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「はっ! ……よし。これで最後だよ」


 オーガの首を刎ねた俺は、周囲をアカメたちと共に念入りに見渡して、もう生き残りがいないことを確認するが……オーガも小型の妖魔種の気配もないし、これで打ち止めかな?


 俺とアレクとリックという、少々珍しい編成で挑んだオーガの群れとの戦闘は、あっという間に片付いた。


 しかし、本当に俺がアレだけ手こずらされたのは何なんだよって感じだよな……。

 もっとも、アレクたちはここを急いで片付けたかったようで、大分無茶な戦い方をしていた気がする。


 俺は後ろに回り込んで首を刎ねるくらいしかしていないが、この二人は俺が仕留めると、息もつかずにすぐに別のオーガに斬りかかっていた。


 もちろん急ぐ理由があるのはわかるんだが、オーガ相手に正面から斬り合うのは大分無謀だと思うんだよな。

 いくら【祈り】があるからとはいえ、傍で見ていて俺が焦ってしまった。


 そして、二人が急いでいるのはオーガの群れを倒した今も変わらない。


「ふう……終わったな。よし……戻るぞ」


「ああ。音が聞こえてこないと言うことは、まだ本格的な戦闘は起きていないんだろうが、いくらあの二人でも戦いづらいだろうしな」


 息切れしているのに、もう走り出そうとしている。


 確かにテレサたちでも、樹上に居座るデカいヘビのアンデッドなんて、わけのわからない存在が相手だと苦戦するかもしれない。

 まぁ……そんなのとの戦いに慣れている人間の方が少ないよな。


 だから、本格的な戦闘が始まる前に、戻ってサポートに入ろうって考えはわかるんだが。


「待って待って……。ちょっと息を整えるくらいしたら? テレサたちだって、仮にあのヘビが襲って来たとしても、倒せないまでも時間を稼ぐくらいは出来るでしょう?」


 あのヘビがどれくらいの強さなのかはわからないけれど、とりあえず全快とまではいかなくとも、肩で息をした状態で突っ込むよりは、多少時間を使ってでも回復してから向かった方がいいはずだ。


 テレサたちだってオーガ程度に俺たちがやられるとは思わないだろうし、そのうち戻って来ることはわかっているだろうしな。


 二人も「確かに……」とでも思ったのか、徐々に走る速度を落としていき早歩き程度にまでなった。


「そうだな……焦り過ぎたか。リック、歩きながらでいいから情報を整理しないか?」


「いいだろう」


 そう言うと、二人は周囲を警戒しながら話し始めた。


「よし。あのヘビはどこから来たと思う? 俺はここ数日の討伐任務で、この森にだって入ったんだ。だが、アレだけのデカブツがうろついている気配は全く感じられなかった。まだ外で戦ったような他の魔物なら、森の奥にいるのはわかっていたから理解出来るんだが……」


「うむ。森の魔物を全滅させる意味はないし、浅瀬までしか範囲に入れていなかったからな。その空いた縄張りを、商人どもが引っ張ってきた魔物に入り込まれてしまったわけだが……それは仕方がない。しかし……ヘビか。あのサルのアンデッドの気配は無かったのか?」


「無い。俺が入った範囲はいつも通りの森だった」


「そうなると……あのヘビは川からか。上流で何かが起きて、アンデッドが生まれた。それが、今回の魔物の移動をきっかけに、川を泳いできたんだろう」


 リックはそう言うと、振り返って俺を見た。


「セラ副長。我々がサルどもと戦った水辺に他に生物はいたか?」


「いや、目に見える範囲には他にいなかったね……」


 俺は皆と一緒に戦っていた場所のことを思い出しながら答えた。

 てっきりあのサルのアンデッドがいたから、他の生物はあの場を離れていたのかと思ったんだが、ヘビの方が原因だったのかな?


