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「テレサ、ヘビを落としたい。木を折れるか?」
「ええ。今すぐ落として構いませんね?」
「ああ。逃がしたくないし、増援も呼ばれたくない。頼む」
テレサはアレクに頷くと、ヘビが巻き付いている木の中で、一番手前の一本に向かって駆けだした。
俺が口を挟む間もなく決まった上に、即行動に移ったが……大丈夫なのかな?
視線をテレサから上にずらすと、ヘビがテレサに狙いを付けているのがわかった。
テレサに向けて「危ない」と声を出そうとしたんだが、その前にテレサの動きを援護するように、ルイが魔法をポンポンとヘビに向けて連続で撃ち始めた。
風系統の魔法のようで、一撃で倒せるような威力は無さそうだが、当たる度に風が弾けてヘビが仰け反っている。
これならテレサを攻撃する事は出来ないだろう。
その間にテレサは木の根元に辿り着き、そして【赤の剣】を大きく振りかぶったかと思うと、幹目がけて叩きつけた。
直径1メートルはありそうな太さの木だったが、その一撃で根本付近が砕け飛び、ゆっくりと倒れ始める。
アレクはテレサに「木を折れるか」って聞いていたが……そんなもんじゃなかったな。
さて、ヘビが巻き付いている木のうちの一本は見事倒せたが……。
「次に行きます。援護は任せましたよ!」
残念ながら、倒れ始めた時点でヘビは巻き付けていた体を解いていて、その木から離れてしまっていた。
何本にもまたがっているし、一本くらいじゃ落ちてこないようだ。
それを察したテレサは、すぐに次の木に向かっている。
巻きついている木を一撃で折ることが出来るのなら、そう時間をかけずにヘビを地上に落っことせるだろう。
だが。
「アレク、オレは裏側に回っておくよ」
自身がいる木を折られていき、攻撃も妨害されていき……おまけに、もう一匹は既に倒されている。
あのヘビなら自分が追い詰められていることはわかるだろう。
そうなって来ると、逃げの一手を打たれるのが面倒だ。
裏に回りこんで、もし逃亡するようならそれの妨害を出来るようにしておきたい。
「任せた。無理はしなくていいぞ」
アレクの言葉に「うん」と頷くと【祈り】を発動して、下手にヘビの注意を引かないように、大回りで裏側に向かうことにした。
◇
「三本目か」
俺が丁度ヘビの背後に回り込んだタイミングで、三本目の木がテレサによって倒されていた。
それに合わせて、今までいた木よりも後ろの木に尻尾をかけている。
二本目までは動きは無かったんだが、そろそろ自分が落とされると危機感を持ったのかもしれない。
しかし、地上にこそ落ちたくないようだが、逃げる気は無さそうだな。
「それなら、次に木が折られたらまた別の木にまたがるのかな? ……そこをやってみようか」
ヘビの尻尾がユラユラ揺れているのが見える。
次に移るための木を探しているんだろうが……狙うならそのタイミングかな?
俺は【影の剣】を発動すると、ゆっくりとヘビの側面へ移動していった。
それに合わせて、木を探していた尻尾は一旦その動きを止めて、俺に合わせて動いたが……すぐにまた元の動きに戻った。
相変わらずヘビは地上のテレサを狙っては、ルイの魔法によって妨害されている。
尻尾の動きから俺が側面に回ったことには気付いているようだが、大したダメージを与えてこない鬱陶しいだけの俺のことよりも、次に移る木の方が大事なんだろう。
うむうむ。
そのまま俺のことは無視していてくれよ……。
俺は【影の剣】を構えながら、息を潜めてジッとしていた。
そして。
「………………今だっ!!」
テレサがさらに新たな木に剣を叩きつけてへし折ると、これまでと同様にヘビは後退するために、新たな木に尻尾を巻き付けようとした。
俺が狙うのはそこだ!
「はっ!!」
新しい木に尻尾を巻き付けるだけで、まだ別の木に移動しきれておらず、中途半端に伸ばし切っているだけの胴体の尻尾に近い箇所を、【影の剣】で斬りつけた。
胴体真ん中あたりである太い箇所と違って、尻尾に近いここは細くなっていて、直径は30㎝ほど。
【影の剣】でも十分に切断可能だ!
