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「セラでーす! 入るよー!!」
研究所の前に到着した俺は、そのドアを叩きながら中に向かって声をかけると、ドアを開けて中へと入っていった。
「お疲れ様。こっちはどう……って、箱ばっかだね!?」
部屋に入ってすぐ目につくのは大量の木箱だ。
ここは確かに普段から色々作っているし、そのための素材が運び込まれていたから、この部屋に木箱が積まれているのは別に珍しいことではないが……。
商人が街に運び込もうとしていた荷物を調べるために、ここに引き取っているのはわかるが、それにしても多すぎないか?
部屋の状況にドアの前で驚いていると、奥から作業着っぽい、動きやすそうな服を着た男が姿を現した。
見覚えがあるし、フィオーラの部下だな。
「ああ……セラ副長、お疲れ様です。そちらは?」
彼は俺に挨拶をしながら、後ろに立つルイに視線を向けた。
ここを訪れるメンツなんて大体いつも同じだから、新顔は珍しいんだろう。
「うん? ルイさん? 奥様が王都で護衛を依頼した人だよ。しばらくリアーナで冒険者として働いてもらうんだけど、もしかしたらこっちに顔を出して貰ったりするかもしれないから、その時はよろしくね。それで、この木箱の山はどうしたの?」
「外で魔物絡みの問題が起きたんでしょう? ソレですよ」
「うん。どこぞの商人が北の森を無駄に突っ切って来て、そのお陰で森の奥の方にいる魔物共々、この辺の魔物が引っ張ってこられたんだよね。その商人の荷物を調べるために引き取ってるってのは聞いたけど……多すぎない? これ馬車3台とか4台どころじゃないでしょう?」
「ええ。その商人の前に街に入って来た、リアーナ領外部の者たちの持ち物も押収したようです。時期が時期だけに、外を出入りする者の数が少なくて助かりましたよ……」
そう言って苦笑しているが、これ全部を調べるとなると結構な重労働だ。
……ちとコウモリの件は言い出しづらくなったな。
そう思っていると、彼の方から切り出してきた。
「それで、セラ副長はどうしたんですか? フィオーラ様は上に行ってから戻って来ていませんが……」
「あぁ、ちょっと森で戦っている時に気になる魔物がいたから、仕留めて死体を持って来たんだよね。調べてもらおうと思ったんだけど、忙しいかな?」
俺は尻尾で彼の前に袋を差し出すと、彼は「失礼します」と言って受け取り、袋を開けた。
そして、中を見て感心したような声を出した。
「コレは……コウモリですか? 綺麗に仕留めていますね」
そのコウモリは、俺が【影の剣】の一突きで仕留めたからな。
傷口は貫通した個所も含めて二つだけだ。
我ながら上手く仕留めた自信はあるが……とりあえずそれは置いておこう。
俺は「そうそう」と頷きながら説明をする。
「デカいアンデッドのヘビと戦ってたんだけど、その時にソイツがちょっと妙な動きをしてたんだよね。んで、追って行って仕留めたんだけど、丁度オレがソイツを仕留めた頃に、アンデッドが妙な動きをしたらしいんだ。そうだよね?」
「ええ。同じような動きを繰り返していたアンデッドが、急にパターンを変えて来ました。セラ様が戻ってこられて話を伺ってみたら、どうやらそのコウモリを倒したのとほぼ同じタイミングだったようです」
「だね。一匹だけだし絶対に関係がある……とは言えないけど、無関係とも言えないし。ヘビの死体は……危険だから全部灰にしちゃったし、そのコウモリだけで何かがわかるってことは無いかもしれないけど、一応調べて欲しいんだ」
ヘビの頭だけでも残せたらよかったんだろうけれど、バラバラになった破片ですらアレだけ動いていたんだし、運んでいる最中に暴れだしたら大変だもんな。
灰にしたのは正しいと思う。
そのことを話すと、彼は「わかりました」と頷いて、奥からさらに人を呼び寄せた。
「この積み荷の調査があるので今すぐにとはいきませんが、片付き次第調べましょう。死体が傷まないようにこちらで保管をしておきたいのですが、よろしいですか?」
怪しい魔物の死体を屋敷に持って行くつもりはないし、もとよりそのつもりだった俺は彼にすぐ返事をした。
「うん。お願い」
さて……これで残りのやることは屋敷に戻っての報告だけかな?
