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「どうだ? 何か見つけたか?」
「いや、ここで戦闘があったのは間違いないが、何か目印になるような物は残していないな。ついでにセラもだ」
「そうか。セラのことだ。これだけ派手に場を整えているってことは、何かを伝えようとしているんだろうが……」
「魔物も普通に倒しただけだな。傷が無いのはアイツのヘビたちが仕留めたのか?」
「だろうな。この程度の魔物なら余裕だろう。しかし……何も無いか。ここで時間を無駄にするわけにもいかないし、後10分だ。それで何も見つからなければ、先に進もう……なんだ?」
2番隊の兵たちと話をしていたアレクは、森の奥からバサバサと響く音に気付くと、そちらに向けて剣を構えた。
「魔物かっ!? ……って、アレは!?」
アレクに倣って兵たちも武器を構えるが、音だけじゃなくて宙に浮かんだ光が、自分たちに向かってきていることにも気付いた。
「副長かっ!?」
木の枝の高さを移動する存在なら、魔物や獣もいるが、二つの明かりを灯しながらとなるとセラしかいない。
「そういや、合図代わりなのか何なのかはわからないが、さっきも音をたてながら現れたよな」
そう言って剣を下ろすと、彼等は呑気に笑っていた。
だが。
「バカバカ! 敵敵!!」
当のセラが、叫びながら森の奥から飛び出してきた。
◇
俺はバサバサと枝を突っ切りながら慌てて引き返していると、起点にしているコボルトの群れとの戦闘場所にアレクたちの姿が見えた。
無事追いつけたようだ。
しかし、何か呑気に笑っているな。
俺は結構必死なんだけどな!
ってことで、叫びながら彼等のもとに飛び出て行くと、眉を顰めながら不思議そうな声を上げた。
「……セラ? どうしたんだ? 敵なんて言ってるが、何もいないぞ?」
なるほど。
こいつらにはまだ見えていないか。
「後ろ! コウモリ!」
俺が再度叫んだそのタイミングで、俺を追い抜くようにして、黒い塊がアレクたちの前に飛び出した。
「うおっ!?」
叫びながらも、即座に動き出すアレクたち。
騎乗していた者たちは馬から飛び降りると各々武器を構えて、それ以外の者たちも、近づけさせないように手にした武器を振り回して追い払っている。
「セラ、何だこいつらは!?」
「コウモリの魔獣! 1匹ずつならやれるけど、数が多かったから明るいところにまで引っ張って来たんだ! あんまり強くないけど、気を付けて!」
先程まで周囲の索敵を行っていたんだが、そろそろ戻ろうかとしていた時、このコウモリの群れが襲って来た。
コウモリ自体の強さは大したことは無い。
棒切れで殴れば終わる程度だ。
だが、とにかく機動力が高い。
1匹で突っ込んで来るだけだったらともかく、数で押してくるとなると俺の腕じゃ捕らえきれないし、【風の衣】を突破できないとはいえ、周りをバサバサと飛ばれるのは鬱陶しくてしょうがなかった。
だから明るい場所まで引っ張って、そこで追い払おうと思ったんだが……アレクたちもこのタイミングでいるとはな。
まぁ、ウチの連中なら対応出来るだろう。
それじゃー……さっさとこいつらを倒して、偵察の成果を報告だ!
◇
「クソ……動きやがる。おいっ! 副長、これどうすんだ!?」
「落ち着けお前たち! 力は大したことは無いんだ。慌てず1匹ずつ突き殺せ!」
……余裕で倒すかと思ったんだが、なにやら思った以上に苦戦している。
傷を負ったりなんてことはしていないが、攻撃を当てきれていないようだ。
まぁ……ウチの連中は、もっと強力なゴツイ魔物を相手にすることが多いし、叩きつけたり振り払ったりは得意なのかもしれないが、あのコウモリたちは全部躱している。
大振りじゃ当てるのは難しいだろうな。
それなら!
「オレが目を潰すから、皆気を付けて!」
俺は皆に警告を出すと、コウモリの正面に向かって照明の魔法を放った。
明るい場所まで追って来たし、明るいのが駄目ってわけじゃないだろうが、これならそんなことお構いなしだ!
