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「出来れば俺たちだけで決めたかったが、難しいかもしれないな。森の外まで引っ張っていこう」


「奥に追いやるんじゃなくて、外に連れ出すのか!?」


 皆はアレクの言葉に驚いたような声を上げる。


「森の中で仕留めるために、入って来たんじゃないの?」


 もちろん、俺もだ。


 元々今回の問題は、どこぞの商人が森の奥から延々魔物を引っ張ってきたのが切っ掛けだし、それと同じことをするってのは大丈夫なのかな?


「俺たちだけでやれるんならそれがいいんだが、数も種族もわからないんだろう? 無理をするところじゃない」


「それもそっか。まぁ……森の中にこだわって街が襲われたら意味無いもんね。それじゃー……皆の準備が整ったら、オレが殿に入るよ」


 色々恩恵品や加護に使用制限がかかっているから、戦闘能力こそ下がってはいるが、機動力と防御能力には支障が無いし、外まで引っ張る役割は俺が適任だ。


 それに、街にはオーギュストに、ジグハルトやフィオーラもいる。

 戦力は十分過ぎるし、俺たちが外に魔物を討伐しに行っていることだって、当然知っているから、報告があればすぐに動けるだろう。

 森の外に魔物を引っ張っていくのに何の心配もいらない。


 俺の言葉にアレクは頷いて、何かを伝えようと口を開きかけたが……ふと森の奥に視線を向けると、「貸せっ!」と側の兵の手から槍を奪い取り、視線の先に向かって投げつけた。


 もの凄い勢いで飛んで行った槍は、木か岩にでも当たったのか、甲高い音を立てた。


「敵か!?」


「仕留めたか?」


 急なアレクの動きに、兵たちは森の奥に向かって構える。


「いや……手応えがない。セラ、変更だ。お前が先行して森を出ろ。俺たちは抑えに回る」


「む……大丈夫?」


 俺は見つけることが出来なかったが、どうやら魔物がこちらに接近していたらしい。

 恐らくボスが向かわせたんだろうが……コボルトとかコウモリの群れへの対処の仕方で、もう様子見は必要ないとでも思ったのかな?


「問題無い。ああ……それと、途中にテレサの隊がいたら、そいつらに巻き込まれないように、森を急いで出るように伝えるんだ」


「……了解! 適当に明かりを撒いて行くから、皆気を付けてね!」


 ここで時間を使う訳にもいかないし、確かにルイたちにも事情を伝えないといけないだろう。

 それなら俺が行くのが一番だ。


 俺は皆に気を付けるようにと短く伝えると、その場を飛び立った。

 そして、俺が飛び立ってすぐに魔物が姿を見せたらしい。


「来たぞ! しくじるなよ!」


「おう!」


 アレクたちの声が背中に届いた。

 続けて響く魔物の鳴き声。


 チラッと振り向くと、戦っているアレクたちの姿が目に入った。

 まだまだ余裕はありそうだが……これは急いだ方がいいな。


 道を照らす照明の魔法をポンポンと放ちながら、俺は【浮き玉】を一気に加速させた。


 ◇


「せーーーのっ!」


 進路上にいた魔物の群れに突っ込み、【影の剣】を振り回して蹴散らすと一気に突破した。


「……ふぅ。結構集まってきてるな。ルイたちはどの辺にいるんだろう」


 今俺が倒した群れは、森の奥への偵察の際に見つけていた魔物の群れだ。


 その時は接触しないように、適当に横に逸れたりしながら森の奥を目指していたんだが、今はそんな場合じゃないし、進路上に現れた魔物を倒しながら真っ直ぐ南に向かっていた。


 しかし……正直パスしていたからって必ずしも魔物と戦うことになるとは思っていなかったんだ。

 結構散らばっていたし、わざわざデカい群れがいる方向に集まってきたりしないもんな。


 ところが、まだ森の出口までの半ば程にも拘らず、もう何戦もしている。

 幸い弱い魔物ばかりだし、通り過ぎ様に倒せてはいるが、魔物が集まってきているのは気になるな。


「ほっ……って、おや?」


 照明の魔法を戦闘跡に向かって放ち再出発しようとしたんだが、進路の右側……森の西側から現れた気配に動きを止めた。


「……セラ様!?」


「ルイさんたちか……。丁度良かった!」


 現れたのは、ルイたちだった。


 そのうち合流出来るとは思っていたが、思ったより早く出来たな。

 これはこれで都合がいい。


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 ルイたちと合流した俺は、移動をしながら事情を説明していた。


