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 コウモリを仕留めた俺は、森の上空からアレクたちがいる場所を探すことにした。

 一応の方角は把握しているつもりだが、コウモリが大分不規則な軌道で飛んでいたから念のためだ。


 急いで戻りたいのに、遠ざかったりしたら大変だしな。

 森の上空に出さえしたら領都の方角はわかるし、大まかな見当はつけられる。

 もしここで見つけることが出来なくても、近くに行けばわかるだろう。


「領都は向こうか。さてさて、皆は………………おぉっ!?」


 上に出てすぐに領都を見つけることは出来た。

 それならアレクたちは……と、そちらに目を凝らした丁度その時、俺が向いている方向にある森の一画がいきなり弾け飛んだ。


「テレサか。……盛り上がってるみたいだね」


 アレだけ威力がある攻撃を叩きこんだわけだし、きっと一発で仕留めたんだろうと思ったんだが……すぐに魔法らしき爆発音が響いてきた。


 一発二発三発……。


「多くねっ!?」


 まだ続く魔法に、思わず叫んでしまった。


 てっきり今の一撃で終わりかと思ったんだが……どうやらまだ戦闘は続いているようだ。

 それも、この魔法の撃ちっぷりから考えるに、大分手こずっているんじゃないか?


「……アレだけ魔法を撃ち続けている割には、魔物の姿は見えないし……となると、相手はあのヘビだよな?」


 まぁ……もうこの一帯にはまともな魔物なんて残っていないはずだし、いるとしたらあのヘビのアンデッドくらいだ。

 だから、俺の予想は間違っていないはずだ。


 だが……ただでさえあのヘビは、アレクたちに任せる前に俺が、多少ではあるがダメージを与えていた。

 そんな状態の相手に、テレサが攻撃を外すとは思えないし……どういうことだ?


「とりあえず、急ぐか」


 俺は皆がいる場所に向かって、【浮き玉】を一気に加速させた。


 ◇


「……なんだアレ?」


 高速で突っ込んで行き、そろそろ皆がいる場所に到着というところで、アレクたちが戦っている姿が見えてきた。


 ヘビはいる。

 だが、それ以外にもわけのわからない長いのも複数いて、そいつらはヘビ諸共アレクたちを取り囲みながら、襲い掛かっている。


 ヘビはアレクが抑えていて、他の長いのにテレサたち三人が当たっているが、どう戦っていいかわからず戸惑っているようだ。


 アレが何かは気になるが、とりあえず……!!


「はっ!!」


 俺は一番外側にいた長いヤツ目がけて急降下して、斬りつけるとその勢いのまま高速でその場を離脱した。


「牽制程度の魔法なら弾けるから、そのままで大丈夫だよ!!」


 離脱のついでに皆に向かってそう言うと、俺は反転して再度突っ込んで行く。


「やっぱアンデッドか!!」


 突っ込みながら【妖精の瞳】で確認をするが、コイツ等に反応は無し。


 アンデッドなのはわかったが、ヘビと言うには半端な長さだし、何のアンデッドなのかはわからない。

 加えて、正面から突っ込む俺を迎え撃とうともしないし、バタバタ暴れているだけにしか見えない。


 とりあえず【影の剣】は通用するみたいだが、一体コイツ等何なんだ!?


 そんなことを考えながら、接近する二体目に向かって斬りかかろうとした俺に、周りのソイツ等に向かって魔法を放ちながらテレサが伝えてきた。


「姫! ヘビの破片です。お気をつけて!!」


「しぶといね! りょーかい!!」


 ヘビの破片ってなんだ……?

 よくわからないけど、とりあえず返事をして二体目を両断した。


 もう一周やってもいいが……ちょっと情報を整理したい。

 一旦テレサのもとへ行こう。


「テレサ、オレはどうしたらいいかな? アレならオレでも相手出来そうだけど……」


「助かります。リック隊長、貴方は向こうをお願いします!」


 俺の言葉に頷くと、すぐにリックに向かって指示を出した。


「承知!」


 その指示を受けたリックはすぐにアレクのもとに向かうが……テレサじゃなくていいのかな?


「姫、先にこちらを片付けましょう。説明は後で行います」


「……それもそうだね。援護はよろしく」


 俺は尻尾に巻き付けていたコウモリを放り捨てると、再びヘビの破片とやら目がけて突撃した。


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 俺が斬りかかり、その俺めがけて突っ込んで来る周囲のヘビの破片を、テレサとルイが魔法で撃ち落とす。

 それを何度か繰り返すことで、一先ずこのヘビの破片を倒すことに成功した。


 ……成功したんだよな?


