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 フィオーラによる恩恵品のお手入れ&検査はあれからも続いたが、無事どれも問題無しとお墨付きをもらえた。


 一つ二つじゃなくて、大量にある俺の恩恵品全部を見るのは、いくらフィオーラでも大変だろうと思ったが。


「これだけの種類を見比べる機会というのもなかなかないし、いい勉強になったわね」


 謙遜ではなくて、割と本気の声色でそう言っているし、多分本音だろう。


「ありがとー。恩恵品は、使えなくなるとどれも困るからね。助かったよ」


 俺がそう言うと、フィオーラは「フフ……」と笑っている。


「大抵恩恵品を所持している者は、大事に抱え込むから、あまり表に出るようなことは無いのだけれど、貴女は普段使いするものね。自分でも手入れはしているようだけれど、ひと月に一度は私に見せなさい」


 物にもよるが、恩恵品はどれも家宝や国宝みたいな扱いをされることが多い代物だ。


 どれも手に入れて数年しか経っていないが、使用回数は由緒あるお家に代々伝わるような恩恵品にだって引けを取らないはずだ。

 今は狩りをお休みしているが、足が治ればまた狩りに出るし、今後も使用回数は増えていくだろう。


 恩恵品のメンテナンスとフィオーラの知識欲の両方が満たせるし、いいことだ。

 ありがたいありがたい。


 フィオーラに感謝しながら手入れ道具を片付けていると、部屋のドアがノックされた。

 今回もエレナがドアを開けに行くと、使用人の声が聞こえてきた。


「失礼します。皆様の昼食の用意が出来ましたが、こちらに運びますか?」


 そういやそんな時間だったな。

 セリアーナは「それでいい」と言っているし、すぐに運ばれて来るだろう。

 その前に、急いで全部片づけないとな!


 俺は「よいしょっ」と気合いを入れて道具を持ち上げると、部屋へと運んで行った。


 ◇


「ふーむ……何するかなぁ」


 皆で昼食を食べた後は、またも部屋で揃ってのんびりとしている。


 テレサとフィオーラも、午前と違って仕事は入っていないようで、今日はこのままここで過ごすらしい。

 俺も彼女たちに合わせて、ここでのんびりしていてもいいんだが……なまじ昨日動き回ったからか、何となく今日も動きたい気分だったりする。


「何かやることない?」


 ソファーをゴロゴロしながら、皆に向かってそう訊ねた。


 俺の唐突なその言葉に、皆は「?」といった様子で顔を見合わせた。


「何か……って、何をしたいんだい?」


「んー……なんでもいいけど、ちょっと動きたいかな? 今日は部屋でゴロゴロする気分じゃないね」


「またワガママを……。お前は雨は関係ないし外に出ても構わないけれど……今日はまだ止めておいた方がいいわね」


 セリアーナは体を起こした俺を見て、額を押さえながらそう言うと、テレサも頷いた。


「そうですね。昨晩の情報がそろそろ住民に伝わっているでしょうし、彼等は姫と違い、外に簡単に出ることは出来ませんからね。不安を煽るだけにしかなりかねません」


 街のすぐ側でいつの間にか魔物と戦闘が行われていた翌日で、尚且つ雨が降っている中俺が街の上空を飛んでいたら、それを見た住民はテレサが言うように、まだ何かあるのか……と不安に思うだろう。


 納得だ。


「地下訓練所なら空いているけれど……お前の今の足では無理よね」


「そうだね。まぁ……足を使えない状態での訓練とかでもいいとは思うけど、それもすぐ不要になるだろうしねぇ」


 俺が頻繁に怪我をするんだったらそれも意味はあるだろうが、俺が怪我をするなんて、年に一度有るか無いかってレベルだ。

 流石にそんな訓練をするのは意味が無さ過ぎる。


 いくら動きたいとは言え、それはちょっと遠慮したいな。


 そう言って「ぬぬぬ」と唸っていると、ふとフィオーラが思いついたように口を開いた。


「地下通路なら構わないんじゃないかしら? 研究所にいくつか言付けしたいことがあるし、それを任せたいわ」


「ああ……それなら各所への遣いを任せようかしら。執務室に行けば他にも頼まれるんじゃない?」


「騎士団本部とか冒険者ギルドへのお遣いだね」


 いい気分転換にもなりそうだし、有りだな!


