650

1372


「お疲れ様、アレク。なんか久しぶりだね」


「……ここ数日顔を合わせていなかったしな。今日のお前の仕事は理解しているか?」


「うん。同行するメンバーを選ぶんでしょう? ずっと一緒に行動するわけじゃないし、オレが指示を出しやすそうな相手を選べって言われたよ」


「ああ、ソレだけで十分だ。まあ、もうすでに俺とリックがある程度篩にかけた結果だしな。能力に関しては問題無い連中ばかりだ。まあ……気楽にやってくれ」


「ほぅほぅ……。まぁ、適当にやるよ」


 本館の玄関ホールで数日ぶりに顔を合わせたアレクと俺は、屋敷の地下通路へ移動しながら、今日行う面談について話をしていた。


 同行する候補の隊員は、簡単にだがプロフィールを纏めた資料が用意されていて、既に俺はそれに目を通している。


 だから、どういった連中が集まっているのかも把握は出来ているんだ。


 1番隊は、街での聞き取り調査がメインになるから、住民に対して威圧的に出ないような者を集めていて、2番隊は、北の森の調査をメインに行うから、冒険者時代は魔境の採集任務が得意だった者を集めている。


 そして、どちらも共通しているのは、比較的若い者たちだということだ。


 要は、俺が遠慮しなさそうな相手ってことを考えたんだろう。


 意外と俺は騎士団の連中相手なら誰が相手でも平気なんだが、そこら辺を考えたのはリーゼルやオーギュスト辺りかもしれないな。

 気遣いはありがたくいただいておこう。


「冒険者ギルドからも誰か来るんだよね?」


「ああ。そちらの人選はテレサも関わっていたから、似たような基準だろうな。そういえば、今日は一緒じゃないのか?」


「うん。ちょっと済ませる仕事があるみたいで、それをやってたよ。終わったら来るって言ってたよ」


 何でも、ルイたち腕利きの女性冒険者が領都にやって来たことで、色々女性兵も仕事の幅が増えるかもしれないそうで、簡単な説明会みたいなものを、時間に余裕のある雨季の間に開くらしい。

 今日はその準備だな。


「そうか……何だかんだで、どこも忙しいな」


「おや? アレクも忙しいの?」


「まあな。ジグさんが一時的とはいえ街を離れただろう?」


「……ジグさんの穴埋めは大変そうだね」


「そうだな。一応……ジグさん抜きでも街の守りは成立するようにはなっているんだが、あの人がいるのといないのとじゃ、やはりな……。これから数日は、俺もあちこちに説明回りだ」


「あぁ……そういうやつね」


 てっきり戦力面での問題かと思っていたが、住民のメンタル面か。

 つい最近も、街のすぐ側で魔物の群れとの戦闘があったんだし、無理もないかな?


