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「はあっ!!」


 突っ込んできたヘビの頭を、アレクは盾で大きく弾くとすぐに剣で斬りつけていた。


 そこまで力を込めていないし、ダメージ狙いじゃないのかな?

 半端な攻撃だからなのか、ヘビもすぐに反撃に移っているが、アレで大丈夫なんだろうか。


 勢いに任せて突っ込むんじゃなくて、一旦様子見をしようと思ったんだが、いまいちアレクたちの狙いがわからない……と、彼等の手前で動きを止めていると。


「リック、やれ!」


 アレクの声と共に、ヘビの側面に立っていたリックが斬りかかっていた。


 俺の位置からだと、ヘビの体が邪魔でハッキリとは見えないが、大振りで斬りかかっていたし、中々威力があったんじゃないか?

 アレクとは対照的だな。


 その一撃を受けたヘビは、痛みは感じないんだろうけれど、体を動かすのに何かしら支障があったんだろう。

 グネグネと身をよじっている。

 そして、その隙を逃さずに、二人は攻撃を加えていた。


「なるほどねー……」


 それを見て、彼等の狙いがわかってきた。

 要は俺がこのヘビを樹上で引き付けていた時と似たようなことをやっているんだろう。


 一撃で仕留めるのは無理だってのは、テレサでわかったから、着実にダメージを与えていくことに切り替えたんだろう。

 俺が一人でやっていたことを二人でやっているし、ペースはこっちの方が速いかな。


 それじゃー、そこにもう一人加わったらどうなるかな?


「ふっ!」


 俺は短く息を吐くと、【影の剣】を構えてヘビの頭部とは反対に向かって突っ込んだ。


「っ!? セラ副長か!?」


「オレはこっち側から斬ってく!!」


 俺の接近に気付いたリックに向かってそう告げると、ヘビの上を飛び越えながら一太刀斬りつけた。


 ◇


 尻尾……は俺が切断した上に、先程テレサが灰にしたからもう無くなっているが、ともあれ、このヘビは残った体の最後尾を支点に跳ねたりしていた。

 いくら全身が筋肉みたいなヘビだって、支える箇所が無ければ自由には動かせないからな。


 頭部を狙うのはちょっと危険だし、そもそも脳を貫いたら動きが止まるかもわからないが、とりあえず、後ろから削っていけば弱体化するのは間違いない。


「はっ! ……合わせろ!」


 アレクはヘビの頭突きを、盾を使ったカウンターで跳ね飛ばすと、俺たちに合図を飛ばした。


「ほっ!」


 何度かの俺の攻撃で、すっかりズタズタになっているヘビの体に向かってさらに斬りつける。


「はあっ!」


 さらに、リックも続いた。


 彼は俺よりも頭部に近い箇所を、既に斬りつけた箇所と重ならないようにしている。

 大振りの一撃なのに、しっかりと斬りつける場所を狙うんだから器用なもんだ。


 俺たち二人の攻撃が終わると、再びアレクはヘビの正面に回って盾を構えている。

 敢えて目立つ場所に居続けることで、ヘビのターゲットがアレクから外れないようにしているんだろう。


 お陰で俺とリックは余裕をもって離れることが出来る。


「ふぅ……大分動きが鈍くなってきたかな?」


「これだけ傷を負わせれば、どれだけ強力なアンデッドであってもまともに力を発揮出来ないだろう。向こうの処理が終わり次第、片を付けるぞ」


「うん。テレサの魔法も使うんだよね?」


「ああ。本体から切り離して先程のようなことになっても困るからな。これだけ痛めつければ魔法もよく通るだろう」


 あの硬そうな皮膚はもうズタズタに切り裂かれているし、周りを巻き込まないように少々威力を抑えめにしても、しっかりと通用するはずだ。


 テレサたちの方を見ると、破片を焼いている魔法の光が少しずつ弱まっている。

 そろそろ向こうも片付く頃だな。


 ◇


「お待たせしました。状況は? 見たところこのまま終わりそうですが……」


 合流したテレサたちは、ヘビを見てこちらがもう佳境だとわかったんだろう。

 挨拶もそこそこに、リックにそう訊ねた。


「アレクシオ隊長が頭を跳ね上げる。まず私たちが斬りかかるから、テレサ殿は魔法を頼む。アレだけ内部を露出させているから威力は抑えめでも十分効果は出るはずだ」


「わかりました……アレクシオ隊長!」


 テレサの言葉に、アレクは「おう!」と答えると、ヘビの頭部を大きく盾で跳ね上げた。


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 ヘビの頭部が大きく跳ねあがり、その隙に俺とリックが斬りかかる。


