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 木の上にいたのはサルの魔物で、それが何体も枝につかまっていた。

 そのサルたちは、ジーっと宙に浮いている俺を見てきたかと思うと、2体ほどが枝からこちらに向かって飛びかかってきた。


「おわぁっ!?」


 飛びかかってきたサルに驚いて、叫びながら尻尾で叩き落とした。


「私がやる!」


 そして、すぐ下に控えていたリックが、木が倒れ始めているにも拘らず距離を詰めると、そのサル目がけて剣を振り下ろして、首を刎ね飛ばした。

 その首は剣の勢いで遠くに転がっていき、リックは地面に倒れた胴体から距離をとって、俺に飛びかかってきたもう1体のサルに向けて剣を構えた。


 油断のない良い動きだ。

 だが。


「気を付けて! そいつらアンデッド!!」


 頭上から響いた俺の声に、リックはぎょっとしたかと思うと、さらにもう一歩下がっていく。

 その距離をとったリックとは反対に、俺は【影の剣】を構えて下に向かって降下する。


「はっ!」


 首なしになったサルが、動き出す前に縦と横に切り裂くと、尻尾で強く叩きつけた。

 バラバラに飛んで行った死体を見て、俺は一息つく。


「リック君、一旦下がろう。木の上にまだいっぱいいる」


「……承知。ルイ殿」


 リックは俺の言葉に頷くと、まずはルイを下がらせた。

 その次に俺を。

 最後に自分が下がって行った。


 そして、俺たちがアレクのもとまで行ったタイミングで、アレクが折った木が地面に轟音を立てて倒れた。


 ◇


 木の上にいた群れを率いるボスは、サルの魔物だったんだが……ただの魔物じゃない。

 正確には、サルの魔物のアンデッドだった。


 正体を見極めようと、つかまっている枝の側に明かりの魔法をぶち込んで、その姿を露にしたんだが……その結果現れたのは木につかまっている大量のサルのアンデッドの姿だった。


 大木と言うほどではない木に、大量に魔物がつかまっている光景にも驚いたが、何よりグロイ見た目だ。

 死体がベースなだけに、あちらこちらが腐ってたり欠けていたり……そもそも骨だったり。


 魔力はそれとなく感じているのに、【妖精の瞳】で全く捉えることが出来なかったから、なんとなーく……もしかしたらアンデッドなのでは……とは思っていたが、いやはや……ビビった。


