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1302
森の東に布陣しているテレサのもとに向かって、俺は大急ぎで飛んで行った。
その際に地上の様子もチラっとだけ確認するが……所々に魔物の死体は転がっているが、生き残りはいない。
俺が初めこの辺を飛びながら援護していた時は、魔物に備えて冒険者たちがいたが、今はいないし……あまり見ないで飛んできたが、北門の方に集まっているのかな?
まぁ……森の外が平穏なのはいいことだ。
「あ、見つけた!」
北の森の東端を見ると、森から少し離れた場所に周囲を篝火で囲んだ簡易拠点が築かれていた。
そこにいる人の数も、先程俺が見た時よりずっと多いし、どうやら東側をカバーしていた連中を集めているんだろう。
そして、その中にはテレサもいる。
俺はそちらに向かって、速度を上げていった。
◇
「テレサ」
「姫? 森の中はもう落ち着いたのですか?」
「いや、アレクたちと合流してボスを見つけたんだけど、ちょっと森の中で戦うのは厳しいかもってなってね。森の外に引っ張ってきて、そこで戦うことになったんだ。途中でルイさんたちとも合流して、今は北門のところに集まってもらってるよ」
俺はテレサのもとに下りると、彼女に森の中でのことやここに来た経緯を簡単に説明した。
「なるほど……アレクシオ隊長たちが今魔物の群れの相手をしているのですね。そして、ルイたちを騎士団の報告に行かせている。そうなると……我々も向かった方がいいでしょう」
「あら? こっちはもういいの?」
「ええ。ルイたちに指示を出した後、我々もこちら側を捜索しましたが、魔物が来る気配はありません。むしろ、我々が一の森との境に止まり続けることで、魔境側の魔物を引き寄せてしまうかもしれませんから」
「あぁ……だからこんな離れた場所に移動してたんだね」
「ええ。貴方たち、聞こえましたね? 撤収と移動の準備をしなさい。急ぎますよ!」
「はっ!」
テレサの声に、周りにいた冒険者たちが一斉に動き出した。
彼等は冒険者で別に正規兵ってわけじゃないし、普段から組んでいる者たち同士ってわけでもないだろうに、やたらとテキパキと……。
その手際の良さに感心していると、指示を出していたテレサがこちらにやって来た。
「姫、森にいた魔物の群れについて、ボスや所属する魔物等いくつか確認させてもらってよろしいでしょうか?」
「うん? ……うん。でも、オレも直接見たわけじゃないからね?」
「ええ、構いません」
「ふぬ」
テレサに報告したし、アレクたちが森から出てくる前に北門前に戻ろうと思っていたんだが、大して時間がかかることでもないし、もう少し話しておくか。
「んじゃ、魔物だけど……。森の中ではゴブリンに、コボルトとかコウモリとかがいたね。後、オオカミもかな? 他にもいるかもしれないけど、オレは見つけられなかったよ。後……ボスがいる群れとは違う群れもいくつかあったんだ」
「……違う群れですか。ボスから逃げたりしていたのですか?」
「そんな感じかも。逃げようとしたのに、奥に行こうとしなかったり、聖貨を落としたりだね」
テレサは「なるほど」と呟くと、そこで一旦口を閉ざして、何かを考えるような素振りを見せた。
「何か心当たりでもある?」
「……いえ。ただ、違う群れで距離が離れているにも拘らず、魔物の行動にある程度影響を与えられるのですね」
「かも知れないね。もしかしたら、何かオレたちにわからない方法で命令を出したりしてるのかもしれないけど……」
「結界が張られている領都の側にまで魔物を動かせるんです。方法はどうあれ、厄介なことに変わりはありません。ですが」
テレサはそう言うと魔境の方に顔を向けた。
「向こうにまでは影響は与えられないようですね。それがわかっただけでも十分でしょう。ありがとうございます」
「確かにこっちの魔物が襲ってこないのは安心出来るよね。それじゃー……お先に行くね」
「はっ。我々もすぐに追います」
俺は「うん」と答えると、その場で真上に上昇を開始した。
1303
「……見えた!」
テレサたちを置いて、俺は先に北門前を目指して飛んでいたが、そちらは既に小規模な戦闘が何組かで起きていた。
