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「こちらの牢に先程の商人の護衛に雇われていた者たちが入っています。武器や装備は取り上げていますが、気を付けてください」
「暴れた?」
「いえ。ですが、その気になればこちらに被害を出せるくらいの腕はあります」
昨日パッと見た感じ、そこまで強そうな気配は無かったが、それでもリアーナ領で護衛をやるような冒険者だ。
それなりに腕が立つんだろうし、俺が恩恵品とかで見る以上の実力があってもおかしくはないってことかな?
そんな連中が、問答無用で牢に放り込まれているんだ。
商人と違って、こっちは暴れる可能性があるってことだな?
「わかった。気を付けるよ!」
この話し声が牢の中に聞こえているかもしれないが、別に聞かれて困ることじゃないしな。
むしろ、これで大人しくしてくれるのなら却って好都合だろう。
とりあえず舐められないように……ちょっと気合いを入れようかな!
だが。
「落ち着け。仮に暴れたとしても、その場合アンタには届かないだろう? 気を付けるのは俺たちだ」
「む?」
背後から声をかけてきた2番隊の兵の言葉に振り向いた。
「副長を攻撃したところで無意味だってのは、昨日外での戦闘を見たならこいつらもわかっているさ。それよりも、俺たちを潰した方が逃げられる可能性が高いからな。まあ……後れを取るつもりはないが、アンタは大人しくしていてくれよ? 折角囚えているのに、殺されでもしたらたまったもんじゃ……」
「んな真似しねぇよ……! 聞きたいことがあるならさっさと入ってきてくれ」
兵の言葉を遮るように、牢の中から声が聞こえてきた。
「……聞こえてたみたいだね」
「だな。まあ、大人しくなるんならそれでいいさ。俺から入る」
彼はそう言うと、鍵を受け取って扉に向かった。
しっかり剣を抜いているし、油断はしていないな。
俺は三人からさらに一歩下がって、扉を開けるのを待つことにした。
◇
入った牢では、一人の冒険者が腕に木枷を嵌められたままベッドに腰掛けて、牢に入って来る俺たちに顔を向けていた。
当たり前と言えばそうだが、さっきの商人のおっさんよりは警戒されているようだ。
反対側の牢と同じくこちらも真っ暗で、照明の魔法を撃ちこむと眩しそうに顔をしかめている。
「っ……よう……蛇姫さん。そいつら従えているってことは、あんたここの領主夫人の専属冒険者ってだけじゃないんだな」
「おや? それはもう大分昔の事だね。ちょっと情報古くない?」
こいつらの情報が古いことはどうでもいいとして、それよりもボコボコにされているわけじゃないが、頬や口の端に痣や傷が出来ている。
「こっちはちょっと殴られたみたいだね? 暴れたの?」
そんな報告はなかったと思うんだが……どうなんだろう?
首を傾げながら男に向かってそう訊ねると、苦々しい表情を浮かべている。
「ちげーよ……。問答無用で牢に放り込まれたら抵抗くらいするだろ。雇い主ならともかく、俺たちは指示に従っただけだぜ?」
「言わんとすることはわからなくもないけど、そこら辺はオレに言っても仕方ないよ。それに、実際街を結構危ない目に遭わせたわけだしね。大人しくしときなよ」
俺の言葉に舌打ちをしているが、どうやら男もこの処遇には納得しているようで、それ以上何も言わずに黙っていた。
◇
手前の牢に繋がれている冒険者の様子を見てから、さらに残りの冒険者たちの牢も見ることにした。
どいつも初めの男と似たような態度で、不満はあっても、とりあえず今の状況に納得はしているようだ。
全部見なくてもいいかな……という気もしたが、どうせ大した時間を使う訳でもないし折角だ。
ここは全員の顔を一通り拝んでおこう。
ってことで、同じようなやり取りを繰り返すこと数度。
ようやく最後の牢の前にやって来た。
扉を開けさせて、暗い牢の中に照明の魔法を放り込む。
そして、まずは兵が中に入り、その後に俺が続いて行き、木枷を嵌められた男に向かって声を……かけようとしたが。
「まっ!?」
「待って」という間もなく、アカメたちが牢の中の男に向かって攻撃を仕掛けた。
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「うおおっ!?」
ヘビたちの不意打ちを察したのか、慌ててベッドの上に立ち上がると、回避するためにそこから飛び退った。
その拍子に木枷が床に落下して、重い音を立てている。
音から見るに、木枷は頑丈に作られているだろうが……どうやって外したんだ?
