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「お疲れ様、アレク。なんか久しぶりだね」
「……ここ数日顔を合わせていなかったしな。今日のお前の仕事は理解しているか?」
「うん。同行するメンバーを選ぶんでしょう? ずっと一緒に行動するわけじゃないし、オレが指示を出しやすそうな相手を選べって言われたよ」
「ああ、ソレだけで十分だ。まあ、もうすでに俺とリックがある程度篩にかけた結果だしな。能力に関しては問題無い連中ばかりだ。まあ……気楽にやってくれ」
「ほぅほぅ……。まぁ、適当にやるよ」
本館の玄関ホールで数日ぶりに顔を合わせたアレクと俺は、屋敷の地下通路へ移動しながら、今日行う面談について話をしていた。
同行する候補の隊員は、簡単にだがプロフィールを纏めた資料が用意されていて、既に俺はそれに目を通している。
だから、どういった連中が集まっているのかも把握は出来ているんだ。
1番隊は、街での聞き取り調査がメインになるから、住民に対して威圧的に出ないような者を集めていて、2番隊は、北の森の調査をメインに行うから、冒険者時代は魔境の採集任務が得意だった者を集めている。
そして、どちらも共通しているのは、比較的若い者たちだということだ。
要は、俺が遠慮しなさそうな相手ってことを考えたんだろう。
意外と俺は騎士団の連中相手なら誰が相手でも平気なんだが、そこら辺を考えたのはリーゼルやオーギュスト辺りかもしれないな。
気遣いはありがたくいただいておこう。
「冒険者ギルドからも誰か来るんだよね?」
「ああ。そちらの人選はテレサも関わっていたから、似たような基準だろうな。そういえば、今日は一緒じゃないのか?」
「うん。ちょっと済ませる仕事があるみたいで、それをやってたよ。終わったら来るって言ってたよ」
何でも、ルイたち腕利きの女性冒険者が領都にやって来たことで、色々女性兵も仕事の幅が増えるかもしれないそうで、簡単な説明会みたいなものを、時間に余裕のある雨季の間に開くらしい。
今日はその準備だな。
「そうか……何だかんだで、どこも忙しいな」
「おや? アレクも忙しいの?」
「まあな。ジグさんが一時的とはいえ街を離れただろう?」
「……ジグさんの穴埋めは大変そうだね」
「そうだな。一応……ジグさん抜きでも街の守りは成立するようにはなっているんだが、あの人がいるのといないのとじゃ、やはりな……。これから数日は、俺もあちこちに説明回りだ」
「あぁ……そういうやつね」
てっきり戦力面での問題かと思っていたが、住民のメンタル面か。
つい最近も、街のすぐ側で魔物の群れとの戦闘があったんだし、無理もないかな?
街の治安に関係することだし、どちらかと言えば1番隊の役目なんだろうが、事情が事情だしな。
まぁ……俺は関わることはないだろうが、皆には頑張ってもらおう。
俺はそう口にすると、アレクは無言で肩を竦めていた。
◇
「来たな」
地下通路から騎士団本部にやって来た俺たちを、通路を出てすぐの場所で出迎えたのは、部下を連れずに一人で仁王立ちしているリックだった。
「……どうした? こんなところに一人で」
「本部内での出迎えに、部下を連れる必要は無いだろう? 行くぞ。既に揃っている」
そう言うと、リックは俺たちを待たずにクルっと踵を返して歩き出した。
「まあ……それもそうだな。だが、お前が出迎えに来たってことは何か話があったんじゃないのか?」
アレクの言葉に、リックは「ふん」と鼻を鳴らすと、歩きながら話を始めた。
「今回のメンバーに、冒険者も含まれるのは聞いているな?」
「ああ。ウチの隊員もいるが、現役の冒険者も必要だろう?」
「それに関しては私も同意している。だが、今回冒険者ギルド側が用意して来たのは戦士団の連中だ。セラ副長は従わせられるのか?」
リックは胡乱げな視線をこちらに向けている。
戦士団ってのは、複数の冒険者グループを束ねている組織で、冒険者の中でも割とエリート的な立ち位置にいる連中だ。
別に仲が悪いとかじゃないが、独自に動けるだけの戦力があるから、騎士団とは別行動をすることも多い。
だからこそ、俺の手に負えるかどうかがリックは気になったんだろう。
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同行する冒険者について話をしていた俺たちだが、会議室の前にやって来たことで会話を止めた。
