633

1338


「……終わったか。セラ、どうだ?」


 ヘビの頭部を刎ねた俺は、未だ燃え続けている胴体を避けながらアレクのもとに戻ってきた。

 その俺に、アレクはヘビから目を離さずに、他に魔物がいないかを訊ねてきた。


「うーん……? うん。とりあえず見える範囲には何もいないね。上から見てみようか?」


 周囲の魔物は、すでに全部倒すか外に行くかしたはずだが……大分派手に戦ったからな。

 アレだけドカンドカン爆発していたから、仮に残っていたとしても近付こうとはしないだろうが、好戦的なのもいるかもしれないもんな。

 大物を倒したからって気を抜いちゃ駄目だろう。


 ってことで、俺は上空からの索敵を提案したんだが、アレクは首を横に振った。


「いや、それで十分だ。それよりも……ああ、悪いな」


 何か続けようとしたが、その前にこちらにやって来たルイからポーションを受け取ると、それを頭から被った。


「……大丈夫?」


 短時間ではあるが、すぐ目の前でアレだけ豪快に炎が上がっていたんだし、火傷の一つや二つはしててもおかしくない。


「お前の加護もあるし、問題無い」


「そっか……そりゃよかった」


 ポーションと【祈り】の併用って、結構重傷の時に使うコンボな気もするけど、まぁ……大丈夫って言ってるしな。

 被ったポーションの効果なのか、ブスブスと煙みたいなのが顔から立っているが、ちょっとずつ顔の赤みが引いている気もするし、ちゃんと治っているんなら大丈夫だろう。


 もっとも、顔の傷は治っているが、一緒に燃えてしまった髪の毛までは流石に無理で、アレクは短くなった髪を気にしているようだ。

 頭に触れては、手に付いた燃えカスを嫌そうに払っていた。


 そして、溜息を一つ吐くと俺を見る。


「まあ……いい。それよりも、お前が離れていた間何があったんだ?」


「あぁ……えーとね……」


 テレサたちがヘビの死体の処理を行っているが、サイズがデカい分、破片の始末をした時よりも時間がかかるだろう。


 周囲の警戒はリックが行っているし、何だかんだでアレクも消耗しているようだ。

 休憩がてら、俺がここを離れていた間のことを話しておこう。


 ◇


 俺はアレクに、木に留まっていたコウモリを発見してから始末までの経緯を、持って来たコウモリの死体を見せながら説明した。

 説明を聞いたアレクは、何か思うことでもあるのか「なるほどな……」と頷いている。


「お前がソレを追って行ってからしばらく経って、急にヘビの動きが変わったんだ。始めは大人しくなって……その後大暴れだ」


「……あのコウモリが指示でも出してたの?」


「指示かはわからんが、何かしら合図くらいは出していたんじゃないか? 始め俺たちが森に入った時もコウモリの群れが襲ってきただろう? 近くにいたのかもしれないな」


「……そう言えばそうだね。あんまり強くないからアカメたちも気にしてなかったし、オレが気付けたのはたまたまだったしね」


「だろうな。俺たちも地上の魔物は警戒していたが、木の上……それも雑魚にまでは気が回らなかったし、他にもいたかもしれないな。しかし……そうなるとますますわからんな」


 アレクはそう言って、考え込むように腕を組んだ。

 そして、顔を上げたかと思うと、「おい、リック!!」と周囲を警戒しているリックに向かって、声をかけた。


「なんだ、アレクシオ隊長」


「今回のきっかけになった商人はどうしている?」


「牢屋だ。今頃護衛についていた冒険者共々尋問をしているだろうな。それと、商人どもが運んでいた荷も調べているはずだ。フィオーラ殿にも協力を要請しているし、数日以内には終わるだろう」


「ふん……お前も怪しんでいるのか?」


「確証は無いが……これだけ魔物を引き寄せられる何かを運んでいたかもしれないとは疑っていた。奴ら自身も命の危機に曝されたし、自覚があるかどうかはわからんがな。まあ、ここで話しても意味が無いことだ。テレサ殿たちの処理が終わったようだし……動けるか?」


