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「とりあえず、そっちは後回しにして今はイノシシだ!」
飛んできた魔法や、背後のなにかも気にはなるが、一先ずそれはイノシシを片付けてからにしよう。
俺は地上まで下りると、2頭のイノシシに向かって突撃した。
走っている時のイノシシならともかく、足を止めた状態ならただのデカい的だ。
流石にコレなら余裕!
「よいしょっ!」
俺は2頭の間を縫うようにすり抜けながら、首を切り裂いていった。
◇
倒したイノシシの側で森から目を離さないように漂っていると、先程俺を魔法で援護した者を含む一団が近づいて来る。
まぁ……誰なのかはわかっているが、一応そちらに視線だけ向けると、やはり予想通り先頭には馬に乗ったテレサの姿があった。
そして、冒険者たちを待機させるとこちらにやって来る。
「姫、お待たせしました。遅くなりましたが、我々もこちらに加わります」
そう言って周りを見回すと、アレクたちがいる後方の拠点で視線を止めた。
「アレクたちはあちらですか?」
「うん。森から引っ張って来る途中で馬を潰されたんだって。で、そのまま戦闘になって大分参ってたみたいだから、一旦休んでもらってるんだ」
テレサは、「なるほど……」と頷くと、待機している冒険者たちを呼びよせて、いくつかの指示を出していく。
彼等は指示を聞くと、すぐにいくつかのパーティーに分かれて散らばっていく。
「他の部隊に増援を送りました。2番隊の正規兵ほどではありませんし、即席の組み合わせではありますが、連携して動けますし、北の森の魔物相手なら十分でしょう。それよりも……」
こちらに近づいて来ると、声を抑えて話し始めた。
「姫の背後に魔物の気配を感じたので始末しましたが、アレはコウモリでしたか?」
「多分そうじゃないかな? 森の中でも何度か襲って来たしね」
俺はテレサに森の中での戦闘や、アレクたちが森を出てくる際のことも纏めて話すことにした。
◇
「セラ、テレサ」
森の中でのことに加えて、今の戦況も適当に搔い摘んで話していると、後方での休憩を終えたアレクが戻ってきた。
先程までと違って声も大分元気だし……大丈夫そうかな?
「来ましたね。先程姫から状況は聞きました。今は私が率いていた兵たちを前線の隊に送っています」
「助かる。それと、先触れが来たが、直に街で待機している兵たちも出て来るそうだ」
「率いる者は誰ですか? オーギュスト団長でしょうか?」
「いや、リックだ。オーギュストは街に残る」
「彼ですか……まあ、いいでしょう。1番隊なら魔法も使えるでしょうしね」
「ああ。……セラ、お前の体調はどうだ?」
「体調?」
アレクとテレサが真面目な顔で話しているのを、側で漂いながら聞いていたんだが、唐突にアレクは俺の様子を訊ねてきた。
「別に問題は無いけど……。攻撃食らったわけじゃないしさ」
まぁ……魔力はちょっと厳しいかもしれないけれど。
そう言うことか?
そう考えて、付け加えることにした。
「魔力はちょっと厳しいかもね。俺も外で限界まで使ったことがあるわけじゃないし、どれくらい消耗しているのかはわからないんだ。まだ体調がどうとかはないけど……」
「ああ、気にしなくていい。後ろから見ていたが、お前が倒したのはイノシシだろう? 後退時に何組か相手したが、森に出る少し前に脇に逸れて行ったまま、外に出てくることは無かったんだ」
「ほぅ……それが出てきたってことは……?」
ボスの強制力が足りなくて途中から逸れて行ったのか、あるいは敢えて待機させていたのか。
どちらかはわからないが、この分だとそろそろか?
「そうだ。まだ気配は残っているし、もう奥に逃げることはないだろう。そろそろお出ましかも知れないし……お前は念のため後方に退いて、回復しておいてくれ」
あちらこちらでまた戦闘が起きているが、先程のイノシシやオーガのように、小型の魔物以外も姿を見せ始めている。
俺にはどうだかわからないが、アレクだけじゃなくてテレサも森を鋭い目つきで睨みつけているし、森にはボスがまだちゃんといるようだ。
俺もそれに備えて、ちょっと一息つかせてもらおうかな。
「りょーかい!」
そう答えると、二人から離れて後方に下がることにした。
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「……ふぅ」
前線をアレクたちに任せて、俺は一旦後方の拠点まで下がることにした。
そちらでは、俺と一緒に森を出たルイたちが、机の周りで兵たちに交ざって話をしている。
パッと見た感じ、ルイたちは4人とも揃っているし、街に報告に行った者も戻って来ているんだろう。
その割には応援の姿は見えないけれど……温存なのかな?
