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 森から出た俺たちは、一先ずジグハルトと合流した。


 聞いたところによると、こちら側の戦闘は特に波乱が起きるでもなく、淡々と倒すだけだったらしい。

 まぁ、ダンジョンと違って時間さえあれば無尽蔵に湧いてくるってわけじゃないし、この辺にいる魔物も打ち止めだったんだろう。


 どうやら、俺たちがヘビを倒し切る前に片付けていたようで、今回の魔物の一連の動きに、あのヘビがどれくらい影響があったのかがわからないのは残念ではあるが……何だかんだで無事片付いたんだし、結果オーライだ。


 ジグハルトの話を聞いた後は、森の中でのことを話して、ここで俺たちは解散……と行くのかなと思っていたんだが、まだまだやることは残っているようで、アレクたちはここに残ることになった。


 もっとも、ここからずっと残って……という訳ではなくて、応援で来る冒険者たちへの説明と指示のためらしい。

 全体の指揮は、リックとジグハルトがいるから任せられるが、細かい所は一応アレクたちがやっておくんだとか。


 代わりに、俺とルイが帰還して、フィオーラへの説明に行くことになったんだが、いやはや、魔物を倒してそれで終わり……といかないあたり、責任ある立場ってのも大変だよな。


 ◇


「セラ副長! 外はもう片付いた……ひいっ!?」


 俺たちが北門から街に入ると、すぐに商人らしき男が声をかけてきた。

 お供を連れた、それなりに立場があるような男だ。


 俺たちが戻ってくる前にも兵たちが出入りはしていただろうに、それをスルーして俺たちに声をかけてきたってことは、この男は外で何が起きているのか、粗方把握しているんだろう。


 それでも、俺が尻尾で魔物の死体を運んで来ているのは予測出来なかったみたいだな!

 俺の姿を見るなりいそいそと駆け寄って来たのに、今は腰が引けた姿で固まってしまっている。


「あー……ただの死体だから気にしないでね。それと、外はちゃんと片付いたから、もう大丈夫だよ」


 とりあえず騒がれても困るし、簡潔に答えることにした。


「そ……そうですか。それはそれは……お疲れ様です」


「多分詳しい話はどっかのギルドであると思うから、多分連絡があるんじゃないかな?」


「なるほど……。仲間たちにも知らせてまいります」


 そう言って、男はお供を引き連れて商業ギルドへ歩いて行く。


「セラ様……あの説明でよろしかったのですか?」


「うん? あぁ、いいよいいよ。とりあえず、戦闘も終わったし今更街には影響は無いしね。下手にここで一人に話をするとさ……ほら」


 そう言って、俺は通りを手で示した。


 本来ならこの時間帯のこの場所には、冒険者や見回りの兵を除けばほとんど人はいないんだが、今はきちんとした身なりの男が、護衛を付けてチラホラ目に入る。


 何やら俺が自分たちのことを話しているのがわかったのか、小さく会釈をしてきた。

 それを見て、ルイは「ああ」と小さく呟く。


「なるほど……特定の商人と付き合いがあるという訳ではないのですね」


「オレの場合はね。さて、行こうか」


「はっ。冒険者ギルドに向かうのですね?」


「そうそう。騎士団本部とか各ギルドにも報告は行ってるだろうけれど、一応顔を出しておきたいしね」


「承知しました。その後は、例の通路を使ってお屋敷へ……ですか?」


「うん。その予定だよ」


 一番情報が集まるのはリーゼルの執務室だし、きっとまだ皆あそこにいるだろう。

 もしかしたら、途中でフィオーラは研究室に移動したかもしれないが、どの道それなら途中で会うことになるしな。


 ってことで、俺はルイと共に冒険者ギルドに向かうことにした。


 ◇


 冒険者ギルドに到着した俺は、いつも通りまずは手前のホールを見渡すが、思ったよりも賑わいを見せている。

 この時間帯だと狩場はダンジョンだけになるし、普段だとほとんど残っていないって聞く。


 外の状況に関しては情報が共有されているはずだし、それに備えて集まっているってのは有り得るが、目ぼしいのはもう駆り出されているはずだ。

 ホールで待機するような冒険者はほとんどいないんだが……これが中々どうして。


「まだ結構残ってるね。知り合いはいる?」


 隣のルイにそう訊ねると。


「知り合いというほどではありませんが、挨拶を交わした方たちが何人かいますね」


 ルイは頷きながらそう答えた。


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 集まっている冒険者たちの相手は、どうやら顔見知りがいるらしいルイに任せて、俺は職員と話をすることにした。


 カーンがいないのは……リーゼルの執務室の方に行ってるからかな?