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さて、研究所での用事を終えた俺たちは、そのまま地下通路を進み屋敷へと入った。
地下通路は、まずは屋敷の地下にある訓練所に出るんだが、ルイはそれを見て、街の地下通路を歩いた時と同じ様に驚いている。
「……なんでもあるのですね」
というか、呆れている。
「そもそもこの屋敷自体がちょっと立地が悪いからね。出来るだけ必要な機能を詰め込もうとしたら、こうなっちゃったんだよね」
この屋敷は高台の上にあって、そのため一応領主の屋敷にふさわしいだけの広さはあるんだが、敷地全体の広さとなると、他領の領主屋敷に比べて大分狭くなっている。
それでも役所としての機能は十分だから、別にこれでいいと言えばいいんだが……お客さんをもてなす機能は両立出来ていない。
大分安定はしているが、それでも物騒な東部だと、貴族の女性でも体を動かすことが日常になっている場合もあるらしい。
だからこそ、こんな風に地下に体を動かせるスペースを作っている。
「まぁ……ウチを訪れるお客さんは滅多にいないから、あんまり活用されてないんだけどね。専らオレとか奥様だったり、ウチの女性兵が使ってるね」
ちなみに、当たり前ではあるがこの時間は誰も使っていない。
「結構空いてるし、ルイさんたちも雨季の間とか……後は冬とかもかな? あまり外で動きにくい時とかは、奥様とかテレサに申請したら使えると思うよ」
外の狩りとダンジョンの狩りだと、人によっては戦い方が大分違ったりする。
ダンジョンを専門にするならともかく、そうでないのなら仲間との連携確認も兼ねた訓練は必須だ。
街の冒険者たちも、訓練所だったり外で狩りをしたりしているもんな。
だが、訓練所は騎士団の施設だし全員に開放しているわけじゃない。
そのため、他所から来た冒険者は訓練場所の確保が出来ずに苦労しているって話もあるが……そこはもうしばらくリアーナに馴染んでもらうまで我慢してもらわないとな。
んで、ここは屋敷に出入り出来る者の中でも、さらに身辺がハッキリしている者たち以外は入ることが出来ない場所だが、わざわざセリアーナが王都から引っ張ってきた人材だし、何より彼女たちも貴族だ。
屋敷の者たちも納得するだろう。
「ああ……それは助かります。ダンジョンでの狩りばかりでは動きが鈍ってしまいますから……」
ルイは俺の言葉に笑って、嬉しそうにそう答えた。
◇
「お疲れさまー! 戻ったよー」
執務室前の警備の兵にそう声をかけると、彼はすぐにドアを開けた。
「お疲れ様です。セラ副長! どうぞ中へ」
「はいはい……ありがと。まだいっぱい残ってるね……」
礼を言いながら部屋に入った俺は、未だに執務室に大勢人が残っていることに驚いてしまった。
セリアーナやエレナに、領主であるリーゼルと騎士団団長のオーギュストは当たり前として、研究所でこっちにいることを教えてもらったフィオーラもいるのはわかっていた。
んで、冒険者ギルドや商業ギルドのお偉いさんたちが残っているのもわかっていた。
ただ、それ以外にも普通の職員や外部の人間がまだまだたくさん残っている。
どうせもう必要ないだろうしと【妖精の瞳】を解除したままだったから油断していたな。
「ご苦労だった、セラ副長。報告を頼む」
部屋の入り口で驚いたまま停止していると、奥からオーギュストが声をかけてきた。
そちらを見ると、既にリーゼルたちが集まっていて、報告を受ける準備が出来ている。
「お? はいはい……。ルイさん、行こう」
「はっ」
◇
「今日は昼から何度も申し訳ないね。疲れているだろうが、簡単にでいいから報告を頼むよ」
「はいはい。えーとね……」
俺はリーゼルに返事をすると、一先ず外での出来事を話すことにした。
もうすでに報告は受けているだろうし、大体の状況は把握出来ているはずだ。
ヘビやコウモリの件も話したいが……ちょっと部屋に俺たち以外の人間が多すぎるしな。
フィオーラに軽く話すくらいでいいだろう。
とりあえず、上空から見た森の様子を適当に話すくらいでいいかな?
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