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オーガとの戦闘が始まって以来、何度か俺はオーガの群れに突撃を行っていた。
成果は……微妙だな。
確実に倒したと言えるのは3体で、行動不能に追い込んだのが2体。
片腕を切り落としたり、何かしら深手を負わせられたのが3体。
そんな感じだ。
ただ、最後のオーガたちは、一応深手を負わせているはずなのに、未だにピンピンしているんだよな。
血も止まり始めているし、この程度だと影響はないのかもしれない。
群れの数が減ってきたら、その分俺が有利になってくると思ったんだが、間合いの問題でアカメたちも仕掛けづらいようだし……。
間合いに飛び込むことと攻撃が一緒に出来る【緋蜂の針】が使えないのが響いているな。
十数体のオーガの群れ程度なら、これまでダンジョンで何度も相手にしたことがあるし、正直なところどうとでもなると思っていたんだが、甘かったか。
それに、こいつらはこいつらで俺に対応してきている。
「ふっ! ほっ!! このまま……って、くっ!?」
狙いを付けた個体目がけて、【琥珀の剣】と【影の剣】でのコンボを決めようとしたが、横からのオーガの一撃に気付き、俺は慌てて回避行動をとった。
ガラスが割れるような音が響いたかと思うと、その攻撃をしてきたオーガが顔を抑えて悲鳴じみた叫び声を上げる。
「あっぶな……」
俺は思わず息を漏らした。
【琥珀の盾】が発動したってことは、今のは【風の衣】も突破されているってことだ。
もちろん、体にピッタリくっついているわけじゃないし、まだまだ俺にその攻撃が当たるわけじゃないが、ちょっと今のは危なかった。
油断したつもりはないが、ちょっと焦り過ぎたかもしれない。
俺は「いかんいかん」と、一旦距離をとってから息を整えた。
だが、ひとつ発見もあった。
「……【琥珀の剣】は腕とかとりあえず届くところに叩きつけてたから、破片もそこに行ってたけど、【琥珀の盾】の方は顔に行ったみたいだね。腕とかだと大した痛みはなさそうだったけど、顔は流石に効くみたいだね」
今までは【影の剣】で止めを刺すために、一手目を【琥珀の剣】や尻尾での牽制で二手目に【影の剣】にしていたが、もう一手増やしたり、順番を変えてみるのもありかもしれない。
出来るだけ戦闘に手間をかけたくなかったから、少ない手順でって考えていたが……やってみよう!
【琥珀の盾】を再発動してから、正面にいるオーガに向かって【浮き玉】を加速させた。
「ほっ!」
俺は無造作に右手の【影の剣】をオーガの腕に向かって突き出した。
この個体は無傷だが、これまでの戦いを見ているし【影の剣】の威力はわかっているんだろう。
腕を引きながら身をよじって躱したが、それが俺の狙いだ。
「はっ!」
俺は、腕を引いたことで空いたスペースに入り込むと、顔面目掛けて左手の【琥珀の剣】で斬りつけた。
盾の破片の時と同様に、顔に突き刺さった破片の痛みに叫びながら両手で顔を抑えるオーガくん。
これで首が空いた。
「……よしっ!」
俺はそのガラ空きの首を【影の剣】で斬り払った。
◇
新しい戦い方を試してみたところ、さらにもう1体仕留めることに成功した。
ペース自体は多分変わっていないと思うが、それでも先程までよりはスムーズに倒せている気がする。
先程までは前に前にと来ていたオーガたちも、徐々に下がって行っているし……これは俺の圧力に屈して……。
「……待てよ?」
下がって行くオーガたちを見て、追い始めたところでハタと気付いた。
俺の目的は、この群れをアレクたちのもとに行かせないことだ。
もちろん、ここで倒せるのなら倒すにこしたことはないが、かと言って、あまりアレクたちから離れすぎるのもちと問題じゃないか?
スムーズに1体を倒せたことに気を良くして、ついつい深追いするところだった。
「そろそろ【祈り】が切れるし、一旦戻った方がいいのかな……?」
【浮き玉】を止めてその場で滞空してみると、下がっていたオーガたちも足を止めた。
やっぱり俺を釣り出すのが目的だったのか……?
