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「セラっ!?」
背後から聞こえてくるアレクの声。
サルたちの数が減ってきたとはいえ、そのサルたちの背後を押さえておくって役割を放棄して移動をしたんだ。
一応「奥の魔物が何か投げようとしてる」って言いはしたが、サルたちと対峙しているアレクたちじゃ、向こう側の様子まではよくわからないだろうし、いきなり何事って思うよな。
説明してやりたいんだが……申し訳ないけどそんな余裕はない。
急いだ甲斐があったようで、両腕で振りかぶっていたソレが飛んでくる前に、俺はアレクたちと奥の魔物の間に入ることが出来た。
そして、照明の魔法を魔物との間に数発放り投げて視界を確保する。
とりあえずこれで……!
「来たっ!! って、でかっ!?」
投げて来た物を弾こうと思っていたんだが、飛んできた物を見てついつい声を上げてしまった。
俺は、投げて来るんだとしたら精々小さな岩程度だと思っていたんだが、実際に飛んできた物は2メートルほどはありそうな折れた木だ。
小岩程度なら【琥珀の盾】で勢いを殺して【風の衣】で弾く。
それが可能だと思って、盾になるために間に入ったんだが……コレは予想外。
「……くっ!?」
何とか受け止めてはみたが、今の【風の衣】じゃ、これを弾き飛ばすだけの力はない。
受け止めた状態で【浮き玉】の高さを調整して、1メートルほど高さを上げたところで、木は地面に落下した。
そこら辺にあった倒木を折った物なのか、あるいは遥々森の奥からここまで運んで来たか。
何とか斜めに受け流すことで、アレクたちのもとに飛んでいくことを防げたが、これは……どうする?
「セラ、無事かっ!?」
「ふぅ……大丈夫大丈夫。でも、ちょっとコレは放置出来ないかも。そっちの残りは任せるから、俺はこっちを相手するよ!」
それだけ言うと、後ろの返事を待たずに俺は魔物が潜んでいる森の奥に飛び込んだ。
◇
「やっぱオーガかっ! わかっちゃいたけど、多いね!!」
目の前に現れたオーガの群れを見て、俺は思わずそう口に出してしまった。
俺がダンジョン以外でよく狩りをしている一の森の浅瀬付近だと、大型の妖魔種とは滅多に出くわさないが、もう一つの狩場であるダンジョンの上層以降だとオーガやオークといった大型とも戦う機会は多く、オーガが物を投げて牽制してくるってことは予測出来ていた。
もっとも、牽制と言ってもオーガの筋力だ。
当たればそれだけで大ダメージを負ってしまうし、人間相手なら十分決め手になってしまう。
それでも、アレクたちなら投石程度なら防ぐなり躱すなりは出来たかもしれない。
だが、目の前のコイツが投げてきたようなデカい棒は駄目だ。
受け止めることも躱すことも難しいしな。
向こうが片付くまでは俺がここで囮になって足止めだ!
俺はさらに照明の魔法を周囲にバラまいた。
とりあえず、これで俺が目立つようになったし、この場の魔物は俺を狙うようになるよな?
「さて……と。場は調ったはいいけれど、全部で……16体かな? コレどうしたもんかね」
明るくなったし、オーガの数を端から数えていくが、その数は16体。
ダンジョンじゃなくて外での群れだと考えたら、これは大分規模が大きい。
もちろん、奥から引っ張ってこられたわけだし、いくつかの群れが合流したって可能性もあるが……ボスは向こうのサルのどれかかもしれないが、こいつらの中にもリーダーがいるかもしれない。
油断は出来ない。
それでも、ベストコンディションならこの程度の数はどうとでもなるんだが……。
「ふっ」
俺は左手を振るうと、【琥珀の剣】を発動した。
俺が普段オーガの群れと戦う時は、魔法で目潰しをしてから【緋蜂の針】で突っ込んで、【影の剣】で1体を仕留めて即離脱。
ダンジョンだろうと外の森だろうと、概ねそんな感じだ。
その戦い方が今は出来ないからな……。
時間稼ぎが一応の目的だし、【琥珀の剣】で牽制していくつもりだが……利くかな?
