621
1314
こちらにやって来たジグハルトに事情を話すと、彼はここでのお留守番を快諾してくれた。
まぁ……通常の狩りならともかく、こんな状況で自分が森に入ると結構な大惨事になってしまうし、それは最後の手段だってわかっているだろう。
ってことで、ジグハルトとルイの仲間の3人に外の指揮を任せて、俺たちは森の中に向かうことにした。
森の外に出ている魔物は片付けたが、浅瀬の部分にはまだ少し残っているし、そこで足止めをされたりしないように、一気に駆け抜けないとな……。
そんなことを考えていると、ジグハルトが前に歩み出た。
「俺が目の前の雑魚共を吹き飛ばす。その隙に突っ込んじまえよ」
「!? 助かります」
アレクの言葉に、ジグハルトは「おう」と一言答えると、両腕にグッと魔力を込めだした。
そして、ドカンと魔法というか……多分魔力をそのまま放ったんだろうが、なんか目の前の森の一画を吹っ飛ばした。
いい加減見慣れてはきたが、相変わらずわけのわからんことをするおっさんだ。
「よし、行くぞ!」
驚き半分呆れ半分で吹き飛んだ森の跡を眺めていると、アレクが出発の合図を出した。
浅瀬で様子を窺っていた魔物は消し飛んだが、ボスの気配はまだ残っているし、逃げられないうちに追い詰めないとな!
◇
ジグハルトの援護を受けながら森に入った俺たち5人は、アレクを先頭に森の中を移動をしている。
俺が先頭でもよかったんだが、念のために真ん中に入っていた。
ちなみに、一度アレクたちが森から退避する際に魔物に馬を潰された経験から、皆馬から降りて徒歩で移動している。
速度を揃えるためにも、俺が先頭じゃない方がいいだろうな。
しかし……。
「ねー、森に何かいるってことはオレでもわかるんだけど、進む方角こっちでいいの? あっちの方が魔物は多いよ?」
先頭を進むアレクは、森に入ってすぐは真っ直ぐ奥を目指していたんだが、徐々に西に逸れていっている。
奥にはまだそれなりに強力な魔物がいたし、ボスがいるとしたらその辺りだと思ったんだが……回り込もうとしているのかな?
「姫、群れを率いるボスらしき魔物は、こちらに移動をしています。私たちから距離をとろうとはしていますが、逃げる気は無いようです。このまま追跡を続ければ、いずれ捕まえられるはずです」
「ほぅ……」
俺には、何となくこの辺にいそうってことくらいしかわからないが、どうやら皆はその辺りの考えは一致しているようだ。
今の話が聞こえているだろうが、足並みに全く変化がない。
「セラ副長。君のその恩恵品で見えないのか? 生物の気配を捉えられるんだろう?」
大人しくアレクの後ろをついて行っていると、後ろを歩くリックが声をかけてきた。
「見えないねー。距離があったり間に障害物があると見えなくなることもあるし、そもそも対象の力が強くないと、距離があったらわかりにくかったりもするからね。……まぁ、今追ってるボスに限ってそれは無いとは思うんだけど」
小型の魔物っぽいけど、少なくとも弱いってことはないよな?
リックはそれを聞いて黙り込んだ。
他の3人は何ともなさそうだが、彼はこの夜の森で魔物を追跡するって状況には馴染みが無いからか、ちょっと落ち着かない様子だ。
いざ戦闘にでもなればまた違うんだろうが……ちょっと珍しいものを見た気になるな。
リックに気付かれないように「うむうむ」と小さく頷いていた時、アレクが足を止めると、後ろの俺たちに向かって手のひらを突き出してきた。
止まれってことかな?