驚いて目を丸くしていると、男は壁を蹴って牢の中にいる兵たちを飛び越えようとした。
「くそっ!!」
「副長、下がれ!」
ウチの兵たちは俺を下がらせて、自分たちでどうにかしようとしているが……。
「よいしょっ!」
【蛇の尾】を発動してこちらに向かってくる男を叩き落とすと、床に叩きつけられた男は「ぐはっ!?」と一声漏らした。
起き上がろうとするが、その前にウチの兵たちが上から取り押さえて、その動きを封じる。
大の男三人にのしかかられているんだ。
木枷のように外すわけにはいかないし、今度は動きようが無いだろう。
それよりも。
「折角オレが加減したんだから、押しつぶしちゃわないようにね?」
エキサイトして死なせられたら面倒だ。
冷静になるようにと、男たちを眺めながら一言かけた。
「わかっています。おい、新しい枷を……」
1番隊の兵が男を取り押さえたまま、牢の監視をしていた兵に新しい木枷を取りに行かせた。
男はどうにか抜け出そうともがいているが、出来るわけないし無視していいだろう。
男のことは無視して、俺は床に転がっている割れた木枷を手に取った。
「……内側から割れてるね。腕力でやるのは無理だよな?」
木枷は、腕を嵌める穴の内側から裂けるように割れている。
出来る出来ないはともかく、例えば床や壁に叩きつけて割ったって言うんなら理解出来るんだが、穴の内側からだもんな。
「ふーむ……魔法……かな? どう?」
男は俺の言葉に答えはしないが、一番最初に反応したのはうちのヘビたちだし、加護や恩恵品を隠し持っていたってことは無いはずだ。
昨日捕らえられてから、とりあえず状況の把握と脱出の隙を窺っていたってところかな?
俺たちを見て、「行ける!」って思ったんだろうけれど、甘かったな!
男は抜け出すのを諦めたのかようやく大人しくなったが、先程の俺の問いかけには答える気は無いようで、口を閉ざして俺を睨んでいる。
「まぁ、いいや。もしかしたらコイツが何か知ってるかもしれないし、尋問しといてよ」
等と言っていると、牢の外から複数人の足音が響いてきた。
先程木枷を取りに行った兵と、念のための応援だろう。
人が増えるんなら俺がここにいても仕方がないし、そもそも思い付きで立ち寄っただけだ。
特別用事があるわけでもないし、そろそろここを離れようか。
でも、その前に。
「やって」
ヘビたちに男へ攻撃するように命じた。
「ぐぁっ!?」
男は呻き声を一つ漏らして、ガクッと頭を下げた。
「……何をしたんだ?」
「うん? 気を失っただけだよ。またなんかされたら面倒でしょう? とりあえず魔力だけ減らしておこうかと思ってね」
「なるほど……そりゃ助かる。おい、やってくれ」
2番隊の兵が、男の両腕を前に突き出して、その腕に木枷が嵌められた。
そして、警戒のためか、新たにロープで腕と脚を縛られている。
魔力はゴッソリ奪ったし、とりあえず再尋問する間は大人しくなっているだろう。
「こいつが何をしたかったのかはまだわからないけど、とりあえずこれから冒険者ギルドに向かうし、団長たちに伝えておくよ」
俺は男の様子を見て「うむ」と頷くと、兵たちに向かってそう言った。
◇
さて、ひと騒ぎあった騎士団本部から、今度は街に繋がる地下通路に入って冒険者ギルドに向かっているんだが、やって来た時と違って同行人が一人いる。
騎士団本部に詰めていた、1番隊のお偉いさんだ。
ちなみに、先程の現場には、部屋で仕事を片付けていたため立ち会っていなかったが、同行は彼自身が名乗り出た。
「……わざわざついて来なくてもいいのに」
俺の言葉に、彼は首を横に振って答えた。
「いえ、不在を任されているのに牢で騒ぎを起こしてしまったのです。せめて団長や隊長に直接伝えなければ……」
まぁ……責任者ってのはそんなもんなのかな?
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