここに来ていたわけだし、そこら辺に関して心配は無いな。
「セラ副長、何か話はあるか?」
「む? ……そうだね」
てっきりリックが何か話をするために残したのかと思ったんだが、まさか俺にその役目を振られるとは思わなかったな。
油断していたので少々言葉に詰まってしまったが、よくよく考えると、彼等は俺のことをよく知っているだろうし、今更格好つけるようなことはないか。
俺は「ふむ」と頷くと、前を向いて調査隊のメンバーを見渡した。
【浮き玉】に乗って【妖精の瞳】を頭上に浮かばせて、さらにヘビまで生やしている俺の姿に驚いた様子は一切見えない。
冒険者たちもそうだが、彼等も気を遣うような相手じゃないな!
「とりあえず、この隊の目的が何かはわかってるだろうし、特に何かを言うようなつもりは無いけど……オレは毎晩領都に戻るから、そのつもりでいてね!」
俺の言葉に隊のメンバーだけじゃなくて、アレクやリックたちも気が抜けたのか、一瞬部屋が静まってしまったが、すぐにリックが声をかけてきた。
「……それだけでいいのか?」
「いいよ。彼等もオレのことはよく知ってるみたいだし、今更何か言うようなことはないでしょう? 細かいことはリック君たちが説明してよ。あっ……でも、外の探索だとか、拠点でのお偉いさん相手の挨拶くらいはオレもやるから、そこは安心してね」
◇
「ただいまー!」
騎士団本部でのメンバー選別を終えた俺は、残りの細かい説明などはアレクたちに任せて、一足先に屋敷のセリアーナの部屋に戻ってきた。
「……あれ? テレサも戻って来てるんだね。準備はもう終わったの?」
部屋の中を見ると、セリアーナやエレナ、フィオーラに加えて、昼過ぎのこの時間には珍しくテレサも部屋にいた。
彼女は今日は、女性兵たちへの説明会を開く準備とかをしていたはずだが、早く終わったのかな?
「お疲れ様です。説明会に向けての準備ですが……元々彼女たちには訓練の際に何かと話をする機会がありますから、内容自体は既にある程度把握しているんですよ。ですから、準備と言っても実質部屋を用意した程度でしたね」
そう言って、テレサは苦笑していた。
「それで……お前が連れて行く者たちの選別は無事に終わったのかしら?」
「うん。2番隊の隊員と冒険者はもちろんだけど、1番隊の隊員も言うこと聞いてくれそうだし、まぁまぁいいメンバーになったと思うよ?」
「それは結構。そのメンバーはどういう基準で選んだのかしら?」
「適当ってわけじゃ無いけど、実力と勘。あの場でわかるのだと、あんまり大差はなかったしね。アレクたちが設けた基準をクリアしてたんだし、それでいいと思うんだ。纏め役は同行する冒険者たちがやってくれるみたいだしね」
「そう……冒険者はテレサが選んだのよね?」
セリアーナは俺の言葉に頷くと、テレサに視線を向ける。
「はっ。戦士団は例年ですと彼等はこの時期は休暇に入っていますが、姫の任務の補助と伝えると、快く上位の者を派遣していただけました」
「あ……あの人たち、お偉いさんだったんだね」
そりゃー……いくら2番隊がいるとはいえ、騎士団連中が何十人もいる中に4人で放り込まれても堂々としてられるわけだ。
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