そして、ドアの向こうに意識を向ける。
メンバーは会議室の中に既に集まっているようで、【妖精の瞳】やヘビの目を発動しなくても、何となく気配は伝わってくる。
ついでに、中の雰囲気もだ。
2番隊と冒険者は普段から連携をとることも多いが、今回中にいるのは戦士団の連中だ。
それに加えて1番隊もいる。
あまり交流が無い者同士だし、多少はピリピリしていてもおかしくはないんだが、そんな様子は無さそうだ。
リックも部屋の中の様子を気にしていたようだったが、何の問題も起きていないことにホッとしたのか、一息つくとドアに手を伸ばした。
そして、ドンドンとドアを叩く。
「1番隊隊長リック、2番隊隊長アレクシオ、2番隊副長セラ。入るぞ」
そう言ってドアを開くと、中に入って行く。
俺とアレクも、遅れないようにリックを追って中へと入ることにした。
◇
「あぁ……やっぱりか」
「どうかしたのか? セラ副長」
会議室の中にいる者たちを見回して、思わず出た俺の呟きが耳に届いたのか、リックが振り向いた。
「さっき同行する冒険者のことを気にしてたでしょう? 顔見知りだし、あの人たち皆オレの言うこと聞くから、心配してるようなことはないと思うよ」
何となく予想は出来ていたけれど、こちらに寄こされた戦士団所属の冒険者は、数年前の街への魔物の襲撃の際なんかに、一緒に戦った顔馴染みの者たちだった。
彼等とも俺が初めて王都に行った時からの付き合いだし、大分長いよな……。
騎士団が集めた兵たちに比べると年齢は上だが、俺が指示し辛い……なんてことは起きないだろう。
むしろ、同行する他の兵たちに睨みを利かせる、俺のサポート役なのかもしれない。
……と言うよりも、テレサが関わっていたそうだし、多分そうなんだろうな。
部屋の中を見ると、1番隊と2番隊と冒険者たちとでグループになって分かれている。
冒険者たちとは2番隊も距離を保っているし、何となくお互いに緊張しているようだ。
俺はアレクたちのもとを離れて彼等に近づいて行くと、冒険者の一人が近付く俺に気付き声をかけてきた。
「よう、姫さん」
「お疲れ様。そっちからは四人が参加するの?」
「ああ。他の連中は休暇だな。この間の街の外での戦闘は、若い冒険者や騎士団が中心だったから遠慮していたんだが、ウチの出番はほとんど無かったし……少しは働いておこうと思ってな」
「あぁ……どちらかと言うと、あの時の参加者は個人が多かったしね」
彼が言っているのは、ルイたちが声をかけていた冒険者たちだろう。
全員の顔は見れていないが、それでもあんまり見覚えの無い連中だったし、まだリアーナに来て日が浅い連中も多かっただろうし、どこかの所属って感じじゃなかった。
冒険者ギルドからしたら、それはそれで突発的な事態にも対応出来るってアピールにもなるが、戦士団みたいな大規模な組織を組んでいる側からしたら、領内の魔物絡みの対処の一端を任されているわけだし、少しは貢献しようってところか。
だが。
「それにしては、ちょっと面倒くさそうな役割だよね?」
貢献ってだけなら、所属している冒険者を送り込んできたらよかったのに、調整役というかお目付け役というか……戦闘や調査以外の役割を請け負わなくてもいいだろうに。
俺の言葉に四人は顔を見合わせると、苦笑しながら肩を竦めた。
「まあ……それはそうなんだがな。テレサ様直々に命じられたし、そもそもアンタには借りがあるんだ。2番隊の連中とは付き合いがあるし、大した問題じゃねえよ」
「そっか……。まぁ、よろしくね!」
◇
「随分親しいようだな?」
冒険者たちとの話を終えて、再びアレクたちの元に戻ってきた俺を見て、リックが怪訝な表情を浮かべている。
俺が直接戦士団の連中とやり取りする機会は少ないし、いつの間に……とでも思っているんだろう。
「アイツらは王都圏出身だ。昔奥様のお付きで王都に滞在していた時に知り合ったんだよ」
と、アレクが説明をしている。
王都での一件は内々に収めたし、知っている者はほとんどいないもんな。
無理もない。
俺はリックに上手くはぐらかしながら説明をするアレクを眺めて、そんなことを考えていた。
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