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進軍速度の調整だったり誘導だったりを、徒歩で戦いながらやっていたんなら、そりゃー……疲れもするし、オーガの群れ相手に後手に回ってしまうのも仕方ない。
「それはお疲れ様だね……。どうする? しばらくオレが引き受けようか?」
とりあえず今は正面の魔物はいなくなったし、新手が来るにしてもまだ時間はかかる……と思ったのだが。
「新しいのが来たね」
森の入口付近を見ると、新しい魔物の姿がチラホラと。
「ああ……今度は後退しないようだな」
俺の言葉に、やれやれと言った口調で答えるアレク。
見た感じ小型の魔物だが、群れが二つ三つジワジワと増えていっている。
昼間はある程度魔物の数を減らしたところで、森の奥まで引き返していたが今回はまだまだやる気らしいな。
「アレク、群れのボスはいるのかな?」
「姿まで見る余裕はなかったが、それは間違いないな。後ろから明らかに他とは違う気配を感じていた。今もまだその気配は残っているし……近くにいるぞ」
「なるほどー……」
ってことは、本番はまだ後ってことか。
「それじゃ、やっぱりアレクたちは一旦下がっててよ。アレくらいならオレ一人で持ちこたえられるからね」
倒せるかはともかく、突破させない程度のことは余裕だろう。
俺が持ちこたえている間に、アレクたちは後ろで休憩してもらおう。
「……悪いな。そうさせてもらう。そう言えば、テレサはどうした?」
「テレサ? 先に報告はしているよ。向こうを引き払って、こっちに合流するって言ってたね」
森の側で火を放置するわけにもいかないし、始末に手間がかかっているのかもしれないが、そろそろ彼女たちもこちら側に到着するはずだ。
魔物の相手は俺がして、他の場所の立て直しや指揮を任せられるし、アレクたちが復帰するまでは十分持ちこたえられるだろう。
「ありがたい……。それじゃあ、セラ。任せるぞ。それと、コレを使え」
そう言って手にした槍をこちらに投げると、アレクは周りの兵たちに声をかけて集めると、彼等と一緒に後方へ下がって行った。
俺は下がって行く彼等を見送ると、アレクから受け取った槍を尻尾で持ち、森の入口へと向かった。
◇
アレクたちが後方に下がってしばし。
俺は絶賛戦闘中だ。
アレクたちから引き継いだ場所での戦闘は、彼等は森から距離をとって、他のパーティーとラインを合わせながら迎え撃っていたが、俺は違う。
森の端のすぐ側で、草原を縦断するように行ったり来たりしながら、森から出てきた魔物を弾き飛ばしている。
「ほっ!」
【風の衣】を纏った状態で魔物が多い場所に突っ込んで行き、弾き飛ばしたところで!
「たあっ!」
尻尾で掴んだ槍を、地面に転がる魔物目がけて突き刺した。
だが、突き刺した場所が悪かったか勢いが足りなかったかはわからないが、穂先が刺さったまま暴れだすとこちらに飛びかかってきた。
「……むっ!? っと、危ない危ない。あぁ……仕留め損なったか」
もちろん【風の衣】を突破する事は出来ずにその体を弾き飛ばしたが、ついでに俺も後ろに下がる羽目になった。
見れば、その魔物も血を流してふらついてはいるが、まだまだ動けそうな雰囲気だ。
しぶとい。
「どうにも普通の武器だと仕留めるのは難しいね。【影の剣】の間合いまで近づけば一発だけれど……それはちょっと怖いしな」
小型の魔物程度じゃ、そう簡単に俺の守りを突破する事は出来ないだろうが、攻撃されたら怖いことは怖い。
魔物はすでに5体ほど仕留めているし、優位に戦況をコントロール出来ている。
とりあえず、戦況に変化があるまではこのまま繰り返しておけばよさそうだな。
「うん?」
次の突撃に備えて、尻尾を振り回して槍に付いた血を振り払っていると、何やらバキバキバキと木を倒すような轟音が、森の奥から響いてきた。
暗くて姿はまだ見えないが……なんかデカいのが来たな!?