「動きを止めましたか?」
ルイの言葉に頷くと、アレクはこちらをちらっと見た。
「ああ……合流している。セラ」
「ほい」
「アレが見えるか?」
アレクが指さしたのは、100メートルほど離れた場所だ。
奥に川か泉でもあるのか水の音が聞こえるが、追跡中のボスはそこで動きを止めたようだ。
「アレ……見えるけど……おや?」
「その目玉じゃ見えないな?」
「……うん。アレって生き物?」
「どうだろうな? 複数いる。周囲の魔物も呼び寄せるかもしれないし、気を付けろよ!」
アレクはそう言うと、【赤の盾】を発動した。
どうやら、準備の間をおかずに、このまますぐに戦闘に移るつもりらしい。
1315
【妖精の瞳】は生物の体力と魔力が、光になって見えるようになる恩恵品だ。
あまり体が小さかったり能力が弱すぎると、光りが小さすぎて見えなかったりもするが、ゴブリンサイズ程度の生物なら、そうそう見逃すことはない。
だが……この距離で見えないとなると……。
そもそも、小指の先ほどの小ささではあるが、木の上にいる何かは見えているんだ。
影になっていて、正体が何なのかはわからないが、姿が見えているのに光りは見えない……これはおかしい。
出来れば周囲を飛び回ってじっくりと観察をしたいところだが、どうやらそんな余裕はなさそうだ。
「行くぞ! セラ、お前は俺の後ろに入れ。テレサ、アンタが魔法で牽制を! リックとルイは俺に合わせろ!」
アレクはそう言うと、一気に走り出した。
すぐ側が水辺だし、これ以上どこかへ移動するってことは無さそうだけれど……それでも、万が一に備えて早さを優先するみたいだな。
リックとルイもアレクに遅れないように、すぐ後ろを走っているし、テレサも魔法を撃つために、間に障害物がない場所へ移動している。
ボスの正体はともかく、アレが何かってのは何となく予測出来ている。
詳しく調べるのは倒してからでもいいよな。
「ほっ!」
【祈り】を始め、各種加護を再発動した俺は、【浮き玉】を加速させて、前を走るアレクの背を追った。
◇
俺はアレクの後ろについていたが、一旦上空に上がると地形と周囲の確認をした。
木の奥に見えた水場は小さな川で、西に向かって流れている。
領都の側に流れる川とは別の川だろうし、領内のどこかの川と合流するのかもしれないな。
深さはわからないが、幅は精々10メートルほどで、生物の気配は感じられない。
一方、ボスが上っている木の根元周辺の草むらに、ヘビの魔物が潜んでいる事に気付いた。
強さは大したことないが、毒でもあったら厄介だしな。
少し離れてはいるが、ボスがいる木の北側にオーガか何かの群れがいるし、纏めて報告だ。
「皆! 木の根元にヘビみたいなのと、北の方に大型の妖魔種がいるから気を付けて! あと、木の裏には小さな川が流れてる!」
「おう! テレサっ!!」
「ええ!」
アレクの合図に、テレサが樹上に魔法を放った。
威力は抑えているが火系統の魔法で、木の幹に当たると同時に爆発して、周囲が赤く照らされた。
爆発音に閃光……どちらも不意打ちだし、ダメージは大したことなくても、確実に決まったはずなんだが……爆発以外は何の変化も無い。
「……反応なしか。それならっ!」
アレクはそう言うと木に向かって駆け寄り、着弾して抉れた箇所を【赤の盾】で殴りつけた。
その一撃がどれだけの威力があるのかはわからないが、魔法のダメージもあって、ベキベキと音を立てながらゆっくりと倒れていく。
リックとルイも前に出て来て、地上に落ちたボスを逃がさないように構えている。
アレクとテレサもいるし、地上はこのまま皆に任せていいだろう。
「オレは上を見るね!」
そう言って、俺は倒れ始めた木に向かって飛んで行った。
今ボスがいる木は倒れるが、その前に他の木に飛び移られたり、川に飛び込まれでもしたらちょっと面倒になる。
たとえ川に逃げようと、俺なら追いつくことは簡単だが、他の4人は難しいし、そうなると俺だけでどうにかしないといけなくなるからな。
よくわからない相手に……それも水中に引きずり込まれる危険がある状況で、一人で対応したくはない。
そうならないように、いざとなれば空中で撃ち落としてやる。
俺は気合いを入れると、倒れかけている木を飛び越えて裏に回り込んだ。
「ほっ!」
倒れる最中の木の枝に、適当に照明の魔法を放った。
これで明るくなったし、暗闇に紛れて逃げるのは無理になっただろう。
ついでに、ボスの正体も見極めてやろうと思ったんだが……。
「……っ!? 何体もいるよっ!?」
木の枝にしがみついていたボスは、俺の魔法ではっきりと見えたんだが、1体だけじゃなくて何体もが同じ枝にしがみついていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます