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「お待たせしました。こちらは調査用に切り取った素材を入れる袋です。頑丈ですし丁度いいと思います」


 そう言って、職員は持って来た袋を差し出した。

 麻か何かで作られていて、少々目は粗いがサイズも十分で、コウモリの死体を入れられるだろう。


「ありがとう。ちょっと袋の口開けといて」


「はっ。……オオコウモリですね。北の森の比較的奥や、岩場などに巣を作っているそうですが……何か異常でもありましたか? アレクシオ隊長が群れと遭遇したとの報告は受けていますが」


 尻尾を使って袋の中にコウモリの死体を入れていると、それを見た職員が、コレが特別な個体なのかどうかを訊ねてきた。


「もし必要なら、彼等への任務に、森でコウモリの捜索も追加出来ますよ?」


 それは中々いい案だと思う。


 ヘビと戦った場所から森の外までは移動中に俺たちも見ていたが、他の場所までは見れていなかったし、もしかしたら他にもコウモリが潜んでいるかもしれない。

 魔物の死体処理のついでに、捜索をしてもらうのは悪くはないが……。


「いや、それはいいや」


 しばし考えて、俺は首を横に振った。


「よろしいのですか?」


「うん。オレが気になったってだけだしね。森の魔物はごっそり始末したけど、それでもちょっと荒れているし、そんな状況で木の上を見ながら移動させられないでしょ」


 しかも夜に。


 もう間もなく雨季に入るし、のんびり休暇をすることになるのに、まだ何もわかっていないコウモリ探しのために怪我でもされたらえらいことだ。

 とりあえず、コイツを調べてもらうだけでいいだろう。


 職員は俺の言葉に頷くと、袋の口を結んで渡してきた。


「ありがと。それじゃ、また外から伝令が来たらよろしくね」


「はっ。お任せください」


「そんじゃー、ルイさーん。こっちは終わったけど、そっちはどー?」


 俺は袋を尻尾で受け取ると、ホールで話しているルイに向かって声をかけた。

 別れた時と同じく、冒険者たちに囲まれているが、話とかはもう済んだかな?


「問題ありません。それでは皆さん、私も後で合流しますので、よろしくお願いしますね」


 ルイはそう冒険者に挨拶をすると、こちらにやって来た。


 冒険者たちはまだどこか名残惜しそうに見えるが……良かったのかな?


