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テレサと合流したアレクたちは、状況を確認するとすぐにセラのもとへと走り出した。
後方から三人の援護を行っていたテレサは、直接戦闘に参加していないし周りを見る余裕もあったため、彼等よりも状況を把握出来ている。
その彼女が、アンデッドを一通り倒したにもかかわらず魔力が漂っていると言った。
この周辺にはもう目ぼしい魔物はいない以上、いるとしたら森の奥。
さらに、一人でいるセラが狙われるかもしれないと言うことで、セラとの合流を急いでいる。
「……大分離れたな。俺たちも戦いながら動いてしまったが、アイツも奥に釣り出されているんじゃないか?」
「ああ。魔物の数は少なくはなかったが、それにしても死体が見当たらない。戦闘の痕跡もだ。彼女の腕なら数体は倒せていてもおかしくないだろうにな……」
二人は走りながら周囲の様子を探っているが、何も異変が見つからないことを逆に怪しんでいる。
「戦う前に場所を変えたのか?」
「セラ様の姿は見えはしませんでしたが、戦闘は起きていましたよ? 咆哮が私の耳にも届いていました。場所はそう離れていなかったはずです」
「…………足を止めてしっかりと探れば痕跡を見つけられるかもしれませんが、今はそんなことをしている余裕はありませんね。それに、姫と合流してしまえば済むだけのことです。急ぎましょう」
気になる点はいくつもあるが、結局はセラと合流したら済む。
そのテレサのもっともな言葉に、三人は頷いて、走る足を速めようとしたが……。
「聞こえたかっ!?」
今は北に向かって走っているが、北東方向から悲鳴のような叫び声が、アレクの耳に微かに届いた。
「聞こえました。向こうですね!」
声が聞こえたのは他の者たちもらしく、テレサは北東を指すとそちらに向かって進路を変更した。
「まだ戦闘は続いているようだな。セラ副長は優位に戦っているだろうが、我々も介入するぞ」
リックの言葉に各々返事をすると、三人はテレサの後を追って行った。
◇
「姫! こちらにっ!!」
「へ? あ、テレサ。わ……わかった」
アレクの声がしたと思ったら、魔法が頭の上を貫いて、そして最後は緊迫したテレサの声。
一体何が……と思うし、アカメたちが警戒していた周りの様子を確認したくもあるが、それよりも声の雰囲気を考えると移動を優先した方がいいだろう。
「そっちは片付いたみたいだね。こっちは……ちょっと足踏みしてる感じかな。それよりも……」
テレサたちと合流して、真ん中のいつものポジションに入った俺は、挨拶をしながら先程のテレサの魔法の軌道を目で追ってみたが……暗くてよくわからない。
ただの俺への合図であんなレベルの魔法は使わないだろうし、多分何かを撃退したんだろうけれど……一体何を?
俺の視線の向きに気付いたらしいテレサが、「アレを」ともう一度魔法を同じ軌道で放った。
今度は威力がずっと抑えられているが、その分周りが照らされて木の上の方までよく見えるようになっている。
そして、そこを見た俺は。
「……うわっ!?」
思わず叫んでしまった。
何本もの木に体を縫うように巻き付けている、バカでかいヘビ。
それが二匹も木の上にいた。
正直なところ、俺は頭上からの攻撃ってのは全く想定していなかったし、呑気にオーガを追って行っていたら、上からバクッとやられていたかもしれない。
「……接近に気付けませんでしたか?」
「うん……全く。まぁ……ここにはオレも釣られてきた感じだから、もしかしたら初めから待ち構えていたのかもしれないけど……」
かもしれない……と言ったが、恐らく待ち構えていたんだろうな。
それなら、オーガの動きにも理解出来る。
ただ、それよりも……。
「セラ副長が気付けなかったと言うことは、アレはやはりアンデッドか?」
アレクと並んで前に立つリックが、前を向いたままそう口にした。
「アカメたちは気付いていたみたいだけど……【妖精の瞳】じゃ全くわからなかったからね。多分そうだと思うよ」
高い位置にいるし体色も黒っぽいから、見た目では何もわからないが……まぁ、そうだよな?