 街の治安に関係することだし、どちらかと言えば1番隊の役目なんだろうが、事情が事情だしな。

 まぁ……俺は関わることはないだろうが、皆には頑張ってもらおう。


 俺はそう口にすると、アレクは無言で肩を竦めていた。


 ◇


「来たな」


 地下通路から騎士団本部にやって来た俺たちを、通路を出てすぐの場所で出迎えたのは、部下を連れずに一人で仁王立ちしているリックだった。


「……どうした? こんなところに一人で」


「本部内での出迎えに、部下を連れる必要は無いだろう? 行くぞ。既に揃っている」


 そう言うと、リックは俺たちを待たずにクルっと踵を返して歩き出した。


「まあ……それもそうだな。だが、お前が出迎えに来たってことは何か話があったんじゃないのか?」


 アレクの言葉に、リックは「ふん」と鼻を鳴らすと、歩きながら話を始めた。


「今回のメンバーに、冒険者も含まれるのは聞いているな?」


「ああ。ウチの隊員もいるが、現役の冒険者も必要だろう?」


「それに関しては私も同意している。だが、今回冒険者ギルド側が用意して来たのは戦士団の連中だ。セラ副長は従わせられるのか?」


 リックは胡乱げな視線をこちらに向けている。


 戦士団ってのは、複数の冒険者グループを束ねている組織で、冒険者の中でも割とエリート的な立ち位置にいる連中だ。

 別に仲が悪いとかじゃないが、独自に動けるだけの戦力があるから、騎士団とは別行動をすることも多い。


 だからこそ、俺の手に負えるかどうかがリックは気になったんだろう。


1373


 同行する冒険者について話をしていた俺たちだが、会議室の前にやって来たことで会話を止めた。

 そして、ドアの向こうに意識を向ける。


 メンバーは会議室の中に既に集まっているようで、【妖精の瞳】やヘビの目を発動しなくても、何となく気配は伝わってくる。

 ついでに、中の雰囲気もだ。


 2番隊と冒険者は普段から連携をとることも多いが、今回中にいるのは戦士団の連中だ。

 それに加えて1番隊もいる。

 あまり交流が無い者同士だし、多少はピリピリしていてもおかしくはないんだが、そんな様子は無さそうだ。


 リックも部屋の中の様子を気にしていたようだったが、何の問題も起きていないことにホッとしたのか、一息つくとドアに手を伸ばした。

 そして、ドンドンとドアを叩く。


「1番隊隊長リック、2番隊隊長アレクシオ、2番隊副長セラ。入るぞ」


 そう言ってドアを開くと、中に入って行く。

 俺とアレクも、遅れないようにリックを追って中へと入ることにした。


 ◇


「あぁ……やっぱりか」


「どうかしたのか? セラ副長」


 会議室の中にいる者たちを見回して、思わず出た俺の呟きが耳に届いたのか、リックが振り向いた。


「さっき同行する冒険者のことを気にしてたでしょう? 顔見知りだし、あの人たち皆オレの言うこと聞くから、心配してるようなことはないと思うよ」


 何となく予想は出来ていたけれど、こちらに寄こされた戦士団所属の冒険者は、数年前の街への魔物の襲撃の際なんかに、一緒に戦った顔馴染みの者たちだった。


 彼等とも俺が初めて王都に行った時からの付き合いだし、大分長いよな……。


 騎士団が集めた兵たちに比べると年齢は上だが、俺が指示し辛い……なんてことは起きないだろう。

 むしろ、同行する他の兵たちに睨みを利かせる、俺のサポート役なのかもしれない。


 ……と言うよりも、テレサが関わっていたそうだし、多分そうなんだろうな。


 部屋の中を見ると、1番隊と2番隊と冒険者たちとでグループになって分かれている。

 冒険者たちとは2番隊も距離を保っているし、何となくお互いに緊張しているようだ。


 俺はアレクたちのもとを離れて彼等に近づいて行くと、冒険者の一人が近付く俺に気付き声をかけてきた。


「よう、姫さん」


「お疲れ様。そっちからは四人が参加するの?」


「ああ。他の連中は休暇だな。この間の街の外での戦闘は、若い冒険者や騎士団が中心だったから遠慮していたんだが、ウチの出番はほとんど無かったし……少しは働いておこうと思ってな」


「あぁ……どちらかと言うと、あの時の参加者は個人が多かったしね」


 彼が言っているのは、ルイたちが声をかけていた冒険者たちだろう。


 全員の顔は見れていないが、それでもあんまり見覚えの無い連中だったし、まだリアーナに来て日が浅い連中も多かっただろうし、どこかの所属って感じじゃなかった。


 冒険者ギルドからしたら、それはそれで突発的な事態にも対応出来るってアピールにもなるが、戦士団みたいな大規模な組織を組んでいる側からしたら、領内の魔物絡みの対処の一端を任されているわけだし、少しは貢献しようってところか。


 だが。


「それにしては、ちょっと面倒くさそうな役割だよね?」


 貢献ってだけなら、所属している冒険者を送り込んできたらよかったのに、調整役というかお目付け役というか……戦闘や調査以外の役割を請け負わなくてもいいだろうに。


 俺の言葉に四人は顔を見合わせると、苦笑しながら肩を竦めた。


「まあ……それはそうなんだがな。テレサ様直々に命じられたし、そもそもアンタには借りがあるんだ。2番隊の連中とは付き合いがあるし、大した問題じゃねえよ」


「そっか……。まぁ、よろしくね!」


 ◇


「随分親しいようだな?」


 冒険者たちとの話を終えて、再びアレクたちの元に戻ってきた俺を見て、リックが怪訝な表情を浮かべている。

 俺が直接戦士団の連中とやり取りする機会は少ないし、いつの間に……とでも思っているんだろう。


「アイツらは王都圏出身だ。昔奥様のお付きで王都に滞在していた時に知り合ったんだよ」


 と、アレクが説明をしている。


 王都での一件は内々に収めたし、知っている者はほとんどいないもんな。

 無理もない。


 俺はリックに上手くはぐらかしながら説明をするアレクを眺めて、そんなことを考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る