「これで終わり?」


 俺の言葉にテレサは大きく息を吐くと、アレクたちの方を見ながら答えた。


「そう思いたいですね……。向こうは……あのまま彼等に任せても大丈夫そうですし、私たちは始末にかかりましょう」


「アレクたちだけでいいの?」


 向こうを見ると、半分ほどのサイズになったヘビを相手に、二人が剣で斬りつけている。

 短くなっているからなのか、暴れっぷりは俺がコウモリを追っていく前に比べると随分大人しいが、それでも二人で相手取るのは結構大変そうなんだけどな……。


 そうそうやられることは無いと思うが、大丈夫なのかな?


 ヘビと戦う二人を眺めていると、テレサは「ええ」と頷くと、足元に転がるヘビの破片に視線を向けながら口を開いた。


「アレは下手に体をバラしてしまうと、このようになってしまうようです」


「……なるほど。それじゃー、最初に倒したヘビも?」


 自分で言っててなんだが、半身分にしてはこのヘビの破片たちは多すぎる気がするし、最初に倒した分も混ざっているんだろうな。


「テレサ様があのヘビを分断してすぐに、もう一匹の残った体も含めて暴れ始めたのです。体当たりだけなのですが、動きが不規則で中々捉えきれずに、後手に回っていました」


 ヘビの破片に剣を突き刺したまま引きずってきたルイが、何があったのかを簡単にではあるが教えてくれた。


 急にヘビの動きが大人しくなり、そのタイミングを逃さずにテレサが【赤の剣】を叩きつけたらしい。


 頭部を狙いたかったそうだが、アレクが正面にいたのでそうするわけにもいかず、一先ず半分にしようと胴体を狙ったそうだ。

 決着を焦らずに無理なく戦うには妥当な戦法かな?


 ともあれ、それでぶった切って、じゃあ次を……ってところで、その分断された胴体に加えて倒したはずのヘビの残った部分が動き出した。

 流石に叩き潰された箇所は動けなかったようだが、それ以外の部位は形が残っていたからだろう。


 んで、とりあえずアレクは引き続きヘビを引き受けて、テレサたち三人で他の部分を相手取っていたんだが、彼女が言ったようにどうにも動きが読めずに、何とか魔法で遠ざけてることで、凌いでいたらしい。


 そこに俺が突っ込んで来て、攻撃を始めたことで状況は変わったんだとか。


 叩き潰す事は出来ないが、スパスパと細かく切り裂いていたし、動きを止める事は出来ていたんだろう。

 アレが何かを知らないで適当に戦っていたが、偶然とは言え俺が採れるベストの戦い方をしていたっぽいな。


「これで全てですね。姫、少々強く燃やしますので、もう少し後ろに……」


 二人は話をしながらも作業を続けていたが、それも完了した。

 集め終えたヘビの破片を完全に燃やすために、攻撃並みの魔法を使うんだろう。


「む、了解」


【風の衣】があるから大丈夫だとは思うが、それでも念のため下がっておいた方がいいだろう。

 俺はテレサに返事をすると、彼女の後ろに回った。


 テレサはそれを確認すると、火の魔法を放ち始めた。


 最初は威力が弱かったが徐々に強くなっていき、辺りが明々と照らされるほどになっている。

 ヘビの体表は大分硬い皮で覆われていたが、これならしっかり灰になるだろう。


「セラ様」


「うん?」


 テレサがヘビの破片を焼くのを眺めていると、何かを見つけたのか、同じく下がっていたルイが声をかけてきた。


「アチラはどうしましょうか。セラ様が運んで来た物のようですが、一緒に処理してもらいますか?」


 ルイがそう言って指さしたのは、少し離れた場所に転がっているコウモリの死体だ。

 仕留めた瞬間もその後も、特に何かが変わったってわけじゃないし、ついでに始末してもらうのもいいかもしれないが。


「……一応残しといて。ちょっと気になって、わざわざ追いかけて仕留めたものだからね」


「はっ」


「うん。……それじゃ、こっちはもう終わったし、オレは向こうに行って来るね」


 こっちは終わったが、アレクたちの戦闘はまだ続いている。

 チクチク削っていくだけでも、少しは足しになるかもしれないし、ちょっと援護に向かいますか!

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