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差し当たっての服装を選び終えたところで、再び俺の部屋からセリアーナの部屋へと場所を移した。
俺が勝手に注文を増やしてしまったことで、何度かやり直す羽目になっていたが、その諸々の問題も解決したみたいだし、先程選んだ分で大丈夫だろう。
それに、いざとなれば毎晩屋敷には戻ってくる予定だし、何か活動に支障が出るようなら、その都度変更していけばいいからな。
ってことで、服に関してはコレで一先ず終了だ。
さて。
服を選んだことだし、後は夜まで部屋でのんびり過ごすってのもありなんだが……。
「とりあえず、そこで抜いてみなさい」
セリアーナは部屋の中央を指してそう言ってきた。
俺は「はーい」と返事をすると、セリアーナが指した場所に移動して、【猿の腕】を発動した。
普段俺は【猿の腕】を肩から横に延びるように発動していた。
だが、今は肩から真上に延びるように発動する。
「よいしょ」
短く掛け声を出すと、その肩から伸ばした【猿の腕】で背負った剣の柄を掴む。
そして、慎重に曲げた【猿の腕】を真っ直ぐに伸ばしていく。
俺が今背負っているのは、一般的な剣よりは刃が短いが、ナイフよりは長いという、所謂ショートソードだ。
コレは俺には丁度いいサイズなんだが、服のデザインが崩れるからってことで、腰に帯びずに背負うスタイルを採用している。
剣を背負うと俺だけでは鞘から引き抜くのは難しいが、【猿の腕】があるし問題無い。
「ちゃんと抜けるようね」
引き抜いた剣を前に持って行き、自分の手で持つと、セリアーナたちに見せるように掲げた。
「まぁ……腕を動かすのは大分練習したからね。これくらいは簡単だよ」
「それは結構。お前がその剣を使う機会はまず無いと思うけれど、それでも万が一その機会が訪れた際に、剣を抜けないような姿を外の者に見られたら困るものね」
「それは本当だよね……」
俺がこの剣を抜くってことは、【影の剣】を発動出来ない状況だろう。
そんなのは、ウチの兵や冒険者以外の者が周りにいるって状況くらいだし、きっと街中だ。
まず無いだろうが、もしそんな事態に遭遇して、対処しないとってなった時に「剣が抜けない!!」なんて、カッコ悪すぎるよな。
そもそも、俺たちが服装も含めてアレコレ工夫をしているのは、街の住民に見た目で侮られたり不信感を持たれないようにするためなのに、そのせいで台無しになるんじゃ、本末転倒もいいとこだ。
「そういえばさ」
「どうしました?」
俺は剣を【猿の腕】に移して、鞘に戻そうとしていたが、ふと疑問が一つ浮かんだ。
「あんまり剣を背負っている人って見ないけど、何か理由があるのかな? 使いにくいからとか?」
確かに出し入れは面倒ではあるが、その分足の動きの妨げにならないし、走り回るのには良さそうなんだが、剣を背負っている冒険者を見た記憶がない。
槍や弓を背中に回している者はたまに見るが……と訊ねると、エレナが「そうだね」と頷きながら口を開いた。
「理由は色々あると思うよ? 君が今言ったようなこともあるし、それ以外にも、例えば採集した素材などを入れる袋を背中に背負っている場合もあるでしょう?」
「……あぁ」
大きめの袋を背負っていたら、それが背中全体を覆ってしまうし、剣を抜くときも袋を下ろす時も、どっちも邪魔になってしまうよな。
魔物がどこにいるかわからない狩場で、そんなことに気を取られたくはないか。
エレナの言葉に「なるほどなー……」と納得していると、なぜかセリアーナたちも、俺と同じような顔で頷いていた。
今のはどちらかと言うと、冒険者の豆知識みたいなものだったし、セリアーナたちにとっても縁遠い知識だったんだろうな。
ともあれ、剣を背負うってのがあまり一般的ではない理由は理解出来たが……今回俺は何かを背負うようなことはないし、剣を背負ってもおかしくは見えないよな?