 満遍なく傷が入っていて、少々狙いどころに迷ったが、俺は頭部近くを。

 リックは元々負っていた傷口近くを斬りつけて、さらに中身を露出させた。


 そこにすかさず、テレサとルイが魔法を撃ちこんでいく。


 一発一発の威力は低いが、その分数は多いな。

 中々豪快に炎を上げている。


 それに巻き込まれないようにリックは距離をとり、ついでに俺も一緒に離れた。

 このくらいの熱なら、【風の衣】で防ぐことは出来るが……目の前で火が揺れているのは怖いしな。


 とりあえず、このままテレサたちが仕留めるのを待って……。


「セラ副長、アレクシオ隊長を守れ」


「む」


 テレサたちの魔法が止まるのを待とうとしていると、リックがヘビの頭部を指しながらそう言ってきた。


 アレクを守るってどういうことだ……と思ったんだが、燃え盛るヘビの奥に何やら影らしきものがチラッと見えた。


「っ!? アレクあそこにいるの?」


 そりゃ大変だ!


 俺は慌てて回り込みながら、アレクのもとに向かった。


 ◇


「セラかっ!?」


 アレクは盾を構えながら、燃えるヘビから目を離さないでいたが、俺が近付くとすぐに気付いたらしい。

【風の衣】の範囲に入ったからかな?


「大丈夫? もう少し離れた方がよくない?」


 ヘビとは1メートルも離れていないし、相当熱が来ていただろう。

 アレクの横顔がやたら赤く見えるのは、炎に照らされて……ってだけじゃないよな?

 火傷してるんじゃないか?


 だが、アレクは俺の心配をよそに相変わらずヘビから目を離そうとしない。

 そして、その恰好のまま俺の問いかけに答えた。


「いや、お前の加護もあるしここでいい」


「ほぅ……。まだ何かあると思う?」


「どうかな? 俺からは見えないが……皮膚は大分傷つけたんだろう?」


「うん。リック君と一緒にズタズタにしたよ。下手に切断すると、またあっちで相手していたみたいに切り離した方が動き出すかもしれないから、加減はしていたけどね」


「十分だ。それなら中まで焼けるだろうしな。だが、普通に斬ったり殴ったりしたんじゃ、コイツの行動に大した影響は無いだろうが、そこまでやったらどう動くかわからんだろう?」


「まぁ……そりゃそうか」


 俺やリックが斬りまくっていたのは、筋肉を切断して、動きを阻害することが目的だった。

 もちろん、ダメージはあるから動きが鈍くなっていっていたんだが、あのヘビは切断したって動きまわる存在だ。


 鬱陶しくは感じても、そんなに気に留めるようなことじゃなかったかもしれないが、焼けるとなったら話は別だ。

 もしかしたら大暴れするかもしれないし、それに備えて、アレクはいつでも動きを止めに入れる場所に止まっていたんだろう。


「……来るぞ。下がっていろ」


 アレクの言葉を聞いてヘビの方を見てみれば、全身が炎に包まれながらも頭部を持ち上げて、正面に立つアレクをしっかりと捉えている。


 いつの間にかテレサたちは魔法を止めて離れているし、もう間もなく……って感じだが、最後の抵抗かな?


 もう大分力は入らなくなっているのか、頭部を支えるのでやっとのようだ。

 先程までに比べると、動きが遅いこと遅いこと……繰り出してきた頭突きも迫力に欠ける。


 だが、それでもまだ動いているあたり、デカいアンデッドの厄介さは際立っているな。


「何かやることは?」


 ノロノロした頭突きを弾くアレクに向かってそう訊ねると、「頭を!」と返って来た。

 どうやら、止めを任せてくれるらしい。


「りょーかい!」


 俺はアレクの背後から飛び出すと、仰け反ったヘビの頭目がけて突っ込んだ。


 魔法を直接受けていた胴体だけじゃなくて頭部も燃えているが、この程度の炎なら【風の衣】が防いでくれる。


 炎を気にせず接近すると、俺は【影の剣】を発動して、まずは顎下から突き刺した。

 そのまま側面に切り裂くと、すぐさま【浮き玉】を回転させて、首に刃を潜らせながら反対側に抜けていく。

 再度反転して突っ込んで行き、辛うじて頭部を繋ぎ止めていた筋肉と皮膚を切り裂いた。


 頭部は地面に落ちて、残った胴体も燃えながら地面に崩れ落ちていく。


 流石に、これで終わりだろう。

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