「アレクの旦那たちが、魔物を、引き付けてるのかっ」


「そうそう。んで、オレは君たちが知らないままそれに巻き込まれないように、進路の魔物を倒しながら伝えるために探してたんだ」


 冒険者たちは走りながらなので少々きつそうだが、話はちゃんと理解出来ているようだ。

 ここまで戦闘を続けてきたうえに、鎧まで着込んでいるのにタフなもんだ。


 余裕がありそうなのは、軽装のルイたちか。

 俺は飛びながら後ろを振り向くと、彼女たちに向かって疑問を訊ねることにした。


「ところでさ、皆はどうして向こう側から来たの?」


 別れた時は一先ず西に向かって、それから街の北門前を守る部隊と合流するとか言っていたはずだが、どうも西側に居続けていたっぽいんだよな。

 魔物が俺の進路上に集まっていたのも、彼女たちから逃げようとしていたからかもしれない。


「はっ。我々は一度森の浅瀬を西まで抜けきって、その後は仰る通り北門前の隊と合流をしました。その際に、アレクシオ隊長やセラ様の援護のために、我々も森の中に入るようにと、テレサ様からの指示がありました」


「テレサの? ……っと、そこの岩の陰に魔物!」


 話の途中だが、前方の岩陰に潜む魔物を発見した。

 数も強さも大したことないが、不意打ちを狙っているのか、それともただただ身を隠しているのか。

 どっちかわからないが、見逃すってのは無いよな。


 俺は会話を中断して、ルイたちに指示を出した。


 俺が仕留めてもいいんだが、顔見知りの連中ばかりとはいえ一応【影の剣】は温存しておきたいし、ここは彼等に任せてしまおう。


「はっ。私が仕掛けます。貴方たちは止めをっ!」


 ルイはそう言うなり、岩の奥に向けて風の魔法を放った。

 着弾したのは魔物の背後で、それだけじゃ倒せるほどの威力はないが、地面に生えた草を薙ぎ払うほどの威力はある。


 背後からいきなりその強風を浴びてバランスを崩した魔物たちは、たまらず岩陰から押し出されてきて……。


「……ぉぉぅ」


 あっという間に冒険者たちに仕留められていた。


 確かコイツ等即席のパーティーなんだよな?

 いい連携じゃないか。


 そんなことを考えながら、その場で俺はポカンとした表情を浮かべていると、止めを刺す冒険者たちに代わって、周囲の警戒をしていたルイたちが声をかけてきた。


「セラ様、この魔物の死体の処理は後回しで構いませんか? 他の戦闘でも、死体の処理は一箇所に纏めるだけで後回しにしていましたが……」


 アンデッド対策や他の肉食の魔物や獣を呼び寄せないためにも、死体の処理は大事だ。

 とは言え、今は緊急事態で、悠長にそんなことをやる余裕はない。

 俺も森に入ってからの魔物の死体は全部放置しているしな。


 明日にでも兵士や冒険者たちに頑張ってもらおう。


「うんうん。今はそれどころじゃないしね。後回しでいいよ」


 俺はルイたちに向かってそう伝えると、「急ごう」と先を促した。


 ◇


 さて、さらにあの後もう一度だけ魔物の群れと戦闘があったが、先程と同様に一気に蹴散らすことが出来た。


 あの魔物たちは、森の奥にいたボスが率いる群れには属していないようで、奥に行くのを避けていたし、あまり動ける場が無かったんだろう。

 追いかけるような手間をかけさせられることもなく、簡単に片づけられた。


 その甲斐あってか、アレクたちに追いつかれることもなく、俺たちは森の外に辿り着いた。

 もっとも、アカメたちは後ろをずっと気にしていたし、そこまで離れてはいなかったと思う。

 もう少し遭遇する魔物の数が多かったり、戦闘でもたついたりしていたら追いつかれていたかもな。


 途中までは余裕を見せていたルイたちも、流石にここまで走って来ると息が切れているが……。


「無事辿り着いたね。ルイさんたちの誰か一人でいいから、オレが話したことを兵に伝えてもらえる? オレは東にいるテレサのところに行って来るから」


 疲れているのに申し訳ないが、さらに俺は指示を彼女たちに与えた。

 俺が行くのが一番手っ取り早いのは間違いないんだが、テレサたちにも話しておいた方がいいだろう。


「……はっ。私が向かいます」


 その返事を聞いた俺は、今度は森の東目指して飛び立った。

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