そう思ってのことだったんだが。
「あらま?」
「おおっ!?」
魔獣とは言え、やっぱり強い光には弱かったらしい。
コウモリたちはボトボトと地面に落ちていった。
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「……こんなに効くんならさっさと使っておけばよかったかな」
「お前がこの程度の魔獣相手に退くだなんて珍しいな。何かあったのか?」
地面に落ちたコウモリたちに止めを刺す兵たちを眺めながら呟いていると、それに参加していないアレクがこちらにやって来た。
「うん。ココを起点に、あっち側から少しずつ見て回ってたんだけどね」
そのアレクに、俺は西側を指さして、どういう風に見て回ったかの説明を始めた。
「……見つけたか」
「多分ね。ここから北に真っ直ぐ行った所の開けた場所に、魔物の大きい群れがあったよ。んで、もう少し近付いてみようかなって思ったところで、アレが襲って来たんだ」
「コウモリか……ダンジョンのオオコウモリともまた違ったな」
「そうそう。小さい分よっぽど上手く狙わないと、攻撃を当てるのが難しくてね。【緋蜂の針】が使えたらともかく、今のオレじゃちょっと倒せないから、こっちに引っ張って来てたんだ」
あのコウモリたちを倒すなら、狙いを付けて突き刺すんじゃないと無理だ。
ただ、あんなヒラヒラ飛ぶコウモリを突き殺すなんて、そう簡単には出来やしないよな。
「そうか……っと、終わったみたいだな」
アレクの言葉に俺が前に視線を向けると、兵たちが槍や剣に付いた血を払いながらこちらに向かってきていた。
その彼等を見るが、鎧に多少の返り血は付いているが怪我はどこにもない。
「……皆怪我は無さそうだね」
「鎧を抜けるほどじゃなかったな。あいつらが集まったら、装備の点検のついでにもう一度さっきの話をしてくれ」
「うん? うん……了解」
仕掛ける前に、しっかりと俺たちの間で情報を共有しておくことは大事だよな。
俺はアレクの言葉に、頷いて返事をした。
◇
「ご苦労だった。装備の点検と息を整える間に、セラの報告を聞いてくれ」
「おう」
手早く身に着けた鎧を脱いでは、点検を始めていく兵たち。
まぁ……返事をしているあたり、俺の声は聞こえているだろう。
それじゃー、改めて。
「んじゃ、簡単に話すよ。ここからもう少し北に行った所に、開けた場所があるんだよね。そこに魔物の群れが集まってたよ。離れていてもわかる程度には強いのがチラホラいたし、多分今回の大本のボスがいると思うんだ」
「数や種族は?」
「わかんない! それを探ろうと思って近づいたら、コウモリの群れをけしかけられたからね。ただ、その時も咆哮とか聞こえなかったから、オーガとか妖魔種じゃないのかもしれないね」
「ああ……そうだな。ってことは、オオカミのデカいヤツって線も無いか」
いつぞやの街への襲撃は、オオカミがボスの座にいる複数の群れだったが、あの時は相当うるさかった。
だが、今回は徹底して静かだし、彼が言うようにオオカミがボスってのもないだろう。
複数種類の魔物を従えているし、統率力っていう意味じゃオオカミやオーガが有力候補だったんだが、結局どちらでも無かった。
話しつつ、自分でも「どうしたもんか」と困っていると、装備の点検を終えたらしい他の兵士がこちらにやって来た。
「そうなると……どうする? このまま突っ込むのか?」
大型の妖魔種って想定でここまで来ていたが、どうも違うっぽいし、どうするのかとか気になるよな。
この報告は、その為でもあるんだ。
「セラ、お前から見てどう思った? この戦力でやれるか?」
「どうかな……。魔王種なら離れていてもわかるからね。今回は多分いないとは思うけど、それでも強いのはいるし、数も多いから……」
アレクを始め、ウチの兵たちは普通に腕利きだ。
加えて、魔物の相手は慣れているし、何が相手でも然う然う後れを取るようなことは無いが……皆どちらかと言うと一体ずつ倒すタイプだし、ジグハルトたちのように纏めて複数を吹っ飛ばせるような力はない。
「……ちょっと大変かもね」
いざとなれば俺も【祈り】を使うし、【ダンレムの糸】をアレクに使ってもらえばどうにか出来そうではあるけれど、全滅に追いやれるかとなると……。
言葉に詰まっていると、俺を見ていたアレクは十分察せたらしく、「よし」と頷いた。
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