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「アレは放置するわけにはいかんが……その前にオーガだな。アレクシオ隊長」
リックは森の奥を睨み続けながら、アレクに声をかけた。
オーガたちは俺がアレクたちと合流している間に、ヘビのアンデッドがいる木のさらに奥に下がって行っていたが、まだまだこの辺にいる気配がある。
放っておいたら、ヘビの相手をしている隙にまだ何かチョッカイをかけて来るだろう。
「ああ。テレサ、俺とリックで一先ずオーガを片付けて来る。その間、あのヘビの監視を頼む。ヘビのアンデッドなんてどう動くかわからん」
「わかりました。たかがオーガとは言え、油断が出来ない相手のようです。気を付けてください」
テレサの言葉に二人は頷いた。
合流してから皆には、簡単にではあるがこのオーガの群れの情報は伝えている。
あのオーガたちは強さこそ並程度だが、その分妙に知恵が回っていた。
そいつら相手に森の中で戦闘っていうのは、いくらアレクたちでも気を抜くことは出来ないだろう。
これがもっと開けた場所なら、テレサたちも一緒に戦えるんだが、ちと状況がよろしくない。
視界と足場が悪い状況で、一発貰ったら終わりかねない魔物を相手に、テレサたちが接近戦をするのは止めておいた方がいいよな。
まぁ……テレサたちはそれでいいとして。
「オレも行こうか?」
「……いけるか?」
「うん。ちょっとコツを掴んできたしね。後……何体だったかな? 多分10体くらいだけど、二人も一緒ならすぐに片づけられると思うよ」
俺がアレだけ手こずっていたのは、手札を減らされた状態で、盾と牽制と止めを全部一人でやらないといけなかったからだ。
だが、二人が一緒なら俺は最後の止め役だけに専念出来るし、すぐに片付くだろう。
アレクはリックに視線を向けると「どうする?」と訊ねた。
「構わん。いい加減森に入ってから時間が経ち過ぎたからな……」
森の浅瀬にいたのを追って来ただけなのに、何だかんだでこんな所まで引っ張りこまれている。
おまけに、ボスだと思っていたサルとは別のアンデッドまで出て来てしまった。
「外の戦況も気になるし、さっさと片付けるぞ」
リックはそう言うと、真っ直ぐ森の奥に向かって走り出した。
アレクもすぐにそれを追っていき、あっという間にヘビの下を通り抜けていく。
どうやら近付く者全てを襲うって感じじゃ無いっぽいな。
それじゃー……俺も。
念のため高度を下げたままアレクたちを追おうとしたが、その前に。
「オレが仕留め損ねたオーガが何体か向こうにいるから、一応気を付けといて!」
大丈夫だとは思うが、テレサたちがここまで来る途中で、ソイツ等を見かけなかったってのは気になるしな。
オーガの不意打ちは怖いし、念のためだ。
「わかりました。姫もお気をつけて」
これでよし!
俺は今度こそアレクたちを追うために、出発した。
◇
ヘビの下を通過する際は少々ヒヤッとしたが、幸い襲ってきたりはせず無事通過することが出来た。
そして、その先ではアレクたちがオーガとの戦闘を開始していた。
「来たか」
「うん。お待たせ……いいペースだね」
辺りを見ると、既に二つのオーガの死体が転がっている。
俺がアレだけ苦労したのに……この暗い中で随分手際がいいじゃないか……。
「コイツ等はセラ副長の相手をしていたんだ。正面から来た我々に勝てると思ったんだろう。その隙をついただけだ。だが……そろそろ警戒を強め出すはずだし、そうなる前に片付けたい。セラ副長、我々が動きを止めるから止めを刺していけ」
「りょーかい!」
俺はリックに返事をして【影の剣】を伸ばすと、アレクが相手をしているオーガの背後に回り込んだ。
そして、アレクは俺の動きに合わせるように、オーガの攻撃を【赤の盾】で強く弾き返した。
そのオーガは、まさか単純に力負けするとは思っていなかったんだろう。
弾き返された上体を、驚いたのか無防備に背後の俺に晒している。
「せーのっ!」
そのガラ空きの背後から、首目がけて刃を振り抜いた。
ほとんど不意打ちみたいなもんだし防げるわけもなく、あっさり仕留めることに成功した。
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