「お待たせしました。それでは、参りましょう」


「……うん」


 まぁ……ルイは向こうの様子を何とも思っていないようだし、こっちも一応用事があるんだ。

 俺が申し訳なさを感じるいわれもないし、別に彼等の視線から逃れるわけではないが、さっさと下に向かってしまおう。


 ◇


「話は伺っていましたが、この通路は各所と繋がっているのですよね?」


 冒険者ギルドから地下通路を通って騎士団本部に向かう道すがら、ルイが通路のあちらこちらに視線を向けながらそう呟いた。


「そうだね。他の街でも建物間を繋ぐ通路とかはあるそうだけど、ここまで大規模なのは珍しいみたいだね」


「ええ。規模も機能もどちらも王都ですら、ここまでの物はありません」


 貴族のお屋敷の避難通路なんかも地下には造られているらしいが、公表はされていないことだし、一応ソレには触れないでおこう。


 領都の地下通路は、領主の屋敷から始まって騎士団本部や街のほとんどの主要機関と繋がっているし、照明や換気なんかの機能もしっかり持たせている。


「拡張工事とかで街全体に色々している時期に一緒にやったんだけど、フィオさんとかジグさんが張り切って設計してたんだよね」


「なるほど……街全体で工事をしていたからこそなのですね。……この時間でも警備もしっかりしていますし、大したものです」


 通路の所々に立っている兵を見て、感心したようにもらした。

 俺はその兵たちに「お疲れ様ー」と挨拶をしながら、ルイに答える。


「途中に騎士団本部とかがあるし、そうそう問題なんて起きないだろうけれど、お屋敷まで繋がってるからね。街で一番安全なのってこの通路じゃないかな?」


 俺は普段は空を移動しているから滅多にこの通路は使わないが、ルイが言うように大したもんだよな……。


 そんなことを本部に着くまでの間、話しながら考えていた。


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「セラ副長! お疲れ様です」


「うん。お疲れ様」


 騎士団本部に到着した俺たちは、一先ず皆が待機しているホールに移動した。


 そこでは、冒険者ギルドと同様に既に報告を受けていたようで、先発隊とリックが率いた第二陣に続いて、第三陣の出動準備が進められていた。

 隊長のリックが早い段階で出動しているから、複数の班の班長が代わりに仕切っていて少々もたついている感がある。


「アレ大丈夫なの?」


「1番隊は、夜間の任務は通常街中の警備ですから、少々勝手が違って……隊長がいたら上手くまとめてくれるのですが、申し訳ありません」


 準備が済んでいないことに謝罪をしてくるが……今彼が言ったように、本来とは管轄が違う任務を命じられているんだ。

 リックなら何だかんだで上手くこなすだろうけれど、こっちに残られるよりも、外の戦闘に来てくれてた方が役立っていたしな。

 別にそこに文句を言う気は無い。


「いいよいいよ。あんまり残ってないけど、ウチの兵も準備に使っていいからね」


 ウチの兵は既に大半が外に出ているが、残っている者たちもいるだろうし、その彼等と協力したら大分手間を短縮出来るはずだ。


 ホールの奥に目をやれば、準備をしている1番隊を眺める2番隊の待機組の姿がある。

 隊が違うから自分たちから言い出すことは無いが、彼等もその気なんだろう。


「……」


 俺の視線に気付いたのか、2番隊の兵がこちらを向いて小さく手を上げた。

 俺はそれに頷いて返す。


 そのやり取りを見ていた1番隊の彼は、苦笑しつつ「おい」と班長の一人を呼び寄せると、待機している2番隊の方を指して小声で何事か伝えている。

 話を終えると、班長はすぐに2番隊のもとへ向かって行った。


「向こうはもう大丈夫そうだね。そうだ、ひとつ聞きたいんだけどさ。上の屋敷に伝令とか行ったかな?」


「報告は随時行っております。隊長たちの指示に従うようにとは言われておりますが、それ以外は上から特に何か申し付けられたりはありません」


「ふぬ……」


 現場に一任って感じなのかな?

 ある程度情報は伝わっているようだし、現場に到着したらリックたちが指示を出すだろう。


「それじゃー、向こうにはウチのアレクとかリック隊長もいるし、このまま任せて大丈夫か。商人からは何か新しい情報とか出た?」


「いえ。もちろん怪しい真似が出来ないように監視の兵を置いたうえで、地下で取り調べを行っておりますが、新しい情報は出ておりません」


「……そうなんだ」


 全部とまでは言わないが、何かスッキリするような情報が出ていないかな……と思ったんだが、どうやらそう上手くはいかなかったようだ。

 がっかりしたような声で返事をすると、それが伝わったらしく、やや早口で答え始めた。


「ええ……街を危険に晒したことは事実なので、厳しく尋問を行ってはおりますが、故意かどうかはわかりませんし、手荒な真似を今は控えているので、どうしても聞き出せる内容が限られてしまって……申し訳ありません。没収した荷物等は、我々が調べたうえで、魔道研究所に送っていますから、そちらから何かわかるかもしれません」


 なんというか……言い訳じみた言い方になっているが、そんなに焦らなくてもいいんだけどな。


 ともあれ、外でリックから聞いた話以上のことは出てこなさそうか。

 ここでの用はもう終わったし、そろそろ次に行こうかな。


「まぁ……それなら仕方ないか。なんかわかったら伝えてね。それじゃー、ルイさん。行こうか」


 俺は残っている兵たちに手を振りながら、屋敷に繋がる通路へ向かった。


 ◇


 さて、騎士団本部から通路に入った俺たちはそのまま進んで行き、領主屋敷の地下に直接繋がっている通路に到着した。

 このまま真っ直ぐ進めば屋敷に出るんだが……。


「ここにフィオさんの研究所があるから、先にそこに寄るね」


「はい。そのコウモリを渡すのですね? フィオーラ様はいらっしゃるでしょうか」


「どうかなー。没収した荷物の調査とかもあるから、こっちに降りて来てるかもしれないけど、まだ外が終わったわけじゃないからね。旦那様の執務室に残ってるんじゃないかな?」


 俺たちは適当なお喋りをしながら、研究所に向かって進んだ。

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