「まぁ、いいや。やってみよう!」
気を取り直すと、右手の【影の剣】を伸ばしてオーガの群れに突っ込んで行った。
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「ふっ!」
短く息を吐いて、オーガの懐に飛び込み右腕を振るおうとするが……。
「うぉぅっ!?」
横から飛んできた何かに邪魔をされてしまった。
それ自体は【風の衣】で防ぐことが出来たが、俺の突っ込む軌道がずらされてしまったし、一旦距離をとろう。
仕切り直しだ。
「やれやれ。1体1体の力は並程度だけど……この数でしっかり連携してくると面倒だね。バラバラかと思ったけど、同じ群れなのかな?」
俺は、手強いな……とボヤいてしまったが、すぐに首を横に振る。
「まぁ……もうちょっとこのまま普通に戦ってみるかな」
今の俺でももう少し違う戦い方は可能ではあるが、まだ何があるかわからないし、もう少しこの戦い方を続けてもいいだろう。
何だかんだで、しっかり間合いを取りながら戦うっていうこのスタイルは、突破力はないが安定感は高いしな。
「……よし。もういっちょ! 次はあっちだ!」
先程は真っ直ぐ目の前の魔物に向かって行ったが、今回は少し狙いを変えることにした。
正面のオーガの前まで移動すると、俺を迎撃するためにオーガは腕を背中にまで振りかぶっている。
このまま真っ直ぐ突っ込んで行けば、先程と同じように結局下がらされることになるが。
「……今だっ!」
腕が振り下ろされる直前に、俺は真横に進路を変更した。
進路を変えた先にもオーガはいる。
そのオーガは、援護のためなのか拳サイズの石を掴んで投げようとしていた。
さっき邪魔して来たのはコイツかな?
俺が急に自分に向かって突っ込んできたことに驚き、慌てて手にしていた石を投げてきたが、いまいち力が入っておらず、その石は簡単に風に弾き返された。
んで、その隙をついて俺は一気に斬りかかったんだが、思ったよりも立ち直りが早く反応されてしまった。
「ほっ! ……ダメか!」
俺の一撃を防ぐために出してきた右腕を切り落とすことは出来たが、残った左腕で掴もうとしてきたため、その場を離脱した。
やっぱりこのレベルの魔物だと、急所を狙わないと一撃で倒すことは難しいな。
今の装備でどうにかするのなら、もっと懐まで飛び込まないといけないんだろうが……それもなぁ。
「ふぅ……。まぁ、それでもとりあえず1体は弱らすことが出来たし、この繰り返しでいいかな?」
数を減らしていければそれだけ俺の動ける幅も広がるし、そうしたら倒していくペースも上がるだろう。
そもそも、俺一人で全部倒す必要もないしな。
「よし! 気を取り直して、もう一回だ!」
◇
「ほっ! んで……って、いかんっ!!」
オーガの攻撃を躱して、カウンターで俺も攻撃を……と思ったんだが、視界の端に、アレクたちの方に向かって行こうとする数体のオーガを見つけ、慌ててそちらに向かって突っ込んで行く。
「はっ!」
一番手前のオーガに、左手の【琥珀の剣】を叩きつける。
そして。
「ほっ!」
奥の1体に向かって尻尾を伸ばす。
「ていっ!」
さらに、近くの1体を遠ざけるために、右手の【影の剣】を突き出した。
大したダメージは与えられていないが、それでも狙い通り3体のオーガたちは後ろに下がって行く。
その様子を見て、俺は一つ息を吐いた。
「ふぅ……全く……目立つオレがいるんだから、ちゃんとここにいて欲しいよね」
オーガからしたら知ったこっちゃないだろうが、だんだん俺に慣れてきたのか、無視してアレクたちの方に向かおうとする個体が現れ始めてきた。
「……むぅ」
ちょこちょこダメージを与えられてはいるんだが、倒せたのはまだ2体。
始めに腕を切り落とした1体は弱るどころかまだまだ元気にしているし、タフさが人間とは大違いだ。
俺がやられる気は全くしないが……どうにも主導権を握れていない気がする。
今のところはまだ抑え込めているが、俺を無視して向こうに行こうとするのが増えてくるとちょっと厳しいかもしれない。
そんなことを考えながら群れに目を向けると、俺を睨む14体のオーガと目が合った。
あまり嬉しいことではないが、とりあえず意識は俺に向かせられているな。
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