さっきテレサが言っていたように、考えてみれば結界が張られている街の側にまで魔物がやって来るって、結構な問題だよな。
「まだ戦っているのは雑魚ばかりか……。でも、まだまだ森から出て来ているね」
あそこに既にボスがいるのかどうかはわからないけれど……急いだ方がいいな。
◇
北門前の上空に到着した俺は、ひとまず戦況を把握するために戦場を見下ろしている。
この辺は他の場所に比べると魔物の数も強さも上だが、領都北門の正面ってこともあって、比較的足場もいいからか、冒険者たちは随分戦いやすそうにしている。
「……アレはアレクかな?」
最前線で剣を振るっている男がいるが、多分コレがアレクだ。
上空からで距離もあるし、明かりの光量が足りないからはっきり見えるわけじゃないが、何となく見覚えのあるシルエットだしな。
「とりあえず、一旦下りる……アレはまずいねっ」
一先ずアレクと合流しようと下に向かっていると、前線の端が崩れかけていることに気付いた。
他の場所には篝火やらなにやら設置されていて、そこそこ視界が確保されているのに、端っこはどうやらそれが無いようで、注意していないと見逃すところだったな。
対峙している魔物は小型の妖魔種で、強さ自体は大したことない相手なんだが、視界が悪くアレクたちの援護も届かない場所だ。
2番隊の兵と冒険者が一緒になって戦っているが、急造パーティーだし指揮無しじゃ厳しいか。
それなら……!
「せーのっ!」
俺は向かう先を、アレクたちのいる場所から苦戦している戦場の端に変えた。
そして、一気に加速していくと【風の衣】を纏ったまま魔物の群れに突っ込んだ。
「っ!? 副長か!」
突如魔物が吹き飛ばされたことに驚いた兵たちが、一瞬動きを止めるが、俺を見てすぐに口を開いた。
「アンタいつも光ってるからな。誰かと思ったぜ……。助かった!」
腕と尻尾に明かりを灯した棒を持ってはいるが、確かに普段のように全身が光っているわけじゃないし、戦闘中……それも苦戦している最中だと、一々空を見る余裕もないか。
何が起こったんだと思っちゃうよな。
「ごめんごめん。突っ込む前に声をかけようか迷ったけど、急いだほうが良さそうだったからね。しばらくオレが引き受けるから、立て直しといて」
暗くてはっきりとはわからないが、声の様子から皆大分疲弊というか傷を負ったりしているようだし、一旦下がってもらおう。
「悪い! 明かりを潰されていたんだ!」
そう言うなり躊躇うような素振りを一切見せずに、バタバタと一帯の兵たちが後ろに下がって行く。
少しは「大丈夫なのか」とか聞いてくれてもいいような気はするんだが、まぁ……明かりを潰されていたみたいだし、視界が悪い中で戦い続けていたから精神的にも疲弊していたのかもな。
「それじゃー……やりますかね。こっちにいるのは……オオカミとコボルトが全部で……15ってところかな?」
数はもちろん、強さも大したことはないし、適当に【浮き玉】で行ったり来たりし続けていれば、戻って来るまでの間は十分支えられるだろう。
俺は持っていた棒切れを放り投げると、【風の衣】を再度発動し直して、魔物の群れに向かって突撃体勢に移った。
◇
「よいしょーっ! ……っと、中々賢いな。あれ以上は範囲外だ」
この場を引き受けて魔物の群れとの戦闘を開始したわけだが……一応魔物の突破を許さずに、戦線を維持することは成功している。
ただ、俺が【祈り】と【緋蜂の針】が無いため、決め手に欠けるってことと、魔物も突っ込んでこずにすぐに後退するから、全く数を減らせないでいた。
それでも、【風の衣】を発動した状態での【浮き玉】での突撃は決まっていて、着実にダメージを与えられてはいるんだが。
「さて、どうしたもんか」
俺はぼやきながら、折角押し上げたラインを下げていく。
後ろでは、さっき放り投げた明かりの他にも、新たに篝火が設置されて明るくなっているが、それでも明るさの限界はある。
また後退して、さっきの連中が復帰するのを待つか。
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