 冒険者ギルドにも外の事情は伝わっているだろうし、別にカーンがいなくても話は通じるだろう。


 ってことで、賑わうホールの方は一旦無視して話を進めよう。


「……えーと、北の森の魔物処理に、冒険者も駆り出されると思うんだけど、そのことは聞いてる?」


 俺の言葉に職員は頷くと、資料を片手に口を開いた。


「ええ。外から戦況に変化がある都度伝令が届いております。初期に出動した冒険者たちとは別に、ギルドから新たに要請を出して招集しました」


 始めに出動したのは、言っちゃ悪いが……半分はルイたち目当てみたいな連中だったし、領都で活動する冒険者の中でも、そこまで上の連中ではなかった。

 まぁ、状況を考えたら様子見する連中の気持ちもわからなくはない。


 だが、冒険者ギルドからの正式な要請で、尚且つ事情もある程度はっきりしているとなったら、その様子見をしていた腕が立つ連中も出てくるだろう。


 しかし……。


「……向こうの人たち?」


「はい」


 俺の言葉に一言で答える職員。


 どうやらホールに集まっていたのは、ダンジョンでの狩り待ちをしている連中ではなくて冒険者ギルドが招集した連中だったらしい。


 今俺は【妖精の瞳】を解除している。


 街全体に公表してはいないが、住民の中にはそこはかとなく不穏な気配を感じる者もいるだろうし、いくらほぼ解決したとはいえ、余計な刺激を与えたくないからな。

 尻尾とか腕ならともかく、あの目玉はインパクトが大きすぎる……。


 だから、あの冒険者たちの能力ってのは計れなかったんだが、多分それなり以上に腕が立つ連中だよな……?


「ルイって随分馴染むの早いんだね……」


 その腕の立つ連中が、随分親しげにルイと接している。


 ウチの冒険者連中は確かに子供の見習いの相手をしたりとか、強面ではあるが意外と面倒見がよかったり気さくだったりするんだが、なんというか……リアーナの冒険者ってそんなにモテないのかな?


 俺がルイたちを見て、少々呆れたような顔をしているのがわかったのか、職員は苦笑しながら話しかけてきた。


「この領都に限らず、リアーナの冒険者はどうしても貴族の女性と接する機会がありませんからね……。ルイ殿やそのお仲間の方たちも、そのことをよく理解しているのか、上手く接してくださっていますし……」


「なるほどー……社交の上手さか」


 この街でそれなりに冒険者と接する機会がある女性と言えば、エレナにテレサにフィオーラ辺りが筆頭かな?

 リアーナの冒険者が持つ貴族女性のイメージがその三人だとしたら、ルイたちは大分印象が違うはずだ。


 これまで貴族相手に護衛の仕事をしてきたわけだし、相手に合わせた接し方が出来るんだろうな。


「セラ副長」


 ホールの一団を見て感心していたが、職員の言葉にハッと我に返った。


「うん? なに?」


 振り向くと、彼は何やら俺の後ろに視線を向けている。


「そちらのコウモリの死体はどうされますか? 解体するのでしたら引き取りますが……」


「あぁ、そう言えばそのまま持って来てるね。んー……これはちょっとフィオさんの研究室で調べてもらいたいやつだから、解体はいいや。その代わり何か袋貰える?」


 研究所に持って行くが、研究所があるのは領主屋敷の地下だし、そこまで行く途中に騎士団本部まである。

 呑気にむき出しの魔物の死体を持って行くのは、流石に俺でも止められそうな気がする。


「袋……袋ですか? 道具などを持ち運ぶための箱も用意出来ますが、そちらじゃなくてよろしいでしょうか?」


「うん。箱だとオレが持ち運べないからね」


 正規ルートならともかく、地下通路を使う以上は余計な人手を使いたくはない。

 袋なら尻尾にかけたまま俺一人で持ち運べるしな。


「わかりました。すぐに用意します」


 そう言うと、彼は早足で奥へと下がって行った。

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