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「……コウモリ? 魔物か」
木に潜んでいる魔物は、中々その正体がわからなかったんだが、いい加減近付いたところでようやく姿が分かってきた。
黒くてよく見えなかったが、ただのコウモリだな!
念のためもう一度じっくり見るが、ちゃんと【妖精の瞳】に反応するし、アンデッドでもない。
弱いだけのただの魔物だ。
だが。
「オオコウモリの生態なんて知らないけど……コイツが一匹で動くことってないよな?」
俺の中でのオオコウモリは、ダンジョンでも森でも大体数匹以上で固まっているイメージだ。
今日も襲って来たコウモリはそうだったよな。
それなのに、ここにいるのはあの一匹だけ。
それも、こんなド派手に戦いが行われている場所のすぐ側にいるだなんて…………怪しいよな。
「捕らえるってのはちょっと無理かな? 出来るだけ綺麗に残るように仕留め……あっ!?」
あのコウモリをどうしようかと考えていたんだが、その考えがまとまる前にコウモリが枝から飛び出した。
襲ってくるか……と一瞬身構えたが、飛んだ先は森の奥で、どうやらここから離れるつもりらしい。
「近づき過ぎたか……。どうしよう?」
ただの魔物だし別に無視してもよさそうだけれど、何か気にはなる。
一度振り向いて下の戦況を確認すると、多少ヘビの暴れ方が大人しくなっているが、先程までと大差は無い。
正面のアレクが注意を引きながら、周りの三人が動きを牽制して、少しづつ隙を窺っている。
あの状況で俺の力が必要になるってことは無いだろう。
それなら!
「皆! ちょっと森の奥に行くから!」
俺は下に向かってそう伝えると、逃げ出したコウモリを追って行くことにした。
◇
「ぬぅ……スピードもだけど、それ以上にヒラヒラヒラヒラと……」
前を飛ぶコウモリを見ながら、ついつい悪態づいてしまう。
どうやらコウモリは俺が追って来ていることに気付いているようで、振り払おうとしているのか、敢えて木の枝スレスレを飛んでいる。
そのため、速度だけなら俺の方が上なんだが、中々前を飛ぶコウモリとの差が縮まらない。
例えば草原の上空とか、障害物が無ければすぐに追いついてみせるんだが……。
「……っ!?」
目の前にせり出た太い枝を慌てて躱した。
今も【琥珀の盾】と【風の衣】を発動しているから、木の枝程度ならどうとでもなりそうな気はするんだが、もしそうじゃなかった場合、下手したらぶつかった衝撃で地面に落下してしまうかもしれないし、そうなったら運が良くても大怪我だ。
これくらい慎重でも悪くはない。
「……とは言え、これじゃーキリが無いな。もうこうなったらいっそ下から詰めようかな?」
同じ高さを飛びながらだと追いつくのは難しいってのが、ここまでの追跡でよくわかった。
それなら、障害物が少ない地面の近くを飛ぶ方がいいかもしれない。
夜の森で、色が黒い生き物を追いかけるってのは簡単なことじゃないが、【妖精の瞳】の効果で、何とかコウモリの輪郭を捉えられている。
とは言え、長時間は厳しいし短時間で一気に決めないと厳しいな。
「……よし! 行くぞっ!!」
俺は高度を落とすと、一気に速度を上げた。
この高さで俺の妨げになるような物は、精々生えている木くらいだ。
上に生えている枝に比べたら、躱すことなんて簡単簡単。
魔物でもいたら厄介だったが、この辺の魔物はもう全部始末しているし……ただコウモリ目指して追いかけるだけだ。
ってことで、高度を下げながら追いかけ始めてすぐに、俺はコウモリを射程範囲に収めることが出来た。
後は。
俺はしっかりと攻撃の軌道をイメージしながら【影の剣】を構えた。
そして。
「…………今だっ!!」
コウモリとの軌道上に何の障害物も挟まらないタイミングで、コウモリ目がけて【浮き玉】を一気に加速させた。
それに気付いたのか、俺の突進を躱すために急に進路を変更したが、この距離ならもうそれは無意味だ。
横に逃げようとしたコウモリに、【風の衣】の端が触れて大きくバランスを崩させた。
その衝撃は強烈だったようで、墜落こそしなかったがフラフラと高度を落としていく。
当然、その隙を逃す訳もなく。
「もらった!」
俺は一気に距離を詰めると、今度こそ【影の剣】でコウモリの体を貫いた。
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ダンジョンの魔物と違って地上の魔物には核が無いし、それを潰せば一発で死ぬ……なんて物は無いので、一撃で仕留めるなら基本的に首を刎ねるようにしている。
だが、不規則な動きをするコウモリの首を刎ねるのは流石に難しい。
ってことで、俺は真っ直ぐ突っ込んで行って刺し殺すことにした。
他の魔物だと脳や心臓のような急所を狙う必要があるんだが、オオコウモリとはいっても、他の魔物ほど大きいわけじゃないし、ブスっと刺してしまえばそれでお終いだ。
追跡では大分手こずらされたが……一突きで仕留めることが出来た。
追っていた獲物をようやく仕留めたんだが、俺は【影の剣】を振るって、刺さったままのコウモリを振り落とすと、その場に留まったまま周囲の索敵を開始する。
このコウモリは、ここを目指して逃げてきたってわけじゃないんだろうが、それでも散々目的地に釣り出すような真似をされたわけだしな。
今のこの森には、【妖精の瞳】でも見つけることが出来ないアンデッドなんて存在がうろついているし、大丈夫と分かっていても、気を抜いたりはしないぞ!