 俺は首を縦に振って、引き受けると答えた。


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「お疲れ様ー」


 リーゼルの執務室に入ると、中では昨日と同様に忙しそうに皆が働いていた。

 ただし、顔ぶれは大分違っている。


 昨日は、冒険者ギルドや商業ギルドを始めとした、外部の者も多く出入りしていたが、今日は普段から屋敷で働いている文官たちだけだ。


 ……オーギュストもいないな。

 アレクもまだ戻って来ていないし、本部の方が忙しいのかもしれないな。


「セラ副長、本日はどうかされましたか?」


「お? うん……」


 部屋に入ってすぐのところで、オーギュストを探してキョロキョロしていたが、部屋の文官の一人に声をかけられた。


「ちょっと外にお使いに行くんだけど、そのついでにこっちでも何かないかなって思ってさ。一応、研究所と騎士団本部と冒険者ギルドに行く予定なんだけど……何かある?」


「お使いですか……少々お待ちください」


 彼はそう言うと、サッとリーゼルたちがいる方へ歩いていき、周りの者たちを集めている。

 そして、彼等の話し合いをしばし見守っていると。


「セラ君、いいかい?」


 リーゼルが手を上げた。

 その手には、丸められた紙が握られている。


「ほいほい。何かあるかな?」


「ああ。商業ギルドに届けて欲しい書簡がある。それと、各所で今のように伝令役を頼まれてもらえないか? 昨晩の消費した物資や、その補充物資を動かすのに、支部長の承認が必要になる場合があるんだ。既定の手続きを行うと、どうしても手間がかかってしまうからね」


「……あぁ、オレなら直接届けられるからね」


 俺はリーゼルが差し出してきた書簡を受け取りながら、「了解」と伝えた。


 やることは通路の移動に過ぎないが、それでもあちこち顔を出せるし、気分転換には丁度いいだろう。


 ◇


 さて、リーゼルからの依頼も引き受けた俺は、まずは屋敷の地下通路を通って魔道研究所に向かった。


「お疲れ様。これ、フィオさんからだよ」


 中に入ると昨日とほぼほぼ同じ顔触れの職員たちが、忙しそうに木箱だらけの部屋の中を動き回っている。


 昨晩俺がやって来た時も部屋中木箱だらけだったが、あれは調査のために商人たちの荷物を運び込んでいたからで、それはもう朝のうちに片付いていたはずだ。


 ……これは一体?


 とりあえず、手近にいた一人にフィオーラからの手紙を渡すついでに、何事かを訊ねることにした。


「部屋中荷物だらけだね。コレはどうしたの?」


「副長、お疲れ様です。これは……冒険者ギルドからですね。大半の魔物は解体に回しているんですが、その中から各種の目ぼしい個体が運び込まれているんです。それと、セラ副長も参戦したのならご存じでしょうが、アンデッドが出ていたでしょう? それに関する物もです」


「なるほど……魔物の死体ね」


 そう呟いて、木箱の山に目を向けた。


 今回の件は、商人たちが北の森の奥にいる魔物を引っ張って来たってのと、その引っ張ってこられた魔物たちから威圧されるような形で、浅瀬寄りに生息する魔物も押し出されてきたっていう、あくまで外的要因で起きた事件だと見ている。


 だが、魔物自体に何か異変が起きての行動だって線も考えて、襲って来た魔物各種をそれぞれ調べてみようってことなんだろう。


 しかし……。


「アンデッドは全部処理したって聞いたけど、アンデッドの死体もあるのかな?」


 元々死体だし、ちょっとやそっとの損壊じゃ動きかねないってことで、ヘビはもちろんサルのアンデッドも全部処理していたはずだ。


「いえ、それは全て灰になっていますが……今朝回収してきたそうです。それと、その周りの土もです」


「……なんとっ!?」


 死体どころか灰と土までもか。

 それは、回収を命じられた兵たちも大変だったろうな……。


 それを聞いて驚いている俺を他所に、彼は「失礼します」と一言断って、手紙を読み始めた。

 何度か頷いていたが、読み終えたようで他の者にそれを回した。


「そのアンデッドの灰についての処置の仕方を少し変更するようで、その指示が書かれていましたね。それと、もし足りないようなら冒険者ギルドへの要請を副長に頼むように……とです。ただ、今ある分だけで十分なので、こちらが副長にお願いすることはありません」


「そっか。それじゃー、オレは次の場所があるしお暇するよ。残りも頑張ってね」


 あの木箱の山を思うと、気が遠くなりそうだが……生憎俺はそれは手伝えない。

 頑張ってくれ。

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