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今のこの状況にそこはかとなく嫌な感じがした俺は、一旦アレクたちのもとに戻ろうと決めた。
サルたちと戦闘中のアレクたちに、このオーガの群れがちょっかいをかけないようにするために、俺が一人で相手をしていたってことを考えたら、こいつらを引き連れていきかねないし本末転倒な気もするが……。
「もう時間はそこそこ稼いだよな?」
ちょっと戦闘に集中しすぎていて正確な時間の経過はわからないが、いくら慎重に戦っていたとはいえ、そろそろ片付いていてもおかしくないだろう。
「うん……向こうと合流した方がいいよね」
よくよく考えると、俺を引き離そうとするコイツ等の動きも妙な気がしてきたし、向こうと離れたのは失敗だったかもしれない。
合流しよう。
俺はオーガの群れから視線を切らずに、徐々に後退を始めた。
後ろ向きに進んでいるが、周囲の警戒はアカメたちに任せているし、仮にまだ魔物が潜んでいたとしても大丈夫だ!
もちろん、それでも油断せずに周囲を警戒しながら後退していたんだが、不意に俺の背後を警戒していたアカメたちが、三体とも揃って前方に頭を伸ばした。
「どっ……どうしたのっ!?」
慌てて周囲を探ってみるが、特に何かが潜んでいるってことはない。
俺の目に映るのは、オーガたちだけだ。
先程までの戦闘で大きなダメージを負った個体も、視界の端にではあるが収めているし、今俺を襲ってくる魔物はいないはず……だよな?
俺は周囲の警戒を続けながら、後退する速度を上げていった。
最高速で一気にこの場を離脱するのも出来ることは出来る。
だが、状況を把握出来ていないのに急なアクションをとるのはちと怖いよな。
それに反応して襲ってこられても困るし……ここは周囲を刺激しないように慎重に……。
そう考えていたんだが、突如「セラ!」と向こうで戦っていたはずのアレクの声が聞こえてきた。
その声に「ん?」と振り向こうとした瞬間、赤い光線が俺の頭上を貫いていった。
◇
「はああっ!!」
リックは高速で剣を十字に振るうと、サルのアンデッドを4つに切断した。
これでもまだ活動を止めることはないが、動き回ることはもうない。
もちろん本格的に処理をするのなら、魔法で灰になるまで焼き尽くさなければいけないが、戦闘が続く中での間に合わせの処理ならこれで十分だろう。
リックはしばらく切断されたサルから目を離さないでいたが、もう離れても問題無いと確認するとその場を離れた。
向かった先では、アレクとルイが先程のリックと同じように、アンデッドを細かく切り裂いている。
「アレクシオ隊長、こちらは仕留めた。そちらはどうだ?」
「おう。今潰したぜ。コレで……ここにいる分は全滅させたか?」
「そうですね。アンデッドも途中で襲って来た魔物も全て倒しています。これで終わりのはずですが……」
アレクの言葉に、地面に転がるアンデッドの体から顔を上げたルイは周囲を見渡す。
ここで戦い始めた時点では、サルのアンデッドの他は小さな獣と魔物だけだった。
アンデッドは、いることさえ分かっていればタフであることだけ気を付けたら、さほど手強い魔物ではない。
だが、戦闘に刺激されたのか、それともサルが呼び寄せたのかはわからないが、周囲にいた魔物も側に寄って来るなり、サルと共に襲い掛かってきた。
もちろん、ただの魔物相手に苦戦するようなことはなく、少々時間はかかったが無事倒しきり、サルたちも全て倒し終えた。
これで、森の奥でオーガの群れを引き付けているセラと合流して、魔物を倒してしまえばいいだけなのだが……二人よりも魔法の扱いに長けたルイは、何かを気にしているようだった。
「どうした?」
「はっ……我々が森の外で感じていた魔力は、このサルのアンデッド共のもので間違いはなかったはずです。ただ……まだ漂う魔力が晴れていません。アンデッド共を消滅させたわけではないので、多少の残留はあってもおかしくはないのですが……」
それを聞いたアレクとリックは、一度顔を見合わせると周囲の様子を探った。
「…………む。言われてみれば濃さが変わらない……か?」
「確かに。セラ副長が後れを取るとは思わんが……テレサ殿と合流しよう」
その言葉に三人は頷くと、テレサのもとへと走った。
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