 リックの言葉に、アレクは「問題無い」と答えると、剣を杖の代わりにして立ち上がった。


1339


 ヘビの始末を終えた俺たちは、森から離脱するために外に向かって移動を開始した。

 ちなみに、走ったりせずに歩いてだ。


 いくら【祈り】で回復しているとはいえ、走りっぱなし戦いっぱなしだったからな。

 特にアレクは。


 外で魔物との戦闘の指揮を、自身も最前線に立ちながら執って、その後は森に入って魔物を倒しながら捜索して。

 さらに、俺が見つけた魔物の群れを、引きつけながら上手く外まで誘導して……そして、さっきまでの戦いだ。

 森の外の戦いはもう終わっているみたいだし、無理をせず多少ゆっくり戻ってもいいよな?


 ってことで、比較的足場がいい場所を選びながら、森の外を目指しているんだが、その途中で地面に転がる魔物の死体を目にした。

 この辺だと俺が倒した魔物じゃないし……。


 俺が魔物の死体に目を向けていることに気付いたのか、側を歩くルイが口を開いた。


「私が率いた隊で倒した魔物ですね。一先ず森の捜索を優先していたので、倒した後の処理をせずに放置していました」


「まぁ……それどころじゃなかったもんね。オレも倒すだけ倒してそのままにしてるし……」


「大まかな場所は記録しているので、恐らく騎士団には伝えているはずです」


「ぉぉぅ……」


 ルイの言葉に「やべぇ」と唸り声が漏れてしまった。


 俺はそこまで本格的に戦闘を行っていたわけじゃないが、それでも森の中をアレコレ飛び回りながら魔物の群れを倒している。

 さっき戦ったような、厄介なアンデッドになりそうな大物は含まれていなかったが、それでも放置していいかって言うと、そんなことは無いはずだ。


 どうすっかなぁ……と思っていると、同じく側を歩いているテレサが話に加わってきた。


「姫の行動範囲は私が概ね把握していますし、大丈夫ですよ」


「おぉっ!? 流石……」


 確かに俺が突っ込む際にはテレサに報告をしながらではあったが、自分も隊を指揮していたのによく把握出来ているな……。

 まぁ、お陰で後の始末の手間が、いくらか軽くなるだろう。


 そんなことを考えて、俺は「うむうむ」と頷いていると、さらにテレサは話を続けた。


「しかし……この分だと、処理が大分面倒になりそうですね。リック隊長、アレクシオ隊長。戻ってから隊は動かせますか?」


「2番隊は……流石に厳しいな。昼間っから出ずっぱりだし、このところの領都周辺での討伐任務も続いていたからな。リック、お前のところはどうだ?」


 2番隊が一年で最も忙しい時期にぶつかってしまったんだ。

 ただでさえ今日の昼間の討伐任務なんかは、無理をして行っていたくらいだし、ウチの兵たちも疲労は溜まっているよな。

 いくら後始末だけとはいえ、そうそう引き受けられることではない。


「問題無い。ウチが引き受けよう」


 リックは、アレクの言葉に即答した。

 まぁ、そうなるよな。


 もちろん、1番隊が楽をしているってわけじゃないんだが……時期が悪かった。

 例年だともうちょっと違うんだろうが、今年は色々イレギュラー尽くめだしな。

 森での活動は、あまり彼等向きじゃ無いだろうが、ここは頑張ってもらおう。


「悪いな」


 アレクもそう考えているのか、随分軽い口調でそう言うと、リックもリックであっさりと流した。


「構わん。ただし、魔導士と冒険者も利用させてもらうぞ?」


「ああ。冒険者ギルドにもフィオーラさんにも話を通しておく」


「ふん……ここ数日で多少はウチの兵たちも、彼等との連携には慣れただろうしな。本来我々が行うことではないが、上手くやるだろう」


 二人の軽口の叩き合いを聞き流しつつ、俺たちは進んでいたが……。


「見えてきましたね」


「おー……なんか帰りは静かだったよね」


 ようやく森の終わりが見えてきた。


 森に入った時と違って、ここまで魔物も獣も全く目にすることは無かった。

 ここら辺一帯は全部倒し尽くしてしまったんだろうな。


 普通に考えたら、生息している生物を狩りつくすような真似は避けるべきなんだが、緊急事態だし、お陰で平和に移動することが出来たんだ。

 結果オーライかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る