目に入る範囲にいる冒険者は十分な腕を持っているようだが、確かもう少し弱そうなのがいたはずなんだよな。
そんなことを考えながら真っ直ぐ拠点に近づくと、それに気付いたルイが顔をこちらに向けた。
「セラ様っ!? 怪我でもされましたか?」
「いや、ただの休憩」
今の俺は明かりを持っていないのによく気付けたな……と感心しつつ、彼女たちの元に向かい、返事をした。
「今こっちはどうなってるの? 見たところ、一緒にいた冒険者たちは何人かいなくなってるけど……」
アレクたちと違って、こっちのパーティーはそこまで激しい戦いを行っていたわけじゃないし、リタイアするようなことはないはずだ。
「はっ。彼等は冒険者ギルドに向かわせております。あちらで騎士団本部との仲介役を任されているでしょう」
「なるほど……」
まぁ……彼等は戦力的にはそこまで大きいわけじゃないし、現場に出ていた冒険者ってことで、間に入って色々雑務を任せる方がいいのかもな。
「騎士団の応援はどうなのかな? リック君が率いて来るとは聞いてるけど……」
「念のため、街の外周を回ってからこちらに来るとのことです。戦力的にはまだこちらも余裕があるので、今のうちにと考えたのではないでしょうか? 報告ではもう街を発っているそうです」
「ほぅ……」
一応街で分断される形にはなっているが、それでも一の森は街の南側まで広がっているし、この北の森だって街の東側まで広がっている。
俺たちがこっちに専念している間に反対側に回り込まれていて、街の戦力が北側に集まったタイミングで、南側を急襲されたら……。
まぁ、ジグハルトたちが残っているしどうとでもなりそうではあるが、街に少しは被害が出るかもしれないもんな。
もしそうなったら、ここ数日の間1番隊の兵が色々慣れない職人の支援なんかしているのに、それが台無しになってしまう。
そうならないためにも、周囲の見回りは必要なことなんだろう。
「んじゃ、そのうちこっちに来るか……。それじゃー、オレはしばらくここらへんで休ませてもらうから、気にしないでね」
「はっ。その間の周囲の守りは私たちにお任せください」
ルイの声を背に、俺は【浮き玉】にもたれかかり体の力を抜いた。
◇
俺が後方拠点に下がってきてから10分ほど経ったところで、1番隊が東西の両側から北門に向かってやって来た。
時間の短縮のために、彼等は隊を二つに分けて街の外周を回って来たらしい。
幸い街の周囲では何の問題も起きておらず、北側に集中出来るようだ。
よかったよかった。
んで、リックたちが到着してしばらく経ったんだが。
「ねー」
「どうした」
リックは拠点に入ると、前線には出て行かずにルイたちと同様に、地図が広げられた机の前で報告を受けていた。
「さっきから見てるんだけどさ、皆は向こうには参加しないの?」
彼が率いている兵は30人ほどで、今も戦闘が繰り広げられている前線に送れば、大分状況が変わると思うんだが……どうなんだろう?
俺の質問に、リックは小さく頷くと答え始めた。
「まだ魔物の群れの全容がわからないだろう? どれだけ長引くかわからない以上はいつでも交代出来る人員を用意しておくべきだ。我々が到着したことはアレクシオ隊長に伝わっているだろうし、必要になれば向こうから要請が来るだろう……見ろ、アレがそうだ」
真面目な質問だったからか、リックは馬鹿にするような真似はせずに答えていたが、その途中でふと視線を森の方に向けた。
その視線を追うと、向こうから明かりを掲げて走って来る兵が見える。
「……アレクと一緒にいた兵だね」
「兵の交代要請だろうな」
そう言うと、リックは周りの兵に準備をするように指示を出した。
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