 1体や2体じゃなくて、大量にだもんな。


「はっ!」


 木が倒れたことで舞い上がった土砂を、テレサが風の魔法で吹き飛ばした。


 土砂が晴れて姿が現れたのは、倒れた木の上で元気に跳ねているサルたち。

 何体かは足や腕が折れているように見えるが、それでもピンピンしているあたり、流石アンデッド……。


「……なるほど。厄介だ」


 その様子を見て、ボソッと小さな声でアレクが呟いた。


 ただ倒すだけでいいのなら、こちらの戦力を考えたら余裕なんだが、コイツ等が何を考えているのかがまるで読めないんだ。

 真っ直ぐ突っ込んで来てくれたら楽なんだが、よくわからないしな。


「……どうしよう?」


「川に逃げ込まれたら面倒だ。セラ、お前は後ろに回り込んでくれ。やれるか?」


 川に逃げ込まれたら俺以外は追跡が難しい……そんなことを考えていたが、アンデッドなら潜水したままどこにでも行けるだろうし、俺にとっても面倒なことになる。

 アンデッドって放置したらどうなるのかはわからないが、少なくとも雨季の間中街の側をうろつかれるのは避けたいしな。


「うん。だいじょーぶ」


 俺はアレクの言葉に頷くと、逃げられる前にサルたちの頭上を越えて、裏側に回り込んだ。


 ◇


 こちら側に回り込むついでに、上から照明の魔法をばら撒いた。

 昼間のように……とまではいかないが、少なくとも暗くてよく見えずに逃げられた……なんてことは起きないだろう。


 これで、俺たちが戦う準備は調った。


 アレクは剣を一度上に掲げると、真っ直ぐ振り下ろした。

 それを合図に、4人がサルたちに向かって距離を縮めていく。


 当初の予定では、魔法で牽制しながら戦っていくつもりだったが、1体1体確実に仕留めていかないと不安だもんな。

 手間はかかるが、この戦い方がベストだろう。


 それじゃー……俺も適当に援護に回るかね。


1317


 アンデッドのサルの群れとの戦闘は、随分静かに繰り広げられている。


 テレサが魔法をぶっ放して、【赤の剣】を振り回す……多分それが一番破壊力のある戦い方なんだろうが、肝心の相手が小型種のアンデッドだ。

 下手に威力のある攻撃なんかをやって、相手を吹っ飛ばしてしまおうものなら……。


 これが普通の魔物や獣なら、そんな一撃を食らえば大体死ぬし、死なないまでもそれなりのダメージを負うから、使う意味はあるんだが、アンデッドとなると話が変わってくる。


 多少体に損傷が入ったところで平気で動くし、そうなると半端な威力の攻撃は、魔物を俺たちの包囲の外に吹き飛ばしてしまうだけって結果になってしまうかもしれない。


 そんな事は出来ない……ってことで、地味に殴っては距離をとり、斬っては距離をとり……アレクたちは慎重な戦いを強いられている。


 まぁ、一応数を減らすことは出来ているし、とりあえずこのまま進めていくしかないだろう。


 ◇


「せー……のっ、よいしょー!!」


 サルたちの裏に回り込んでいた俺の一撃に、食らったサルは前方で待ち構えているリックのもとに飛んで行く。


 そして。


「はあっ!!」


 飛ばされてきたサルのアンデッドに、リックは剣を振り下ろすと、刃を返してさらにもう一撃お見舞いした。

 胴体を大きく縦に切られ、さらに真横に切り裂かれている。


 ただ、困ったことにこのサルはアンデッドだ。

 体を四つに分断されても、まだ腕が動いている。


 何が出来るってわけじゃないが、それでも迂闊に近づいて戦闘中に足を掴まれたり噛みつかれたりしたら、いくら彼等でも危ないかもしれない。


 だからこそ、この地味な戦闘だ。


 俺がもう少し細かく刻んでもいいんだが、いくら隙を見つけた時だけとはいえ、地面に近付くのも怖いしな。

 今のところはこのやり方で上手く行っているし、しばらく継続だ。


 問題は……。


「ちょっと増えてきてるね」


 森の奥にいる大型の魔物たち。

 その数が少しずつ増えている。


 これって、もう北の森の浅瀬から奥までに生息する魔物の大半が、今回の襲撃に集まってるんじゃないか?


 ともあれ、奥にいる魔物が突っ込んで来たら、大型だけに厄介なことになるだろう。

 こっちのアンデッドも面倒だが、そっちも注意しておく必要があるが……アンデッドを相手にしながらだと、ちと難しいかもな。


「奥の魔物も増えてきてるから気を付けて!」


 俺の注意に、盾を掲げて応えるアレク。


【妖精の瞳】でしっかり見えるし、流石に向こうの群れはアンデッドじゃないだろう。

 アレなら俺一人でもどうにかなりそうではあるが、如何せんサルたちが川に逃げるのを防がないといけないし、俺はここを離れるわけにはいかない。


 出来るのは注意だけかー……。


「はぁ」とため息を一つ吐くと、気を取り直して尻尾を振るった。


 向こうが襲ってくる前に、出来るだけこっちを減らしてしまえばいいんだもんな。

 もう少し積極的にやってみるか!


 ◇


 順調にサルたちを倒していき、半分近くまで減らすことが出来た。

 そして、当然こちらの被害はゼロだ。


 通常の魔物はこれだけ群れの数を減らされると、一斉に襲ってくるか、他の仲間を呼ぶか、逃げるか……何かしら行動に変化が出てくるんだ。

 ただ、もう死んでいるからなのかどうかはわからないが、戦闘開始時からサルたちの行動に変化は無い。


 これだけの魔物を動かしたりする知恵はあるはずなのに、その辺のチグハグ具合がどうにも気にはなるが、まぁ……この分ならそろそろ一気に決めちゃってもいいんじゃないかな?


「もう数が減ってるし、一気に決めてもいいかもっ!」


 そう叫びつつ、念のためチラッと森の奥に視線を向けた。

 別に大した意味はなく、あくまでアレクたちにサルを始末してもらう指示を出したついで……その程度の行動だったんだが、それが良かった。


 木の奥に潜んでいた魔物のうちの1体が、何かを振りかぶっている姿が目に入った。


「奥っ! 何か投げて来るかもっ!!」


 何を投げようとしているのかはわからないが、ともかくそれを防がないと……と、俺はアレクたちとの間に入る為に【浮き玉】を加速させた。

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