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尻尾を別の木に巻き付けるために体を伸ばし切っていたヘビは、俺の斬撃に対処出来なかった。
俺が最初に仕掛けた時は、刃が触れてから斬りこむ前に、体を震わせて弾き返されてしまったんだが……今度は完璧だ!
「尻尾切断したよ!! もう退がれないはず!!」
「よくやった! セラ、お前はそのままだ! 俺たちは前に出る。一気に決めるぞ!」
俺の報告を受けたアレクはすぐに次の指示を出すと、盾を構えて突っ込んで行った。
間髪置かずに、テレサが木に剣を叩きつける音がする。
その一撃は他の木と同様に一発で幹を砕き、ゆっくりと倒れていく。
ヘビは、引っ張り落されないようにその木に巻き付けていた体を解くと、空中で何とか体勢を維持しようと踏ん張っている。
今まで巻き付いている木が一本倒れたところで、他の部分で体を保持していたが、尻尾の部分が無くなったため、バランスを大きく崩して……。
ズドンッと、大きな音を立てて地面に落下した。
俺は宙に浮いているからわからないが、その落下の影響で辺りの木も揺れているし、相当な重さだったんだろう。
そんな重さの巨体に暴れられたら、生半可な力じゃ耐えられないだろうが、アレクは見事に盾でその体を弾いている。
「……上手く弾いているけど、それでも近付くのは簡単じゃなさそうだね」
ヘビの攻撃はアレクが防いでいるが、暴れる体が危険すぎて他の三人は近付けないでいる。
テレサと、その反対側にリックとルイが回っているが、遠巻きにウロウロしている状況だ。
もう一匹の方はどうやって倒したのかはわからないが、折角地上に降ろすことが出来たのに、戦闘に持ち込む事すら出来ていない。
樹上にいた時と違って俺も援護は難しいし、これはしばらくアレクに耐えて貰わないといけないかな?
それか。
「テレサー! 弓使う?」
連発は出来ないとは言え、威力は文句なしの【ダンレムの糸】を渡して、離れた場所から狙い打つってのがいいんじゃないか?
【ダンレムの糸】はちょっと威力が強すぎるし、迂闊に森の中で使ってしまおうものなら森を荒らしてしまい、魔物の活動に大きな影響が出かねないから、中での使用は控えた方がいいが……今の森の状況を考えたら今更だよな。
そう思い、上からテレサに向かって声をかけた。
彼女は今、仕掛ける隙を探してヘビの側面をウロウロしていたが、一旦距離をとって上を向いた。
「いえ、もし仕留めきれなかった場合の隙が大きすぎます。時間はかかりますが、このままで構いません!」
「りょーかい!」
確かに反対側の二人は、その場を離れないといけないし、テレサ自体も足を止めなければいけない。
そして、アレクもヘビをその場に縫い付けるために、さらに無理をする必要が出て来る。
ピンポイントで高い威力を出せる【赤の剣】があるのなら、この敵はそっちの方が向いているんだろう。
俺は返事をすると、ヘビの全身がよく見えるように周囲に魔法をばら撒いた。
◇
ヘビを木の上から落として数分が経っただろう。
相変わらずヘビは暴れているが、徐々に動きが小さくなってきた。
アレクたちが慣れてきたんだろうな。
両側から魔法を撃って、ヘビの体が大きく跳ねそうになる直前にその動きを潰すという、対処の仕方が出来上がってきている。
この分なら、さらにもう数分もしたらテレサが仕掛けられるようになるだろう。
何も出来ない状況は歯痒いが、俺はこのままここで観察に……。
「うん?」
下の状況をより把握出来るようにと、ヘビの真上から少し離れることにしたんだが、森の奥の木の上に、今までいなかったはずの魔物の姿が見えた。
たまたま目を向けた先にいたから気付けたが、普段なら見落としていてもおかしくないレベルの、ハッキリ言って雑魚と言っていいレベルの魔物だ。
だが、その程度の魔物が、この修羅場に近づいて来るかな?
アカメたちは反応をしていないし、相手にするまでもない程度の魔物なんだが……ちょっと気になるな。
俺はそいつを刺激しないように、ゆっくりと少しずつ接近していった。
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