「ふぅ……何もいないね。コウモリか……当てる事さえ出来たら余裕だったね。それよりも……どうしたもんか」
一息つきながら、地面に落っこちたコウモリの死体を眺めて、そう呟いた。
突き刺した感触も死体となった姿を観察していても、特に変わりはないと思う。
倒したしこれで終わりってことにしてもいいんだが、一応コイツのことも調べたいし、持って帰った方がいいだろう。
ただ、どうやって持って帰るかだ。
コウモリだとかそんなことは抜きに、魔物の死体を触りたくなんてないし、手で持つのは論外だ。
尻尾で巻き付けるかな?
道具は持っていないが、わざわざ【隠れ家】を使うほどでも無いし、それでいいか。
「下に降りるから、周りの警戒をお願いね」
俺はアカメたちにそう指示を出すと、地面近くまで下りていった。
「コウモリの死体なんてマジマジと観察したことが無いけど、どう見てもただの魔物だよな……?」
何か気になったからヘビと戦う皆から離れてまで、追跡して仕留めたけれど、これは戦果としてはどうなんだろうな?
「ま……まぁ、何も無いならそれが一番だしな。そんじゃー持って帰るか。よいしょ……っと」
俺は尻尾を最大サイズまで伸ばすと、出来るだけ体から離れている先端付近で巻き取った。
普段から魔物の死体を引っ張ったりしているから慣れたもんで、力加減もばっちりだ。
「さて……こっちの用は終わったし、さっさと戻るかね」
あの場を離れて以降、爆発するような音は聞こえていない。
追跡中もしっかりと後方を注意していたから、デカい音がしたら聞き逃したりはしないし、まだまだ戦闘は続行しているんだろう。
何が出来るってわけじゃないが、何かの役に立つかもしれないし、急いで戻っておこう。
俺は「よしっ」と気合いを入れると、一気に真上に上昇した。
◇
「……む? 動きが変わったか」
ヘビの攻撃を弾いたアレクは、追撃が無いことに気付き盾の後ろから顔を上げた。
先程までのヘビの攻撃は、まず頭突きから始まって、それを防いだらさらに押し込んで来るような動きをしていた。
頭部の攻撃は、どちらも正面からしか来ないため、防ぐこと自体は難しいことではない。
ただし、その威力は相当なもので、片手で抑えられるものではないし反撃する余裕はなかった。
もちろんアレク一人で戦っているわけでもないし、攻撃は他の三人に任せるつもりではあったが、このヘビは頭突きの他には、その隙をカバーするように体全体を跳ねさせていて、テレサたちが取り付けないようにもしていた。
アンデッドにスタミナ切れを狙う訳にもいかないし、アレクはヘビが戦い方を変えるまで待つつもりだったが、どうやら思ったよりも早く、そのタイミングが来たようだ。
自分たちは特に動きを変えていないし、そうなると森の奥に行ったセラが何かやったのか……。
ともあれ、コレは好機に違いないと、右手を盾から離して鞘に納めていた剣を抜いた。
「次で頭を押さえる! リック、ルイ、合わせろ!!」
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