「少し窮屈そうに見えるわね」
俺が背中の剣を気にしていることがわかったのか、セリアーナが後ろに回り込みそう言うと、テレサも「ええ」と言って手を伸ばしてきた。
「姫、剣を預かります。出発までにベルトの調整を済ませておきますよ」
「お……うん。お願い」
ちょっと考えていたことと違うが、よくしてくれるんなら任せていいか。
俺は返事をすると、剣を外してテレサに渡した。
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「あいたたた…………もうちょい緩く……」
「痛むのならもう少し抑えめにしてもいいんじゃなくて? 明日は地下訓練所で左足を試すんでしょう?」
背中を押すセリアーナに、もう少し弱く……と訴えると、彼女は苦笑しながら背中を押す勢いを緩めてくれた。
「うんうん。明日は訓練で疲れてるかもしれないし、明後日以降は一応夜に帰って来る予定だけど、慣れない調査と移動で疲れてるかもしれないからね。今日のうちにしっかり解しておこうと思ってさ」
「そう……それなら仕方ないわね。続けるわよ」
「あいたたたっ……!?」
再び背中を押され始めて、俺は声を上げた。
昼間の服や剣選びを終えた俺たちは、そのまま夕食を終えるまでセリアーナの部屋で過ごした。
普段なら、そのまま部屋なり1階の談話室なりで集まってお喋りをするんだが、明日も色々あるからと、今日は早めのお開きとなった。
とは言え、まだまだ眠るには早い時間帯だということもあって、俺は日課のストレッチをセリアーナに手伝ってもらいながら行っていた。
明日は【緋蜂の針】を左足に着けて、慣れるための訓練を地下の訓練所で行うし、明後日からは領内北部の調査に出かけることになっている。
いくら日帰りだとはいえ、【祈り】が無い状態で慣れない作業を行わなければいけないし、帰って来た時には疲れ果てているかもしれない。
だからこそ、今日のうちにしっかりと体を解しておかないとな!
ストレッチは、その後じっくりと1時間ほど続いた。
◇
さて、服やら剣やらの装備を選んだ日から、明けて翌日。
今日、俺たちは地下訓練所に集まっていた。
俺がここに来た目的は、出発前に左足での【緋蜂の針】の扱いに慣れるためで、フィオーラは的を魔法で設置するためのサポート役として、付き合ってくれている。
他の三人は……暇だったのかな?
ともあれ……。
「ほっ!」
フィオーラが設置した的が並ぶ前で、【浮き玉】に座ったまま【緋蜂の針】を発動した。
「それじゃー、やるよ!」
俺の声に合わせて、皆はその場から一歩ほど下がる。
「よいしょっ!!」
左足を前に突き出して、的目がけて突進した。
まずはその突進の勢いのままに的を一つ砕くと、その場で一回転。
今度はその回転に合わせて、周りの的を蹴り砕く。
「ちょっと!?」
「あぁ、ごめんね。もう少し下がった方がいいかも!」
この的はいくら魔法で作られているとはいえ、その素材は地下訓練場の乾いた土だ。
砕けば土になって宙に舞うし、今のように足を振り回していたら周囲に飛び散ってしまうだろう。
俺は【風の衣】があるから土埃がどれだけ飛び散っても問題無いんだが……周りはそうじゃない。
一応下がってもらっていたが、まだ足りなかったようだ。
一旦【浮き玉】を止めると「大丈夫だったかな?」と後ろを振り返った。
だが、セリアーナたちの周りはしっかりと風の魔法で払っていたようで、彼女たちを中心に土埃が吹き飛ばされている。
「あ、大丈夫そうだね」
予想外の出来事に驚いて、ついつい声を上げてしまったんだろう。
照れ隠しなのか、セリアーナは少しムッとした表情を浮かべているが……まぁ、いいか。
「後ろから見てどっか変なとこあった?」
一旦動きの流れが途切れてしまったし、皆に後ろから見ていた感想を聞くことにした。
「無かったわ。【足環】を使わなくても自然に動けていたわね」
「セラは【足環】を手に入れる前から今のようなスタイルで戦っていましたから……。勘は鈍っていないようですし、安心しましたね」
セリアーナとエレナがそう言えば、テレサたちも「問題無い」と頷いていた。
だが、フィオーラが一歩前に出ながら口を開いた。
「結局は【浮き玉】の操作にかかっているわけだし、的が相手なら、左右逆にしても大きな問題にはならないはずよね。それよりも……セラ、向こうへ」
「ほ? うん」
フィオーラの指示に従って、彼女が指した場所に移動していくと……。
「おわっ!?」
小さな魔法の礫を放って来た。
防ごうと右足を構えたが、威力は大したことが無かったようで【風の衣】に弾かれている。
「……びっくりした。なに?」
そうフィオーラに視線を向けると、彼女はこちらを指して「それよ」と言った。
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