これは今までのように【風の衣】で跳ね飛ばす事は出来ないだろうし、一旦下がるか。
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「……イノシシ? デカいね」
辺りは暗い上に距離もあるので、姿はハッキリとはわからないが、何となく見覚えのある姿をしているし、間違いないだろう。
イノシシは何度も戦ってきた相手だしな!
しかし。
「…………躱しちゃ駄目だよな」
森から出てきたイノシシは全部で3頭で、揃ってこちらに向かって突進している。
どうせこのまま真っ直ぐ突っ込んで来るんだろうし、それを回避することは簡単なんだが、そうすると、そのまま後ろで待機している連中のもとまで行っちゃうだろう。
この程度の魔物なら後ろにいる連中たちだけで十分対処出来るだろうが……アレクたちが一息ついているところに魔物を突っ込ませるのもなんだしな。
俺がやるか!
「……やるかと気合いを入れたはいいけど、どうしようね? 【緋蜂の針】は無いし」
俺がデカい魔物を倒す時は、大体蹴りで突っ込んでからの【影の剣】ってコンボだった。
場合によっては魔法での目潰しも加わるが、そっちもそろそろ打ち止めになりそうだから、出来れば使いたくないし、【影の剣】だけで戦えるか?
一応槍はあるが、このデカさの魔物相手に決め手にはならないだろうし、そもそもダメージを与えられるかどうかも分からないし……。
どう対処するかを考えているが、それが纏まる前に、もうイノシシたちは大分近付いてきていた。
先程までは姿がハッキリとは分からなかったが、もうしっかりと見える距離だ。
「あんまり考えてる余裕はないね。とりあえず、突進だけでも止めてみるか。それにしても……」
なんとも、迫力のあるお顔。
先頭の一際デカい1頭は、額に大きな傷跡があり、後ろを走る2頭は牙が折れたり耳が千切れていたり。
中々激闘を潜り抜けてきた雰囲気を感じさせる容貌だ。
【妖精の瞳】とヘビたちの目で見た感じでは、普通のイノシシの魔獣より少し強いって程度だが、あまり油断は出来ないかもな。
「まぁ、いいか。とりあえず、行ってみよう!」
もし攻撃を受けたとしても、【風の衣】と【琥珀の盾】の2枚の守りがあるし、即回避に移ればいいだろう。
俺は気合いを入れると、槍を尻尾から肩から生えている【猿の腕】に持ち替えて、先頭のイノシシ目指して突撃した。
◇
「…………ほっ!」
そろそろ接触する距離になったところで、俺は先頭のイノシシ目がけて槍をぶん投げた。
槍は先頭のイノシシの目の付近に飛んで行ったが、顔を振るって直撃を避けた。
だが、頭を振ったことで速度は少し緩んだし、何より俺から視線が逸れた。
隙有り……と、さらに速度を上げて、頭の真上を通り抜けるように飛んで行き。
「てぃっ!!」
すれ違い間際に、思い切り体を回転させながら頭部を斬りつけた。
そして、その結果を確認せずに、後ろを走るもう1頭目がけて尻尾を振り抜いて殴りつけると、その反動を利用してもう1頭のイノシシの真上に移動した。
「よいしょっ!」
背中から【影の剣】を突き刺すと、一回転をしてから上空へと離脱した。
今の1頭は地面に沈んでいる。
背骨らしきものを断った感触があったし、恐らく仕留めただろう。
もう2頭はまだまだ動けるだろうが、俺を警戒しているのか足を止めて反転して、こちらに頭を向けた。
先頭を走っていたイノシシは、頭部から血を流し、さらに迫力のある姿になっている。
どうやら敵認定したようだが、俺としては、無視して後方に突っ込まれるのが一番嫌だったわけだし、とりあえず目的は達成出来ているかな?
それに、ちょっとどうやって仕留めるかを決められていなかったが、普通のやり方も通用するようだ。
槍は手放してしまったが、残り2体ならこのままでも十分倒せるはず……と考えていると。
「……わぁっ!?」
一瞬左側が光ったかと思うと、俺のすぐ後ろで爆発音が響いた。
「まっ……魔法!? 俺が狙われたわけじゃないよな?」
慌てて振り向くと、爆発の光に照らされた黒い物がパラパラと落ちていくのがわかった。
今の魔法はアレを狙ったものか……。
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