「……この森どころか、領地の奥から来た可能性も出て来るな。だが、それならそれでアレで終わりだろう。流石に森を突っ切ってくるのなら距離がありすぎるしな」


「そうだな。よし……行けるな? アレクシオ隊長」


「ああ。セラ、頼む」


「はいはい」


 今の歩きながらの話の間に二人はもう大分回復したようだ。


 俺は【祈り】を使うと、二人に「行こう」と言って前に出た。


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「……むっ!? 場所を変えたか!?」


 テレサたちがいた場所に戻ってきたはいいが、彼女たちの姿が見えない。

 ついでにヘビもいない。


 戦った痕跡はないし移動をしただけなんだろうが……ヘビは木を伝って移動したようだ。

 あの巨体が移動した割には痕跡がない。


「見当たらないな。そこまで距離をとるとは思えないんだが……」


 皆で周囲を探ってみるが、どこにもいないんだよな。


「離れすぎてるのか、間の木が邪魔なのかはわからないけど、オレも見つけられないね。……上から探してみるよ!」


「……今は木の上には何もいないな。わかった……頼むぞ」


 俺の言葉に、アレクは真上を向いて安全を確かめていたが、樹上に何もいないことがわかると、許可を出した。


「ほいほい、それじゃっ!」


 頷いた俺は、そのまま一気に樹上へと飛び立った。


「えーと……」


 森の上空に出た俺は、まずは周囲を見渡した。


 今俺たちがいるのは大体森の端から……1kmくらい入ったところかな?

 真っ直ぐ行ったり、途中で真横に折れたりしていたからあまり意識していなかったが……サルを追いかけた時に結構奥まで行っちゃってたんだな。


 森の外の戦闘が、今はどうなっているのかはわからないが、火の手は上がっていないし、ジグハルトも本気で戦うような事態は起きていないようだ。

 それなら、ここを片付けたら一先ずは終わりかな?

 さっさとやってしまうか!


 自身の目に気合いを入れると、俺はテレサとルイの姿を探し始めた。


「ぬーぬぬぬぬ…………いないか?」


 あの二匹のヘビのアンデッドが、アンデッドじゃなくて普通に生きていたのなら、簡単に見つけることが出来るんだが……死んでるからなぁ。

 しかも、体表が黒っぽいから、夜の森だとますます見分けにくい。


「かといって上から照明をばら撒くわけにもいかないし……。いっそここから叫んでみるか?」


 俺の声なら良く通るだろうし、合図を送ってくれるんじゃないか?

 これが通常の森だったら、他の魔物とかも呼び寄せてしまいかねないから、そんな目立つ真似は避けるべきなんだろうけれど。


「……この辺の魔物は全部外に引っ張っちゃってるしな。いける!」


 不幸中の幸いって言い方をしていいのかはわからないが、この辺りにはもう人を襲うような魔物はいないし、構わないだろう。


 俺は口の両側に手を当てると、大きく息を吸い込んだ。


「……せーのっ。テレサーーー!! いるーー!!!?」


 叫んだ後は、合図を見逃さないようにクルクルと四方を見ていると、俺たちがいる場所の東側から魔法が上がった。


「あそこか!」


 何であっちに移動したのかはわからないが……とりあえず、合流をしないとな!


「お待たせっ。見つけたよ!」


 俺は地上に降りると、待っていた二人に「あっち!」と、合図があった方角を指しながら報告した。


「……向こうか。追い込まれたのか、敢えて引っ張っていったのか……。どちらかわからんが、急ぐぞ!」


「りょーかい!」


 俺はそう答えると、先頭に回って飛び始めた。


 ◇


 テレサたちとの合流を目指して再出発してから2分ほど。

 ようやく、テレサとルイ、そしてデカい二匹のヘビの姿を捉えることが出来た。


 一匹は樹上に止まっているが、もう一匹は地上に降りている。

 そしてその陰からテレサたちの姿も見えているんだが、なんつーか……このレベルのデカい魔物は久しぶりだな。


 それにしても、距離にしたら大したことはないんだが、それでも全く見つけることが出来ないんだから侮れない。


「……よしっ!」


 とりあえず、一手仕掛けてみるかと【影の剣】を発動すると、後ろを走るアレクが声をかけてきた。


「行くか?」


「うん。試しに斬ってみるよ」


「ただでさえどう動くかわからない魔物で、その上アンデッドだ。気を付けろ!」


 そうアレクが言えば。


「上に居座っているのもだ!」


 と、リックも続いた。


「はいはい……それじゃーっ!」


 二人に応えると、俺は一気に【浮き玉】を加速させた。


 とりあえず、地上のはいいとして……厄介なのは上のアイツか。

 それなら、俺が狙うのはそっちからだな!

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